• 更新日 : 2025年2月20日

中小企業事業再編投資損失準備金とは?対象や手続き、拡充枠についてわかりやすく解説

中小企業事業再編投資損失準備金とは、中小企業のM&Aを後押しする制度です。事業拡大や後継者不足などが理由でM&Aを選択する企業が多くなる現在、この制度にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

中小企業事業再編投資損失準備金の制度の詳細、利用のメリット、そして申請の方法について学んでいきましょう。

中小企業事業再編投資損失準備金とは

中小企業事業再編投資損失準備金とは、中小企業がM&Aを行う際に利用できる支援制度です。具体的には中小企業がM&Aを実施する際、株式など10億円までの取得金額の70%を準備金として積み立てられるという制度です。5年間経過後はその後の5年間で均等に準備金を取り崩します。なお、準備金は損金として算入できます。

※2024年度税制改正で拡充が決定し、特別事業再編計画の認定を受けた認定特別事業再編事業者であれば、取得金額の上限は10億円から最大100億円、積立率は70%から最大100%、据置期間は5年間から10年間に変更されています。

中小企業事業再編投資損失準備金制度の目的

中小企業事業再編投資損失準備金制度は事業継承目的のM&Aの増加を見越して作られました。

M&Aでは買収側企業が売却企業の財務状況や経営状態などを綿密に調査し、問題がなければ買い取り手続きに進みます。しかし、中小企業がM&Aを行う場合、綿密な調査をする時間や費用がかけられず、買い取り後に重大な問題が発覚する可能性もあります。問題が発覚すると、買い取りにかかった費用がそのまま損失となるため、企業の存続にかかわる問題になるかもしれません。

中小企業事業再編投資損失準備金制度では、事前に売却企業に思わぬ損害が生じる可能性がないか、調査を義務付けています。買収側のリスクを最小限に抑えることができるのです。

今後、後継問題等でM&Aを利用する中小企業が増加することも予想されます。中小企業事業再編投資損失準備金制度について今のうちに押さえておきましょう。

中小企業事業再編投資損失準備金の対象と要件

中小企業事業再編投資損失準備金の対象と要件をご紹介します。

対象

中小企業事業再編投資損失準備金はどの企業でも使える制度ではありません。対象は以下のようになっています。

対象となる買手企業

  • 青色申告を提出する「資本金または出資金額が1億円以下」「資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下」の中小企業
  • 2024年3月31日までに事業承継等事前調査に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けた法人

対象となる売却企業

  • 常時使用する従業員数が2,000人以下の法人または個人の特定事業者等

ちなみに、親族が経営する法人、グループ企業のM&Aの際は、この制度を利用できません。

要件

中小企業事業再編投資損失準備金制度は、特定事業者等(売却企業)の株式を取得し、事業継承する場合に利用できます。事業譲渡や合併の際は利用できません。さらに、取得価額が10億円を超える場合も利用できません。

中小企業事業再編投資損失準備金を活用するメリット

中小企業事業再編投資損失準備金制度を活用するメリットを確認しましょう。

M&Aの税負担軽減

M&Aを実施すると、買収企業のキャッシュフローが一時的に悪化するため、取引や融資に影響が出るかもしれません。しかし、中小企業事業再編投資損失準備金を活用することで、準備金が積み立てられ、課税の繰り延べができます。

M&Aのリスク軽減

M&Aを実施する場合、売却企業の財務状況や経営についての調査を行います。調査で問題がなければM&Aに進みますが、実施後、調査できなかった簿外債務等が発生するリスクもあります。中小企業事業再編投資損失準備金制度があることで、買収する企業のリスクを抑える効果もあります。

準備金の積み立てにおける申請の流れ

中小企業事業再編投資損失準備金の積み立てにおける申請の流れは以下の通りです。

  • 経営力向上計画を作成して認定を受ける
  • 株式取得を実行して報告する
  • 確認書の交付を受ける
  • 準備金を損金算入して税務申告する

詳しく見ていきましょう。

経営力向上計画を作成して認定を受ける

M&A先が決定し基本的合意ができたら、経営力向上計画を作成します。完成後、主務大臣の認定を受けてください。主務大臣は計画内で記載されている事業分野を所轄する大臣です。経営力向上計画には事前承継等事前調査チェックシートを添付します。

なお、2024年現在、申請から認定までに約30日程度を要しています。余裕を持って手続きしましょう。

株式取得を実行して報告する

認定後、M&Aの最終合意ができたら、株式を取得します。

確認書の交付を受ける

株式取得後、主務大臣に対し事業承継の実施および事業承継前事前調査の内容を報告します。確認ができたら確認書が交付されますので受け取ってください。

準備金を損金算入して税務申告する

税法上の要件を満たしていれば、準備金を損金算入して税務申告できます。申告時は以下の書類の写しを添付してください。

  • 経営力向上計画申請書
  • 認定書
  • 確認書

中小企業事業再編投資損失準備金の取崩し要件

中小企業事業再編投資損失準備金は以下のケースに該当すると据置期間の終了を待たずに取崩され、益金に算入されます。具体例を見ておきましょう。

【全額益金に算入されるケース】

  • M&A先の株式を全て売却した場合
  • 経営力向上計画の認定取り消しの場合
  • 取得した株式の発行法人が解散した場合
  • 株式を取得した法人が解散した場合
  • 株式を取得した法人がM&A先の法人に株式を移転した場合
  • 株式を取得した本人が青色申告を止めた場合、もしくは承認取り消しの場合

【相当分の金額が益金に算入されるケース】

  • M&A先の株式を一部売却した場合
  • 準備金の取崩しがあった場合

中小企業事業再編投資損失準備金の拡充枠とは

事業拡大の意欲がある中小企業を応援するため、中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充が2024年度税制改正で決定しました。

対象と主な変更点は以下の通りです。

対象事業者

青色申告法人で特別事業再編計画の認定を受けた認定特別事業再編事業者

目的

  • 2回目以降のM&Aの目的は「特別事業再編」とする
  • ※1回目のM&Aの目的は「事業継承等」

取得価額の上限

  • M&Aを複数回実施する場合、取得価額の上限が10億円から100億円に変更される。また、2回目以降のM&Aの場合、取得価額の下限は1億円となる

積立率

  • M&Aを複数回実施する場合、準備金の積立率を70%から最大100%とする

※M&A2回目の積立率は取得価額の90%、3回目以降の場合は取得価額の100%

据置期間

  • 2回目以降のM&Aの場合、準備金の据置期間が10年間となる。ただし、取崩し期間は5年間。

事業継承のために中小企業事業再編投資損失準備金制度を理解しておこう!

多くの中小企業で後継者不足が問題となっています。今後、M&Aによる事業継承はますます増えていくことでしょう。ただし、M&Aは株式取得などに多額の資金もかかるため、事前の準備も必要である点に気をつけてください。

もし、自社がM&Aを行うのであれば、準備金の積み立てや損金算入が可能になる中小企業事業再編投資損失準備金制度をぜひ活用しましょう。2024年の税制改正では、事業継承だけでなく、特別事業再編でも使える制度になり、準備金の積立割合や取得金額の上限もアップしています。

今のうちに利用できる条件や申請方法を理解し、いざという時スムーズに利用できるようにしておきましょう。


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