• 作成日 : 2025年2月5日

建設仮勘定とは?対象の有形固定資産や仕訳、減価償却についてわかりやすく解説

建設仮勘定は、工事中の有形固定資産にかかる支出を一時的に計上する勘定科目です。対象の有形固定資産が完成して事業の用に供されるまで、取得原価を積み上げていく会計処理を指します。

本記事では、建設仮勘定の対象となる有形固定資産の種類や仕訳、といった会計処理の注意点をわかりやすく解説します。

建設仮勘定とは

建設仮勘定とは、企業が固定資産を新規に建設中または製作中の段階において、その取得原価を一時的に計上するために用いられる勘定科目です。完成した段階で建物や構築物、機械装置などの有形固定資産として振り替えられ、減価償却が開始される仕組みになっています。

工事中の資産はまだ事業の用に供されておらず、事業の収益獲得に直接結びつく状況にないため、会計上も「本来の固定資産」ではなく「仮の計上」として扱うものです。このように工事中の資産を別立てで管理しておくことで、資産価額の正確性や工事費用の明確化を図るという意義もあります。

有形固定資産の費用処理に使用する勘定科目

工場の新設や増築を行う場合、その建設費用(材料費や人件費、外注費など)は完成するまで「建設仮勘定」に振り替えて管理します。これは企業会計原則法人税法においても、固定資産を取得原価で計上し、使用を開始してから減価償却を行うという考え方が示されていることに基づく処理です。

実際に使用を開始していない段階で、コストを費用(減価償却費)として計上してしまうと企業の損益計算が不正確になるため、完成前の支出は「建設仮勘定」に積み上げていくことが重要です。

建設仮勘定の対象となる有形固定資

建設仮勘定は、有形固定資産として最終的に計上される見込みがある資産に対して用いられます。建設仮勘定に計上できる有形固定資産について、以下の表にまとめました。

有形固定資産の種類具体例
建物(附属設備含む)工場、自社ビル、倉庫などの建物、それに付属する空調設備や照明設備など
構築物看板、外壁工事、防壁など
機械および装置(附属設備含む)生産設備、搬送設備など
船舶(水上運搬具含む)自社使用の客船、貨物船など
車両・他陸上運搬具鉄道車両、自動車など
工具・器具備品耐用年数1年以上のもの
土地経営上所有する土地

なお、建設仮勘定は自社で使用する有形固定資産が対象であり、販売目的で建設するものは含まれません。また、土地は手付金を支払った際に建設仮勘定を使用します。

建設仮勘定と間違えやすい勘定科⽬

建設仮勘定は、工事中の有形固定資産に関わる支出を一時的に計上する科目ですが、類似の性質を持つほかの勘定科目と混同されることがあります。

以下では、建設仮勘定と間違えやすい代表的な勘定科目について、それぞれの特徴を解説します。

前払金

前払金は流動資産に分類され、サービス提供や物品の受領に先立って支払った額を処理する一時的な科目です。商品の仕入れや定期的なサービス契約などで、購入代金を先に支払った場合などに用いられます。

一方、建物や機械設備などの有形固定資産に関する手付金や契約金は、支払い時点から「建設仮勘定」として処理します。これは、支払いの目的が明確に有形固定資産の取得に紐づいているためです。

未成工事支出金

未成工事支出金は、工事を受注する建設業者側が、業務にかかる原価を計上するための科目です。

完成前の工事に対して発生している原材料費、労務費、外注費などがここに集計されます。これらはあくまで「工事を完成させ、注文主に引き渡すまでの費用」であり、受注者である工事業者自身が最終的に保有する資産ではありません。

一方、建設仮勘定は「自社が所有し、完成後も引き続き使う資産」にかかった費用の一時勘定という点が異なります。なお、受注者側が工事を完成させて引き渡した後は、通常「売上高」と「工事原価」として費用計上がなされるため、未成工事支出金から振り替えられる流れです。建設仮勘定と未成工事支出金は似ていますが、目的や立場が異なる勘定科目といえます。

ソフトウェア仮勘定

ソフトウェア仮勘定とは、自社利用目的で無形固定資産であるソフトウェアの開発や取得にかかった費用を完成まで一時的に計上する科目です。

ソフトウェアは形のある物理的な資産ではなく、無形資産に分類されるため、その途中経過を建設仮勘定ではなく「ソフトウェア仮勘定」に積み上げます。ソフトウェアが完成した段階で「ソフトウェア」として会計上認識し、そこから減価償却を開始します。

また、有形固定資産に該当するかどうかで、勘定科目が分かれる点を意識することが大切です。もし、開発費用の途中経過を誤って建設仮勘定に含めてしまうと、固定資産台帳上の管理や減価償却計算が錯綜するおそれがあるため注意しましょう。

仮払金

仮払金は、具体的な用途や金額が確定していない場合や、社員が出張旅費などの概算を前もって受け取っておく場合などに使用される勘定科目です。

仮払金の主な特徴として、あとから精算処理によって、実費の支払い先や金額が確定する性質があります。これは貸借対照表上、流動資産に分類される一時的な勘定科目です。

仮払金はあくまで「支出の内容がはっきり定まっておらず、後日に正しい勘定科目に組み替える」役割を持ちます。そのため、決算までには内容を確定させ、適切な勘定科目への振替処理を完了させることが望ましいです。

建設仮勘定の仕訳

建設仮勘定を使った仕訳は、工事の進捗段階や支払い形態によってさまざまなパターンが発生します。最終的には建設が完了して使用を開始するタイミングで固定資産の科目(建物、構築物など)に振り替え、そこから減価償却が始まる流れです。

また、工事が途中で中止された場合や契約形態に変更が生じた場合にも、適切な仕訳処理が必要になります。以下では、それぞれの仕訳例を紹介します。

手付金(建設費用を支払った)場合の仕訳

手付金をはじめ、完成前の支出はすべて建設仮勘定で処理します。手付金や前金として500万円を支払った場合は建設仮勘定として仕訳します。

借方貸方摘要
建設仮勘定5,000,000円当座預金5,000,000円建設工事手付金の支払

建設途中で追加支払いをした場合の仕訳

建設期間中に発生する追加費用や中間金の支払いについても、その都度建設仮勘定を使用します。たとえば中間金を300万円支払ったときは、以下のように仕訳します。

借方貸方摘要
建設仮勘定3,000,000円当座預金3,000,000円工事進行に伴う中間金の支払

年度をまたいで建設仮勘定に計上した場合の仕訳

建築工事は複数年にわたることも少なくありません。年度をまたいだ場合でも、完成して引き渡しを受けるまでは建設仮勘定として計上を継続します。そのため、手付金、中間金の支払いはそれぞれの項目で紹介した仕訳例のとおりに処理します。

完成引き渡しの際の仕訳

建物が完成し引き渡しを受けた時点で、建設仮勘定から該当する固定資産勘定へ振り替えます。完成時に残金500万円を支払った場合は、以下のように処理します。

借方貸方摘要
建物13,000,000円建設仮勘定8,000,000円建物完成による建設仮勘定振替及び残金支払
当座預金5,000,000円

完成前にすべての費用を支払い済みであり、追加の請求がない場合は以下のようになります。

借方貸方摘要
建物13,000,000円建設仮勘定13,000,000円建物完成による建設仮勘定振替

建設中止時の仕訳

建設が中止になった場合は、建設仮勘定を特別損失として処理する.

工事が中止になった場合、中止した工事に関連する支出が将来的に有形固定資産としての便益を生まないと判断されるときは、損失として処理します。1,300万円の建設仮勘定をしていた場合、仕訳は以下のとおりです。

借方貸方摘要
特別損失13,000,000円建設仮勘定13,000,000円工事中止による特別損失

建設仮勘定を会計処理するときの注意点

建設仮勘定を会計処理する際には、以下の点に注意しましょう。

  • 建設仮勘定の固定資産税はかからない
  • 建設仮勘定は減価償却の対象外
  • 建設仮勘定が減損の対象になる場合もある

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

建設仮勘定の固定資産税はかからない

固定資産税は、地方税法に基づき、土地や家屋、償却資産などに課される地方税です。家屋や償却資産に該当する建物や設備であっても、「完成」して初めて課税対象になるという解釈が一般的です。

したがって、建設仮勘定として計上されている段階の資産には、まだ物理的にも法的にも「固定資産としての体をなしていない」とみなされ、固定資産税は課されません。実際に使用できる状態となった時点で、各自治体の税務担当部署が評価を行い、固定資産税台帳に記載された翌年度以降に課税対象になります。

建設仮勘定は減価償却の対象外

減価償却は、有形固定資産が事業の用に供され、時間の経過や使用によって価値が減少していくことを費用計上する仕組みです。しかし、建設仮勘定で管理されている工事中の支出は、まだ実質的に使用されていないため減価償却の対象とはなりません。

完成し、本来の固定資産勘定に振り替えた日(または使用を開始した日)から減価償却費の計上が始まります。もし工事途中で誤って減価償却を開始してしまうと、法人税法上の耐用年数による償却限度額の算定にも影響が出る可能性があり、税務上のミスとして指摘されるおそれがあるため注意する必要があります。

建設仮勘定が減損の対象になる場合もある

企業会計基準では、将来の収益を生み出す能力が著しく低下した固定資産について「減損会計」の適用を求めるルールが定められています。

原則として、建設仮勘定に計上している支出は使用開始前の段階であるため、減価償却対象ではありません。ただし、工事途中でも客観的に見て投資の回収が見込めない事態に陥ったと判断されれば、減損処理を検討する必要があります。

工事の中止とは別に、投資判断をやり直す段階で減損が生じるケースもあるため、定期的な進捗や採算の見直しが大切です。

完成後に販売する場合は未成工事支出金として流動資産に計上する

自社が使用する目的ではなく、外部への販売を目的として建物や設備を建設する場合は、建設仮勘定ではなく「未成工事支出金」での処理が適切です。自社開発の不動産物件などを販売する「不動産会社」の立場でも、完成後に売却することが前提であれば未成工事支出金として扱います。

これは、完成後に自社の固定資産として利用せず、販売用の在庫のような性質を持つためです。したがって、仕訳や決算上の表示も、建設仮勘定ではなく流動資産の区分に含める必要があります。ここを混同すると、税務や会計上の処理が複雑になるため注意が必要です。

建設仮勘定は減価償却や固定資産税の対象にならない

建設仮勘定は、企業が有形固定資産を建設中の段階で一時的に取得原価を集計しておくための勘定科目です。工事中の支出は未だ収益を生む状態ではないため、減価償却の対象外で、固定資産税も課税されません。ただし、工事途中で工事が中止されたり、将来的な収益可能性が乏しくなって減損リスクが高まったりした場合には、別途損失計上や減損処理の検討が必要です。

建設仮勘定の本質を理解し、工事の進捗や最終的な用途を考慮した勘定科目の使い分けを徹底することが大切です。


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