• 作成日 : 2024年8月23日

不渡手形とは?不渡りを起こすとどうなる?発生した時の仕訳まで解説

「会社の資金繰りが悪くなって不渡りを出してしまうかも」という話を聞くことがあります。しかし、「不渡り」とは具体的にどのような状態なのかを知らない方も多いのではないでしょうか。

今回は、会社が不渡りを起こすとどうなるかについて解説します。さらに、不渡手形の種類や仕訳、不渡りの回避方法、2026年の「手形・小切手廃止」の影響についても解説しますので、ぜひご覧ください。

不渡手形とは

「手形(約束手形)」とは、一定期間が経過した後で現金化できる証書のことです。手形には日付・金額・支払日が記載されており、呈示期間(ていじきかん・「支払期日とそれに続く2取引日以内」の3日間)に金融機関に持っていくと、手形に記載されている金額を受け取れます。支払期日より前は現金化ができません。

振出人(支払い側)は手形を利用することで、現時点で口座に資金がない場合でも物品等を購入できます。支払期日にまでに口座に資金を入れておけば、問題なく支払いができるためです。

しかし、支払期日までに資金を準備できなかった場合、手形を持っている側(物品等を販売し、手形で支払いを受けた側)が金融機関に行っても手形の現金化はできません。この状態が「不渡り」で、不渡りになった手形は「不渡手形」と呼ばれます。

不渡りを起こすとどうなる?

会社が不渡りを起こしても、1回目であればすぐに倒産するわけではありません。しかし「取引先」「金融機関」との関係に大きな影響を及ぼします。詳しく見ていきましょう。

取引先への影響

不渡りが出ると、取引先は本来受け取れるはずの代金を受け取れません。資金繰りにそれほど余裕がない取引先の場合、会社経営に影響が出ることもあるでしょう。

取引先からの信用を失い、取引が打ち切られるおそれもあります。新規の取引先獲得も難しくなると考えておきましょう。結果的に、事業を続けられなくなることもあります。

金融機関への影響

不渡が出ると、銀行は「不渡届」を手形交換所に提出します。手形交換所は不渡の情報を「不渡報告」に掲載し、全国の金融機関に通知します。不渡の事実が周知されると、現在取引している金融機関だけでなく、他の金融機関からも融資を受けられなくなるでしょう。なお、不渡が2回出ると実質的な倒産状態となります。

不渡りの種類

不渡りには「0号不渡り」「1号不渡り」「2号不渡り」があります。それぞれどのようなものか紹介します。

0号不渡り

0号不渡りは、以下のような手形の記載ミスで生じる不渡りです。

  • 振出人の署名や押印がない
  • 支払期日の未到来
  • 呈示期間の記載がない
  • 裏書に不備がある
  • 支払地の記載がない

など

0号不渡りは資金繰りが苦しくなって出た不渡りではないため、会社の信用には影響しません。また、不渡届の作成も行われないため、不渡りとして扱われません。

1号不渡り

一般的に不渡りと呼ばれているものが1号不渡りです。当座預金に残高がなく決済ができない、すでに銀行口座を解約してしまっていた、などの原因で発生します。不渡届が作成されるため、取引先や金融機関からの信用を失うでしょう。

なお、半年以内に2回不渡りを出すと銀行取引が停止されます。

2号不渡り

0号不渡りや1号不渡りに該当しないのが2号不渡りです。2号不渡りは、以下のような理由で発生します。

  • 手形の偽造・変造
  • 手形の盗難
  • 契約不履行(手形を振り出したが商品が納入されないなど)
  • 詐欺に遭って振り出した手形

など

2号不渡りでは不渡り届が作成されますが、振出側は異議申し立てができ、振出人の信用に影響はありません。ただし、異議申し立てをしない場合、1号不渡りと同じ扱いになるため注意が必要です。

不渡手形の仕訳

以下のケースにおける不渡手形の仕訳を紹介します。

  • 不渡りが発生した時
  • 不渡手形を回収した時
  • 不渡手形を回収できなかった時

不渡りが発生した時

不渡りが発生した場合の仕訳は、以下のとおりです。

例)A社が振り出し、自社が保有する約束手形10万円が不渡りとなった。その際、A社に対し償還請求を行い、請求費用として1,000円を支払った。

借方貸方
不渡手形101,000受取手形100,000
現金1,000

仕訳の際は、償還請求にかかった費用も不渡手形の費用に含めます。

不渡手形を回収した時

不渡手形を回収した場合の仕訳は、以下のとおりです。

例)A社が振り出した約束手形10万円が不渡りとなっていたが、後日回収できた。その際、延滞利息として100円を現金で受け取った。

借方貸方
現金100,100不渡手形100,000
受取利息100

遅延分の利息を受け取った場合は、不渡手形+受取利息分の金額が現金として増加したことがわかるように仕訳をします。

不渡手形を回収できなかった時

不渡手形を回収できなかった場合は、以下のように仕訳をします。

例)A社が振り出した約束手形10万円が不渡りとなり、自社は債権を放棄した。なお、貸倒引当金として1万円計上していた。

借方貸方
貸倒損失90,000不渡手形100,000
貸倒引当金10,000

貸倒引当金は、手形を回収できない「貸倒」に備えて設定される勘定科目です。資本金1億円以下の中小企業や青色申告個人事業主であれば、損金算入ができます。

不渡りを回避する方法

不渡りを出すと、会社の信用が大きく損なわれます。手形を振り出された側も、資金が手に入らないと資金繰りに窮する可能性があります。そのため、不渡を出さないことが非常に重要です。不渡りの回避方法を3つ紹介しますので、把握しておきましょう。

売掛金の資金化(ファクタリング)

ファクタリングとは、売掛債権を売却して現金化することです。手形を受け取った側にとっては、本来の期日よりも前に資金が手に入るというメリットがあります。ファクタリングは借入や融資ではないため、会社の負債が増えることもありません。手形を受け取った側が、自社の資金繰りの不安を解消したいという場合に利用を検討するとよいでしょう。

ただし、ファクタリングを利用する際は、売掛債権の金額のすべてが手に入るわけではなく、割り引いて支払われます。また、ファクタリング会社に手数料を支払う必要もあります。なお、取引先との契約で「債権の譲渡は不可」などの取り決めがある場合はファクタリングを利用できないので注意しましょう。

手形のジャンプ

手形のジャンプとは、手形の振出側が受取側に対して、支払期日を延長してもらうことです。振出側と受取側の交渉となるため、期日までの支払いが難しいことが金融機関に知られることはありません。

交渉が成立したら、以下のいずれか方法で手形の修正を行います。

  • 渡した手形の支払期日を書き直す
  • 新しい期日を記載した新しい手形を振り出す

受取側にとっては入金が遅れることになるため、振出側は受取側が納得できる理由を説明する必要があります。また、必ず承諾してもらえるとは限りません。

過振り

過振りとは、当座預金の残高を超える金額の手形を振り出している場合、担保を預け、銀行に一時的に立て替えてもらうことです。

一時的とはいえ、不足分を銀行に支払ってもらうことになるため、非常に信用度が高い会社でないと利用できません。また、過振りを依頼する時点で残高不足であることが銀行に伝わるため、信用度が低下する可能性もあります。

手形や小切手は2026年までに廃止される?

手形や不渡手形について解説してきましたが、紙で発行される手形および小切手は2026年に廃止される予定です。廃止の理由と廃止後の対策を解説します。

廃止の理由

紙の手形や小切手が廃止される理由は以下のとおりです。

■入金までの期間を短縮したい

一般的に手形を振り出すと、現金化までに数ヵ月かかります。資金に余裕がない中小企業の場合、入金日までに資金繰りが悪化するおそれがあります。

■コスト削減

手形を振り出す際には印紙代、郵送料などのコストがかかります。手形を廃止すると、これらのコストを削減できます。

■リスクを減らす

紙の手形・小切手には、保管中の紛失・盗難などのリスクがあります。また、災害で破損することもあります。

廃止に向けて企業が行うべきこと

手形の廃止に向けて、現在手形を利用している会社が今からできることを3つ紹介します。

■現金決済を増やす

今のうちに、少しずつ現金決済の割合を増やしておきましょう。ただし、徐々に移行することになるので「現金決済分」「手形決済分」の両方の資金を準備する必要があります。

■手形の早期決済

銀行から資金を借り入れ、現在振り出している手形を早めに決済する方法です。これによって、手元に資金がなくても決済ができます。

ただし、銀行から借り入れられる信用力があること、借入金だけでなく利息分も返済できる余裕があることが条件です。

■資金を積み立てる

経営資金とは別に資金を積み立て、積立額が手形の残高を超えた時点で手形の決済を行います。資金に余裕がある会社におすすめの方法です。

手形・小切手の代替になるものとは?

手形・小切手の廃止後は、決済に以下の手段を使うことになります。

■振込

取引後、相手方の銀行口座に現金を振り込む方法です。事前に「月末締め翌月〇日払い」などの条件を取り決める必要があります。

■電子記録債権の利用

電子記録債権とは、債権の発生や譲渡を電子データでやり取りし、記録するものです。従来、紙の手形・小切手で行っていたことがペーパーレスで行えるようになります。

電子記録債権では紙の書類が発行されないため、手形の紛失・盗難などの心配がありません。また、期日が到来すると自動で入金されます。手形に関する作業を効率化したいという会社にはおすすめです。

不渡手形を出さない経営を!

手形を利用することには、現時点で当座預金に残高がなくても他の会社と取引ができるというメリットがあります。しかし、支払期日までに当座預金を準備できない場合は不渡りとなり、取引先や金融機関からの信用を失うため注意が必要です。不渡りを出さない経営を心がけなければなりません。

なお、紙の手形や小切手は2026年に廃止が予定されており、以降は現金振込や電子記録債権等で決済することになります。今のうちに、手形以外の決済方法について理解を深めておきましょう。


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