- 更新日 : 2024年8月8日
売上割戻引当金とは?仕訳から解説
製造業や卸売業において、一定額または一定数量の売上を達成した販売店などに対して、顧客との契約に基づき売上代金の一部控除を行うことを「売上割戻」と言います。また、売上割戻に対する引当金を「売上割戻引当金」と言い、売上割戻の見込額が引当金の要件を満たす場合には、決算時に「売上割戻引当金」として計上する必要があります。この記事では、売上割戻引当金の要件や、仕訳例などについて解説していきます。
目次
売上割戻引当金とは
売上割戻引当金について触れる前に、まずは売上割戻や引当金の要件、引当金を計上するメリットについて解説します。
そもそも売上割戻とは
売上割戻は、通常「リベート」や「キックバック」とも呼ばれます。似たような科目である「売上値引き」と間違えやすいですが、主な違いは以下の通りです。
売上値引き
売上金額や数量が少額でも購入したときに値引きを行う。
売上割戻
一定の金額や数量以上の売上があったときに、後日、割戻を行う。
このように売上割戻は、期末日をまたいで後日支払うことがあるため、翌期以降の支払いに備え、決算時に引当金を計上することがあります。
また、売上割戻にはさまざまな種類があるため、引当金計上時においては、契約内容等に基づく売上割戻の金額を適切に見積もり、計算することが重要です。
売上割戻については、こちらの記事もご覧ください。
引当金の要件
売上割戻引当金は、企業会計原則注解18の引当金において例示列挙されている科目です。注解18に記載されている引当金の要件は以下の通りです。
- 将来の特定の費用または損失であること
- その発生が当期以前の事象に起因するものであること
- 発生の可能性が高いこと
- 金額が合理的に見積もり可能なこと
この要件を売上割戻引当金にあてはめると、以下のように考えることができます。
- 商品の販売後に割戻という形で発生する費用であり、
- 当期以前の商品の販売に起因しており、
- 契約等で決められているため、発生の可能性が高く、
- 契約内容等で割戻額の見積もりが可能である。
上記の1~4.のすべてにあてはまれば、引当金の要件を満たすため、売上割戻引当金として計上できます。
引当金を設定するメリットは?
引当金を計上する目的としては、以下の2点が考えられます。
- 将来発生する可能性の高い費用や損失について、あらかじめ見積もり計算を行い、支払いに備えられる。
- 当期の収益に対応する費用を計上することで、企業会計の目的である期間損益計算を行うことができる。
売上割戻引当金は、翌期以降に支払いが見込まれる売上割戻の金額を決算時に見積もって計上することで、翌期の支払いに備えることができます。また、当期の売上高に対応する売上割戻を決算時に計上することで、売上割戻の影響を受けた後の当期の売上高を確定させることができます。
売上割戻引当金の仕訳
決算時と売上割戻の支払時の仕訳は以下の通りです。
- 当期末に売上割戻引当金を計上するとき
借方 貸方 売上割戻引当金繰入 10,000円 売上割戻引当金 10,000円 - 翌期に売上割戻を支払ったとき
借方 貸方 売上割戻引当金 10,000円 現預金 10,000円
ちなみに、期末時点で売上割戻の金額が確定している場合には、引当金でなく未払金として計上します。また、引当金として計上する方法以外に、売掛金から直接控除する方法もあります。
引当額の計算方法
引当金の計上額は、リベートなどの契約条件に合わせて計算する必要があります。リベートにもさまざまな種類があるため、あらかじめ契約などで決められた内容に応じて、引当額の計算を行わなければなりません。
例えば、一定の販売数量や販売額を達成した場合に一定金額を支払うリベートや、一定の期間の販売数量や販売額に対して、一定の料率を乗じた金額を支払うリベートなどがあります。
具体的な計上額の計算方法については、以下のパターンが考えられます。
- 一定期間の売上高×割戻率
- 一定期間の販売台数×リベート単価
- 契約に基づく一定金額(一定の条件を達成した場合)
リベートの計算期間は、契約内容によって1カ月単位から1年単位までさまざまです。計算期間が複数の期にわたり、期末時点において金額が確定していない場合には、期末日までを計算期間として、金額を見積もる必要があります。また期末時点において、一定の基準を達成することがほぼ確実に見込まれる場合には、契約に基づく一定金額を引当金として計上します。
繰入・戻入の処理
売上割戻引当金の繰入額は、売上から直接控除する方法と、販売費及び一般管理費として経費に計上する方法があります。契約などであらかじめ決まっているリベートは、販売価格の一部減額や、売上代金の一部返金と同様であるため、繰入額は売上高から控除してください。
また、新商品の発売時における協賛金や報奨金のように、販売促進費などの経費を補助する目的で割戻金を支払う場合には、販売費及び一般管理費として処理します。また、期末日以降に割戻額が確定した時点で、引当額と実際の支払額の差額を調整する必要があります。
実際の支払額のほうが少なかった場合には、戻入の処理が必要です。繰入額を売上高から控除した場合には売上高、販売費及び一般管理費で処理した場合には戻入と、同様の科目で処理を行ってください。
税務上の注意点は?
税務上で計上が認められる引当金は貸倒引当金のみであるため、一般的には売上割戻引当金繰入額が損金とは認められず、申告書で加算調整が必要となります。ただし、税務上で計上が認められている売上割戻に対する売上割戻引当金繰入額であれば、税務上も未払金とみなされます。
税務上の売上割戻の計上要件は以下の通りです。
- 算定基準が販売価額又は販売数量によっており、かつ、その算定基準が契約その他の方法により相手方に明示されている場合(売上計上した日の属する事業年度に、必要経費に算入又は売上高から控除することができます)
- 上記以外で、売上割戻の金額を相手方に通知又は支払いをした場合(相手方に金額を通知しその金額を未払金として計上した場合には、その金額を必要経費に算入又は売上高から控除することができます)
特に税務上は、売上割戻が交際費に該当しないか、計上時期が妥当であるか、などについて問題となるため、注意が必要です。
参照:売上割戻し|国税庁
売上割戻引当金を設定していない場合
売上割戻引当金を設定しない場合に、売上割戻を支払った場合の仕訳例は以下の通りです。
(または売上割戻) |
期中での売上割戻の場合には、この処理で問題ありませんが、決算期をまたぐ場合には、引当金を設定していないと各期の売上高に影響が出てしまうので注意が必要です。
引当金を設定したときとの違いは?
引当金を設定していない場合には、割戻を行ったタイミングで売上高のマイナスとして計上します。そのため、当期の売上に対する割戻にも関わらず、翌期の売上からマイナスされてしまうため、翌期の売上が少なく計上されてしまいます。
先ほどと同じ例で、当期と翌期の2期の売上高を比較してみましょう。
- 引当金を計上していた場合
【当期】 売上高 500,000円 売上割戻引当金 -10,000円 当期売上高 490,000円 【翌期】 売上高 600,000円 - 引当金を計上していなかった場合
【当期】 売上高 500,000円 【翌期】 売上高 600,000円 売上割戻(前期分) -10,000円 590,000円
このように、期末に引当金を計上した場合と、計上しなかった場合では、当期と翌期のそれぞれの売上高に影響が出てしまいます。そのため、各期の売上高を正確に把握できるよう、売上割戻引当金を計上することが大切です。
引当金は適切に設定しましょう
売上割戻引当金はあまり聞き慣れない科目かもしれません。しかし、メーカーや卸売業者などにおいて、売上割戻は一般的な商慣行です。毎期の売上高を正確に把握するためにも、適切に引当金を計上することが重要です。引当金の計上方法や税務上の注意点などについても、しっかり理解しておきましょう。
よくある質問
売上割戻引当金とは?
売上割戻引当金とは、決算時において、当期の売上高に対して翌期以降に見込まれる売上割戻の金額を見積もり計算して計上する引当金のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
売上割戻引当金を設定していない場合の仕訳はどうする?
引当金を計上していない場合には、前期の売上に対する売上割戻であっても、当期の売上のマイナスとして計上します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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