• 作成日 : 2024年7月19日

与信審査とは?評価基準と与信限度額の決め方、通らない原因と対策を解説

取引先から請求書払いを求められた場合、未回収案件にならないかと不安を覚えるのではないでしょうか。本当に信用できる取引先なのかを確認するのに必要なのが「与信審査」です。

今回は与信審査について詳しくご紹介します。取引先のどのような部分をチェックするのか、また分析方法について知りたい方はぜひご覧ください。

与信審査とは?

与信審査とは何かを確認しておきましょう。

そもそも与信とは

ビジネス用語として使われる「与信」とは、取引先が信用できるかどうかをチェックし、そのうえで信用することです。

与信は、取引先の信用度の数値化や取引限度額を設定する時に用います。与信があるかどうかを確認するために審査することを「与信審査」といいます。

与信審査はなぜ必要か

新たな取引先と取引を始める際、与信審査は必ず行わなければならないものではありません。しかし、商品の購入代金やサービス利用料金を1カ月分まとめて請求し、後日支払う「請求書払い」で取引するのであれば、行ったほうがよいでしょう。

与信審査を行うことで取引先に支払能力があるか、期日までに代金を支払ってくれる企業なのかを確認できます。

与信審査と信用調査の違い

与信審査と似た用語に「信用調査」があります。これらの違いを理解しておきましょう。

信用調査:取引先の財務状況について調査を行うこと
与信審査:信用調査の結果をもとに、取引先に請求書払いで取引できる能力があるかどうかを審査すること

信用調査の結果が良くても、必ず請求書払いで取引が開始できるわけではありません。信用調査の結果を参考にしながら与信審査を行い、審査に通過した場合に請求書払いでの取引ができるようになります。

与信審査を行うケース

与信審査は、基本的に後払いで取引をする際に行われます。企業との取引の場合だけでなく、個人との取引の際も行います。具体例を見ていきましょう。

個人の場合

個人との取引の際に与信審査を行うのは、支払能力があるかどうかを確認するためです。具体的には、以下の場合に行います。

【クレジットカード関連】

  • クレジットカードの発行
  • 限度額増額
  • キャッシング枠の付与

【ローン審査の時】

  • 住宅ローンや自動車ローンなどの目的別ローン
  • カードローンなどの用途が決まっていないローン
  • スマートフォン端末を分割払いで購入する場合

【後払い利用時】

  • 通販で購入した商品に同封される「振込用紙」を使う支払い

企業の場合

企業との取引の際に与信審査を行うのは、売掛債権回収を確実に行えるか、貸し倒れのリスクがないかを確認するためです。具体的には、以下の場合に行います。

【請求書払いで取引する時】

「掛け払い」「後払い」とも呼ばれる取引で、1カ月分の代金をまとめて請求し、後日支払ってもらう取引方法です。

与信審査でわかること

与信審査でわかることを確認しましょう。

信用できる企業なのかがわかる

与信審査の結果から、取引先が信用できる企業かどうかわかります。入金遅れが生じないか、貸し倒れリスクはないかを判断することができます。

企業の支払い能力がわかる

「この取引先にはいくらまでの範囲で後払いを許可できるか」「現金をどの程度持っているか」のように、企業の支払能力を知りたい場合にも与信審査を行います。

与信審査の流れ、方法

与信審査の流れは、以下の通りです。

  1. 取引先の情報を収集する
  2. 情報の分析と評価を行う
  3. 与信限度額を設定する
  4. 契約条件を交渉する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①取引先の情報を収集する

取引先の財務諸表から、経営状態をチェックします。数字でわかることだけでなく、他の取引先や営業担当者からの評判、経営者の人柄、そして今後の展望や事業計画なども確認しましょう。

公平な視点から情報を収集するために、「帝国データバンク」「東京商工リサーチ」などの外部の企業情報データサービスを活用することも検討してください。

②情報の分析と評価を行う

収集した情報を分析し、評価します。統一した基準で評価するために、以下のような評価項目を決めておくことをおすすめします。

  • 規模
  • 業績
  • 資本の状況
  • 利益や損失の内容
  • 業界全体の動向

③与信限度額を設定する

分析・評価の結果、取引先を信用できると確認できたら、集めた情報や取引先の純資産、仕入債務、売掛債権などをもとに与信限度額を設定します。

与信限度額を設定する際は、有効期限も設定しておきましょう。有効期限が到来したら、再度与信審査を行います。

④契約条件を交渉する

与信限度額を決定して社内での承認を得たら、取引先と契約条件を交渉します。口頭で条件を伝えるだけでなく、必ず書面も残しましょう。その際は、入金遅延が発生した時や経営状態が悪化した際の対応についても記載するなど、起こり得るリスクについても言及しておいてください。

与信審査の分析方法

与信審査では、取引先の分析が重要です。その方法を押さえておきましょう。

定量分析

企業情報や財務諸表の情報を分析するのが「定量分析」です。具体的には以下の決算書を用います。

定性分析

他の取引先からの評判や経営者の性格、今後の計画、成長性など、数字には表れないデータから分析するのが「定性分析」です。

定量分析と定性分析のどちらか片方だけでは、正しく分析できません。必ず2つを組み合わせて行いましょう。

ビジネスモデルの分析

同じような業績でも業界や業種の違いで信用度が異なる場合があるので、必ずビジネスモデルの分析も行いましょう。ビジネスモデル分析では、仕入や販売までの流れ、同業他社との相違点などを確認します。

与信審査の評価基準を設定する方法

与信審査は、自社の利益を守るためにも必要です。評価基準を設定する方法を把握しておきましょう。

評価基準を統一する

与信審査でチェックすることはたくさんありますが、重要なのは評価基準を統一することです。審査の仕方が煩雑になると、特定の担当者しか与信審査を行えなくなるおそれがあります。

また、評価基準が取引先によってまちまちだと、公平な判断ができないおそれもあります。

キャッシュフローチェックを入れる

取引先が持っている純資産などの資産だけでなく、キャッシュフローでお金の流れもチェックしてください。営業活動や投資で利益が出ているか、利益が出ているだけでなく、手元に支払いに使える現金が残っているかを必ず確認しましょう。

安全性チェックを入れる

支払能力があるかを確認するために、貸借対照表で安全性もチェックしてください。

与信審査の与信限度額の決め方

与信審査に通過した取引先に対し、与信限度額を設定します。与信限度額の決め方には」、以下のようなものがあります。

取引先の純資産を基準にして決める

売掛債権が回収できなくなった場合、自社に持ちこたえる力があれば、大きな損失や倒産は免れます。一般的には売掛債権が純資産の10%程度であれば、債権回収が不能になっても耐えられるといわれています。

自社の純資産を基準にする場合の与信限度額の算出方法は、以下の通りです。

自社純資産× 一定割合× 格付けウェイト

取引先の仕入を基準にして決める

取引先の支払能力の範囲内で取引するために、仕入債務(買掛金)を基準に与信限度額を決めるという方法があります。

取引先の仕入債務を基準にする場合の与信限度額の算出方法は、以下の通りです。

仕入債務× 一定割合× 格付けウェイト

売掛債権を基準にして決める

自社の売掛債権を基準に与信限度額を決めると、回収不能になっても経営を維持することができます。

売掛債権を順調に回収できる場合でも、入金までには1~2カ月ほどかかります。入金までの期間、経営が持ちこたえられるかも併せて考える必要があります。

自社の売掛債権を基準にする場合の与信限度額の算出方法は、以下の通りです。

自社の売掛債権× 一定割合× 格付けウェイト

与信審査で注意したいポイント

与信審査をする際の注意ポイントを押さえておきましょう。

管理部門と現場で情報を共有する

与信審査は財務諸表の数字を見る管理部門だけで行うのではなく、取引先と直接やり取りする現場の人と情報を共有しながら行ってください。

取引先の評判や取引先の社員の雰囲気・企業風土、経営者の人格など、数字に表れない部分は、現場の人でないとわからないことがあるからです。

客観的に審査する

自社が集めた情報だけに頼らず、客観的に審査することを心がけましょう。例えば、企業情報データサービスを活用すれば、自社だけではわからなかった情報も得られるはずです。

外部に審査を依頼することも検討する

規模が小さい企業、新興企業、海外企業など、情報が少ない企業の与信審査を行う際は、外部に審査を依頼することも検討しましょう。

自社で情報を集めることもできるかもしれませんが、かかる時間や手間を考えると、外部に依頼するほうが効率的です。

企業が与信審査に通らない原因と対策

与信審査の結果、審査に通らないケースもあります。どのような場合に通らないのでしょうか。自社が与信審査をされる側になることも想定して、理解しておきましょう。

決算などの数字が良くない

財務諸表の数字が良くない、売上が落ちているなどの理由で審査に通らないことがあります。いくら雰囲気がよい企業であっても、数字が悪いと評価は低くなります。

情報不足

情報不足も審査に通らない原因になります。売上や利益、抱えている債権の情報、そして今後の展望など、取引先が求めている情報を提供しましょう。

取引時の信用不足

期限を破る、今までも期日までの入金ができていなかったなど、取引先から信用されていない場合も審査に通りません。

他の取引先との関係が悪い

態度が悪い、無理を通そうとするなど、他の取引先からの評判が悪い場合も審査に通りません。取引先だけでなく、金融機関からの評判もチェックされる可能性があります。

経営陣の問題

度が過ぎるワンマン経営や将来の展望がないなど、経営陣の問題で審査に落ちる可能性もあります。また、社長の人格や行動もチェックされていると考えておきましょう。

与信審査の効率化!与信管理表のテンプレート

前述の通り、与信審査の際は社内で評価基準を統一しておくことが重要です。与信審査を効率的に行うために、マネーフォワード クラウドが提供する「反社・与信チェック表」の活用をおすすめします。

取引先の基本情報だけでなく「業界内での評判」「具体的な事業実態」などもチェックし、記録として残しておくのに最適です。また、与信審査の属人化も防止できます。

テンプレートのダウンロードを希望される場合は、以下からお申込みください。

与信審査の重要性を理解して取引に役立てよう

与信審査は、絶対に行わなわなければならないものではありません。しかし、代金をまとめて請求し、後ほど支払ってもらう請求書払いで取引する場合は、与信審査を行っておいたほうが安全です。

与信審査の際は社内で基準を統一し、誰が行っても結果が同じになる必要があります。また、財務諸表や売上など数字に出る部分だけでなく、営業担当者や他の取引先からの評判も参考にしましょう。また、自社で調べきれない部分は外部の企業情報データサービスの活用も検討してください。

取引先ごとに与信審査を行うのは大変かもしれませんが、自社の経営を守ることにつながります。与信管理テンプレートなどを活用しながら、効率良く行う方法を考えてみましょう。


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