• 更新日 : 2023年11月30日

農業法人とは?設立するメリット・デメリット、法人化の方法について解説!

農業法人とは?設立するメリット・デメリット、法人化の方法について解説!

日本政府は、国産農林水産物・食品の輸出を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円に拡大するべく輸出拡大実行戦略を策定、国を挙げて輸出振興に勤しんでいます。
特に、高級果物などの高付加価値生産品へのニーズが先進各国において軒並み高まってきており、政府は近年稀に見るビジネスチャンスととらえ、国内農業政策の再構築などにも着手し始めています。
企業や個人起業家が農業に参入する際に設立するのが農業法人です。

本記事では、農業での起業を検討中の人や企業を対象に、農業法人の基本を解説します。

農業法人とは?

農業法人とは、業として農業を営む法人の総称です。農業とは、土地を活用して有用な植物を栽培したり、有用な動物を飼育したりする生産業の一種です。
農業法人

農業法人は、農業協同組合法が定める農事組合法人と、会社法が定める会社法人の2つのカテゴリに分類されます。なお、農業法人が農地を所有するには、農地法が定める一定の要件を満たす必要があります。その要件を満たした農業法人を「農地所有適格法人」と言います。

農業法人と株式会社の違いは?

農業法人とは、農業を営む法人の総称です。一方、株式会社は会社法が定める法人形態の1つです。
また、株式会社は農業法人の6つの形態の1つです。同様に、会社法が定める「合同会社」「合資会社」「合名会社」も、それぞれ農業法人の形態の1つです。

なお、当然ながら個人で農業を営む個人事業主は「農業法人」ではありません。一方、農業を営む「農民」が3人以上集まり、共同して定款を作成し、役員の選任などを行って登記することで「農事組合法人」を設立することができます。

農業法人の形態は?

上述の通り、農業法人は会社法が定める「会社法人」と、農業協同組合法が定める「農事組合法人」の2つのカテゴリに分類されます。

「会社法人」は、日本国内に住所を置く15歳以上の日本人であれば原則誰でも設立可能です。また、外国人であっても永住権所持者などであれば設立できます。一方、「農事組合法人」は、3人以上の「農民」が発起人となり、共同で設立する必要があります。

会社法人

会社法が定める法人形態です。一般的な「株式会社」に加え、「合同会社」「合資会社」「合名会社」といった法人の設立が可能です。『2020年版 農業法人白書』によると、調査対象となった農業法人の形態のうち、もっとも多かったのが「株式会社」で、全体の83.8%を占めています(特例有限会社を含む)。我が国の農業法人10社のうち8社以上が「株式会社」の形態を採用しているのです。「株式会社」に次いで多かった会社法人が「合同会社」で、全体の1.1%です。なお、「合資会社」および「合名会社」は調査結果に含まれていません。

参考:2020年版 農業法人白書|公益社団法人日本農業法人協会

農事組合法人

農業協同組合法が定める法人形態です。法人を組織する組合員の共同の利益増進を目的としており、農協のような組合に近い組織的特徴を持つとされています。なお、農事組合法人の構成員は「社員」ではなく、「組合員」と呼ばれます。構成員は原則として農家に限られ、サラリーマンなどが独立して設立することはできません。また、事業内容も農業に関する事業に限定されます。

農事組合法人は、共同利用施設の設置や農作業の近代化などを目的に設立される1号法人と、自ら農業経営や関連事業を行う2号法人とに分けられます。

農地を所有できる農業法人は農地所有適格法人のみ

なお、農業法人が農地を所有して農業を行うためには、農地法が定める一定の要件を満たす必要があります。その要件を満たした法人を「農地所有適格法人」と言います。「農地所有適格法人」ではない農業法人は、農地を所有して農業を行うことができません。
では、農地法が定める一定の要件とはどのようなものなのでしょうか。

まず、基本的な要件として以下の3つをそれぞれ満たす必要があります。

 

  1. 農地のすべてを効率的に利用するための営農計画を持っていること
  2. 農地取得後の農地面積の合計が原則50a(北海道は2ha)以上であること
  3. 周辺の農地利用に支障がないこと

 

また、法人の適格要件としては、主に以下の4つを満たすことが求められています。

  1. 株式会社(公開企業でないもの)、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社のいずれかであること
  2. 主たる事業が農業であること
  3. 総議決権の過半数が農業関係者で構成されること
  4. 役員の過半数が法人の行う農業に常時従事する構成員であること

農業法人化のメリットは?

個人として農業を営むのではなく、農業法人という組織として農業を営むことにどのようなメリットがあるのでしょうか。農業法人化のメリットは以下の通りです。

 

  • 経営の透明化・近代化
  • 対外信用力の向上
  • 経営の分散化

 

それぞれについて詳しく解説します。

経営の透明化・近代化

農業法人化のメリットの1つ目は、経営の透明化・近代化です。我が国の農業は長らく個人事業・家業を中心に行われてきており、今日までに欧米先進国並の経営効率や土地生産性を確保できずにいます。個人や家業で行われてきた農業を法人化することにより、いわゆる経営と資本の分離が進み、経営そのものが透明化される可能性が生まれます。

また、農業法人化により外部からの資金調達が可能になると、直接農地拡大に向けた投資も可能になり、経営の大規模化と効率化が大いに期待できます。

対外信用力の向上

農業法人化のメリットの2つ目は、対外信用力の向上です。法人化によりコーポレートガバナンスがある程度担保されているという期待から、取引先や取引金融機関などからの信用度が向上します。取引先からはディスカウントなどの恩恵が、取引金融機関からは制度融資のあっせんや信用保証協会の紹介などの便宜が得られる可能性が高まります。

さらに、対外信用力が向上することで、優秀な人材の採用や長期のリテンション(雇用継続)の確保などのメリットも期待できます。

経営の分散化

農業法人化のメリットの3つ目は、経営の分散です。例えば、農業を主たる事業としつつも、農業で得られた成果物を加工してジュースやジャムにしたり、ケーキやお菓子などの商品を開発したりして販売する。あるいは、就農を志す人を対象にしたセミナーやワークショップを開催する。さらには、消費者向けに体験農業や民泊事業を展開するといった、個人として農業を営んでいるとなかなか実現しえない経営の分散が、農業法人化により実現できる可能性が高まります。

農業法人化のデメリットは?

一方、農業法人化にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。農業法人化のデメリットは以下の通りです。

 

  • 経営コストがかかる
  • 農地所有適格法人の要件を満たすのが困難
  • 競争リスクの存在

 

それぞれについて詳しく解説します。

経営コストがかかる

農業法人化のデメリットの1つ目は、経営コストがかかることです。例えば、農業法人として株式会社を設立し、従業員を雇用する場合、一定の条件を満たした従業員については社会保険に加入させる必要があります。従業員のみならず、これまで個人で国民健康保険と国民年金に加入していた経営者も、新たに社会保険に加入することになります。会社の保険料負担が大きくなり、経営に影響する可能性があります。

農地所有適格法人の要件を満たすのが困難

農業法人化のデメリットの2つ目は、農地所有適格法人の要件を満たすのが困難であることです。例えば、農地所有適格法人の要件として、役員のうち過半数は法人の農業に常時従事(原則年間 150日以上)する構成員(議決権のあるもの)であること、かつ、役員または重要な使用人(農場長等)のうち、1 名以上 が農作業に従事(原則年間 60 日以上)することを求めています。要するに、片手間や中途半端な姿勢では農地所有適格法人にはなれないということであり、農業法人側の「本気度」が試される形になります。

競争リスクの存在

農業法人化のデメリットの3つ目は、農業という産業には競争リスクがほぼ永続的に存在する点です。当然ながら、農業法人を設立し、農地所有適格法人の要件を満たすことが元来の目的ではありません。市場や消費者に喜ばれる成果物を生産し、日々のオペレーションにおいても改善を繰り返して常に進歩を続けていく。言うなれば地味な仕事ですが、それを継続しなければ競争に勝つことは困難です。競争リスクを認識し、それと対峙することを楽しむくらいでなければ、存続は難しいでしょう。

農業法人の設立に必要な手続きは?

では、実際に農業法人を設立する場合に必要な手続きにはどのようなものがあるのでしょうか。農業法人の組織形態としてもっとも多い株式会社を設立する前提で解説します。

通常は、以下のプロセスを辿ります。

 

  • 会社基本情報の決定
  • 定款の作成と認証
  • 出資の履行と設立時役員の選任
  • 設立登記・諸官庁への届け出

 

それぞれについて詳しく解説します。

会社基本情報の決定

農業法人設立の最初のステップは、会社基本情報の決定です。
会社基本情報は、主に以下の7つで構成されます。

  1. 会社名
  2. 本店所在地
  3. 事業内容
  4. 資本金の額
  5. 持株比率
  6. 役員構成
  7. 資本金の額

特に農地所有適格法人の認定を目指す場合、「⑤持株比率」と「⑥役員構成」は非常に重要なポイントになります。農地所有適格法人の要件を詳細にチェックし、もれなく満たすようにしてください。また、株式会社で農地所有適格法人の認定を目指す場合、株式の譲渡制限の定めを置く必要があります。

定款の作成と認証

会社基本情報が決まったら、定款を作成します。
定款はWordなどのソフトを使用して作成することも可能ですが、最近はオンラインで定款が作れるサービスなども利用可能です。

定款が作成できたら、PDFファイルに変換した電子定款を公証役場に送信し、公証人の認証を受けます。なお、WordファイルなどをPDFファイルに変換して電子定款にする際には電子署名を挿入する必要があるのでご注意ください。

出資の履行と設立時役員の選任

続いて、出資の履行と設立時役員の選任です。通常は発起人が設立時発行株式を引き受け、その出資に係る金銭を払い込みます。そして、発起人は設立時役員会を開催し、設立時役員を選任します。さらに、設立時役員会は代表取締役を選任します。

設立登記・諸官庁への届け出

以上が完了したら、法務局に設立登記を申請します。同時に、諸官庁に対して以下の届け出を行います。

  • 税務署:法人設立届、青色申告の承認申請書、給与支払事業者等の開設届出書、源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書
  • 都道府県税事務所および市町村役場:法人設立届
  • 年金事務所:健康保険・厚生年金新規適用届、健康保険・厚生年金被保険者資格取得届、健康保険被扶養者届
  • 労働基準監督署:労働保険関係成立届、適用事業報告書
  • ハローワーク:雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届

農業法人の設立にかかる費用は?

ところで、農業法人の設立にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。株式会社設立による農業法人設立の場合、一般的な株式会社設立にかかる費用と同じです。具体的には、定款認証手数料3~5万円(資本金の額等により異なる)と、登記の際に支払う登録免許税15万円(最低額。資本金の額により異なる)です。定款の作成や登記申請を代行してもらうとその分コストがかかりますので、オンラインの無料の定款作成サービスなどを上手に利用して、できるだけ自分で完結できるようにするのがポイントです。

なお、株式会社設立には、以上の費用のほかに会社印鑑の作成費用、代表者の印鑑証明書取得費用なども必要になります。

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農業で起業するなら農業法人の設立がおすすめ!

以上、農業法人について、基本的な事項やメリット・デメリット、設立の具体的な手続きなどを解説しました。
少子高齢化や地方の過疎化等々、我が国の農業を取り巻く環境は決して平安なものではありません。むしろ、国際間競争は激化し、世界的な政情不安による需給バランスの不安定が続き、サプライチェーン停滞が問題をさらに深刻にしています。

そうした中、高いクオリティを誇る日本の農産物は、アジア近隣諸国を筆頭に、アメリカやオーストラリアなどでも人気が高まっています。こうした追い風を味方にすべく、農業での起業を検討中の方には、競争優位性を得やすい農業法人での起業をおすすめします。

よくある質問

農業法人とは何ですか?

農業法人とは、業として農業を営む法人の総称です。農業とは、土地を活用して有用な植物を栽培したり、有用な動物を飼育したりする生産業の一種です。詳しくはこちらをご覧ください。

農業法人のメリットは?

農業法人化の最大のメリットは経営の透明化・近代化です。経営と資本の分離が進み、経営そのものが透明化される可能性が生まれます。詳しくはこちらをご覧ください。

農業法人のデメリットは?

経営コストがかかることです。従業員を雇用する場合、一定の条件を満たす従業員については社会保険加入義務が生じます。また、これまで国民健康保険と国民年金に加入していた経営者も加入することになります。詳しくはこちらをご覧ください。


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