• 作成日 : 2024年9月26日

変動対価とは?具体例や算定方法をわかりやすく解説

値引きやリベート、ペナルティなどが絡む取引では、最終的な取引価格が変動する可能性があるため、どのような会計処理をすればよいのか頭を悩ませる方もいるでしょう。こうした状況で重要になるのが「変動対価」という概念です。

この記事では、新収益認識基準における変動対価の定義や具体例、算定方法、見積れない場合の対応方法などについて解説します。

収益認識基準における変動対価の定義

収益認識基準における「変動対価」とは、企業が取引において受け取る対価が確定していない部分を指します。

たとえば、値引き、リベート、ペナルティなど、契約条件や顧客の行動により変動する可能性のある金額が変動対価に該当します。より具体的に言えば、企業が製品を顧客に販売する際、顧客が一定の購入量を達成した場合に割引を提供する契約がある場合、この割引額が変動対価です。

このような変動対価は、収益を認識する際に重要な要素となり、企業はこれを適切に見積り、会計処理することが求められます。収益認識基準では、こうした変動対価の金額をどのように算定し、どのタイミングで収益として認識するかが明確に定められています。

変動対価を正確に求めることで、企業はより透明性のある財務報告が可能となるでしょう。

収益認識基準の5ステップのおさらい

収益認識基準において、企業は収益を認識するために5つのステップを順に検討していきます。

  1. 契約の識別:企業と顧客との間で締結された契約を識別する
  2. 履行義務の識別:企業が契約を通じて提供する財やサービスの履行義務を識別する
  3. 取引価格の算定:企業が顧客から受け取ることを期待する全体の対価を算定する
  4. 取引価格の配分:取引価格が算定された後、次にその価格を各履行義務に対して配分する
  5. 履行義務の充足:企業が履行義務を充足した時、または履行義務を充足するにつれて収益を認識する

収益認識基準の5ステップの中で、変動対価がもっとも関わってくるのは「ステップ3:取引価格の算定」です。取引価格は、企業が契約にもとづいて顧客から受け取るべき対価を示しており、固定の取引金額だけでなく、値引きやリベートといった変動金額も含まれます。

これは、企業が契約にもとづいて将来受け取る可能性のある対価をすべて把握しなければいけないためです。変動対価を無視して取引価格を計算すると、実際の売上や収益が過小評価または過大評価され、財務報告に影響を及ぼす恐れがあるでしょう。

企業は収益認識のステップを踏みつつ、変動対価を含めた収益を正しく認識するのが大切です。

変動対価を見積る方法は「最頻法」と「期待法」の2種類

変動対価を算出する方法としては「最頻法」と「期待法」の2種類があげられます。それぞれの算定方法について詳しく見ていきましょう。

最頻法

最頻法は、変動対価の中でもっとも発生する可能性が高い金額を基準にして、収益を見積る方法です。たとえば、ある企業が取引先に商品を販売し、その販売実績に応じて成果報酬を受け取る契約を結んでいるとします。

  • 販売数が1,000個未満の場合:成果報酬なし
  • 販売数が1,000~2,000個の場合:成果報酬100万円
  • 販売数が2,000個以上の場合:成果報酬200万円

この時、企業は過去の実績や市場動向から、販売数が1,000~2,000個に収まる可能性がもっとも高いと判断される場合、企業は成果報酬100万円を変動対価として見積ることになります。

最頻法は、特定の金額に対する予測が明確である場合に有効となります。

期待法

期待法は、予測されるすべてのシナリオの発生確率を考慮に入れて、平均的な期待値を算定するアプローチです。先ほどと同じく、ある企業が取引先と成果報酬契約を結び、その報酬額が販売数に応じて変動するとします。

  • 販売数が1,000個未満の場合:成果報酬なし(確率20%)
  • 販売数が1,000~2,000個の場合:成果報酬100万円(確率50%)
  • 販売数が2,000個以上の場合:成果報酬200万円(確率30%)

この場合、各シナリオの成果報酬額に発生確率を掛けて計算します。

  • 0円 × 20% = 0円
  • 100万円 × 50% = 50万円
  • 200万円 × 30% = 60万円

これらを合計すると、50万円+60万円=110万円が期待される成果報酬額として見積られ、企業はこの110万円を変動対価として計上します。

期待法は、取引にてさまざまな結果が生じる可能性があり、それぞれのシナリオに異なる確率が割り当てられるようなケースにて有効です。

変動対価の見積りの制限とは

変動対価の見積りにおいては、最終的な見積額に対する不確実性が存在します。そのため、変動対価の見積り額は、その不確実性が解消される時点までに収益が大きく減少しないと見込まれる時に限り、取引価格に含められる、という制限が設けられています。

この制限は、最終的に取引が終わった後、見積りが誤りであった場合、収益の大きな減額が発生しないようにすることが目的です。

一方で、以下のような契約や取引においては、収益が減額される確率が高く、減額の程度も大きくなる可能性があります。そのため、変動対価の見積り額を取引価格に含めるかどうか検討が必要です。

  1. 対価の額が企業の影響力の及ばない要因(市場の変動性、第三者の判断や行動等)の影響を非常に受けやすい。
  2. 対価の額に関する不確実性が長期間にわたり解消しないと見込まれる。
  3. 類似した種類の契約についての企業の経験が限定的であるか、又は当該経験から予測することが困難である。
  4. 類似の状況における同様の契約において、幅広く価格を引き下げる慣行又は支払条件を変更する慣行がある。
  5. 発生し得ると考えられる対価の額が多く存在し、かつ、その考えられる金額の幅が広い。

引用:企業会計基準委員会 2024年9月 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針

このように、企業は変動対価を含めて収益を計上する際、見積りにもとづく収益額が後々に大きく減少しないかどうかを慎重に判断する必要があります。

変動対価の会計処理

変動対価の会計処理は、企業が収益を適切に認識し、財務諸表に反映させるために重要です。

まず、変動対価が含まれる契約では、取引価格を算定する際に、その変動部分を適切に見積ります。見積りには「最頻法」や「期待法」が用いられ、企業はどの方法がもっとも適切かを選択し、予測される変動対価の金額を算出しましょう。

その後、変動対価を含めて算出した取引金額にもとづき、取引相手との履行義務の充足に応じて収益を認識します。

たとえば、販売促進としてリベートを提供する契約がある場合、取引価格の算定時に変動価格が含まれていることを考慮します。そして「最頻法」もしくは「期待法」を用いて、リベートの見積り額を算出しましょう。

続いて、履行義務の進捗に応じて、その見積り金額を適宜収益に計上していきます。もし、リベート額が確定する前に決算日を迎えた場合は取引価格の見直しを行い、当初の見積額と決算時点での見積額に差額があれば収益額を調整します。

変動対価の会計処理は、企業の収益認識に大きな影響を与えるため、慎重かつ正確に行うことが大切です。

変動対価の見積りが不可能な場合の会計処理

変動対価を見積ることが困難な場合、企業は慎重な会計処理を求められます。収益認識基準に従い、取引価格の不確実性が高く、合理的な見積りができない場合には、変動対価を含めない形での収益認識が原則となります。

たとえば、見積りの根拠や前提条件が不明瞭であったり、取引相手との交渉内容に大きな変動が見込まれたりする場合などが該当するでしょう。

具体的な会計処理の手順としては、以下のように進められます。

  • 確定部分の収益のみを認識する:変動対価の見積りが不可能な場合、企業は確定している対価部分のみを収益として認識する
  • 将来の見積りの変動に応じた修正:変動対価を含めた取引価格が後日確定したり、見積りが可能となったりする場合、その時点での修正を行う
  • 開示義務:どうしても変動対価が見積れない場合、その不確実性について財務諸表上で適切に開示する

このように、変動対価が見積れない場合は、過度なリスクを避けるため、慎重な収益認識と適切な開示が重要です。

変動価格を考慮して正確な財務報告を行おう

変動対価は、収益認識基準において重要な要素のひとつです。値引き、リベート、ペナルティなど、取引条件に応じて対価が変動する場合、企業は慎重に収益を見積る必要があります。具体的には、最頻法や期待法を活用して変動対価を見積ります。

しかし、変動対価の見積りが不可能な場合には、確定している対価部分のみを収益として認識し、不確実性については財務諸表で開示することが重要です。

変動対価を正確に求めることで、企業はより正確な財務報告が可能となるでしょう。


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