- 更新日 : 2022年2月1日
人件費は経費にできる?節税効果や人件費削減方法・勘定科目も解説!

人件費として支出した費用は経費計上できるため、課税所得額の減少による節税につながります。しかし、人件費や経費という単語にはさまざまな解釈や意味が含まれているため、処理方法や扱いについて戸惑ってしまうケースも少なくありません。
今回は人件費と経費のそれぞれ意味や人件費の内訳、人件費と派遣社員等の関係、人件費に関係する節税方法について解説します。
目次
人件費とは?
人件費とは、企業が人を雇用するまたは雇用を継続する際に発生する費用全般のことです。具体的には、以下の費用などが当てはまります。
似たような言葉に「労務費」がありますが、労務費は製品の製造やサービス提供のために発生した「製造部門の人件費」のみのことです。労務費と人件費は分けて管理されます。
人件費の内訳(勘定科目)
人件費はおもに「現金給与総額」と「現金給与以外」に分けられます。
現金給与総額とは「決まって支給する給与」と「特別に支払われた給与」などを合算したものです。所得税や社会保険料、組合費などを差し引く前の金額になります。簡単にいえば給与と給与手当です。
給与に近い形で支給される役員報酬に関しては、こちらへの分類が近いでしょう。
一方、現金給与以外とは現金給与以外の労働費用のことです。退職金や福利厚生費などがこちらに当てはまります。
分類はあるものの、どちらも人件費として経費にできる点は変わりません。以下より詳細を見ていきます。
※本来は損金算入が正しい部分もありますが、わかりやすさを重視し「経費を計上する」という表現にしている箇所があります。ご了承ください。
給与手当
従業員の労働の対価として支払われる給与関係は、すべて人件費として経費にできます。「所定内給与」や「所定外給与」、「特別に支払われた給与」が対象です。基本給はもちろん、各種給与手当や賞与も含まれます。具体的には次のとおりです。
- 基本給
- 賞与
- 家賃手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 食事手当
- 時間外労働手当(残業手当)
- 各種技術手当
- 特別勤務手当
など
また、食事や定期券など金銭以外で支給された現物給与も人件費に含まれます。勘定科目は「給与手当」を使用するのが一般的です。
役員報酬
役員に支払われる役員報酬も、経費として計上可能です。ただし、従業員への給与とは扱いが異なるため、給与と役員報酬は分けて考えられます。
役員報酬を全額経費にするには、事前に「定款での規定」や「株主総会での承認」を得たのち、以下3つのいずれかとして認められなければなりません。
役員報酬を経費計上するための条件 | 概要 |
---|---|
定期同額給与 | 従業員のように固定の役員報酬が毎月支給する |
事前確定届出給与 | 指定日に一括で支給する |
業績連動給与(利益連動給与) | 業績と役員報酬を連動して決まった額を支給する |
ただし、社会通念上妥当でない高額な金額を設定している場合は、経費として認められない可能性があります。
ちなみに、役員賞与は原則としては経費にできませんが、上記の条件を満たすことで2006年より経費計上が可能になりました。勘定科目は「役員報酬」や「役員報酬」を使うことが一般的です。
退職金
退職金は、退職する従業員に対して企業から支払われる賃金のことです。退職するときに企業から一括で支払われる「退職一時金」と、毎年金額を積み立ててから支払われる「退職年金」があります。
企業が退職一時金を支払った場合は、その額分だけ人件費として経費計上が可能です。退職年金の積み立てのために支出した掛金も経費になります。また、役員が退職したときに支払う役員退職金も人件費扱いです。
退職金の額は企業が定める制度ごとに異なるため、正確な額を調べる際は自社の退職金制度の確認が必要になります。勘定科目は「退職金」や「退職給付引当金」を使うのが一般的です。
福利厚生費・法定福利費
従業員のために支払う給与や賞与以外の費用は、福利厚生費(法定外福利費)として経費計上できます。具体的には次のとおりです。
- 社宅に支払う家賃
- 交通費(通勤手当として給与手当での処理も可能)
- 慰安旅行費
- 新年会や忘年会、親睦会の費用
- 冠婚葬祭や出産の祝い金
- 慶弔金
など
また「法的に加入を義務付けられた福利厚生の負担額」である法定福利費も人件費に含まれます。具体的には次のとおりです。
勘定科目はそれぞれ「福利厚生費」や「法定福利費」を使うのが一般的です。
経費とは?
会計業務や帳簿付けなどでよく使われる「経費」という言葉ですが、実は意味を定義するのが難しい概念でもあります。
まずは経費と混同されやすい「費用」や「損金」、そして「必要経費」という言葉の意味について整理しました。
名前 | 概要 |
---|---|
費用 | 「会社の生産・営業活動に関係する金銭的な支出」や「固定資産の経済的価値の減少」などといった「収入や収益の反対」のこと |
損金 | 法人税法上の原価や販売費及び一般管理費、損失のこと(反対は益金) |
必要経費 | 所得税法上での損金とほぼ同じ意味 |
関係性を簡単にまとめると次のようになります。
- 事業に関係する会計上の支出はそのほとんどが費用になる
- 会計上で確定した損益をもとに税金の計算を行う(会計=税務ではない)
- 税金を計算するときは費用のうち損金(必要経費)と認められた支出を算入できる
そしてあらためて経費の意味とは、主に「事業を行うために使用した費用」を表します。「費用=経費」ではなく「費用100万円のうち、経費にできるのは80万円」というイメージが近いです。
つまり、経費は損金(必要経費)と同じ意味として扱われることが多いです。一旦は「収入から差し引けるのが経費」と認識するとわかりやすいでしょう。
以下では、経費計上できる支出の具体例を見ていきます。
経費にできる支出 | 例 |
---|---|
事業の売上につながる費用 | 接待交際費・旅費交通費・通信費・消耗品費など |
事業にかかわる租税公課 | 固定資産税・法人事業税・利子税・登録免許税など |
上記の「事業の売上につながる費用」の枠組みの中に、人件費が存在します。
人件費を経費に計上すると節税につながる?
法人税ならび所得税は「所得 × 税率 - 税額控除」で計算できます。所得を算出する式は「収入(益金) - 経費(損金や必要経費)- 所得控除」です。つまり、経費として計上できる人件費が増えるほど、課税される所得額が減って節税につながります。
とはいえ、やみくもに人件費を増やすだけでは効果がありません。
例えば、ある法人の所得が2,000万円と仮定し、人件費を300万円と200万円とした単純な計算式で例を見てみます。
法人税額=(2,000万円-300万円)×23.2%=394.4万円
実際に支出する額=394.4万円+300万円=694.4万円
<人件費200万円>
法人税額=(2,000万円-200万円)×23.2%=417.6万円
実際に支出する額=417.6万円+200万円=617.6万円
結果として、人件費300万円のほうは法人税額が23.2万円安くなっています。
しかし、人件費として支出している額は100万円増えているので、結局「100万円-23.2万円」で76.8万円支出が増えているのです。
現在の費用の中から人件費として経費計上する額を増やすことが、節税のコツになります。福利厚生費の計上や外注の活用など見逃しがちな節税対策もあるので、一度全体的に見直してみましょう。
ただし、架空の人件費計上や偽装計上などは、追加徴税や刑事罰の対象です。正しい節税を心がけてください。
人件費を経費にできるケース・できないケース
経費の中には「人件費として計上できるのか」と判断に迷う支出も存在します。
ここからは、人件費にできるのかできないのかの判断が難しいケースを解説します。
「これって福利厚生費?」と迷ったときはどうしたらいい?
福利厚生費(法定外福利費)は、法律の定めがある法定福利費と違い、「本当にこの費用を福利厚生費として計上してよいのか」と迷うことは多いです。
まず前提として、福利厚生費として経費計上するには次の条件に該当する必要があります。
- 賃金ではないこと
- 対象が全従業員であること(特定の人物しか使えない制度は不可)
- 社会通念上、金額が妥当であること(1ヶ月での平均は24,000~25,000円程度)
上記の条件を逸脱すると、全額が課税対象になるかもしれません。例えば次のものは認められない可能性が高いでしょう。
- 給与にプラスして追加で支払った報酬
- 管理職のみに募集をかけた慰安旅行費
- 1人あたり10万円を超えるパーティー費用 など
派遣社員やアルバイトなどの正社員以外の人件費は?
自社雇用ではない派遣社員を入れた場合や、契約社員やアルバイトなどを雇った場合など、正社員以外の人件費はどのような扱いになるのでしょうか。
まず派遣社員を確保した際にかかる「派遣料」や「教育費」などは、すべて人件費です。派遣人材費や外注費、雑給として経費計上します。
契約社員やアルバイト、パートへ支払う給与についても、正社員の給与と同じく人件費扱いです。雑給として処理します。
ちなみに、もし派遣社員や契約社員などの人を常勤ではなく一時的に雇った場合は、雑費として経費計上することもあります。
人件費を削減する方法は?
人件費の削減は、無駄な支出の減少につながります。例えば、以下の手法による人件費の見直しが考えられます。
- 人件費率や労働分配率、売上高人件費率などを分析し対策案を練る
- 業務にかかる工数や人員を削減する
しかし、人件費の削減は経費削減にはつながるものの、経費計上額が増えるわけではないため節税とはまた別の話になります。既存の人件費をいかにうまく経費計上できるかが節税のポイントです。
以下では人件費を節税につなげる方法に加えて、人件費削減のコツについて解説します。
給与や報酬を見直す(売上アップを目指す)
現状の評価制度や各種手当を見直すことで、節税と売上アップを見込めるかもしれません。例えば「従業員の成果に応じて適正に評価を行い、できる限り高待遇の扱いにした」と仮定します。
まず昇給した分だけ支出が増えますが、支出した分は人件費として経費計上可能です。
そして、成果分だけ報酬を与えることで、従業員は「ここで長く働こう」「もっと成果を出そう」と考え、仕事へのモチベーションが向上します。1人ひとりに生産性が上がった結果、現状よりも売上アップが狙えるでしょう。
売上が増加した分は、さらなる報酬還元や設備投資に回せます。より多額の経費計上と業績向上の相乗効果を狙えるでしょう。
単純な話に聞こえますが、このような「労働分配率(人件費÷粗利益額)」の分析や内訳の改善を目指すサイクルによって、よい業績につながる企業は少なくありません。
むやみに人件費を削減して生産性やモチベーションを下げるより、報酬分をうまく経費計上して運用したほうが、結果的に節税や利益につながると考えられます。
外注を利用する
もしすぐに人手が必要だったり専門的な知見が必要だったりした場合は、業者やフリーランスへの外注を活用することで、節税ならびに人件費削減につながります。
メリットは次のとおりです。
- 雇用する場合と比較して固定費削減につながる
- 外注費用として経費計上できる
- 外注費用にかかった消費税を決算時に控除できる など
税制上の制度を利用する
人件費に関係する税制の制度を利用することで、現状よりも人件費を多く経費計上できます。
まず個人事業主として事業を営んでいる場合は、一度法人化を検討してみましょう。法人化することで、自身への給与を役員報酬として経費計上できます。
もう一つ利用できる制度は「所得拡大促進税制」です。所得拡大促進税制とは、従業員の平均給与について以下の条件を満たすことで、法人税(所得税)から前年度より増額した分の給与の15%または25%を控除できる制度です。
- 15%控除:継続雇用者に支払った給与等の総額が前年より1.5%以上増加していること
- 25%控除:継続雇用者に支払った給与等の総額が前年より2.5%増加しており、かつ「教育訓練費増加要件」と「経営力向上要件」を満たしていること(25%控除)
※大企業の場合は別条件
給与や報酬分の経費計上分にプラスして控除されます。より大きな節税効果を見込めるでしょう。
人件費をきちんと理解・計上して節税しよう!
人件費は経営の中でも、もっとも支出額が大きな費用です。
しかし、きちんと内容を理解して適切に計上できるようになれば、現状よりも経費にできる額が増えるかもしれません。
人件費は削減するだけでなく、報酬額アップや外注費用として活用し経費計上できれば、利益ならび従業員の生産性やモチベーションアップにもつながるでしょう。
人件費をうまくコントロールし、現状より一つ上の経営を目指してみてください。

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株式会社久松農園 久松 達央 様
よくある質問
人件費とは?
企業が人を雇用するまたは雇用を継続する際に発生する費用全般のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
人件費として経費にできるケースとは?
人件費として経費計上するには一定の条件に該当する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
人件費の削減方法は?
給与や報酬を見直す方法、外注を利用する方法、税制上の制度を利用する方法などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。