• 作成日 : 2024年8月30日

返品調整引当金は法改正により廃止!仕訳方法や変更点を解説

「収益認識会計基準」の創設によって、返品調整引当金が廃止されました。法人税においても、平成30年度税制改正によって返品調整引当金が廃止されることとなり、現在は経過措置期間を通じて段階的に縮小されています。

「返品権付き販売」を行う業界では、仕訳手続きや税務処理にも変更が生じる可能性があるため、改正内容を正しく理解しましょう。

返品調整引当金とは

返品調整引当金とは、企業が商品を販売する際に発生する返品リスクに備えて、あらかじめ設定する引当金の一種です。

具体的には、出版業や製造業などが商品や製品を販売する際、契約に基づいてそれらの商品を買い戻す特約が付されている場合、その契約によって将来返品が見込まれる部分に対して引当金を計上します。

ただし、新たな会計基準の創設に合わせて、平成30年度税制改正によって返品調整引当金は廃止されることとなりました。

引当金の計上意義

買戻し特約を付して商品を販売する場合、売上高のうち一定の金額については、翌期以降に返品による損失額が発生するものと見込まれます。

特に出版業や医薬品、化粧品、アパレルに関する製造業や卸売業では、売れ残った商品を買い取る「返品権付き販売」が従来から行われており、小売店などに販売した価格のうち、一定額は返品によって買い戻すケースが一般的です。

そのような場合に、返品調整引当金として計上することで、将来の買戻しによって生じる損失額を売上総利益に反映でき、取引の実態に即した期間損益計算を行うことが可能です。

返品調整引当金が発生する取引形態

返品調整引当金は、特定の事業を営む法人のうち、買戻しなどに関する一定の特約を付して商品販売を行っている場合に計上できます。

返品調整引当金を計上できる事業内容は以下のとおりです。

  1. 出版業
  2. 出版に係る取次業
  3. 医薬品(医薬部外品を含む)、農薬、化粧品、既製服、蓄音機用レコード、磁気音声再生機用レコードまたはデジタル式の音声再生機用レコードの製造業
  4. 3に掲げる物品の卸売業

たとえば本の販売においては、出版社が取次会社などを通じて、本の販売を書店へ委託します。委託された本のうち、書店で売れ残った商品がある場合には、買戻し特約によって取次会社を通じて出版社へ返品されます。

また、上記のいずれかの事業を営んでいることに加え、その事業に関する棚卸資産の大部分に対し、以下のような買戻しなどに関する特約を結んでいなければ、法人税では返品調整引当金として損金算入できません。

  • 販売先からの求めに応じ、その販売した棚卸資産を当初の販売価額によって無条件に買い戻すこと。
  • 販売先において、当該法人から棚卸資産の送付を受けた場合にその注文によるものかどうかを問わずこれを購入すること。

引用:第2款 返品債権特別勘定|国税庁

なお、これらの特約については、契約書を締結していない場合でも、商慣習によって買戻し特約が存在すると認められる場合には、返品調整引当金の設定対象となります。

返品調整引当金は平成30年度の税制改正により廃止が決定

平成30年3月30日に公表された「収益認識に関する会計基準(以下、収益認識会計基準)」に伴い、平成30年度税制改正によって、法人税法などにおいても改正が行われました。

その結果、返品調整引当金については原則廃止の方針となり、現状では経過措置を通じて徐々に縮小されています。

収益認識会計基準の導入

平成30年に公表された「収益認識会計基準」とは、企業の収益に関して「いつ」「いくらで」「どうやって」計上すべきかを定めた会計基準であり、国際的な会計基準であるIFRSを参考にして導入されました。

収益認識会計基準については、すでに上場企業や大会社では、2021年4月以降に開始する事業年度から強制適用がスタートしており、該当する企業は新たな会計基準に基づいた会計処理を行わなければなりません。

収益認識会計基準では、企業が収益として計上する際の取引価格について、値引きやリベート、買戻しなどの「変動対価」を考慮して算定すべきであると定めています。

つまり、買戻し特約によって生じる将来の損失額については、返品調整引当金として計上するのではなく、売上高から直接差し引いて計上することが求められます。

買戻し特約は売上の計上時に返品資産や返金負債として扱う

買戻し特約により、販売価格のうち、一定金額の返品が発生すると見込まれる場合、それらの返品が見込まれる対価の額については、売上高などから直接控除することで、収益として認識しないこととなります。

返品調整引当金を計上する代わりに、将来買い戻すことが見込まれる金額については、その販売価格を「返金負債」、それに対応する原価を「返品資産」としてそれぞれ計上します。

たとえば、商品売上100円のうち、30円(原価20円)について返品が見込まれる場合、売上高は100円-30円=70円として計上しなければなりません。その一方で、返品が見込まれる30円については「返金負債」として負債に計上し、その原価部分である20円は「返品資産」として資産計上します。

返品調整引当金の経過措置

収益認識会計基準の創設によって、会計における返品調整引当金が廃止されることとなりました。このような会計基準の変更に合わせて、平成30年度税制改正が行われ、法人税法上における返品調整引当金の取扱いも見直されることになりました。

新たな会計基準については、上場企業や大会社を対象とした制度改正となりますが、法人税でも同様に返品調整引当金が廃止される見通しであるため、中小企業にとっても税制改正の影響は少なくありません。

具体的には、以下のような経過措置を通じて、法人税における返品調整引当金についても、段階的に廃止へ向かうこととなります。

2021年4月1日~2030年3月31日で段階的に縮小

2021年4月1日から2030年3月31日までの間に開始する各事業年度については、返品調整引当金の損金算入限度額が段階的に縮小されます。

具体的には、返品調整引当金の繰入限度額は毎年10分の1ずつ縮小されることとなり、2030年4月1日以降に開始する事業年度においては、返品調整引当金の損金算入は不可となります。

 新会計基準導入法改正後の返品調整引当金の仕訳方法

収益認識会計基準の導入後においては、返品調整引当金は廃止されているため、いわゆる「返品権付き販売」を行った場合でも、会計上は引当金計上を行うことができません。

引当金を繰り入れる代わりに「返金負債」や「返品資産」を計上するなど、新たな会計基準の導入によって仕訳処理も異なるため注意しましょう。

改正前後の変更点

収益認識会計基準の導入前においては、収益は販売価格の全額を計上し、契約に基づくリベートや返品などの負担が見込まれる場合には、別途引当金を計上する会計処理が行われていました。

しかし、新たな会計基準が創設されたことで、上記のような「変動対価」に該当する部分は収益として認識しないこととなりました。

そのため、買取り特約が付されている「返品権付き販売」などの場合、返品が見込まれる部分については、引当金を計上するのではなく、返品の発生確率を見積もったうえで、売上高から直接調整を行います。

勘定科目

収益認識会計基準の導入前においては、「返品調整引当金繰入」によって、翌期以降に返品が見込まれる損失額を「返品調整引当金」勘定で計上しましたが、新たな会計基準の導入により、返品調整引当金は廃止されています。

収益認識会計基準の適用後は、「返品権付き販売」などの買戻し特約が付された販売契約の場合、返品が見込まれる商品の販売価格を「返金負債」勘定で計上し、それに対応する商品原価を「返品資産」として経理処理を行いましょう。

仕訳方法

返品権付きで商品販売を行った場合、収益認識会計基準の導入前後では、それぞれ以下の具体例のように仕訳処理を行います。

具体例

  • 200円で仕入れた商品1万個について、売価500円ですべて販売した。
  • これらの商品販売は、一定期間内なら返品可能な「返品権付き販売」である。
  • 販売した商品1万個のうち、1,000個については翌期以降に返品が見込まれる。

★「収益認識会計基準」導入前の仕訳処理

借方貸方
仕入(売上原価2,000,000円現金預金2,000,000円
現金預金5,000,000円売上高5,000,000円
返品調整引当金繰入300,000円返品調整引当金(※1)300,000円

(※1)(500円-200円)×1,000個=300,000円

★「収益認識会計基準」導入後の仕訳処理

  1. 収益の計上仕訳
    借方貸方
    現金預金5,000,000円売上高

    返金負債

    4,500,000円

    (※2)500,000円

    (※2)500円×1,000個=500,000円

  2. 売上原価の計上仕訳
    借方貸方
    仕入(売上原価)

    返品資産

    1,800,000円

    (※3)200,000円

    現金預金2,000,000円

    (※3)200円×1,000個=200,000円
    なお、上記の仕訳例のように、会計上は返品が見込まれる金額を収益計上せず、「返金負債」として計上しますが、法人税においては、これらの返品などによる「変動対価」はないものとして所得金額を計算しなければなりません。

    たとえば具体例の場合、会計上は「変動対価」を反映して「売上高450万円、売上原価180万円」で計上する一方で、法人税では、従来どおり「売上高500万円、売上原価200万円」として計算する必要があります。

    したがって会計上「返金負債」や「返品資産」勘定で計上した返品見込額については、以下のように別表四にて申告調整を行います。

  3. 別表四での申告調整
    区分留保
    加算売上計上もれ(返金負債)500,000円
    減算売上原価計上もれ(返品資産)200,000円
    返品調整引当金繰入額300,000円

    上記の申告調整のように、「返金負債」から「返品資産」勘定を差し引いた金額については、損金経理によって「返品調整引当金」勘定に繰り入れた金額とみなすことが可能です。

    ただし、算出された「返品調整引当金繰入額」が繰入限度額を超える場合には、その超える部分の金額については、別途、別表四にて加算処理を行わなければなりません。

返品調整引当金の変更点を理解し、適切な会計処理を行おう

2021年に本格適用が開始された「収益認識会計基準」により、収益計上に関するルールの見直しが実施され、返品調整引当金が廃止されています。

また、新たな会計基準の創設に伴い、平成30年度税制改正が行われた結果、法人税でも返品調整引当金の廃止が決定し、現在の経過措置期間を通じて段階的に縮小されています。

税務上の経過措置の取扱いや、「返金負債」および「返品資産」勘定での仕訳入力など、返品調整引当金に関連する税務会計手続きは大きく変化しているため、改正内容を正しく理解し、正確な処理を心掛けましょう。


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