- 更新日 : 2024年12月6日
交通費の経費精算(交通費精算)とは? 定期区間は精算できる?
取引先への訪問、社外での研修、支店間の移動など、あらゆる場面における従業員の移動には交通費が発生します。業務上必要な交通費を従業員が支払った場合、どのような基準で経費精算できるのでしょうか。交通費の経費精算と、旅費交通費や通勤費との違い、領収書がない場合の対応、定期区間で経費精算の申請を受けた場合の取り扱いなど、交通費の経費精算全般を解説していきます。
目次
交通費は経費精算できる?
交通費とは、業務活動において必要な移動に要した費用を指します。取引先への訪問に要した電車やバスの運賃、タクシー代、社用車や従業員の自家用車を利用した場合の駐車場代、社用車のガソリン代などがその例です。
休憩時間中に社員が外で食事をするために要した移動費は、業務上必要なものではないため、基本的には交通費として経費精算の対象にはなりません。
なお、法的には交通費を経費として精算する義務はありません。しかし、労働基準法第89条第1項第5号では「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」と定めており、従業員に「その他の負担」に該当する交通費を負担させる場合には、その旨を就業規則に定める必要があります。
また、就業規則の作成義務がない企業も、交通費を従業員負担とする場合には労使合意による労働条件の合意が必要です。そのため、交通費の精算についての規則が設けられていない場合には、立て替えた交通費は精算できると考えてよいでしょう。
交通費と旅費交通費の違い
上で説明したように、交通費は業務上発生したバスの運賃やタクシー代、駐車場代などの費用を指します。一般的には通常の勤務地から客先などへ移動する際に必要な移動・交通に関する費用全般が対象とされます。
一方の旅費交通費は、通常の勤務地から離れた場所で業務に当たるために必要な移動・交通にかかる費用を指します。新幹線代や飛行機代などの移動費用だけでなく、出張先での宿泊費や出張手当も旅費交通費の範疇です。
ただし、旅費交通費に該当する費用は会社ごとの出張旅費規程によって定められています。また、規模の小さな会社では旅費交通費と交通費を分けずに、すべて旅費交通費の勘定科目で処理する場合もあります。
交通費と通勤費の違い
交通費は業務を行う拠点から取引先への訪問、本支店などの拠点間の移動や、社外研修のための移動など、会社の業務上必要な移動にかかる費用が対象です。一方、通勤費は、従業員が自宅と会社を往復する際にかかる移動費を指します。
会社が交通費を従業員に負担させる際には就業規則で規定する必要がありますが、通勤費を支給しなければならない法的な義務はありません。しかし、多くの会社では福利厚生の一環として「通勤費手当」の名目で支給しており、支給の条件を就業規則や通勤費規則などに定めています。
交通費の領収書がない場合は?
領収書は経費を立て替えた証拠となる重要な書類です。交通費の立て替えにおいても、原則として経費精算時に提出する必要があります。しかし、バスの運賃や電車賃などの商習慣上領収書やレシートが発行されない交通費は、出金伝票や支払証明書などの書類を提出することで精算を行えます。
出金伝票は現金を支出した場合に作成する、相手科目や金額、日付、内容を記入する伝票です。支払証明書は、経費の支払いを証明するための書類で、支払日や支払先、支払額などを記入して作成します。あくまで経費の発生を記録・証明するための書類ですので、交通費の精算を行う場合には、移動経路や移動の目的なども詳細に記入しておくとよいでしょう。
支払証明書のテンプレートは下記ページからダウンロードできます。
定期区間の交通費は経費精算できる?
定期区間の交通費の経費精算は、会社が通勤手当を支給しているかどうかで扱いが異なります。
会社が通勤費を支給していない場合、通勤に必要な定期券代を従業員が支払っているため、交通費は定期券の影響を受けていないものとして経費精算を行えます。
次に、会社が通勤費を支給している場合、会社はすでに定期券の区間に対して交通費を支払っています。そのため、定期券の区間を含めて精算をしてしまうと、二重に交通費を支給することになります。よって、通勤手当を支給している場合は、一般的に定期区間を除外して交通費の精算を行います。
通勤費を支給している会社では交通費精算時に二重請求が発生するおそれがあるため、経理担当者による定期区間と交通費精算申請区間の重複チェックを行う必要があります。この業務は経理担当者に大変負荷がかかりますので、二重請求による差し戻しが何度も発生しないよう、定期区間を含む交通費経費精算のルールを従業員に周知しておくとよいでしょう。
自腹で定期を購入していた場合はどうなる?
定期券を従業員が自腹で購入しているケースもあります。毎日拠点間を往復する必要があるなど、業務上合理的な理由がある場合は、経費として精算できる可能性があります。
しかし、プライベートで利用する定期券のように、業務上の必要性や合理的な理由がない場合は、自腹で購入した定期券全額の交通費精算はできません。業務上、プライベート用定期券の区間内の移動が発生したときは、定期券の額ではなく、本来発生する交通費のみが精算の対象になります。
交通費精算における従業員とのトラブルを防止するためにも、通勤定期区間や自腹で購入した定期券の取り扱いなどを含めた交通費精算のルールを明確にし、従業員に周知しておくとよいでしょう。
交通費を立て替えたらインボイスは必要?
2023年10月からインボイス制度が始まり、消費税の仕入額控除を受けるためには、一定の要件を満たしたインボイス(適格請求書)の発行・保存が必要になりました。
インボイスを発行できるのは、適格請求書発行事業者のみであり、従業員は事業者ではないため、インボイスを発行できません。
そのため、従業員が立て替えた出張旅費などは、インボイスの取得を不要とする出張旅費等特例が設けられています。
出張旅費等特例は、企業が従業員に支給する通勤費や交通費、宿泊費などの経費について、その旅行に通常必要と認められる範囲の金額であれば、インボイスの保存なしに仕入税額控除を受けられるという特例です。
特例によって、交通費にインボイスは不要であり、帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能です。
帳簿には、以下の事項を記載します。
- 相手方の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引の内容
- 支払対価の額
- 出張旅費等特例に該当すること
出張旅費等にかかる社内規程や基準の有無にかかわらず、特例の対象になります。また、概算払い・実費精算のいずれにおいても、通常必要であると認められる部分は対象になります。
交通費精算の期限
交通費の精算には、税法上、および社内ルール上の期限があります。ただし、それらの期限を過ぎても支払いを拒否することはできません。
ここでは、交通費精算の期限について解説します。
交通費請求の時効
税法上、原則として経費精算の期限は年度内に行う必要があります。決算書に必要な情報を正確に反映させるためです。
ただし、多くの企業では、税法とは別に社内ルールを設定しています。期限は会社ごとに差はあるものの、1ヶ月以内という期限にしている会社が多いでしょう。
1ヶ月以内を期限とする場合、期日は毎月15日や月末といった所定の日を設定しますが、これらの期限をルールとして周知するために、就業規則やマニュアルに期限を明記することが大切です。さらに、期限を守ってもらうため、社内への周知も徹底させる必要があります。
時効後は支払い拒否できる?
就業規則で定めた期日に遅れた場合でも、会社は支払いを拒否できません。民法166条で、債権の消滅時効は5年もしくは10年と定められているためです。
具体的には、債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間、もしくは権利を行使することができるときから10年間行使しないときに消滅します。
企業の経理処理という観点では年度内を期限と考えても、従業員からみた立て替え分の精算を受ける権利は、時効期間を経過するまで消滅しません。
そのため、期限を過ぎた交通費であっても、従業員から請求を受けた場合は支払いが必要です。
交通費精算システムの導入で業務を効率化できる
従業員が立て替えた交通費の精算は、一人ひとりの定期区間控除の計算や最適ルートの確認など煩雑な業務が多く、経理担当には大きな負担となります。申請の頻度が多くなれば、ミスも起こりやすいでしょう。
これら精算業務を効率化できるのが、交通費精算システム(経費管理システム)です。
交通費精算システムの主な機能や、導入するメリットをみていきましょう。
交通費精算システムの主な機能
交通費精算システムには、主に以下のような機能があります。
- 交通費の自動計算・申請
- ICカードの利用履歴の取り込み
- 経路検索
- 会計ソフトとの連携
- 経費申請・承認
- 自動振込機能
- 経費の自動仕訳
申請者はシステム上で簡単に申請でき、領収書読み取りやクレジットカード連携の機能で手入力の作業を削減します。承認者はいつでもどこからでもボタン1つで承認でき、印鑑も不要です。
ルールに反する申請はすべて自動でブロックでき、申請期限のお知らせメールもシステム上から一斉通知できます。
立て替え分は自動的に従業員の口座に振り込まれるため、これまで手作業で銀行に申請していた振込業務も不要になり、担当者の負担を大幅に削減できます。
交通費精算システムを導入するメリット・注意点
交通費精算システムの導入により、すべての経費を一元管理できることがメリットです。手入力によるミスが減少するとともに、精算プロセスの工程を削減できます。担当者は迅速かつ正確に交通費の精算ができるため、業務効率化を実現できるでしょう。
すべての経費データをデジタルで安全に管理できるため、情報漏洩を防止できるのもメリットです。また、電子帳簿保存法に対応したシステムを導入することで、法令を遵守した経費管理ができます。
ただし、システムによって機能はさまざまであるため、導入前に自社の課題を把握し、解決できる機能を搭載したシステムを選ぶことが大切です。
定期区間の交通費は二重請求にならないようチェックが必要
交通費は、取引先訪問や本支店間の移動など、業務上必要な移動にかかる費用です。就業規則で従業員負担が規定されていない限り、経費精算の対象となります。なお、交通費に似た移動費に通勤費がありますが、従業員の自宅と会社間の移動費である通勤費は法的な支給義務がなく、会社によっては無支給の場合があります。
会社が通勤費を支給している場合、従業員が会社に申告している定期区間と交通費の移動区間が重複する場合があります。この場合は交通費の精算と通勤費の二重請求にならないように、定期区間の交通費を差し引いて交通費を精算するようにしましょう。
交通費の精算は煩雑であり、担当者の負担になります。効率化のためには、交通費精算システムの導入がおすすめです。作業工程を減らして担当者の負担を削減し、手入力によるミスの軽減や業務効率化を図れるでしょう。
よくある質問
交通費は経費精算できる?
業務上必要な交通費であれば経費精算できます。 詳しくはこちらをご覧ください。
定期区間の交通費は経費精算できる?
通勤費を支給している会社で定期区間が重複しているときは、定期区間の交通費を除外して経費精算します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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