• 更新日 : 2021年6月11日

融通手形とは?仕組みや危険性についてわかりやすく解説!

融通手形とは?仕組みや危険性についてわかりやすく解説!

融通手形とは、どのような仕組みなのでしょうか?
簿記の教科書にもあまり出てこない融通手形。ほとんどの場合には、資金調達のために利用するのですが、使い方によっては危険を伴います。
この記事では、融通手形の見分け方や抗弁についても解説します。

融通手形とは

融通手形とは、実際の商取引がないにもかかわらず、資金調達のために振り出される手形のことをいいます。

手形には、約束手形為替手形があります。
約束手形は、手形の振出人が一定の金額の支払を約束するもので、為替手形は振出人と支払人が異なる手形となります。どちらの手形も現実の取引の決済に利用されるもので、決済手段としての手形という位置づけです。これらは商業手形と呼ばれます。

一方、現実の取引がないにもかかわらず、資金調達目的に振り出される手形を「融通手形」と呼びます。すなわち融通手形とは、現金を必要とする者が融通してくれる者から、債務がないのに振り出してもらう手形となります。
そして、期日前の手形を金融機関などで売却し現金化する「手形割引」を利用して、早期の資金調達を図るのが「融通手形」と呼ばれる仕組みです。
「融通」という言葉の中には、必要となるお金を一時的に都合することも含まれていることから、「融通手形」とされます。

融通手形の仕組み

融通手形には、さまざまな形式があります。大別して、融通者(手形発行者)が資金を必要とする者に一方的に手形を振り出す一方手形と、双方が互いに手形を発行し合う双方手形があります。

ここでは一方手形について、その仕組みを説明します。

【融通手形(一方手形)イメージ】

融通手形(一方手形)イメージ
① 資金が必要なXはすでに信用が低下し、金融機関からの融資が受けられない。
 金融機関に信用のある融通者Yに手形の振り出しを依頼する。

② 融通者は仕事上のつながりのあるXに対し、約束手形を振り出す。
(手形の概要)
手形受取人:X、振出人:Y融通者、支払場所:Z金融機関、支払期日〇月×日

③ Xは、Yの振り出した手形をZ金融機関に持参し、手形を割り引く(手形の期日前に現金化する)。

④ Z金融機関は割引料を差し引き、Xの口座に手形金額を振り込む。

⑤ Xは、手形の満期日までに融通者Yに手形金額を返済する(Yの口座に振り込む)。

⑥ 手形の満期日(〇月×日)において、手形が決済される。

ここで、⑤においてXがYに手形の金額を返済することができれば問題はありません。
また、③の手形の割引はその手形が支払不能になった場合には、振出人であるYは金融機関から手形の買い戻し(手形金額の支払)を求められます。金融機関は他の預金内容もわかっているので、預金残高と相殺して精算する場合もあります。

融通手形の危険性

なぜ、資金調達をするのに金融機関から直接借りずに、手形を振り出すのでしょうか?
残念ながら融通手形の多くは、金融機関からの借入ができなくなった企業が、資金繰りのために利用する場合が多いのです。
金融機関に融資を申し込んでも、信用のない企業は審査に通らないため、現金が必要な企業間で融通手形を振り出し合い、当面をしのぐということになります。

また、融通手形の場合は、融通者は手形を振り出すだけであり、融通者に手形の金額について請求が行かないよう、資金調達者は期日までに必ず借りた分を返済しなければなりません。融通者に請求が行くということは、資金調達者側の「裏切り」行為となります。
そのために再度、他の人に融通手形を振り出してもらって一時しのぎをするという悪循環に陥ることがあります。
悪循環の中で次第に手形の金額は大きくなり、資金を必要とする者は破綻する可能性があります。
そうなると、融通者も振り出した手形が不渡りとなって、倒産の危機に追い込まれます。

融通手形による資金調達事例

融通手形による資金調達事例として、交換手形と手形借入を紹介します。

交換手形

交換手形とは、資力のない者どうしの資金調達方法です。双方手形に分類されます。
うまくいけば、両者とも一時的に資金調達が可能ですが、どちらかが行き詰れば、自分の振り出した手形だけでなく、相手の分をも被る危険性があります。馴合(なれあい)手形とも呼ばれます。

【融通手形(交換手形)イメージ】

融通手形(交換手形)イメージ

① ともに資金を必要とするXとYが、相互に手形を振り出します(金額及び支払期日は同一)。
この場合、X、YはそれぞれQ金融機関、P金融機関から手形が割り引ける状態であることが条件です。

② X、YはそれぞれP金融機関、Q金融機関で手形を割り引きます。

③ X及びYの当座預金口座に割引料を差し引いた手形金額が振り込まれます。

④ 手形の満期日には、X、Yそれぞれの振り出した手形が決済されます。

交換手形の場合は、どちらか一方が決済できない(不渡りになる)と、他方は自分の振り出した手形を自分で決済しなければなりません。
さらに、相手が振り出し、銀行に割引してもらっていた手形が不渡りになれば、銀行からは、割引した手形を買戻すよう要求されます。つまり、振り出した手形の2倍の金額が必要となります。

手形借入

手形借入は、金融機関から資金調達する際、借用証書ではなく自分宛ての約束手形を振り出して資金を調達する方法です。手形を担保として、手形額面から利息分を差し引いた金額を受け取ります。
借用証書ではなく、手形での借入は主に1年以内の立替資金調達によく利用されています。
手形借入の借主は、受注金額が記載された契約書などを根拠に借入を依頼しますので、他の融通手形とは異なり、リスクは低いと言えます。

【融通手形(手形借入)イメージ】

融通手形(手形借入)イメージ

① 資金が必要なXは、自らを振出人とした手形を金融機関に持ち込み、割り引く。

② 金融機関は、Xの当座預金口座に割引料を差し引いた手形金額を振り込む。

③ 手形の満期日に手形が決済される。

融通手形を簡単に見分ける方法

ひと口に融通手形と言っても、さまざまな融通手形があります。
上記で説明した「手形借入」の場合には、手形そのものを見れば分かります。手形受取人と手形振出人が同じ者になっているからです。
しかしながら、手形借入の場合は交換手形のようなリスクを孕んでいるとは言えません。

では、金融機関はどのようにしてその手形が、実取引に基づく手形なのか、実取引のない融通手形なのかを見分けるのでしょうか?長年の経験によって勘を養ってきた、熟練した銀行員が見極める世界とも言えますが、次のような矛盾点からも見分けることができます。

  • 振出人と受取人の業種や関係性からみて、商取引があるとは考えられない
  • いつもの振出人から見て、振出日、支払期日(サイト)、金額が異なる
  • いつもの取引では金額に端数があるのに、500万円、800万円などと金額が大きく、端数がない
  • いつもの支払銀行を使っていない、振出地と支払地が遠隔地である など

融通手形の抗弁とは

融通手形においては、もともと資金繰りに苦しむXが手形の支払期日までに、融通者に返済できるかどうかがポイントとなります。(下図⑤)

金融機関は満期日までに入金を求めますが、融通者Yは下図⑤の返済がなければ支払えません。
融通者が金融機関に手形の支払を拒むことができる権利のことを「手形の抗弁」と言います。

ここでは、Zが下図④において手形を割り引く際に、この融通手形では支払期日までにYが支払を拒むことを確信していれば、YはZに対して支払を拒むことができるのです。
これは「人的抗弁」と呼ばれるものですが、融通手形がXとYとの人的関係に基づき発行されたものであるため、手形の譲受人であるZは手形面上では融通手形かどうかは判断が難しいです。
なお、Zがこのような抗弁の対抗を受けないために、「人的抗弁の切断」という制度もあります。
融通手形

融通手形の利用は危険!他の資金調達方法を検討しましょう

資金繰りが苦しいときは、さまざまな調達方法を考えますが、融通手形は無理を聞いてくれて、手形を振り出してくれる相手がいれば、比較的早く現金化ができる仕組みではあります。
しかし、手形とはそもそも「信用取引」に基づいて、商取引を円滑、活発にするためのものです。
長年にわたり培ってきた信用を、安易な融通手形の利用により台無しにすることも十分考えられます。

日頃の資金繰り計画をしっかりとして、資金ショートが起こりそうな状況を少しでも早目に察知し、できるだけ安全な資金調達方法を検討する。そういった地道な努力が肝要です。

よくある質問

融通手形とは?

実際の商取引がないにもかかわらず、資金調達のために振り出される手形のことです。 詳しくはこちらをご覧ください。

融通手形の種類は?

さまざまな形態がありますが、一方的に手形を振り出す一方手形と、双方が互いに手形を発行し合う双方手形などに分けられます。 詳しくはこちらをご覧ください。

融通手形は避けた方がよいか?

融通手形の振り出しを依頼されても、大きなリスクを背負うことになるため避けた方がよいでしょう。 詳しくはこちらをご覧ください。


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