- 作成日 : 2024年11月5日
スキャナ保存制度とは?改正点や要件・業務フローについて解説
スキャナ保存制度とは、紙で作成・受領した書類を電子データで保存することを認める制度です。要件を満たした状態でデータを保存すれば、これまで紙で保存していた書類の廃棄が可能になります。
本記事では、スキャナ保存制度の概要や保存要件、2022年・2023年の改正点について図解を交えつつ、業務フローや運用時の注意点も解説します。
目次
スキャナ保存制度とは紙の書類を画像データで保存できる制度
スキャナ保存制度とは、自身が作成した書類の写しや紙で受領した書類をスキャンして、電子データとして保存することを認める制度のことです。
一定の要件を満たしたうえでスキャナ保存を行えば、紙の原本を保存する必要がなくなります。
なおスキャナ保存への対応は、義務ではなく任意です。導入するかどうかは事業者の選択に委ねられており、必ずしも実施する必要はありません。
紙の書類をデータ化して保存するか、紙のまま保存するかは事業者の自由です。
スキャナ保存の対象書類
スキャナ保存の対象となる書類は、自社が手書きで発行した書類の控えと相手から受領した紙の書類です。
具体的には、以下の書類が該当します。
区分 | 対象書類 |
---|---|
重要書類 | |
一般書類 |
スキャナ保存の対象書類は、資金や物の流れに直結・連動する「重要書類」と、資金や物の流れに直結・連動しない「一般書類」に区分され、保存要件が異なります。
なお、スキャナ保存の対象は上記に挙げた紙の書類であり、帳簿等は対象外です。国税関係帳簿や決算関係の書類は紙であっても「電子帳簿等保存」の対象となるため、そのルールにもとづいて保存する必要があります。
スキャナ保存の保存要件
画像引用:スキャナ保存関係(令和6年1月1日からの取扱いに関するもの)|国税庁
スキャナ保存の主な要件として、入力期間の制限や一定水準以上の解像度による読み取り、タイムスタンプの付与、検索機能の確保などが定められています。
とくに注意したいのが、入力期間の制限です。一般書類のスキャナ保存には入力期間の制限はありませんが、重要書類には一定の入力期間が設けられています。
区分 | 入力期間の制限 |
---|---|
重要書類 | 早期入力方式:書類の作成・受領からおおむね7営業日以内 業務処理サイクル方式:書類の作成・受領から2ヶ月とおおむね7営業日以内 |
一般書類 | 入力期間の制限なし |
重要書類は、早期入力方式では書類の作成・受領からおおむね7営業日以内、業務処理サイクル方式では2ヶ月とおおむね7営業日以内に、システムへの入力とタイムスタンプの付与を行わなければいけません。(なお、タイムスタンプの付与は一定の要件を満たすシステムを利用している場合は不要です。)
業務処理サイクル方式を採用するには、社内で「事務処理規程(スキャナによる電子化保存規程)」を定める必要があります。
早期入力方式よりも入力期間に猶予があるため、事務処理規程をあらかじめ準備しておくことをおすすめします。
また、一般書類の入力期間制限をなくす場合にも、事前に「事務処理規程(国税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続きを明らかにした書類)」の準備が必要です。
規程作成の際は、国税庁のウェブサイトで公開されているサンプルを参考にするとよいでしょう。
参考:参考資料(各種規程等のサンプル)>スキャナ保存に関するもの|国税庁
スキャナ保存のメリット・デメリット
スキャナ保存の導入を検討する前に、メリットとデメリットも把握しておきましょう。
スキャナ保存のメリット
スキャナ保存の主なメリットは以下の3点です。
- 保管スペースの削減
- 情報共有の容易化
- 業務効率化と生産性向上
スキャナ保存の最大のメリットは、ペーパーレス化による保管スペースの削減です。かさばる紙の書類を電子データ化することで、オフィスのスペースを有効活用できます。
また、書類の検索が容易になり、必要な情報を即座に見つけることが可能です。データ化された書類は簡単に共有できるため、部署間の情報伝達もスムーズになります。
スキャナ保存を行うことで、業務効率の向上が期待できるでしょう。
スキャナ保存のデメリット
一方、以下のようなデメリットもあります。
- 導入・運用コストの発生
- スキャン作業の手間
スキャナ保存には、スキャナの購入やシステム利用料といった運用コストが発生します。
また、紙の書類をスキャンする作業には一定の手間がかかります。大量の書類を扱う場合は、スキャン作業に人員を割く必要も生じるでしょう。
これらのデメリットを考慮し、自社にとってスキャナ保存が本当に適切な方法かどうかを検討することが大切です。
【2022年】スキャナ保存に関する電子帳簿保存法の改正内容
2022年にスキャナ保存に関する電子帳簿保存法の改正が行われ、多くの企業にとってスキャナ保存がより手軽で利用しやすいものになりました。
2022年に行われた改正のポイントを説明します。
タイムスタンプ要件の緩和
2022年の改正で、タイムスタンプの付与期間が大幅に緩和されました。以前は、受領者自らが読み取る場合は3営業日以内という厳しい制限がありましたが、改正後は最長2ヶ月とおおむね7営業日以内に延長されています。
タイムスタンプを付与する猶予期間が大幅に延長されたことで、業務の負担が軽減されます。また電子データの訂正や削除の履歴が残るシステム、もしくは訂正や削除ができないシステムを利用している場合は、タイムスタンプ自体が不要になりました。
検索要件の緩和
改正前は、検索要件として「取引年月日」や「勘定科目」「取引先」など複数の項目が検索要件として設定されていました。しかし、2022年の改正により「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目だけに緩和されています。
改正前の検索要件 | 改正後の検索要件 |
---|---|
|
※税務職員によるダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、2.3の機能は不要 |
また、税務職員のダウンロードの求めに対応できる体制を整えていれば、日付や金額の範囲指定、複数項目の組み合わせ検索といった機能は不要になりました。
税務署長の事前承認制度が廃止
以前は、スキャナ保存を実施する3ヶ月前までに所轄の税務署長から承認を受ける必要がありました。しかし、2022年の改正後はこの手続きが不要になります。
事前承認が不要になったことで、企業は自社のタイミングでスキャナ保存を開始できるようになりました。
適正事務処理要件の廃止
2022年の法改正で、不正防止を目的としていた「適正事務処理要件」も廃止されています。具体的な要素は以下の3点です。
- 相互けんせい:関連する事務作業を異なる担当者で分担し、不正リスクの抑制を図る
- 定期的な検査:事務処理内容の正確性を確認するための検査体制と手順を整備する
- 再発防止:処理に不備があった場合は、報告、原因究明、改善策の検討の実施を義務付ける
上記の要件が廃止されたことで、複数人で行う必要があった事務処理が1人で行えるようになりました。また、以前は定期検査のために必要だった原本の保管が不要になり、スキャン後にすぐ廃棄が可能になっています。
不正発覚時の重加算税の加重措置
スキャナ保存に関する要件が緩和される一方、不正に対する罰則は強化されました。帳簿書類の隠蔽や偽造などの不正が発覚した場合、重加算税が10%加重されます。
適正なスキャナ保存の運用がこれまで以上に重要になっています。
【2023年】スキャナ保存に関する電子帳簿保存法の改正内容
スキャナ保存の改正は、2023年にも行われています。主な改正ポイントは以下の3点です。
解像度、階調、大きさに関する情報の保存が不要 |
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スキャナ保存データに解像度や階調、大きさといった情報を保存する必要がなくなりました。 「解像度200dpi以上、原則カラー」というスキャン時の要件自体は変わらないものの、これらの情報をデータ内に保持する必要がなくなったため、データ容量の削減や管理の簡素化につながります。 |
入力者等情報の確認要件が不要 |
---|
スキャナ保存を行う際に、誰がスキャン作業を行ったかという入力者情報の確認が不要になりました。 これまでは入力者または監督者の情報を確認できる状態にする必要がありましたが、この確認要件が廃止され、事務処理の負担が軽減されました。 |
帳簿との相互関連性を必要とする書類を重要書類に限定 |
---|
帳簿との相互関連性の確保が必要な書類が、重要書類に限定されました。 見積書や注文書など資金や物の流れに直接関わらない一般書類は、相互関連性を確保する必要がなくなりました。 |
2022年に続き2023年の改正でもさらなる要件緩和が行われ、企業にとってより導入しやすい制度となりました。
スキャナ保存の業務フロー
ここからは、スキャナ保存の具体的な業務フローを3ステップにわけて紹介します。
1.要件を満たせる状態で紙の書類をスキャンする
まずは、データで保存したい紙の書類をスキャナでスキャンしましょう。情報がきちんと読み取れるよう全体が映るように読み込むのがポイントです。
データをスキャナや複合機で読み取る際には、解像度は200dpi以上、赤・緑・青の各色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビット)であることが求められます。要件を満たしていれば、デジタルカメラやスマートフォンでの撮影でも問題ありません。
なお一般書類の場合は、白黒(グレースケール)でのスキャンも許可されていますが、重要書類はカラーでの保存が必要です。
2.期間内に入力し、タイムスタンプを付与する
データをスキャンできたら、所定の期間内にシステムへの入力とタイムスタンプの付与を行いましょう。
重要書類の場合、早期入力方式ではおおむね7営業日以内、業務処理サイクル方式では2ヶ月とおおむね7営業日以内に、システムへの入力およびタイムスタンプを付与する必要があります。
ただし、訂正・削除の履歴が残るシステムまたは訂正・削除ができないシステムを利用すれば、タイムスタンプの付与は不要です。
タイムスタンプが必要な範囲や利用方法、発行手順、費用など詳細は以下を参考にしてください。
3.そのほかの要件を満たしてデータを保存する
データの保存を行う際にも、いくつかの要件を満たす必要があります。たとえば「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できる機能の確保や、訂正があった場合のバージョン管理などが求められます。
保存要件は多岐にわたるため、すべてを自社で管理するのは負担が大きくなりがちです。そのため、スキャナ保存の要件を満たしたシステムを導入するのがおすすめです。必要な機能があらかじめ備わっているため、スムーズなスキャナ保存を実現できるでしょう。
スキャナ保存運用時に気をつけたい3つのポイント
ここでは、スキャナ保存でありがちなミスや注意点を中心に、運用時に気をつけたい3つのポイントを解説します。
スキャンした書類は一定期間保持しておく
スキャナ保存の要件を満たして正しく運用していれば、スキャンした書類の原本は破棄できます。しかし、念のため一定期間は原本を保管しておくことをおすすめします。
たとえば、重要書類の入力期間が過ぎた場合や読み取った書類がプリンターの最大出力よりも大きい場合は、書面(紙)を保存しておかなければなりません。
スキャナ保存の運用に慣れるまでの間は、万が一のトラブルに備えて、原本を一定期間保管しておくと安心です。
グレースケール(白黒)スキャンが認められるのは一般書類のみ
グレースケール(白黒)スキャンが認められるのは見積書や注文書といった一般書類のみです。請求書や領収書などの重要書類は、カラーでスキャンする必要があります。
誤って重要書類を白黒スキャンしてしまうと、要件を満たさなくなるので注意しましょう。ミスを防ぐためにも、要件の厳しい重要書類に合わせた業務フローを構築しておくことをおすすめします。
入力期間を過ぎた場合は紙で保存する
重要書類をスキャナ保存する場合は、入力期間に注意が必要です。
早期入力方式ではおおむね7営業日以内、業務処理サイクル方式では2ヶ月とおおむね7営業日以内にスキャナ保存を完了させる必要があります。入力期間を過ぎて、1年分や半年分をまとめてスキャナ保存することは認められていません。
スキャナ保存のポイントを押さえて正しくデータを管理しよう
本記事では、スキャナ保存制度の概要からメリット・デメリット、具体的な業務フロー、そして運用上の注意点まで解説しました。スキャナ保存は、適切な手順で運用すれば、業務効率化やコスト削減を実現する有効な手段です。
2022年と2023年の法改正によって、タイムスタンプや検索要件、適正事務処理要件など、多くの要件が緩和されました。これにより、スキャナ保存の導入・運用が以前より容易になっています。
スキャナ保存を正しく運用するためには、法改正の内容を理解し、自社に合ったシステムを導入することが大切です。この記事で紹介したポイントを参考に、効率的なスキャナ保存を実現しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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