- 更新日 : 2024年8月8日
生命保険料の勘定科目は?個人事業主と法人で異なる?保険金や解約返戻金についても解説!
生命保険とは、人の生死や病気のリスクに関わる保険を指します。生命保険は個人で契約できるほか、法人も契約することができます。では、個人事業主や法人が生命保険料を支払った場合や保険金を受け取った場合は、どのように処理するべきなのでしょうか。この記事では、個人事業主と法人に分けて、生命保険料を支払ったときや、保険金を受け取ったとき、解約により解約返戻金を受け取ったときに使用する勘定科目と経理処理について解説していきます。
目次
生命保険会社へ支払う保険料の勘定科目・仕訳例
生命保険の契約をして生命保険会社に保険料を支払った場合、どのような処理が必要になるのでしょうか。個人事業主と法人に分けて、経理処理と使用する勘定科目をご説明し、仕訳例を解説します。
個人事業主が生命保険料を支払った場合
個人事業主が自身を被保険者として生命保険料を支払った場合、支出した額は経費にできません。これは、事業主個人や事業主の家族にメリットがあるだけで、事業には関わりがないためです。病気やケガにより収入が入ってこなくなったときの収入を補償する所得補償保険も、生命保険に区分されるもので、家事費と判断されるため経費に含めません。
ただし、事業主個人ではなく従業員を対象にした保険で、従業員に支給する目的のある生命保険であれば経費にすることが可能です。しかし、個人事業主の場合は法人ほど資金が潤沢にあるわけではありません。経費対策として、従業員を対象に支給する目的で生命保険契約を結ぶということはほとんどないでしょう。
生命保険料を支払ったときに、何らかの経費処理が必要になるのは、事業で使用している銀行口座や事業用の現金から生命保険料を支払ったときです。この場合、事業主私用の支出とわかるように「事業主貸」の勘定科目を使って仕訳をします。
(仕訳例)生命保険料3万円を事業で使用している普通預金の口座から支払った。
30,000円 | 30,000円 |
法人が生命保険料を支払った場合
法人が役員や従業員などを対象に生命保険契約を締結し、生命保険料を負担することもあります。法人が生命保険契約を結ぶ理由はいくつかありますが、主な理由は、将来のリスクに備えるため、退職金を準備するため、事業継承を円滑に行うためです。
会社にとって、生命保険は会社の存続のために活用できるほか、保険金の受取人の設定次第では経費対策にもなります。保険料を経費計上することで、一定の節税効果を得ることが可能です。
なお、生命保険は主に終身保険、定期保険、養老保険に分けることができ、それぞれ経理処理のしかたが異なります。それぞれの経理処理の方法と仕訳例を見ていきましょう。
終身保険
終身保険とは、被保険者の終身(被保険者が亡くなるまで)までを保障する生命保険契約です。被保険者が亡くなったとき、あるいは高度障害になったときに、契約している保険金が支払われます。
終身保険の保険料を支払うときの経理処理は、役員や従業員を被保険者として法人が受取人になるときと、役員や従業員を被保険者としてその遺族が受取人になるときで扱いが異なります。この2つのパターンを押さえておきましょう。
- 役員や従業員が被保険者で法人が受取人になるケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を保険金受取人とする終身保険について、月々の保険料50万円を当座預金より支払った。
500,000円 | 500,000円 |
将来、法人が受け取る保険金は、保険料の積立分を含んだ額です。支払った保険料には資産としての価値があることから、経理処理せず「保険積立金」として、保険料支払時に資産計上します。
- 役員や従業員が被保険者でその遺族が受取人になるケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、その遺族を保険金受取人とする終身保険について、月々の保険料50万円を当座預金より支払った。
500,000円 | 500,000円 |
保険料は会社が支払っていますが、将来、保険金の全額を受け取るのは役員や従業員の遺族です。そのため、会社として資産に計上する意味はなく、従業員の福利厚生と捉えられ、保険料支払時は従業員であれば「給与」、役員であれば「役員報酬」として処理します。
定期保険
定期保険は、保険期間が定まった掛け捨て型の生命保険です。たとえば定期保険の保険期間が10年であれば、期間内の10年内に被保険者が死亡または高度障害になったときに保険金が支払われます。保険期間の10年を超えた後の被保険者の死亡や高度障害については対象外になるため、保険金の支払いは行われません。
定期保険については、保険期間満了までに全額が掛け捨てになるか、あるいは保険金として支払われるかわからないため、徐々に損金に算入する処理を行います。
- 一般的な定期保険の処理
定期保険の経理処理は、最高解約返戻率により4つに区分されます。保険金の受取人が法人であっても役員や従業員の遺族であっても、一定期間は一定の額を資産計上し、その後、取り崩しの期間が経過したときに資産を取り崩すという流れは同じです。
最高解約返戻率 | 資産計上 | 取崩 |
---|---|---|
50%以下 | ||
50%超70%以下 | 保険期間の4割相当の期間 支払保険金の40%を資産計上 | 保険期間の7.5割相当が経過してから資産を取り崩す |
70%超85%以下 | 保険期間の4割相当の期間 支払保険金の60%を資産計上 | |
85%超 | 以下のいずれか長い期間 ・保険開始から最高解約返戻率になるまでの期間 ・最高解約返戻率経過後の期間で 「(当年解約返戻金相当額-前年解約返戻金相当額)÷年換算保険料相当額」が70%を超える期間 資産計上額 ・保険期間が10年経過するまで 支払保険料×最高解約返戻率の90% ・保険期間11年目以降 支払保険料×最高解約返戻率の70% | 解約返戻金がもっとも高額になる期間経過後から資産を取り崩す |
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を保険金受取人とする20年の定期保険について、月々の保険料50万円を当座預金より支払った。最高解約返戻率は65%で、保険は当期に契約したばかりである(保険期間の4割相当の期間内)。
200,000円 | 500,000円 | ||
300,000円 |
※法人が受け取るケースでは「定期保険料」として費用処理していますが、遺族が受取人で、特定の従業員を対象にしている場合は「給与」、全員を対象にしている場合は「福利厚生費」などで処理します。
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を保険金受取人とする20年の定期保険について、月々の保険料50万円を当座預金より支払った。最高解約返戻率は65%で、保険は18年目である(保険期間の7.5割相当の期間内)。
820,000円 | 500,000円 | ||
320,000円 |
前払保険料で積立てた額の算定
期間:保険期間の4割相当の期間=20年×40%=8年
資産計上額合計:支払保険金の40%=月額20万円×12ヶ月×8年=1,920万円
前払保険料を残りの2.5割相当の期間で償却
償却期間:20年×25%=5年、5年×12ヶ月=60ヶ月
月々の償却額:1,920万円÷60ヶ月=32万円
なお、以上は一般的な定期保険の仕訳です。長期平準定期保険(終身保険と定期保険のメリットを組み合わせたような保険)、逓増定期保険(保険金額が徐々に増加する保険)については、資産計上期間と資産計上の額、取り崩し期間が異なります。以下は、資産計上の処理を示した表です。取り崩しは、資産計上期間経過後に行います。
【参考】国税庁|法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて
養老保険
養老保険は、死亡保険と貯蓄の両方を兼ね備えた保険です。一定の契約期間内に被保険者が死亡または高度障害になったときは死亡保険金、死亡保険金が支払われることなく契約を満了したときは満期保険金(生存保険金)が支払われます。養老保険は、死亡保険金と満期保険金の組み合わせによって経理処理が異なるため、注意が必要です。パターンとしては3つあります。
- 死亡保険金も満期保険金も法人を受取人とするケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を死亡保険金と満期保険金の受取人とする養老保険について、月々の保険料50万円を当座預金より支払った。
500,000円 | 500,000円 |
終身保険と同じ考えで、将来支払われる死亡保険金または満期保険金は、会社にとってすでに支払った保険料の一部と考えますので、「保険積立金」として資産計上します。
- 死亡保険金も満期保険金も被保険者の遺族を受取人とするケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、その遺族を死亡保険金と満期保険金の受取人とする養老保険について、月々の保険料50万円を当座預金より支払った。
500,000円 | 500,000円 |
保険料を負担しているのは会社ですが、全額が社員または遺族などに支給されるものですので、「給与(役員の場合は役員報酬)」として処理します。
- 死亡保険金は被保険者の遺族、満期保険金は法人を受取人とするケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、その遺族を死亡保険金の受取人、法人を満期保険金の受取人とする養老保険について、月々の保険料50万円を当座預金より支払った。なお、養老保険は全社員を対象にしている。
250,000円 | 500,000円 | ||
250,000円 |
この場合は半分を資産計上し、半分を費用(損金)処理します。費用の勘定科目は、従業員など全員を対象にした保険であれば「福利厚生費」、一部を対象にした保険であれば「給与(役員報酬)」です。
生命保険会社から受け取る保険金の勘定科目・仕訳例
次に、生命保険会社から保険金を受け取ったときについて解説します。
個人事業主が生命保険金を受け取った場合
前述したように、個人事業主はそもそも事業所得の計算上、経理処理ができないため、生命保険金を受け取っても経理処理は行いません。ただし保険金の受け取りは、所得税、相続税、贈与税のいずれかの対象になります。死亡保険金の課税関係は以下のとおりです。
【参考】国税庁|死亡保険金を受け取ったとき
上の表は、保険金受取人の視点で考えたときの課税関係です。受取人自身が負担した保険料であれば所得税、被保険者と保険料負担者が同様で受取人が異なる場合は相続税、被保険者・保険料負担者・受取人がいずれも異なる場合は贈与税の対象になります。
法人が生命保険金を受け取った場合
法人が生命保険金を受け取った場合について、終身保険、定期保険、養老保険の3つに分けて解説します。
- 終身保険の死亡保険金を法人が受け取ったケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を保険金受取人とする終身保険について、死亡保険金1,000万円を受け取り当座預金とした。なお、保険積立金は800万円ある。配当積立金はなかった。
10,000,000円 | 8,000,000円 | ||
2,000,000円 |
法人が受取人となっている場合、終身保険では全額を資産計上する仕訳を行いました。入金があったときは、資産計上されている分の保険料を貸方に計上し、残額を「雑収入」で処理します。
- 定期保険の死亡保険金を法人が受け取ったケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を保険金受取人とする20年の定期保険について、死亡保険金1,000万円を受け取り当座預金とした。なお、前払保険料の残高が300万円ある。配当金の積立はなかった。
10,000,000円 | 3,000,000円 | ||
7,000,000円 |
定期保険は、一定期間にわたって「前払保険料」として資産計上を行います。受取時には、資産計上された前払保険料の残額を貸方に計上し、残額を「雑収入」とします。
- 養老保険の死亡保険金を法人が受け取ったケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、その遺族を死亡保険金の受取人、法人を満期保険金の受取人とする養老保険について、満期保険金500万円を受け取り当座預金とした。なお、保険積立金が450万円ある。
5,000,000円 | 4,500,000円 | ||
500,000円 |
養老保険の仕訳の形は、終身保険と同じです。法人が受取人の保険金については、資産として計上した「保険積立金」を貸方に計上し、残額を「雑収入」で処理します。
基本的にどのパターンでも、資産計上した残額があれば貸方に計上し、残額を利益として計上しますので、支払時の仕訳パターンより覚えやすいでしょう。
生命保険会社から受け取る解約返戻金の勘定科目・仕訳例
解約返戻金とは、保険期間の途中で契約者が保険の解約を保険会社に申し入れたとき、契約者に払い戻される額をいいます。ただし、それまでの保険料の支払額がすべて払い戻されるわけではありません。
通常は、払込保険料に解約返戻率を乗じた額が払い戻されます。解約返戻率は保険期間中一定ではなく、契約当初は高く徐々に返戻率が下がることが多いです。一定期間までは解約返戻率が上昇し、その後は返戻率が下がる保険もあります。
また、解約返戻金はすべての生命保険の契約で発生するものではありません。定期預金など貯蓄性の低い生命保険は、解約返戻金自体がないこともありますので、契約時によく確認しておきましょう。
以下に、解約返戻金があるときで、保険積立金がある場合・ない場合の処理を分けてご説明します。
保険積立金がある場合
保険積立金とは、前述したように保険料支払時に資産計上した額のことです。解約によって保険の契約は消滅しますので、これまで計上していた保険積立金を資産から除く(貸方に計上する)処理を行います。
- 解約返戻金>保険積立金のケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、その遺族を死亡保険金の受取人、法人を満期保険金の受取人とする養老保険を解約し、解約返戻金500万円を受け取り当座預金とした。なお、保険積立金が450万円ある。
5,000,000円 | 4,500,000円 | ||
500,000円 |
保険積立金よりも解約返戻金の入金額が多いときは、残額を「雑収入」で処理します。
- 解約返戻金<保険積立金のケース
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を保険金受取人とする終身保険を解約し、解約返戻金300万円を受け取り当座預金とした。なお、保険積立金が500万円ある。
3,000,000円 | 5,000,000円 | ||
2,000,000円 |
保険積立金よりも解約返戻金の額が少ないときは、残額を「雑損失」で処理します。
保険積立金については以下の記事で詳細を取り上げていますので、ご参照ください。
保険積立金がない場合
(仕訳例)役員や従業員を被保険者、法人を保険金受取人とする養老保険を解約し、解約返戻金300万円を受け取り当座預金とした。なお、最大解約返戻率が30%であったため保険積立金の計上はない。
3,000,000円 | 3,000,000円 |
定期保険の支払いの部分でもご説明したように、最大解約返戻率50%以下の定期預金は全額を費用(損金)処理します。支払時にすべて経費とすることから、資産として計上される額はありません。
また、解約返戻金がない場合も同様の処理を行いますので、保険積立金が計上されることはありません。保険積立金がないということは、資産として計上している額がないということです。資産計上部分がない場合は、入金額をすべて「雑収入」で処理します。
生命保険の仕組みを理解し正しく仕訳しましょう
個人事業主が負担する生命保険の保険料は、基本的に経費にできないため、受取時に気を付ければ良いだけで特に難しい部分はありません。注意したいのは、法人における生命保険料や保険金の処理のしかたです。法人の場合、保険金の受取人や生命保険の種類、最大解約返戻率などによって、仕訳のしかたや勘定科目が変わってきます。パターン別に仕訳方法を押さえておきましょう。
よくある質問
個人事業主が生命保険料を支払ったときは経費に計上できる?
基本的に個人事業主の生命保険料は経費に計上できません。 詳しくはこちらをご覧ください。
法人が生命保険料を支払ったときはどう経理処理する?
保険金の受取人は誰か、保険の種類はどれかなどにより、仕訳のしかたや勘定科目が異なります。 詳しくはこちらをご覧ください。
法人が生命保険金を受け取ったときは?
保険積立金などで資産計上している部分があれば資産を取り崩し、残りを雑収入で処理します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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