- 更新日 : 2025年2月19日
貸倒損失とは?計上される要件と仕訳の処理について
貸倒損失は、取引先の経営悪化や倒産などにより、売掛金や貸付金などの債権が回収不能になった際に発生する損失です。事業を行う上で避けられないリスクの一つであり、適切な管理と対策が求められます。
売掛金などの債権の回収ができなくなった場合に行うのが「貸倒損失」の処理です。貸倒損失を計上し、損失で処理します。しかし、貸倒損失の計上には税務上、さまざまな要件などがあります。そこで、ここでは貸倒損失の要件や仕訳の処理について詳しく解説します。
目次
貸倒損失とは
貸倒損失の考え方
貸倒損失の計上とは、売掛金などの債権が回収できなくなった(貸し倒れた)場合に、その分を損失にすることをいいます。しかし、税法上は貸倒ができるケースが限られています。
貸倒は一般的に「法律上の貸倒(法人税基本通達 9-6-1)」「事実上の貸倒(法人税基本通達 9-6-2)」「形式上の貸倒(法人税基本通達 9-6-3)」の3つに区分されます。
法律上の貸倒は、問題なく損金の額に算入されますが、事実上の貸倒や形式上の貸倒を損金計上するためには損金経理が条件とされる。場合によっては損金と認められないこともあるので注意が必要です。
貸倒損失の例
企業が販売した商品の代金を後払いの売掛金として計上する場合を例に挙げます。もし、取引先の企業が倒産し、売掛金の回収が不可能になってしまった場合、その金額は貸倒損失として計上しなければなりません。
この状況は、売掛金に限らず、貸付金・受取手形・前渡金など、金銭債権全般に起こり得ます。貸倒損失は、取引先の財務状況が悪化し、債務超過に陥ったり倒産したりするなど、さまざまな要因によって発生します。
貸倒損失と貸倒引当金の違い
貸倒損失と貸倒引当金の主な違いは、債権の回収不能が確定しているかどうかにあります。
貸倒損失は、すでに回収不能が確定した金額を計上するものです。一方、貸倒引当金は、将来的に回収不能になる可能性がある金額を見積もって計上します。つまり、貸倒引当金は、将来発生するリスクに備えるための準備金的な性質があります。
このように、貸倒損失と貸倒引当金は、回収不能の確定度合いと計上のタイミングが異なります。
貸倒損失として処理できる3つの要件と処理基準
貸倒損失として処理できるのは、以下の3つの要件のいずれに該当する場合です。
要件 | 内容 |
---|---|
法律上の貸倒 | 次の事実により債権のすべてまたは一部が切り捨てられた場合の貸倒 |
事実上の貸倒 | 債務者の状況から見て債権の全額が回収できないと明らかになった場合の貸倒 |
形式上の貸倒 | 一定期間、取引を停止した後に弁済がない場合や回収費用が債権の額を超える場合の貸倒 |
法律上の貸倒
以下のように債権のすべてまたは一部が切り捨てられた場合は、法律上の貸倒として、その事実の発生した年度において損金として計上されます。
(b)債権者の協議、または行政機関や金融機関等のあっせんによる関係者会議で切り捨て額が決められた場合
(c)書面により債務の放棄を通知した場合(債務者の債務超過の状態が相当期間継続するなどの一定の条件を満たした場合)
ただし、(a)と(b)は切り捨てられる額を貸倒損失額として計上できるのに対し、(c)は書面で明らかにされた債務免除額のみが認められます。
切り捨てが行われた場合の処理基準は、以下の通りです。
<法律で切り捨てが行われる貸倒損失>
法律が適用されて貸倒損失「を計上する」ケースは次の3つです。
- 更生計画(会社更生法等の規定によるもの)に対する認可が決定された債権
- 再生計画(民事再生法の規定によるもの)に対する認可が決定された債権
- 特別清算(会社法の規定によるもの)についての協定が認可された債権
<協議などで切り捨てが行われる貸倒損失>
関係者が協議を行い、その決定に基づいて切り捨てを行った貸倒損失には、主に2つに分けられます。
- 債務者の負債を整理するため、協議(債権者集会によるもの)による決定で、合理的な基準が示されているもの。
- 債務者の負債を整理するため、あっせん(金融機関、行政機関、その他第三者によるもの)により締結された契約で、合理的な基準が示されているもの。
<期間や状態で妥当だと判断されて切り捨てが行われる貸倒損失>
法令や合理的な基準を示した協議やあっせんによる決定・契約がない場合でも、書面で債務免除額を明らかにすることで切り捨てを行うことができます。
ただし、弁済を受けることができないことが明らかで、債務が超過している期間が継続していなければなりません。弁済を受けることができない状態かどうかについては、債務者の財産を時価評価相当額によって算定して判断します。
債務が超過している期間については、超過の状態を脱せずに3〜5年程度が相当期間という考え方が一般的です。ただし、災害による被害を受けた場合や、取引先の倒産による不良債権が原因の債務超過では、より短期間を相当期間として認めることもあります。
事実上の貸倒
債務者の状況から見て債権の全額が回収できないと明らかになった場合、事実上の貸倒となり損金経理が可能となります。ただしこの場合は「債権の全額」でなければいけません。たとえば担保物がある場合は担保物の処分、保証人がいる場合は保証人からの回収をした後でなければ、貸倒として認められません。
形式上の貸倒
一定期間、取引を停止した後に弁済がない場合などには、形式上の貸倒として、売掛債権から備忘価額を控除した額を損金経理できます。ただし、対象となるのは売掛債権のみで、その他の債権は適用外です。
上記をまとめると、以下の図解のようになります。
貸倒損失の経理処理
では、具体的に貸倒損失の仕訳を見ていきましょう。
(例)裁判所の決定により、取引先の売掛金100万円が法律上消滅した。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒損失 | 1,000,000円 | 売掛金 | 1,000,000円 |
(例)取引先が倒産し、債権者集会で債権の90%が切り捨てられることになった。弊社の所有している売掛債権は100万円である。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒損失 | 900,000円 | 売掛金 | 900,000円 |
(例)一定期間、取引を停止した後に弁済がない取引先の売掛金100万円に対し、備忘価格1円を残して貸倒処理した。なお、形式上の貸倒の要件はすべて満たしているものとする。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貸倒損失 | 999,999円 | 売掛金 | 999,999円 |
上記のように、貸倒損失とする金額は状況に応じて異なります。気をつけましょう。
債権の全額回収が不能になった場合の貸倒損失に関して
債権の全額回収が不能になると事実上の貸倒れであると判断され、貸倒損失の適用が可能になります。全額回収不能の判断については、債務者の資産状況や支払い能力、周囲の状況などを加味した上で、総合的に判断する必要があります。
また、一部に貸倒れが発生しても、その部分のみの貸倒損失の「計上」は認められません。さらに、担保物がある場合は、その処分後でなければ貸倒損失として処理できません。
長い間取引していた相手が取引を停止し、一定期間経過後に債務の弁済がない場合には、形式上の貸倒れと判断されます。この場合、次の要件を満たせば貸倒損失の「計上」が可能となります。
上記の条件を満たしていなければ、貸倒損失の計上はできないので注意しましょう。
貸倒損失の対策方法
貸倒損失のリスクを減少させるためには、いくつかの効果的な対策があります。これらの対策を組み合わせて実施することで、企業の財務的健全性を維持し、安定的な取引関係の構築をめざすことが可能です。以下で、具体的な方策を紹介します。
支払日・振込日の管理を徹底して行う
債権の貸倒れを防ぐためには、支払日や振込日の管理を徹底することが重要です。これにより、回収期日を把握し、遅延が発生した際には迅速に対応できます。
具体的には、請求書を発行した後は、入金ルートや回収期日を定期的に管理しましょう。入金確認も入念に行い、取引先名や振込名義人、売掛金額と入金額が一致することをチェックします。
取引先の信用調査や情報収集は徹底して行う
取引先の信用調査や情報収集を徹底することは、貸し倒れを防ぐために重要です。取引開始前に不安な点があれば、丹念に調査を行いましょう。
まずは、商業登記簿を取得して企業の基本情報を確認します。また、ホームページでの情報収集や信用調査会社の利用も効果的です。さらに、可能であれば、取引先に決算書や勘定明細の提出を直接依頼することも有効な手段といえます。
加えて、定期的な訪問によって実際の業務状況を目視することも、信頼性の高い情報として有効でしょう。
支払いの遅れには迅速に対応する
取引先への売掛金の回収が滞った場合、速やかな対応が求められます。支払期日を過ぎても入金が確認できない際には、すぐに取引先へ連絡を入れましょう。
これは単なる催促に留まらず、取引先との信頼関係を保ち、今後の取引を円滑に進めるために重要な対応です。ただし、期日超過が繰り返される場合は、取引そのものの見直しも検討する必要があるでしょう。
内容証明は必ず送付する
貸倒損失の発生を未然に防ぐためには、取引先への請求や督促を適切に行うことが重要です。そのための有効な手段として、内容証明郵便の活用があります。
内容証明郵便とは、送付した文書の日付・送り主・送り先を日本郵便が証明する制度です。取引先への支払いの督促状などを内容証明郵便で送付することで、後々の証拠として有効に機能します。
ファクタリングで債権譲渡する
ファクタリングは、売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、支払期日前に資金を確保する方法です。手数料はかかりますが、債権を早期に現金化できるメリットがあります。
また、償還請求権が設定されていない場合、取引先の倒産リスクも回避しやすいでしょう。
入金の管理や催促なら『マネーフォワード 掛け払い』
マネーフォワード 掛け払いを活用することで、入金管理や未入金フォローの負担が大幅に軽減されます。管理画面には売掛先ごとの入金状況が日次で自動更新されるため、未入金確認の迅速化が可能です。
支払期日を過ぎても入金がない場合であっても、自動でフォローの連絡が行われるため、社内での対応が不要となり、他の業務に集中する時間を確保できます。
さらに、入金保証サービスを利用することで入金遅延や貸倒れリスクも低減され、安心して掛け取引を進めることが可能です。
このように、マネーフォワード 掛け払いは、キャッシュフロー管理の安定化や経営効率の向上に貢献するために有効です。
貸倒損失についてご理解いただけたでしょうか
貸倒損失は、取引先の倒産や経営悪化などにより、回収不能となった債権を処理する際に発生する損失です。
債権の回収が不可能であると確認された場合に、特定の要件を満たすことで「貸倒損失」として計上できます。また、将来的なリスクに備えるために「貸倒引当金」を設定し、事前に準備を行うことも重要です。
税務上、貸倒損失を計上するためには、「法律上」「事実上」「形式上」のいずれかの基準に該当する必要があります。当該処理に基づき、債権の種類や取引の状況に応じた適切な会計処理が求められます。
貸倒損失を防ぐには、取引先の信用調査を徹底し、回収期日を管理しながら、支払い遅延には迅速に対応することが大切です。また、ファクタリングや決済サービスを活用して、回収リスクを軽減する方法も効果的です。
よくある質問
貸倒損失とは?
貸倒損失の計上とは、売掛金などの債権が回収できなくなった(貸し倒れた)場合に、その分を損失にすることをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
貸倒損失として処理できる要件は?
法律上の貸倒、事実上の貸倒、形式上の貸倒の3つがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
貸倒損失の経理処理は?
貸倒損失とする金額は状況に応じて異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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