• 作成日 : 2024年11月5日

スキャナ保存の事務処理規程は不要? 記載すべき項目や作成時のポイントも紹介

電子帳簿保存法では事務処理規程の整備が求められる場合があり「結局、スキャナ保存の事務処理規程を作成する必要はあるのか」と疑問に感じるかもしれません。また、スキャナ保存の事務処理規程を作ろうとしても、何を記載すればよいのかわからないと悩んでいる担当者の方もいらっしゃるでしょう。

本記事では、スキャナ保存に事務処理規程は本当に必要なのか、電子帳簿保存法との関係や、事務処理規程の作成ポイントなどを解説します。

スキャナ保存に事務処理規程は不要?

電子帳簿保存法にてスキャナ保存を行う際、事務処理規程の整備は基本的に不要です。2021年の電子帳簿保存法改正により、2022年1月1日以降にスキャナ保存を行う場合、事務処理規程の作成が必須ではなくなったためです​​。

一方で、以下のケースに該当する場合、スキャナ保存の事務処理規程を作成する必要があります。

  1. 書類の受領からスキャナ保存までの入力期間を「最長2ヶ月と概ね7営業日以内」に延長したい場合
  2. 一般書類について入力期間の制限をなくしたい場合

スキャナ保存における事務処理規程の作成が求められるケースは上記通り2種類あります。しかし、今回は『1.書類の受領からスキャナ保存までの入力期間を「最長2ヶ月と概ね7営業日以内」に延長したい場合』に着目して、スキャナ保存における事務処理規程を紹介します。

スキャナ保存における事務処理規程の記載項目

続いてスキャナ保存における事務処理規程を作成する際、記載すべき項目についてみていきましょう。ここでは、国税庁で公表されている「スキャナによる電子化保存規程」のサンプルを参考に、記載項目について紹介します。

1.目的

事務処理規程における「目的」は、スキャナ保存に関する作業の適正かつ安全な運用を実現するために、企業が遵守すべき基本方針を示すものです。

具体的には、どのようなシステムを用いて、何を目的にスキャナ保存を行うのかを記します。国税庁が公開しているサンプルでは以下のように記載されています。

(目的)

第1条 この規程は、○○における紙による国税関係書類について、××社製●●システム(以下「本システム」という。)を活用して、スキャナによる電子化を安全かつ合理的に図るための事項を定め、適正に利用・保存することを目的とする。

引用:スキャナ保存による電子化保存規程|国税庁

2.定義

事務処理規程における「定義」では、これから書類の中で用いる用語の意味や定義を明確にします。事務処理規程を読んだ関係者が、内容を誤解しないようにする目的があります。以下は用語の定義の例です。

  • 電子化文書:紙の書類をスキャナで読み取り、電子データとして保存された文書を指す
  • 管理責任者:スキャナ保存の全体を監督する責任者であり、システムの適正な運用を保証する役割をもつ など

3.運用体制

「運用体制」では、スキャナ保存のプロセスを適切に管理し、効率的に実行するための組織的な役割分担や責任を明確にします。電子帳簿保存法のガイドラインによると、事務処理規程で責任者を明確にするのが望ましいと言及されています。そのため「運用体制」の項目にて、各業務の責任者やその役割を明確にしましょう。

  • 管理責任者 〇〇部△△課 課長 ✕✕✕✕:管理責任者は、スキャナ保存の全体的な監督を担う。電子化文書が法令や社内規程に従って適切に保存されるよう、作業担当者を管理するなど

4.利用者の責務

「利用者の責務」は、スキャナ保存システムを使用するすべての担当者が遵守すべき基本ルールを定めたものです。業務上のルールを明確にすることで、実務でのミスや不正の発生を抑えられるでしょう。

  • 利用者は自身のIDやパスワードを適切に管理し、他者に譲渡や共有しない責務を負う
  • 利用者は自身に与えられたアクセス権限を超える操作を行わない
  • スキャナ保存システムの利用は、業務目的に限定されており、個人的な目的や業務以外での利用を禁止する など

5.対象書類

「対象書類」では、スキャナ保存の対象となる書類を指し、その範囲や種類を定めます。実際の業務ではさまざまな書類を扱います。「対象書類」にて、保存すべき書類を明確にしておくことで、何をスキャナ保存すべきなのかが誰でも判断できるようになるでしょう。

具体的には以下のような書類が「対象書類」としてあげられます。

納品書請求書領収書見積書、注文書、検収書など

また、列挙した書類を総称する呼称がある場合、呼称の定義についても言及しましょう。たとえば、国税庁のサンプルでは「見積書(控)、注文書をあわせて以下『一般書類』と呼ぶ」と記載されています。

6.入力時期

「入力時期」では、スキャナ保存を行う対象書類の電子化するタイミングを定めます。普段の業務では定めた入力期間内に、スキャナ保存を完了させることが求められます。また、定めるタイミングや入力期間に関しては、法令に従った適切な期間内におさめましょう。

  • 納品書:毎月末までに受領したものを翌々月7日までにスキャナで電子化し、保存を完了させる
  • 見積書(控):見積書については、1月から6月までに発行したものは8月末までに、7月から12月までに発行したものは翌年2月末までに電子化させる など

7.機能要件

「機能要件」は、スキャナ保存システムが法的要件を満たし、適切に文書を管理・保存するために必要な機能を定めます。

この項目が不足していると、法令に適合していないままシステムの運用が行われる恐れがあり、結果として保存データが法的に認められないリスクが生まれます。そのため、電子帳簿保存法の要件を満たしたシステムの機能要件を記し、法令に適合したスキャナ保存が実施できる体制を整えましょう。

  • データフォーマット:スキャナで電子化された文書は、BMP、TIFF、PDF、またはJPEGの形式で保存する
  • 真実性を確保する機能:電子化された文書の改ざんや虚偽入力を防ぐために、スキャナ保存システムにはタイムスタンプの付与を行う など

8.機器の管理と運用

「機器の管理と運用」では、スキャナ保存システムを使用する機器の適切な取り扱いや、電子化された文書を安全に保存するための運用ルールを定めます。

電子帳簿保存法に対応するには、文書を電子化する機器が法的要件を満たす性能をもち、なおかつ適切に保守・管理される必要があります​​。「機器の管理と運用」にて、スキャナ保存で使用する機器はどのような設定にすべきなのか、機器が故障した時に備えてどのような管理をしていけばよいのかを明確にしましょう。

  • 機器の保守・管理:スキャナ保存に使用する機器は、記録媒体の二重化や定期的なバックアップの取得などで保守・管理を行う
  • 入力装置の設定:解像度は200dpi以上、階調は24ビットカラー(256階調)で設定する

9.スキャニングの手順等

「スキャニングの手順等」では、紙の書類を電子化する際の具体的な作業プロセスや注意事項を定めます。事務処理規程をみるだけで、誰でも適切な手順でスキャナ保存を実施できるようにしましょう。

  • スキャニング作業の実施:整理された書類をスキャナで読み取り、電子化する。スキャンされた画像は1ファイルにまとめ、内容が正確に保存されているか、裏面のスキャン漏れがないか確認する
  • データの確認と保存:スキャニングが完了したら、画像データとCSVファイルをサーバに転送し、管理責任者に業務を引き継ぐ。業務責任者はデータの内容を確認し、タイムスタンプを付与する など

10.原本の廃棄と電子化文書の消去等

「原本の廃棄と電子化文書の消去等」では、スキャナ保存が完了した後に、紙の原本の適切な処理や、保存期間が終了した電子データの消去に関する手続きを定めます。

電子帳簿保存法において、保存しておくべき原本や電子化文書を誤って破棄してしまうと、法令違反と見なされ罰則が科せられる恐れもあります。そのため「原本の廃棄と電子化文書の消去等」にて、各文書の取り扱い方法を明確にし、法令順守の体制を構築しましょう。

  • 原本の廃棄:スキャニングが完了した紙の書類(原本)は、管理責任者の確認が終わった後に廃棄される。作業担当者は、スキャニング後に管理責任者の確認まで、原本を一時的に保管する
  • 電子化文書の消去:作業担当者は、保存期間が満了された電子化文書の一覧を作成し、管理責任者に通知する。管理責任者は、一覧を参照し、システム内の該当データを消去する など

スキャナ保存に関する事務処理規程作成時のポイント

スキャナ保存における事務処理規程を作成する際には、記載項目以外にも把握しておくべきポイントがあります。おさえておくべきポイントを理解し、より適切な事務処理規程を作成しましょう。

国税庁が公表しているサンプルを参照する

スキャナ保存における事務処理規程を作成する際は、国税庁が公表しているサンプルを参照しましょう。

国税庁は「スキャナによる電子化保存規程」のサンプルを公開しており、これを参考にすることで企業は電子帳簿保存法の要件を満たす事務処理規程をスムーズに作成できます。このサンプルでは電子化保存の目的や定義、運用体制、利用者の責務、スキャニング手順、原本の廃棄など、具体的な項目が網羅されています​​。

そのため、はじめて事務処理規程を作成する企業でも、基本的な構造を理解しながら、必要に応じて自社に合ったカスタマイズが可能です。

自社に適した項目に変更または追加する

実際に事務処理規程を作成する際は、国税庁が提供しているサンプルの内容をもとにしつつ、自社に適した項目に変更または追加していきましょう。

同じ「スキャナ保存」という業務でも、企業ごとに業務内容や処理手順、満たすべき要件などは異なります。たとえば、スキャナ保存業務を外部に委託するという場合、責任範囲や連絡手段などを規程に盛り込む必要があるでしょう。

標準の規程に加えて、自社の実情に即した項目をカスタマイズしておくと、業務の効率化や法令遵守がより確実に行われます。

スキャナ保存において事務処理規程を定めるメリット

事務処理規程の作成は、多くのチェック項目を満たす必要があり、手間がかかります。また、特定のケースに該当しないのであれば、作成が強制されるわけでもありません。最後に、スキャナ保存の事務処理規程を定めるメリットについてみていきましょう。

特定の期間にまとめてスキャナ保存ができるようになる

事務処理規程によってスキャナ保存を行うタイミングを定めておくと、スキャナ保存業務の効率を向上させることが可能です。たとえば、受領した書類を日々個別にスキャンするのではなく、月末や特定の期間にまとめて処理することで、通常業務の負担を軽減しつつ、効率的にデジタル保存が行えるでしょう。

これにより、業務が集中する期間や繁忙期でも、余裕をもって電子帳簿保存法に沿ったスキャナ保存対応ができる社内体制を整えられます。

責任者と保存対象が明確になる

スキャナ保存において事務処理規程を設けることで、責任者と保存対象が明確化され、業務の効率化とトラブルの回避につながります。具体的には、事務処理規程ではスキャニング業務を担当する作業担当者や、保存するべき書類の範囲、保存期間を満了したデータを削除する責任者などが明確に定められます。

各担当者は自分の業務内容や業務範囲、役割を把握できるため、業務の混乱を防ぎやすくなるでしょう。

業務手順が定まりノウハウを残せる

スキャナ保存に関する事務処理規程を整備しておくと、業務手順が標準化され、長期的なノウハウの蓄積が可能になります。事務処理規程には、スキャニングの手順や保存すべき書類の取り扱い方法が明確に記載されるため、誰が担当しても同じ品質で業務を遂行できる環境が整います。

これにより、新しく担当者が変わった場合でも、業務の引き継ぎがスムーズに行えるほか、過去の手順に依存せずに業務を進められるでしょう。

必要に応じてスキャナ保存の事務処理規程を作成しよう

基本的に、スキャナ保存における事務処理規程を作成する必要はありません。しかし、特定のケースに該当する場合には、スキャナ保存の事務処理規程が求められます。

また、スキャナ保存の責任者や対象書類、業務手順が明確になり、効率的な運用が可能となるといったメリットもあります。

実際に事務処理規程を作成する際には、国税庁のサンプルを参考にしつつ、自社の業務に合った内容にカスタマイズを行い、自社の運用に即した規程を作成しましょう。

事務処理規程の作成によって、スキャナ保存業務がスムーズに進み、将来的なトラブルの防止にもつながります。スキャナ保存に対応している企業は、必要に応じて事務処理規程を整備し、デジタル化による業務効率化を進めていきましょう。


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