• 作成日 : 2024年9月19日

M&Aのメリット・デメリットは?失敗原因や成功事例もわかりやすく解説

M&Aを検討する場合、メリット・デメリットを事前に把握しておきたいと考える人も多いでしょう。M&Aには新規事業の開拓や事業承継問題の解消ができるといった利点がある一方で、多額の資金が必要になることや従業員離職のリスクといった問題点もあります。

本記事では、M&Aのメリット・デメリットや失敗する原因についてわかりやすく解説します。成功事例や中小企業ならでは注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

M&Aとは?

M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略であり、日本語で「企業の合併・買収」を意味する言葉です。とくに中小企業のM&Aは近年、増加傾向にあり、市場規模は拡大を続けています。M&Aを検討する業界は限られておらず、食品・自動車・アパレル・IT・ホテルなどさまざまな業界でニーズがあるとされています。

M&Aを行う目的

M&Aを行う目的は、企業の経営状況や運営する事業内容によってさまざまです。買手・売手それぞれにメリット・デメリットがあるため、M&Aを実施する際は目的を明らかにしたうえで計画を進めていきましょう。

買手企業の主な目的は、以下のとおりです。

  • 新規事業への参入
  • 既存事業の強化
  • 企業の規模拡大
  • 技術力・人材の確保
  • 海外進出
  • 競合他社の吸収

一方、売手企業の主な目的は以下のとおりです。

  • 後継者問題の解決
  • 事業整理
  • 事業再生
  • 従業員の雇用確保
  • 経営基盤の強化
  • 投資回収・現金化の時間短縮

M&Aの目的については、この後のメリット・デメリットの章で詳しく解説します。

M&Aの種類

M&Aは、大きく分けると「合併」と「買収」に種類が分かれます。その中で合併は「新設合併」と「吸収合併」に、買収は「事業譲渡・資産買収」と「株式取得・資本参加」に分かれます。

合併新設合併
吸収合併
買収事業譲渡・資産買収
  • 新設分割
  • 吸収分割
  • 事業譲渡
株式取得・資本参加

事業譲渡・資産買収は、事業や資産を売買するM&Aであり、さらに3種類に分かれます。株式取得・資本参加は株式によって経営権の獲得を行うM&Aであり、さらに4種類に分かれます。

会社買収との違い

M&Aは会社の「合併と買収」という両方の意味を持つ言葉です。一方で会社買収はM&Aの一部であり、企業がほかの企業を買収する行為のみを指します。

また、合併は複数の企業がひとつになるため、元の企業は消滅することになります。一方、買収はひとつの企業が別の企業を所有する行為であり、株主が変わるだけでそれぞれの法人格は残るのが特徴です。

合併と買収はどちらも企業がひとつにまとまることを意味しますが、厳密には違うことを覚えておきましょう。

【売り手側】M&Aのメリット

会社を売却することで、事業の成長や従業員の雇用確保といったさまざまなメリットを得られます。ここでは、売り手側(会社を譲渡する側)が、M&Aを実行することによって受けられる3つのメリットを解説します。

事業の拡大が期待できる

M&Aは、会社全体を譲渡するとは限りません。M&Aにより、買手企業の経営資源を得て、事業拡大につながることがあります。売却することで、買い手側から資金や情報などの経営支援を受けることも可能でしょう。

採算が取れていない一部の事業のみ譲渡し、事業の整理をすることで、主力事業を成長させる戦略を取るのも手法のひとつです。このような「選択と集中」は、会社の業績向上や経営の効率化に有効でしょう。

従業員の雇用が守られる

会社が廃業に追い込まれてしまうと、その会社で働く従業員の雇用が危ぶまれます。経営不振や後継者問題によって存続が難しくなった場合、M&Aで売却すれば、買手企業によって従業員の雇用が守られるでしょう。自社を支えてきた従業員の今後の生活を担保できるのは、M&Aの大きなメリットです。

ただし、買手企業はM&Aの目的が人材の確保ではない可能性もあります。従業員の雇用確保を目的にM&Aを実行するなら、売却の条件として自社の従業員を雇い入れてもらうことも明示しておくといいでしょう。

売却益(キャピタルゲイン)を得られる

自社を売却すると、対価として現金または株式を受け取れます。負債や借金を抱えている場合は、その返済に充てられたり、事業を立て直す資金として使えたりするでしょう。事業全体を売却し、経営者が引退後の生活資金に充てるのもおすすめです。

また、一般的に会社を廃業すると、従業員に対する保障や在庫商品の処分費用など、さまざまな手続きや処理にお金がかかります。M&Aで得られる売却益は、廃業を検討していた場合の手助けにもなるでしょう。

【売り手側】M&Aのデメリット

M&Aによって起こりうる売り手側(会社を譲渡する側)の主なデメリットは、「適切な評価がされないおそれがある」「従業員の不安や混乱を引き起こすおそれがある」の2つです。それぞれについて詳しく解説します。

適切な評価がされないおそれがある

M&Aは、必ずしも売手企業の希望価格で実施できるとは限りません。買手企業の候補が見つかったとしても、自社を適切に評価してもらえないおそれがあります。会社の価格は、将来を通してどれほど利益を獲得していけるかという観点も考慮に入れられます。もし、将来性がないと判断されてしまえば、企業価値は下がってしまうでしょう。

適切な評価をしてもらうためには、技術力の強化や設備投資をしておくといいでしょう。企業価値を高め、希望価格で売却できるようにすることもM&Aを成功に導くポイントのひとつです。

従業員の不安や混乱を引き起こすおそれがある

売手企業の従業員はM&Aが成立すると、買手企業の従業員として働くことになります。雇用は守られますが、労働条件や仕事内容が変わるため、不安に感じたり混乱を起こしたりするおそれがあります。

とくに企業や経営者に愛着を持って働く従業員であれば、勤めている会社が売却することでモチベーションは低下してしまうでしょう。従業員が一斉に離職すれば業績は悪化しやすくなり、場合によっては買手企業から責任を問われることも考えられます。従業員に対してM&Aの説明をしたり、買手企業へ労働条件が悪化しないよう交渉したりするなどの対策を取るといいでしょう。

【買い手側】M&Aのメリット

M&Aにおける買い手側(会社を譲り受ける側)の主なメリットは、「経営資源を素早く調達できる」「事業の多角化・弱点強化ができる」「既存事業とのシナジー効果が期待できる」です。経営上で関わるメリットの詳細について、チェックしてみましょう。

経営資源を素早く調達できる

既存事業の成長や新規事業の立ち上げを検討する場合、技術開発や人材教育など、さまざまな経営資源を調達する必要があります。しかし、M&Aを実行すれば、目指している事業を有する企業の経営資源を素早く譲り受けられるのです。

経営環境の変化が激しい現代においては、新しい分野へ参入するうえでスピードが重要になります。時間と労力を大幅に削減するのであれば、M&Aを活用するのがおすすめです。

事業の多角化・弱点強化ができる

既存事業の強化だけでなく、市場ニーズに合わせて新しい事業を始めることを「事業の多角化」といいます。自社でゼロから立ち上げるよりも、M&Aによって実績のある既存の事業を買収するほうが、低リスク且つ短時間で事業化できるでしょう。

また、不採算事業のような弱点がある場合は、その分野に強い企業を買収することで、効率よく弱点を強化することも可能です。M&Aは強みを伸ばすだけでなく、弱みを補強するうえでも有効な手段となります。

既存事業とのシナジー効果が期待できる

M&Aを実施すると、2つ以上の企業が組み合わさる相乗作用により、目的以上のシナジー効果を期待できます。買収によって事業や売上が拡大されるだけでなく、重複している事業を統合することで生産性が向上したり、譲り受けた取引先のつながりで新しい販路を開拓できたり、さまざまな可能性が広がります。

たまたま得られるメリットもありますが、シナジー効果を享受するために、売手企業をしっかりと見定めることも重要です。買収という企業の経営にとって大きな行動を取るのであれば、シナジー効果も見込める企業を選ぶといいでしょう。

【買い手側】M&Aのデメリット

買い手側の主なデメリットは、「多額の資金が必要となる」「未知のリスクを引き受ける可能性がある」「従業員のモチベーションの低下が起きる可能性がある」の3つです。

多額の資金が必要となる

企業を買い取るには、多額の資金が必要不可欠です。大企業はもちろんのこと、中小企業であっても独自の技術のような希少性の高い価値を持つ企業は、買取金額が高額になる傾向があります。

M&Aは成功が保証されているわけではないため、合併したところで想定していた利益を出せないこともあるでしょう。もし、M&Aに宛てた資金が回収できなければ、損失として計上する手続きも必要になります。事業統合後の利益をできるだけ正確に見込み、M&Aの目的に沿った企業を、妥当な金額で買い取れるようにするのが重要です。

未知のリスクを引き受ける可能性がある

売手企業には、偶発債務や簿外債務といった未知の債務を抱えている可能性があります。偶発債務とは、企業が製造する商品に対する訴訟が起こるなど、後から発生する可能性のある債務のことです。また、簿外債務とは、未払い給与・賞与・退職給付引当金などのことです。

M&Aが成立した後に発覚し、想定外の債務を引き継いでしまうケースもあります。多額の訴訟に巻き込まれるリスクもあるため、貸借対照表で現時点の負債を確認するだけでなく、財務・税務・労務等の状況調査が求められます。

従業員のモチベーションの低下が起きる可能性がある

M&Aが成立すると、売手企業の従業員は買手企業の従業員となり、双方の従業員がともに働くようになります。そのため、元いた売手企業よりも待遇が悪くなることで不満を抱いたり、別々の環境で仕事をしてきた従業員同士で衝突したりすることもあるでしょう。

また、従業員同士の衝突は、モチベーションの低下につながります。業績が下がったり、優秀な人材が離職してしまったり、負の連鎖が起きるおそれもあります。売手企業に在籍していた従業員には事前に待遇面の説明をし、従業員同士の衝突を避けるために事前に人事交流をしておくのがおすすめです。

M&Aが失敗する原因

M&Aは、交渉途中で破談して成立できなかったり、想定外のリスクが発覚したりするなど、失敗してしまうケースもあります。失敗の原因となる要素3つを解説するので、しっかり把握して失敗を回避できるようにしましょう。

明確な目的や目標がないままM&Aを実行しようとする

明確な目的や目標がないと、M&Aは失敗に終わる可能性があります。M&Aの成立自体を目的にしてしまうケースもあるでしょう。M&Aは、事業拡大や後継者問題の解決など、企業の明るい未来へ導くための手段にすぎません。

事業統合後のビジョンを明確にし、目的達成のための計画を立てたうえで、M&Aの実行を進めるのがおすすめです。目的を明確に設定するのが難しければ、M&Aの専門家に相談することも視野に入れるといいでしょう。

事前に情報が漏洩してしまう

企業の重要な情報の漏洩は、取引の停止や経営資源の流出など、さまざまな悪影響を及ぼします。売手企業はとくに情報を慎重に取り扱う必要があり、情報漏洩すると買手企業からの信頼を下げてしまうリスクもあります。

場合によっては交渉が破談して失敗に終わったり、法的措置を取られたりするケースも否めません。そうならないためには、M&Aに関わる担当者は最小限にとどめておき、M&A会社は情報管理を任せられる信頼性の高い会社を選ぶようにしましょう。

M&Aに必要な書類や情報が揃わない

売手企業の株主が保有する株式を、買手企業に譲り渡す方法によるM&Aでは、株券や株主名簿は事前に整備しておく必要があります。また、売手企業の将来性や健全性を調査する「デューデリジェンス」においては、取引先との契約書や税務申告書類といった書類が揃っていないと、監査に進めなくなります。

上記のような重要書類が揃わず、取引がつまずいてしまうと、買手企業からの信用を失って交渉が決裂するリスクもあるでしょう。M&Aを進める前に、書類の作成と徹底した管理を行うようにしてください。

代表的な日本企業によるM&Aの事例

ここでは、日本企業による代表的なM&Aの成功事例を2つ紹介します。買収金額やM&A後どのように成長しているのかについて、解説しています。

パナソニックヘルスケアの売却

「パナソニック」は、2013年9月に子会社である「パナソニックヘルスケア」を、アメリカの資産運用会社「KKR」に譲渡しました。パナソニックヘルスケアの発行済株式の全てを売却し、パナソニックは750億円の売却益を獲得しています。

パナソニックはコア事業ではないパナソニックヘルスケアを売却することによって資金を確保し、事業の成長と再上場を目的にM&Aを行いました。パナソニックヘルスケアは、その後KKRからの資本で独立し、2021年には上場も果たしています。

参考:パナソニック株式会社「パナソニック株式会社とKKRによるパナソニック ヘルスケア株式会社の株式譲渡契約締結および共同持株会社設立に関するお知らせ」

ビックカメラによるエスケーサービスの買収

2018年7月、「ビックカメラ」は一般貨物運送業の事業を行う「エスケーサービス」を完全子会社化するM&Aを行いました。ビックカメラは、デジタル家電や白物家電を販売する会社です。実店舗での販売に加えてインターネットでの通信販売も強化するべく、大型家電の配送設置に強みを持つエスケーサービスを買収したのです。

このM&Aにより、ビックカメラは家電を販売するだけでなく、配送から取り付け工事に至るサポートまでできるようになりました。サービスおよび顧客満足度の向上という目的を果たした成功事例です。

参考:株式会社ビックカメラ「簡易株式交換による株式会社エスケーサービスの完全子会社化に関するお知らせ」

中小企業のM&Aを検討する際の注意点

中小企業では、とくに後継者不足によって廃業することを回避するために、事業承継目的でM&Aを行う傾向があります。ただし、中小企業のM&Aならではの注意点があります。ここでは、2つの注意点について解説し、M&Aを進めるうえで対応すべき内容をチェックしてみましょう。

正確な評価額を算出することが困難(非上場の場合)

M&Aにおいて、評価額を算出するうえで基準となる相場はありません。上場企業であれば「株価」が一定の指標になりますが、非上場企業は市場に上場していないため、指標がなくて評価額の算出がとくに難しくなります。

買手企業に低価格で買われないよう、自社の価値を正確に算出することが重要です。算出方法は大きく分けて、資産を元に算出する「資産方式」と、収益を元に算出する「収益方式」があり、どちらの要素も取り入れた「併用方式」を使うこともあります。会社の価値を算出するのは難しいため、M&Aの専門家に相談しながら進めるといいでしょう。

必要な情報が揃っておらず長期化する可能性がある

売手企業の将来性や健全性を調査するために、「デューデリジェンス」という監査が行われます。買手企業はM&Aの相手先としてふさわしいのかをチェックしたいため、これまで開示していた以上の資料を求められることもあるでしょう。

作成していなかった資料を提示する必要がある場合、準備に時間がかかって長期化する可能性があります。事前にM&A会社に相談しておき、必要になるであろう資料はあらかじめ用意しておくといいでしょう。

メリット・デメリットを理解してM&Aを成功させよう

M&Aには、売り手側・買い手側にそれぞれメリットとデメリットがあります。売り手側であれば、事業の拡大・従業員の雇用確保・売却益の獲得がメリットになり、企業の評価や従業員のメンタルにおいてデメリットがあります。

買い手側には、経営資源の調達・事業の多角化・シナジー効果といったメリットが期待でき、デメリットとしては多額の資金や債務などのリスク、従業員のモチベーション低下が懸念されるでしょう。

自社の立場に合わせてメリット・デメリットをきちんと把握し、リスクを回避できるよう事前の準備や対策をしておくのがおすすめです。


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