- 更新日 : 2024年8月8日
日産を「年収1000万円」の家計に例えたら分かる、監査法人がゴーン氏不正を見逃した理由
カルロス・ゴーン氏の逮捕劇から10日が経ちました。日産自動車の有価証券報告書に、自身の報酬を約50億円過少に記載した疑いが持たれているゴーン氏。世界を股に掛けるカリスマ経営者のスキャンダルだけに、国内外で報道もヒートアップしています。
その標的は日産とルノーだけでなく、「不正を見抜けなかった」として日産の監査を担当したEY新日本監査法人にも及んでいます。
会計士「不正を見抜くのは難しかっただろう」
なぜ監査法人は不正を見抜くことができなかったのでしょうか。上場企業の監査の経験がある公認会計士のAさんは、「監査法人が不正を見抜くのは難しかっただろう」と指摘します。
「そもそも監査は、会社の状況や業種によって、『売上や利益の〇%以下の数字は細かくみない』などのルールを設けていることがあります。
例えば、日産は2017年度の売上が11兆9,512億円にも上ります。このうち、同年のゴーン氏の役員報酬7億3,500万円の割合は0.006%です。毎年高額だと話題になるゴーン氏の役員報酬でさえも、割合にすると0.01%にも満たないのです。
売上額の大きい企業だと、細かい数字まで追っていくときりがないので、監査のレベルを落とす部分がどうしても出てくるのです」(Aさん)
日産の売上を「年収1,000万円家計」に例えると…
日産の年間売上を「給与収入1,000万円の家計」に例えると、より数字のコントラストがはっきりすると言います。
「日産の2017年度の有価証券報告書をもとに、売上を『給与収入1,000万円』に換算すると、次のような表になります。
表から分かるとおり、ゴーン氏の役員報酬は615円に相当します。想像よりも少なく感じた方が多いのではないでしょうか。
また、ゴーン氏は2010~14年度までの5年間で報酬約50億円を過少記載していた疑いが持たれていますが、これを換算すると4,184円に相当します。
◆毎年の貯金額は64万円
◆ゴーン氏の役員報酬は615円
◆5年間で50億円の過少記載は4,184円 に相当する。
監査法人を擁護するわけではないですが、年収1,000万円の家計のうち約4,000円がへそくりになっているのを気付くのは難しい、ということは想像できます。
さらに、その4,000円がちゃんとした名目で処理されていたら、監査法人としてはさらに企業を追及することは難しいという実情があるのです」(Aさん)
監査法人は日産に疑義指摘していた
また、新聞各社の報道によると、EY新日本監査法人は2011年頃から日産に対し、オランダの子会社の「実態が不透明」などと複数回指摘していたそうです。
「資金の流れが不透明だと指摘していたそうですが、日産側は問題ないとしていたそうですね。
先ほどの内容と重複しますが、基本的に、監査はその企業の内部統制がしっかり機能していることを前提にしています。企業側から正当な理由を述べられると監査法人としてはそれ以上の追及ができなくなるのです。
とはいえ、第三者の立場から上場企業の監査を行うことを法律で唯一認められているのが公認会計士ですから、“外部の目”としてチェック機能は強化していかなければなりません。
監査法人や公認会計士は、会計基準・監査基準等の法規知識に加えて、経験豊富な経営者と適切にコミュニケーションをとれるだけのビジネスの知識・経験を身につけることが必要になるでしょう」(Aさん)
参考|日産自動車株式会社 第119期(自平成29年4月1日 至平成30年3月31日) 有価証券報告書
https://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FR/2017/fr2017.pdf
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
税務調査対象に選ばれにくい申告のポイント
事業を行っている法人や個人などの納税者を対象に、税務署や国税局による税務調査が行われることがあります。対象に選ばれると調査のための準備をしなくてはならないため、通常の業務への影響も考えられるでしょう。こうした税務調査対象に選ばれにくくするた…
詳しくみる倒産防止共済の別表10(7)の書き方・記載例は?掛金の損金算入に必要
倒産防止共済(正式名称:中小企業倒産防止共済制度)は、中小企業者等が取引先の倒産リスクに備えるための共済制度です。この共済掛金として会社等が拠出した金額は、法人税法上損金となり、確定申告ではこの拠出金に関して別表10(7)の提出が求められま…
詳しくみる不動産業の会計・経理業務
不動産の経理業務は、言葉にすると非常にハードルが高そうに思えます。賃料はまだ良いとしても敷金や礼金、滞納や前納の仕訳のタイミング、さらには消費税が課税されるかどうかの基準など、分からないことが多数あるでしょう。 今回は不動産業の経理業務を担…
詳しくみる収益認識基準の注記は何を記載する?項目ごとに記載例を紹介
収益認識基準の導入によって、対象となる企業は計算書内に新たに追加された注記の記載を求められるようになりました。その一方で、具体的にどういった内容を記載すればよいのか、そもそも記載の仕方がわからないという方もいらっしゃるでしょう。 この記事で…
詳しくみる【これは軽減税率?】キッチンカーで買った食事。近くのベンチで食べるなら消費税どうなる?
2019年10月1日からスタートした消費税の軽減税率制度。主に「飲食料品」は消費税軽減税率8%の対象になりますが、飲食のシチュエーションなどによっては適用対象になりません。 本シリーズ『これは軽減税率?』では、事業者のみなさんが軽減税率につ…
詳しくみる消費税増税にともなうキャッシュレス決済でポイント還元!活用するには?
2019年10月1日より、消費税率が2%引き上げられ、10%になります。この消費税増税によって懸念されるのが、需要の変動。こうした需要変動を抑制するために、消費税増税とともに実施予定なのが、キャッシュレス決済によるポイント還元です。どういっ…
詳しくみる