- 更新日 : 2024年8月8日
減損とは?計算方法や会計フローの解説
年次決算において、資産価値を正しく認識するために欠かせないのが減損です。減損は決算に大きな影響を与える可能性があります。経理や財務に関わる人であれば、基本的な考え方は理解しておきましょう。この記事では、減損会計の初心者向けに定義や計算方法、作業フローを簡単にまとめました。減損会計の入門にぜひお役立てください。
目次
減損とは
減損とは、主に固定資産や株式の価値が当初の想定より大幅に低下した場合に行われる会計処理です。投資した金額の回収が見込めないほど価値が低下した場合、帳簿上の価格を回収可能な金額まで減額することを「減損」といいます。
減損が行われると、最終的な利益を表す純利益が大きく押し下げられることがあります。大企業などの決算で大幅な赤字が計上されている場合、減損が影響しているケースが多いです。
適切に減損が行われないと、実際の価値と乖離した金額で固定資産や株式がバランスシートに計上される状態となってしまいます。これは投資家などが正しい投資判断を行うのを妨げることになり、信頼を失いかねません。こうしたことがないように、会社が保有する固定資産や株式は、実際の価値に合わせて帳簿価額を見直す必要があるのです。
減損を行うと利益が大幅に圧縮されるケースが多いため、減損は「できれば回避したい」と思われがちです。しかし、適切な会計書類を作成するのは企業の義務です。正しい減損処理ができるように基礎知識を理解しておきましょう。
下の図をご覧ください。減損の概念を簡単に説明します。
1億円投資して建てた工場が、需要の低下や老朽化により将来2,000万円の収益しか生み出せなくなっているとしましょう。この場合、当初の見込みとの差額である8,000万円を減損損失として損失計上しなければなりません。
具体的な計算方法については、この工場の事例を使って詳しく解説します。この後の事例紹介を参考にしてください。
減損の計算方法
減損損失は、次の式の通りに算出されます。
(回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のどちらか高い方を採用する)
回収可能価額の説明で登場した「使用価値」と「正味売却価額」について解説しましょう。
使用価値とは、評価対象となる資産または資産グループを継続的に使用して生まれる収益と、処分した際に見込まれる金額の合計キャッシュフロー(将来キャッシュフロー)の現在価値のことです。使用価値には、割引率を使って算出したキャッシュフローが採用されます。
これに対して正味売却価額とは、評価対象となる資産または資産グループの時価から、売却にかかる経費の見込み額を控除して算出した金額をいいます。評価対象資産に流通性があり、時価が明確な場合は正味売却価額の算定はそれほど難しくないでしょう。
ただし明確な時価がない場合でも、処分見込額は適切に算定しなければなりません。客観的に合理的と考えられる価格を算定するには専門知識が必要となりますので、専門家への相談も検討しましょう。
使用価値と正味売却価額の算定は、いずれも簡単に計算できるものではありません。専門知識が求められますので、正確な金額を算定するには公認会計士などの専門家に相談するのが賢明です。
減損の計算方法の基本的な考え方
それでは減損の計算方法について、具体例を用いて解説します。先ほども紹介した工場の事例を、より具体的に考えていきましょう。
工場に1億円投資し、実際に稼働しているのが5分の1だとします。工場を作った当初は100%稼働していたとしても、商品需要の減少や設備の老朽化などで、こうした状況はどんな企業でも起こり得るでしょう。
工場を建設した当初は投資を20年で回収できる計画でしたが、稼働率が5分の1の状態が続けば設備投資を回収できるまでに100年かかります。100年後になった時には、現在の設備は老朽化や技術革新により使い物にならなくなっている可能性が高いでしょう。
このような場合、工場の簿価を1億円のままで計上しておくのは不適切です。20年間で回収が見込まれる2,000万円(1億円の5分の1)と、投資額1億円の差額8,000万円が減損対象として認識されることになります。
減損対象=投資額(1億円)-投資額(1億円)×稼働率(0.2)=8,000万円
減損会計のフロー
減損会計の実務は、作業フローに従って進める必要があります。具体的な流れは以下の通りとなりますので、作業の流れをイメージしながら読んでみてください。
減損損失は、金額を算定する作業の前に「減損対象となるかどうか」を調査するフローが必要です。資産のグルーピングや減損判定など、減損会計特有の用語もあります。これを機に、ぜひ減損会計全体の理解を深めてください。
1.キャッシュを生み出す最小単位に資産をグルーピング
固定資産は、それひとつだけで事業や店舗の運営をしているわけではありません。評価対象となる固定資産を含めたライン全体がひとつになって事業として成立しています。資産単体で評価してしまうと、正確な収益力を把握できなくなりかねません。
そのためまずは、収益を生み出す最小の単位に資産をグルーピングします。継続的に損益を把握できる最小単位にグルーピングするのがポイントです。
2.減損の兆候があるかチェック
先ほどグルーピングした資産グループごとに、減損の兆候の有無をチェックしていきます。減損の兆候として挙げられるのは、おおむね以下のような事象です。
- 資産または資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュフローが、継続してマイナスとなっている。またはその見込みがある。
- 資産または資産グループの使用されている範囲または方法について、その回収可能価額を著しく低下させるような変化が生じた。またはその見込みがある。
- 資産または資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化した。またはその見込みがある。
- 資産または資産グループの市場価格が下落した。
3.減損損失をするかどうか判定
減損の兆候があると判断した資産グループについて、減損するかどうかを判定します。
減損の必要があるかどうかを判定するには、その資産グループが生み出す収益(ここでは割引前将来キャッシュフロー)の総額が現在の帳簿価額を下回っていないかどうか確認します。
帳簿価額を下回っていないことが確認できれば、その資産グループは減損損失の対象外となり減損会計のフローは終了です。帳簿価額を下回っている場合は次の「減損損失の測定」に進みます。
4.減損損失の測定
損失を計上する必要があると判定された資産グループは、その金額を算定して、具体的な損失額を確定します。
減損損失の金額算定方法は先ほど説明した計算式と同様で、以下の通りです。
(回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のどちらか高い方を採用する)
この計算式により、減損対象となる資産は使用価値と正味売却価額のどちらか高い方の価額まで帳簿価額が切り下げられることになります。
減損は適切に計上して業績を正しく把握しよう
減損とは、帳簿上に記載された固定資産や株式の価値を実態に合わせて減額させる作業です。減損を行えば、業績にマイナスの影響を与えることが分かったのではないでしょうか。減損は金額が大きくなりやすく、場合によっては決算の数字を大きく左右してしまいます。金額算定にあたっては専門家の助言を受けながら、慎重に行いましょう。
なお、本来は減損が必要なほど価値が下がっているのに、減損を避けるために減損判定を操作するのは禁物です。正しい判断で減損を計上するようにしてください。
よくある質問
減損とは何ですか?
主に固定資産や株式の価値が投資した金額の回収が見込めないほど低下した場合、帳簿上の価格を回収可能な金額まで減額することを「減損」といいます。詳しくはこちらをご覧ください。
減損の計算方法は?
減損損失は、次の式の通りに算出されます。 減損損失額=固定資産の簿価-回収可能価額 (回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のどちらか高い方を採用する)詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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