• 作成日 : 2019年12月23日

社会保険・労働保険に関わる手続きが電子申請義務化! 準備はできていますか?

令和2年4月1日より、社会保険・労働保険に関わる手続きの一部において、電子申請で行うことが義務付けられます。まずは、一定規模以上の企業に限ってスタートを切ることになりますが、いずれはすべての企業が対象となるものと予想されています。来る電子申請義務化に向けて、準備はできていますか?

いつから?どんな企業が対象?

特定の法人においては令和2年(2020年)4月1日から

平成28年6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」を踏まえて発表された「規制改革実施計画」(平成29年6月9日)では、行政手続きのコストを令和2年までに20%削減することが盛り込まれました。
行政手続きを簡素化させる3つの原則の1つとして「行政手続の電子化の徹底」というものがあります。それを受けて、厚生労働省でも社会保険・労働保険に関する手続きを電子申請で行うことを義務化するとして、「『行政手続コスト』削減のための基本計画」(以下、「基本計画」)の再改定を行いました。
「基本計画」によると、これまでは紙媒体、CD・DVDおよび電子申請のいずれかを選択できる仕組みでしたが、それが電子申請推進の阻害要因であると分析しています。企業側は、これまで利用し慣れている紙媒体を選ぶことが圧倒的に多く、各種手続きにおいて紙媒体の利用率は実に全体の90%以上にのぼっています。しかも紙以外も選択できるとしているため、CD・DVDや電子申請にも対応しなければならず、さらに処理が煩雑になっているのが現状のようです。そこで、手はじめに特定の法人の手続き方法を電子申請に統一しようということになったのです。

特定の法人とは?

令和2年4月1日から電子申請が義務化されるのは、以下の特定の法人です。
1.資本金、出資金又は銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
2.相互会社(保険業法)
3.投資法人(投資信託及び投資法人に関する法律)
4.特定目的会社(資産の流動化に関する法律)
ここで注意が必要なのは、従業員数は基準になっていないことです。あくまで資本金等の金額で判断するということになります。対象の企業となっているかどうかをご確認ください。
なお、令和2年4月1日からすぐに義務化されるわけではなく、この日以後に開始する各特定の法人の事業年度に合わせての適用になります。その事業年度開始の日において、企業規模が特定の法人に該当しているかどうかの判断を行います。

今後は中小企業も対象に?

まずは特定の法人においてスタートする社会保険・労働保険に関わる手続きの電子申請義務化ですが、ゆくゆくはすべての企業に対象範囲が広がることが予想されます。「基本計画」においては、「義務化の要件に該当しない事業所についても、あわせて電子申請への移行を促すこととする。」とされています。特定の法人以外の企業であっても、義務ではありませんが早めに準備を進めておくほうがよいでしょう。

どんな手続きが義務化対象?

社会保険の対象手続き

今回の電子申請義務化では、すべての書類が対象になるというわけではありません。厚生労働省では「基本計画」を再改定するにあたり、各手続き書類の「オンライン手続件数」「非オンライン手続件数」を調査しています。それを受けて、社会保険の手続きにおける年間の届出件数が多く、届け出に際して添付書類が少ない以下の3種類を義務化とすることになりました。
1.被保険者賞与支払届
2.被保険者報酬月額算定基礎届
3.被保険者報酬月額変更届

労働保険の対象手続き

同様に、労働保険に関する手続きでも電子申請化することでコスト削減の効果が大きい以下の手続きが義務化の対象となっています。
継続事業(一括有期事業を含む)を行う事業主が提出する
1.年度更新に関する申告書
 ・概算保険料申告書
 ・確定保険料申告書
 ・一般拠出金申告書
2.増加概算保険料申告書
雇用保険においては、以下の書類が対象です。
1.被保険者資格取得届
2.被保険者資格喪失届
3.被保険者転勤届
4.高年齢雇用継続給付支給申請
5.育児休業給付支給申請
社会保険・労働保険ともに、社会保険労務士や社会保険労務士法人が対象の法人に代わって手続きを行う場合も含まれます。

電子申請によらない方法で届出が可能な場合

義務化されるといっても、やむを得ない理由があるときなどは例外が認められることがあります。厚生労働省が定めているのは、以下の場合です。
(1)電気通信回線の故障や災害などの理由により、電子申請が困難と認められる場合
(2)労働保険関係手続(保険料申告関係)については、労働保険事務組合に労働保険事務が委託されている場合、単独有期事業を行う場合、年度途中に保険関係が成立した事業において、保険関係が成立した日から50日以内に申告書を提出する場合。
準備ができていなかったから、あるいは知らなかったからという理由では例外としては認められませんので、注意が必要です。

どうやって電子申請するの?

電子申請を行うには、e-Gov(イーガブ、電子政府の総合窓口)を利用するか、外部連携APIシステムを利用するかのいずれかの方法になります。どちらで行うにしろ、まずは電子証明書を取得しなければなりません。電子証明書を入手するには、認証局というところから発行を受ける必要があります。令和元年12月現在、8社の認証局でe-Govの動作確認が取れているとされています。

e-Govを利用する

自宅や職場のパソコンから行政機関に対する申請・届出等の手続きができるのが、「e-Gov」です。申請にかかるコストを抑えることができますが、使用するパソコンはWindowsに限られます。また、事前に設定しなければならない項目もありますので、詳しくはe-Govのホームページから「利用環境の確認・準備」を参照してください。

外部連携APIシステムを利用する

企業によっては、労務会計ソフト等を導入していることもあるかと思います。そのソフトがAPI(Application Programming Interface)に対応していれば、そこから電子申請を行うことができます。詳しくは、お使いの労務会計ソフト等の販売会社にお問い合わせください。

義務を怠ると罰則はあるの?

電子申請しないことへの罰則はない

電子申請が義務化されたといっても、対応しなかったことに対しての罰則は、今のところ定められていません。ただし、これまでどおり紙やCD・DVDで届け出をしようとすると、制度に関する説明や指導がある可能性があります。また、電子申請での提出を求められて受理されないということもあり得るかもしれません。

受理されないことで手続き違反の危険性

電子申請をしないことで罰則は適用されなくても、書類が受理されないままで放置してしまうと、届け出を怠ったとして各法律において罰せられます。もしも指導を受けた場合には早急に対応し、届出が遅れたり漏れたりすることのないように気をつけましょう。

まとめ

社会保険・労働保険の手続きにおける電子申請の義務化について解説いたしました。企業にとっても、これまでは届け出に出向いたり郵送をしていたりした時間や手間を、大幅に削減できるというメリットがあります。また、ある程度ルーティン化できれば、業務効率を上げることも可能でしょう。義務化対象の企業だけでなく、中小企業においても電子申請の準備を検討してみてはいかがでしょうか。
【参考】
内閣府 平成29年6月9日 規制改革実施計画
厚生労働省 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則及び厚生労働省関係石綿による 健康被害の救済に関する法律施行規則の一部を改正する省令(案)の概要
厚生労働省 職業安定分科会雇用保険部会(第128回)参考資料
厚生労働省 電子申請義務化のお知らせ
e-Gov ホームページ


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