- 更新日 : 2025年2月20日
自己株式とは?取得・消却のメリットや制限、手続きをわかりやすく解説
上場企業では、比較的頻繁に行われている自己株式の取得や消却ですが、中小企業でも自己株式の取得や消却を行う会社が増えてきました。それは、自己株式の取得や消却にさまざまなメリットがあるためです。しかし、自己株式の取得には制限もあります。
ここでは、手続きや会計処理も含め、自己株式についてわかりやすく解説します。
目次
自己株式とは
自己株式とは、株式会社が発行する株式のうち、自社で取得した上で保有している株式のことを指す言葉です。「金庫株」と呼ばれることもあります。
かつては、インサイダー取引や株価操縦といった悪用を防ぐために、自社株の取得は法律で原則的に禁止されており、消却やストックオプションといった特定目的に限って認められていました。しかし、2001年の商法改正によって解禁され、無制限かつ無期限の保有が認められるようになりました。
自己株式は再交付や消却も認められており、現在では機動的に自社株の買取を行うことができるようになりましたが、従来懸念されていたような悪用を防ぐためのルールも明確に設けられており、一日に注文できる数量や値段などは制限されています。
自己株式の取得とは
自己株式の取得とは、発行した株式を発行した会社自身が取得することです。一般的には、上場企業の場合は市場で不特定多数からの購入により自己株式を取得することが多く、非上場企業の場合は特定の株主からの購入により自己株式を取得することが多いです。
自己株式を取得することで、株式の発行数を減らすことと同じ効果を得ることができます。
自己株式の消却・消去とは
自己株式の消却(消去)とは、会社が所有する自己株式を消滅させることです。自己株式の消却を行うと、その分、会社の発行済株式総数が減少します。
自己株式の消却は、発行済株式の数を適切にする目的などで行われます。会社の発行済株式総数が減少するため、その旨の登記をしなければいけません。
また、自己株式の消却をする場合は、取締役会の決議や取締役の過半数の決定などが必要になります。
自己株式の処分とは
自己株式の処分とは、会社が所有する自己株式を売却することです。自己株式の処分は、資金調達をスムーズにしたり、企業再編を行うことなどを目的に行われます。自己株式の消却(消去)との違いは、発行済株式総数が減少しないことです。
株式処分を行う場合は、新株発行による手続きが必要となります。
自己株式と自社株の違い
自己株式は、企業が市場や株主から買い戻した自社の株式であり、議決権や配当を受ける権利がありません。ただし、将来的には再度市場に売却することができます。一方、自社株は企業が発行した全ての株式を指し、自己株式を含む場合もあります。通常、自社株の株主には議決権と配当を受ける権利があります。まとめると、自己株式は企業が買い戻した株式で議決権や配当権がなく、自社株は発行済みの全ての株式を指し、株主には議決権と配当権があります。
自己株式を取得する意味
ここからは、自己株式を取得する意味を見ていきましょう。
持ち株比率を下げないため
株式会社にとって、重要な事項のひとつに敵対的企業からの買収対策があります。既存の株主の持ち株比率が下がれば、それだけ敵対的企業が購入できる株が多く、買収されやすいことを意味します。
自己株式を取得することで、発行済み株式数を減少させ、持ち株比率を高めることができます。
M&Aの対価として利用するため
他の企業を買収するためには、その企業の株式を購入する必要があります。実は、株式の購入の対価は、現金等だけでなく自己株式でも問題ありません。いざM&Aを行う際に、事前から取得しておいた自己株式を使うことで、資金を用意する必要がなく、企業再編をスムーズに行うことができます。
株価対策をするため
自己株式を取得すると、市場に出回る株式の数が減少します。市場に出回る株式の数が減少すると、株式の需要に対して供給が減ることになるので、相対に株価が上がります。株価が上がることで、株主からの高評価を得たり、経営指標の改善をすることができます。
事業承継対策をするため
後継者に株式を引き継ぐ際、後継者は株式を購入したり、相続や贈与の場合は税金の納付が発生したりするなど、多額の資金が必要となります。
後継者から会社が株式を取得し、自己株式とすることで、後継者は持ち株が減るものの、資金を得ることができます。
自己株式取得のメリット
自己株式のメリットはいくつかあります。以下に主要なポイントを挙げます。
- 株価の安定化: 企業が自己株式を買い戻すことで、株価を支える効果があります。特に株価が低迷しているときに買い戻しを行うことで、株価の下落を抑制することができます。
- 株主への利益還元: 自己株式の買い戻しは、株主に対する利益還元の一環として行われることが多いです。買い戻しによって発行済み株式数が減少し、一株当たりの利益(EPS)が向上します。これにより、残りの株主に対する価値が高まります。
- 資本構成の最適化: 企業は自己株式の買い戻しを通じて、資本構成を最適化することができます。余剰資金を効率的に活用し、資本コストを削減することが可能です。
- 柔軟な資金運用: 自己株式は将来的に再度市場に売却することができるため、企業にとっては柔軟な資金運用手段となります。必要な時に資金を調達できるオプションとして利用できます。
- 敵対的買収の防止: 自己株式の保有により、敵対的買収を防ぐことができます。買収者が市場から株式を集めるのを困難にする効果があります。
自己株式取得のデメリット
しっかりと特性を把握した上で活用すればデメリットはほとんどありません。ただし、自己株式を取得すると、会社の資金が減少します。自己株式は他の資産のように譲渡や売却ができないため、資金に余裕のない会社の場合は慎重に行う必要があるでしょう。
自己株式取得の手続き
自己株式の取得には、大きく分けて、不特定多数から取得する方法と特定の株主から取得する方法の2つがあります。
自己株式の取得では原則、株主総会の決議が必要です。不特定多数から取得する方法の場合は、株主総会の普通決議を行います。株主総会の普通決議では、出席議決権の過半数の賛同を得れば、議決されます。
特定の株主から取得する方法の場合は、株主総会の特別決議を行います。株主総会の特別決議では、出席議決権の2/3以上の賛同を得れば、議決されます。特定の株主から取得する方法の方が、ハードルが高くなります。
株主総会の決議後は、取締役会で取得する株式の数や期日などを決議します。
自己株式取得にかかる制限
自己株式の取得は原則、財源規制を課しています。自己株式取得にかかる財源規制とは、簡単にいうと、自己株式の買い取りに上限を設けているということです。
具体的には、「買い取り時点」の「分配可能額の範囲内」でのみ、自社株を買い取ることができます。分配可能額の計算は複雑ですが、おおむね「その他資本剰余金の額+その他利益剰余金の額」となります。
ただし、次のようなケースでは、自己株式取得にかかる財源規制はありません。
- 単元未満株式の買取請求に応じる場合
- 無償取得する場合
- 他の会社の事業の全部を譲受により取得する場合
- 吸収合併や吸収合併による承継の場合
自己株式の会計処理
ここからは、自己株式の会計処理を具体的に見ていきましょう。
自己株式を取得したとき
取得した自己株式は純資産に属する「自己株式」の勘定科目で処理します。自己株式は、株主資本の控除項目として貸借対照表に表示されます。
(例)自己株式1,000,000円を現金で取得した。
借方 | 貸方 |
---|---|
自己株式 1,000,000円 | 現金 1,000,000円 |
自己株式を消却したとき
自己株式を消却した場合は、「自己株式消却損」の勘定科目で処理します。自己株式消却損は、「その他資本剰余金」または「その他利益剰余金」のマイナス項目になります。
(例)保有している自己株式600,000円を消却した
借方 | 貸方 |
---|---|
自己株式消却損 600,000円 | 自己株式 600,000円 |
自己株式消却損は「その他資本剰余金」で処理しますが、「その他資本剰余金」から控除しきれない場合は「繰越利益剰余金」で処理しても問題ありません。
自己株式を処分したとき
自己株式を処分した場合、保有している自己株式と売却価格に差額が生じます。その差額は「自己株式処分差損」「自己株式処分差益」で処理します。
「自己株式処分差損」「自己株式処分差益」は「その他資本剰余金」または「その他利益剰余金」の科目になります。
(例)帳簿価格400,000円の自己株式を500,000円で処分した。処分代金は、当座預金に振り込まれた
借方 | 貸方 |
---|---|
当座預金 500,000円 | 自己株式 400,000円 |
自己株式消却損 100,000円 |
自己株式処分差益、自己株式処分差損は「その他資本剰余金」で処理しても問題ありません。
自己株式処分差損の場合で、「その他資本剰余金」から控除しきれない場合は、「繰越利益剰余金」で処理しても問題ありません。
自己株式についてご理解いただけましたでしょうか?
自己株式の取得は、大企業だけが行うものではありません。事業承継で利用することもできるなどの理由で、中小企業であっても、自己株式を取得することは十分考えられます。
自己株式の取得には、手順や制限、会計処理などを考慮する必要があります。自己株式について理解し、正しい処理をするようにしましょう。
よくある質問
自己株式とは?
株式会社が発行する株式のうち、自社で取得した上で保有している株式のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
自己株式を取得する理由は?
「持ち株比率を下げないため」「M&Aの対価として利用するため」等があげられます。詳しくはこちらをご覧ください。
自己株式取得にかかる制限は?
自己株式の買い取りに上限を設けているということです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
出張の稟議書の書き方は?テンプレートや例文でポイントが分かる!
出張の稟議書とは、出張に際して日程や予算の承認を得るために作成する書類です。日時や交通手段は最適か、経費は予算の範囲内かがチェックされます。 本記事では、出張の稟議書を作成するケースや書き方、例文を紹介します。出張の稟議書作成に活用できるテ…
詳しくみるIFRS(国際会計基準)とJGAAP(日本会計基準)の違いは?具体例でわかりやすく解説
IFRSとJGAAPの違いは、企業の財務報告における売上や貸借対照表の表示方法などが挙げられます。この記事では、収益認識や営業利益などの具体例を交えながら、IFRSとJGAAPの違いをわかりやすく解説します。 IFRS(国際会計基準)とは …
詳しくみるクラウドが描く未来。東欧の小国エストニアから税理士が消えたわけ
確定申告のシーズンを終え、多くの人が会計の世界に触れ、改めて、確定申告は面倒だと感じた方も多いのではないでしょうか。実は、世界には確定申告をする必要がない国があります。 もちろん、政府が機能していないわけではありません。ヨーロッパの東欧、バ…
詳しくみる持ち帰りとイートインスペース利用、軽減税率の適用基準や罰則は?
2019年10月、消費税が10%に上がるにともない、生活に密接にかかわる飲食物については、そのほとんどが現行の消費税のまま8%に据え置かれる、軽減税率の措置が取られることが決まっています。 しかし、同じ飲食物でもすべてが対象になる訳ではあり…
詳しくみる軽減税率対策補助金は3種類 対象者や申請期限を解説
2019年10月1日より、消費税が8%から10%に引き上げられます。そこで多くの事業者の頭を悩ませているのが増税とあわせて導入される軽減税率です。 軽減税率によって一部品目は消費税8%に据え置きされるため、これまで一律だった消費税率が8%と…
詳しくみる同族会社とは?判定要件を正しく理解するための基礎知識
ここでは、同族会社の定義、同族会社に対する3つの制限について説明いたします。 同族会社とは何か 会社の株主の3人以下、並びにこれらと特殊な関係にある個人や法人が議決権の50%超を保有している会社をいいます。具体的には、保有している株式や出資…
詳しくみる