- 更新日 : 2024年8月13日
滞留債権とは?リスクや回収方法、税務処理、予防策を解説
滞留債権とは、期日に取引先から入金されない債権です。長期間入金されない場合は、長期滞留債権と呼ばれます。
不良債権との違いは、回収見込みの有無です。また、催促などの対応を試みても滞留債権が解消されない場合は、貸倒引当金を計上することがあります。
本記事では、滞留債権が生じる原因や回収方法について解説します。
目次
滞留債権とは?
滞留債権(読み方:たいりゅうさいけん)とは、期日を迎えても取引先からの入金がない債権のことです。滞留債権のうち、とくに未入金の状況が長期間にわたる(期日から6か月もしくは1年以上)ものは長期滞留債権と呼ばれます。
たとえば、A社があるサービスをB社に提供し、4月30日を代金の回収期日と設定するケースを考えてみましょう。4月30日中に代金を回収できなければ、5月1日以降A社のB社に対する債権は「滞留債権」になります。
滞留債権と混同しやすい言葉が、「不良債権(読み方:ふりょうさいけん)」です。ここから、それぞれの違いを解説します。
滞留債権と不良債権の違い
不良債権とは、取引先の倒産などの理由で返済されなかったり、返済が遅れたりする債権のことです。滞留債権と不良債権の違いとして、回収可能性が挙げられます。
滞留債権の場合、さまざまな事情で回収が遅れているもののため、問題が解消されれば、今後回収できる可能性があるでしょう。一方、不良債権は基本的に今後も回収が困難とされています。
滞留債権が生じる原因
滞留債権が生じるのは、取引先が原因の場合と自社が原因の場合があります。それぞれ確認していきましょう。
取引先が原因の場合
取引先の経営が悪化している場合に、滞留債権が生じることがあります。取引先が経営難で資金繰りが悪化した状態にあれば、代金回収は困難です。深刻な経営難に陥っている場合は、不良債権になる可能性もあります。
また、取引先が取引内容に対して不満を感じていることも、滞留債権が生じる原因のひとつです。たとえば、サービスの内容が契約と異なると判断した取引先が、期日を迎えても支払いを拒むことがあります。
さらに、取引先の担当者のミスも滞留債権が生じる原因のひとつです。たとえば、取引先の担当者が期日に代金を払い込んだと思い込み、滞留債権になる可能性があります。請求書を取引先の担当者が紛失し、支払いが漏れるケースもあるでしょう。
自社が原因の場合
自社の原因により滞留債権が生じる具体例は、担当者が請求書の発行や送付を失念しているケースです。請求書を受け取っていないと金額の把握が困難なため、取引先は代金を支払わないでしょう。
また、請求書の記載誤りがあるケースも、自社が原因で滞留債権が生じる具体例です。担当者が期日を誤って記載していると、自社で想定している日に入金されない可能性があります。
さらに、担当者による回収金の消し込み不備も滞留債権が生じる原因です。(入金)消し込みとは、取引先からの入金を確認次第、債権の勘定科目の残高を消去していく作業を指します。取引先からの入金があったにもかかわらず、担当者が消し込み作業を漏らしていると、期日以降に滞留債権として扱われてしまうでしょう。
滞留債権が引き起こすリスク
滞留債権が引き起こすリスクのひとつとして、「黒字倒産」が挙げられます。黒字倒産とは、帳簿上利益を出しているにもかかわらず、滞留債権が生じて債権の回収が遅れたことにより、各種支払いに必要な現金が不足して倒産することです。
また、自社の信用が低下することもリスクとして挙げられます。債権に占める滞留債権の割合が大きいと、取引先や取引金融機関に「回収が滞り、資金不足に陥るのでは」と疑念をもたれかねません。その結果、銀行に融資を申し込んでも審査がとおら可能性はあります。
なお、滞留債権が生じた場合は、消滅時効制度のことも意識しなければなりません。消滅時効とは、債権者・債務者の間で取引などがなくなってから一定期間が過ぎた場合に、債権自体を消滅させる制度を指します。
滞留債権の消滅を防ぐためには、定期的に催告書を発送するなどして回収を試みる姿勢を示すことが必要です。
滞留債権を回収する方法
滞留債権を回収する方法(流れ)は、主に以下のとおりです。
- 取引先へ連絡する
- 督促状や催告書を送付する
- 法的手段を検討する
- 債権回収代行業者を利用する
各方法について、解説します。
取引先へ連絡する
滞留債権が生じたら、取引先へ連絡することが基本です。
すぐに催告書を発送したり、法的手段をとる構えを見せたりすると、今後の取引先との関係に支障をきたす可能性があります。何か特別な理由があって取引先の支払いが遅れている可能性もあるため、まずは話し合い・ヒアリングの場を設けることが大切です。
なお、自社の事務ミスで滞留債権が生じている可能性もあります。相手に失礼な印象を与えないためにも、事前に請求書の発送漏れ、入金チェック漏れなどがないか確認しましょう。
督促状や催告書を送付する
滞留債権発生後に取引先へ連絡したにもかかわらず入金にならない場合、そもそも取引先と連絡がとれない場合は、督促状や催告書を送付します。
督促状は滞納している代金を求めるために発送する文書で、催告書は督促状を何度か送付しても反応がない場合に送る文書です。
催告書は期限までに入金がなければ法的措置をとることを伝える大切な書類のため、内容証明郵便で送ります。催告書のテンプレートについては、以下を参考にしてください。
法的手段を検討する
内容証明で催告書を発送したにもかかわらず、相手側に支払いに応じる気配がなければ、法的手段を検討します。
法的手段の具体例は、支払督促です。支払督促とは、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てて、金銭の支払いなどを求める方法を指します。
また、債権の額が少額の場合、少額訴訟も選択肢のひとつです。少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いに限り、1回の期日で審理を終えて判決を受けることを原則とした特別な訴訟手続きを指します。
なお、相手が話し合いに応じる姿勢を見せている場合は、民事調停などの方法も有効です。
債権回収代行業者を利用する
取引先との交渉がうまくいかない場合、債権回収代行業者(債権回収会社)を利用する方法もあります。債権回収代行業者とは、債権者から滞留債権を買い取り、直接債務者からお金を回収する業者のことです。
債権回収代行業者を利用すれば、債務者(取引先)と直接交渉する手間を省けます。ただし、滞留債権額よりも低い額で買い取られる点に注意が必要です。
それでも回収できない場合の対応法
さまざまな方法を講じても滞留債権を回収できない場合は、貸倒損失として計上します。貸倒損失とは、取引先の倒産などにより代金を回収できず損失となることです。
貸倒損失として計上すれば、税負担を軽減できます。なぜなら、「損失」が発生することで課税所得の圧縮につながるためです。
ただし、税負担の軽減のために貸倒損失を計上するためには、税務上の要件(金銭債権が切り捨てられた場合・金銭債権の全額が回収不能となった場合・一定期間取引停止後弁済がない場合など)を満たさなければなりません。要件は厳しいため、節税にならないこともある点に注意しましょう。
【参考】No.5320 貸倒損失として処理できる場合|国税庁
滞留債権を発生させないための対策
回収には手間・時間・費用がかかるうえ不良債権になる可能性もあるため、まずは滞留債権を発生させない対策が必要です。主な対策として、以下が挙げられます。
各対策について、確認していきましょう。
定期的に回収状況を確認する
滞留債権を発生させないためには、定期的に回収状況を確認することが大切です。
取引先の単純なミスにより、滞留債権が発生することもあります。そこで、こまめに代金の入金があるかを確認することで、滞留債権の発生を防げます。
なお、業務の属人化や担当者の多忙などを理由に確認が疎かになることもあるため、極力複数人でチェックしましょう。
与信管理を徹底する
与信管理を徹底することも、滞留債権の発生を防ぐためには欠かせません。
与信管理とは、与信審査(取引開始にあたって信用調査などを実施すること)や、取引先の状況確認などを通じて、代金が回収不能になるリスクを抑えることです。
与信管理を徹底することにより、代金回収できない可能性がある相手との取引を避けられます。
与信限度額を検討する
滞留債権の額を抑えるためには、与信限度額を検討することが必要です。
与信限度額とは、取引先別に債権額の上限を定めたものを指します。たとえば、与信限度額が1,000万円のA社に対して現在債権が900万円ある場合、原則として新たに100万円を超える取引はしません。
与信限度額を設定しておけば、過度なリスクを負うことを避けられるでしょう。与信限度額は、会社の信用度に応じて個別に設定します。
請求書の発送漏れに注意する
請求書の発送漏れにも、注意しましょう。
滞留債権は、請求書の発送漏れなど自社の原因でも発生する場合があります。取引先に迷惑をかけないように、必ず請求書を決まった日までに発行・発送することが大切です。
請求書の発送漏れを防ぐための方法として、チェックリストを作成する、複数人で対応する、他部署と連携するなどが挙げられます。
請求書発行システムを利用する
チェックリストの作成や複数人での対応を心がけても発送漏れのリスクがある場合は、請求書発行システムの利用を検討しましょう。請求書発行システムとは、効率的に請求書を発行できるシステムのことです。
請求書発行システムを利用すれば、スムーズに請求書を作成してその場で相手に発送できるため、後回しにすることによる発行漏れ・発送漏れを防げます。
滞留債権の管理方法
万が一滞留債権が生じてしまった場合は、不良債権にしないように管理することが大切です。滞留債権の主な管理方法は、以下のとおりです。
- Excel(エクセル)で管理する
- クラウド型のシステムで管理する
それぞれ解説します。
Excel(エクセル)で管理する
表計算ソフトのExcel(エクセル)を使えば、余計なコストをかけず誰でもスムーズに滞留債権を管理できるでしょう。自社で管理台帳のフォーマットを用意しておけば、滞留債権が生じた際に自動で表示を変えて従業員に注意喚起できます。
ただし、Excelで管理する場合はデータ共有に向かない点に注意が必要です。属人化が進むと、従業員ひとりで抱え込む可能性があります。
また、取引量が増えるとExcelで管理することが難しくなり、ミスを誘発しかねない点もデメリットです。
クラウド型のシステムで管理する
インターネット上のシステム(クラウド型システム)にアクセスして、滞留債権を管理する方法もあります。
クラウド型システムで管理すれば、滞留債権の金額を自動集計できる点がメリットです。入金があり次第、自動で消し込みされるため、手間がかからず確認漏れのリスクも軽減できます。
また、滞留債権の管理に限らず、手軽に請求書を発行することで滞留債権の発生を未然に防げる点も強みです。
滞留債権は期日に入金されていない債権
滞留債権とは、期日を迎えても取引先からの入金がない債権のことです。取引先の経営が悪化している場合などに、滞留債権が発生することがあります。
滞留債権を放置していると、回収が困難な不良債権になりかねません。そのため、滞留債権が発生したら、取引先へ連絡する・督促状や催促書を発送するなどの対応が必要です。
また、与信管理を徹底することで滞留債権自体を発生させない対策も講じましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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