- 更新日 : 2024年8月8日
人件費は経費にできる?節税効果や人件費削減方法・勘定科目も解説!
人件費や労務費として支出した費用は経費計上できるため、課税所得額の減少による法人税の節税につながります。しかし、人件費や経費という単語にはさまざまな解釈や意味が含まれているため、処理方法や扱いについて戸惑ってしまうケースも少なくありません。
今回は企業の会計担当者などに向けて人件費と経費のそれぞれ意味や人件費の内訳、人件費と派遣社員等の関係、人件費に関係する節税方法について解説します。
目次
人件費とは?
人件費とは、企業が人を雇用するまたは雇用を継続する際に発生する費用全般のことです。具体的には、以下の費用などが当てはまります。
似たような言葉に「労務費」がありますが、労務費は製品の製造やサービス提供のために発生した「製造部門の人件費」として使います。製造原価の計算などでは労務費と人件費は分けて管理されます。
人件費の内訳(勘定科目)
人件費はおもに「現金給与総額」と「現金給与以外」に分けられます。
現金給与総額とは「決まって支給する給与」と「特別に支払われた給与」などを合算したものです。所得税や社会保険料、組合費などを差し引く前の金額になります。簡単にいえば給与と給与手当です。
給与に近い形で支給される役員報酬に関しては、こちらへの分類が近いでしょう。
一方、現金給与以外とは現金給与以外の労働費用のことです。退職金や福利厚生費などがこちらに当てはまります。
分類はあるものの、どちらも人件費として経費にできる点は変わりません。以下より詳細を見ていきます。
※この記事では本来は損金算入が正しい部分もありますが、わかりやすさを重視し「経費を計上する」という表現にしている箇所があります。ご了承ください。
給与手当
従業員の労働の対価として支払われる給与関係は、すべて人件費として経費にできます。「所定内給与」や「所定外給与」、「特別に支払われた給与」が対象です。基本給はもちろん、各種給与手当や賞与も含まれます。具体的には次のとおりです。
- 基本給
- 賞与
- 家賃手当
- 家族手当
- 通勤手当
- 食事手当
- 時間外労働手当(残業手当)
- 各種技術手当
- 特別勤務手当
など
また、食事や定期券など金銭以外で支給された現物給与も人件費に含まれます。勘定科目は「給与手当」を使用するのが一般的です。
役員報酬
役員に支払われる役員報酬も、人件費の一つであり、経費として計上可能です。ただし、従業員への給与とは扱いが異なるため、給与と役員報酬は分けて考えられます。
役員報酬を全額経費にするには、事前に「定款」や「株主総会での承認」を得たのち、以下3つのいずれかとして認められなければなりません。
役員報酬を経費計上するための条件 | 概要 |
---|---|
定期同額給与 | 従業員のように固定の役員報酬を毎月支給する |
事前確定届出給与 | 指定日に一括で支給する |
業績連動給与(利益連動給与) | 業績と役員報酬を連動して決まった額を支給する |
ただし、社会通念上妥当でない高額な金額を設定している場合は、経費として認められない可能性があります。
ちなみに、役員賞与は原則としては経費にできませんが、上記の3つの条件を満たすことで経費計上が可能です。勘定科目は「役員報酬」を使うことが一般的です。
参考:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁
退職金
退職金は、退職する従業員に対して企業から支払われる賃金のことです。退職するときに企業から一括で支払われる「退職一時金」と、定期的に分割して支払われる「退職年金」があります。
企業が退職一時金を支払った場合は、その支給分について人件費として経費計上が可能です。退職年金の積み立てのために外部に支出した掛金も一般には経費になります。また、役員が退職したときに支払う役員退職金も人件費扱いです。
退職金の額は企業が定める制度ごとに異なるため、正確な額を調べる際は自社の退職金制度の確認が必要になります。勘定科目は「退職金」や「退職給付引当金」などを使うのが一般的です。
福利厚生費・法定福利費
従業員のために支払う給与や賞与以外の費用は、福利厚生費(法定外福利費)として経費計上できます。具体的には次のとおりです。
- 社宅に支払う家賃
- 交通費(通勤手当として給与手当での処理も可能)
- 慰安旅行費
- 新年会や忘年会、親睦会の費用
- 冠婚葬祭や出産の祝い金
- 慶弔金
など
また「法的に加入を義務付けられた福利厚生の負担額」である法定福利費も人件費に含まれます。具体的には次のとおりです。
なお、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料などについて労使折半であり、会社負担分の勘定科目についてはそれぞれ「福利厚生費」や「法定福利費」を使うのが一般的です。
経費とは?
会計業務や帳簿付けなどでよく使われる「経費」という言葉ですが、実は意味を定義するのが難しい概念でもあります。
まずは経費と混同されやすい「費用」や「損金」、そして「必要経費」という言葉の意味について整理しました。
名前 | 概要 |
---|---|
費用 | 「会社の生産・営業活動に関係する金銭的な支出」や「固定資産の経済的価値の減少」などといった「収入や収益の反対」のこと |
損金 | 法人税法の計算をする過程において益金から差し引くことのできる金額のこと |
必要経費 | 所得税法上において使用され、法人での損金とほぼ同じ意味 |
関係性を簡単にまとめると次のようになります。
- 事業に関係する会計上の支出はそのほとんどが費用になる
- 会計上で確定した決算をもとに法人税などの税金の計算を行う(会計=税務ではない)
- 法人税を計算するときは費用のうちは、損金に算入できるものとそうでないものがある
そしてあらためて経費の意味とは、主として「収益を得るために支出した費用」を表します。これに対して、費用の中には減価償却費のようにその会計期間に支出はしていないが当期の費用として認められるものや、前期に2年分前払いした経費のうち当期の分は当期の費用となるなどがあり、必ずしも当期に支出していないものも含まれます。
したがって、費用の範囲の中にはその期に支出した費用である「経費」が含まれるというイメージです。
以下では、経費計上できる支出の具体例を見ていきます。
経費にできる支出 | 例 |
---|---|
事業の売上につながる費用 | 仕入高(期末在庫を含まない)・旅費交通費・通信費・消耗品費など |
事業にかかわる租税公課 | 固定資産税・法人事業税・利子税・登録免許税など |
上記の「事業の売上につながる費用」の枠組みの中に、人件費が存在します。
人件費を経費に計上すると節税につながる?
法人税は基本的には「課税所得 × 法人税率 - 税額控除」で計算します。
課税所得を算出する式は「益金 - 損金」です。つまり、基本的には人件費が増えるほど、課税所得額が減って法人税の節税につながります。
とはいえ、やみくもに人件費を増やすだけでは効果がありません。
例えば、ある法人の課税所得が2,000万円と仮定し、人件費を300万円と200万円とした単純な計算式で例を見てみます。(簡略化のため法人税率は23.2%のみとします。)
法人税額=(2,000万円-300万円)×23.2%=394.4万円
実際に支出する額=394.4万円+300万円=694.4万円
<人件費200万円>
法人税額=(2,000万円-200万円)×23.2%=417.6万円
実際に支出する額=417.6万円+200万円=617.6万円
結果として、人件費300万円のほうは法人税額が23.2万円安くなっています。
しかし、人件費として支出している額は100万円増えているので、結局「100万円-23.2万円」で76.8万円支出が増えているのです。
現在の費用の中から人件費として経費計上できる額がないかを探すことが、節税のコツになります。福利厚生費の計上や外注の活用など見逃しがちな節税対策もあるので、一度全体的に見直してみましょう。
ただし、架空の人件費計上や偽装計上などは、追加徴税や刑事罰の対象です。正しい節税を心がけてください。
人件費を経費にできるケース・できないケース
経費の中には「人件費として計上できるのか」と判断に迷う支出も存在します。
ここからは、人件費にできるのかできないのかの判断が難しいケースを解説します。
「これって福利厚生費?」と迷ったときはどうしたらいい?
福利厚生費(法定外福利費)は、法律の定めがある法定福利費と違い、「本当にこの費用を福利厚生費として計上してよいのか」と迷うことは多いです。
まず前提として、福利厚生費として経費計上するには次の条件に該当する必要があります。
- 賃金ではないこと
- 対象が全従業員であること(特定の人物しか使えない制度は不可)
- 社会通念上、金額が妥当であること(1ヶ月での平均は24,000~25,000円程度)
上記の条件に当てはまらない場合には全額が課税対象になるかもしれません。例えば次のものは認められない可能性が高いでしょう。
- 給与にプラスして追加で支払った報酬(給与である)
- 管理職のみに募集をかけた慰安旅行費(機会の平等性に欠ける)
- 1人あたり10万円を超えるパーティー費用(金額の妥当性を超える) など
派遣社員やアルバイトなどの正社員以外の人件費は?
自社雇用ではない派遣社員を入れた場合や、契約社員やアルバイトなどを雇った場合など、正社員以外の人件費はどのような扱いになるのでしょうか。
まず派遣社員を確保した際にかかる「派遣料」や「教育費」などは、すべて人件費です。派遣人材費や外注費、雑給として経費計上します。
契約社員やアルバイト、パートへ支払う給与についても、正社員の給与と同じく人件費扱いです。雑給として処理します。
ちなみに、もし派遣社員や契約社員などの人を常勤ではなく一時的に雇った場合は、雑費として経費計上することもあります。
人件費を削減する方法は?
人件費の削減は、無駄な支出の減少につながります。例えば、以下の手法による人件費の見直しが考えられます。
- 人件費率や労働分配率、売上高人件費率などを分析し対策案を練る
- 業務にかかる工数や人員を削減する
しかし、人件費の削減は経費削減にはつながるものの、経費計上額が増えるわけではないため節税とはまた別の話になります。既存の人件費をいかにうまく経費計上できるかが節税のポイントです。
以下では人件費を節税につなげる方法に加えて、人件費削減のコツについて解説します。
給与や報酬を見直す
現状の人事評価制度や各種手当を見直すことで、次のようなメリットが期待できます。。
- 同じ人件費でより多く業務が可能になる(生産性の向上による利益拡大が狙える)
- 人件費見直しによりマーケティングや販売活動などへの投資が可能になる
- より品質のよい製品やサービスを提供でき、顧客満足度が上がる
ただし、人件費の見直しを行う場合は従業員との適切なコミュニケーションやフォローアップが必要です。また、人件費の見直しが必ずしも売上アップにはつながらない場合もあるため、慎重に行うべきでしょう。人件費の見直しによる従業員のモチベーション低下を招き、売上に悪影響を与える可能性があるからです。
したがって、人件費の見直しが売上アップに直結するのではなく、人件費見直しの影響を受ける事項を十分考慮した「人材戦略」の一環として位置づけることが重要です。
外注を利用する
もしすぐに人手が必要だったり専門的な知見が必要だったりした場合は、業者やフリーランスへの外注を活用することが可能です。
外注を利用するメリットは次のとおりです。
- 必要なときだけ利用することによって雇用する場合と比較して固定費削減につながる
- 労務管理が不要になる
- 外注費用(課税業者)にかかった消費税を決算時に控除できる など
税制上の制度を利用する
人件費に関係する税制を利用することで、節税が可能となります。
「賃上げ促進税制」とは、その企業の全雇用者の給与等支給額が増加した分の最大40%(大企業は最大30%)について税額控除ができる制度です。
中小企業向けの賃上げ促進税制については、前年度よりも給与等を増加させた場合、次の条件を満たせばその増加額の一部を法人税から税額控除できる制度です。2024年3月31日までに開始する事業年度が対象となります。
<中小企業向け 賃上げ促進税制概要>
適用要件 | 税額控除 | |
---|---|---|
通常要件 | 給与等支給額が前年より1.5%以上増加 | 控除対象となる雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額から控除 |
上乗せ要件① | 給与等支給額が前年より2.5%以上増加 | 通常要件に加えて、控除率を15%上乗せ |
上乗せ要件② | 教育訓練費が前年より10%以上増加 | 通常要件に加えて、控除率を10%上乗せ |
人件費をきちんと理解・計上して節税しよう!
人件費は経営の中でも、もっとも重要な支出といえます。きちんと内容を理解して適切に計上できるようになれば、人件費にフォーカスした経営指標を使いこなすことによって、経営分析の重要な柱とできます。
人件費の見直しによって、利益ならび従業員の生産性やモチベーションアップにもつながるでしょう。
人件費をうまくコントロールし、現状より一つ上の経営を目指してみてください。
よくある質問
人件費とは?
企業が人を雇用するまたは雇用を継続する際に発生する費用全般のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
人件費として経費にできるケースとは?
人件費として経費計上するには一定の条件に該当する必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
人件費の削減方法は?
給与や報酬を見直す方法、外注を利用する方法、税制上の制度を利用する方法などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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