- 更新日 : 2026年4月15日
賃上げ促進税制とは?概要や対象、活用のメリットを解説
賃上げ促進税制は、前年度より給与総額を増やした企業が法人税・所得税の税額控除を受けられる制度です。
- 給与増加分を税額控除
- 企業規模で区分あり
- 令和8年度税制改正で大企業廃止
賃上げ促進税制は、従業員の給与を引き上げた企業や個人事業主に対し、法人税や所得税の税額控除を認める制度です。賃上げと税負担の軽減を同時に実現できる仕組みとして注目されていますが、企業規模ごとの区分や適用要件、税制改正による見直しなど、理解すべきポイントは少なくありません。
本記事では、制度の概要から改正内容、導入時の注意点などを整理します。
目次
賃上げ促進税制はどんな制度?
賃上げ促進税制は、前年度より給与等の支給額を増やした企業や個人事業主が、その増加額の一定割合を法人税または所得税から差し引ける税額控除制度です。賃上げや人材投資を後押しし、企業の資金負担を軽減することで持続的な所得拡大を図る仕組みとして設けられています。
賃上げ促進税制は給与増加分を法人税・所得税から税額控除できる制度
この制度は、青色申告を行っている法人や個人事業主が対象となります。国内雇用者に支払う給与等の総額が前年度と比べて増加した場合、その増加額に一定の控除率を乗じた金額を税額から直接差し引くことができます。法人の場合は「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」として整理され、要件を満たすと法人税額から控除が可能です。個人事業主についても同様に、給与等支給額の増加に応じて所得税の税額控除が認められます。
税額控除は課税所得を減らす仕組みではなく、算出された税額そのものを減らす点が特徴です。
制度の判定では、給与総額の増加割合や継続雇用者への支給額の動きが基準となります。また、企業規模によって適用できる区分や控除率が異なり、中小企業では比較的利用しやすい設計となっています。一方で、大企業や中堅企業については適用条件や期間が限定される場合があります。
企業の規模や役割に応じた3つの区分と優遇率が設定されている
本制度は、大企業、中堅企業、中小企業という3つの区分に分かれており、それぞれで賃上げの達成目標や最大控除率が異なります。経営基盤の強化が急務とされる中小企業においては、現行で最大45%という極めて高い控除率が設定されるなど、規模に応じたきめ細かな支援策が講じられています。令和8年度以降は、中堅企業の定義が明確化されたことで、より多くの企業が自社に最適な区分でメリットを享受できるようになりました。
賃上げ促進税制の企業規模別の適用区分と判定基準は?
賃上げ促進税制における企業区分は、主に「従業員数」と「資本金」によって判定されます。令和8年度の改正では、大企業向け措置が実質的に廃止(前倒し終了)となる一方で、従業員数2,000人以下の「中堅企業」という枠組みが改めて重要視されています。自社がどの区分に該当するかを正確に把握することが、適正な税額控除を受けるための第一歩となります。
従業員数2,000人を軸とした明確な区分けがなされる
大企業と中堅企業を分ける最大の基準は、常時使用する従業員数が「2,000人」を超えているかどうかです。2,000人以下の場合は中堅企業として、より手厚い優遇を受けられる可能性がありますが、親会社などグループ全体の従業員数が1万人を超える場合は、中堅企業から除外され大企業扱いとなる「大規模法人グループ排除」のルールも存在します。一方、中小企業については「資本金1億円以下」という基準が優先され、資金力の乏しい事業者ほど高い控除率が適用される設計となっています。
令和8年度税制改正後の企業区分・判定基準および変更点まとめ
令和8年度税制改正大綱に基づき、2026年4月以降の各区分の定義と、制度の存続状況を以下の表にまとめました。
| 区分 | 判定基準(従業員数・資本金) |
|---|---|
| 大企業 | 中小企業を除く、従業員数 2,000人超の法人 (または 資本金10億円以上 かつ 従業員1,000人以上) |
| 中堅企業 | 中小企業を除く、従業員数 2,000人以下の法人 |
| 中小企業 | 資本金 1億円以下の法人 (または 従業員1,000人以下の個人事業主) ※大規模法人の子会社(みなし大企業)等を除く |
令和8年度税制改正での賃上げ促進税制の変更点は?
令和8年度税制改正大綱では、賃上げ促進税制の対象区分ごとに制度の整理が行われました。大企業向けは廃止、中堅企業向けは要件引上げのうえ終了、中小企業向けは基本枠を維持しつつ一部特例を廃止する内容です。
【大企業向け】2026年3月31日までに開始する事業年度をもって廃止
大企業(全企業向け措置)は、従来の適用期限を待たずに2026年3月31日までに開始する事業年度をもって終了します。これにより、2026年4月1日以後に開始する事業年度では、賃上げによる法人税額の特別控除は受けられません。制度を中小企業中心へ再編する方針が示され、大企業は改正後に本制度を活用できなくなります。適用可否は事業年度の開始日で判定されるため、決算月によって影響時期が異なります。
【中堅企業向け】要件を引き上げたうえで2027年3月31日までに開始する事業年度をもって終了
中堅企業向け措置は、最終年度に向けて賃上げ水準の基準が引き上げられ、控除率の体系も見直されます。原則控除を受けるための賃上げ率が従前より高く設定され、加算控除も段階的な賃上げ率に応じた設計へ変更されます。そのうえで制度自体は2027年3月31日までに開始する事業年度をもって終了します。適用期間中は新基準での判定となるため、予定している賃上げ率が改正後の要件を満たすかの確認が必要です。
【中小企業向け】現行制度を維持するが教育訓練費の上乗せは廃止
中小企業向け措置は、基本的な税額控除の枠組みは継続されます。給与等の増加額に一定の控除率を乗じ、法人税または所得税から控除する仕組みは維持されます。ただし、教育訓練費の増加に応じた上乗せ税額控除は廃止される見込みです。これにより、人材育成投資と組み合わせた控除率引上げは利用できなくなります。
適用時期の目安は企業区分ごとに異なる
大企業向けは2026年3月31日までに開始する事業年度が対象で、それ以降は適用不可です。中堅企業向けは要件見直し後、2027年3月31日までに開始する事業年度が最終対象です。中小企業向けは基本制度を維持しつつ、教育訓練費の上乗せのみ廃止されます。改正内容は事業年度単位で適用されるため、決算期と開始日を基準に判断することがポイントです。
令和8年度税制改正の内容を反映し、現行制度(改正前)と令和8年度以降(改正後)の違いがわかる比較表は以下のとおりです。
| 区分 | 項目 | 改正前(現行制度) | 改正後(令和8年度〜) |
|---|---|---|---|
| 大企業 | 存続状況 | 適用可能 | 2026年3月31日までに開始する事業年度をもって廃止(適用不可) |
| 最低賃上げ要件 | 3%以上 | - | |
| 最大控除率 | 35% | 0% | |
| 中堅企業 | 存続状況 | 適用可能 | 継続(2027年3月末までに開始する事業年度まで) |
| 最低賃上げ要件 | 3%以上 | 4%以上(厳格化) | |
| 最大控除率 | 35% | 35% | |
| 中小企業 | 存続状況 | 適用可能 | 継続 |
| 最低賃上げ要件 | 1.5%以上 | 1.5%以上 | |
| 最大控除率 | 45% | 35% |
賃上げ促進税制による企業のメリットは?
賃上げ促進税制は、従業員の給与を引き上げた企業に対し、税額控除という形で直接的な支援を行う制度です。単なるコスト増ではなく、税負担の軽減と企業価値向上の両面に影響を与える点が特徴です。
法人税や所得税の税額を直接減らせる
賃上げ促進税制の最大の利点は、給与等の増加額に一定の控除率を乗じた金額を、法人税または所得税から直接差し引ける点にあります。これは課税所得を減らす仕組みではなく、算出された税額そのものを減額できる制度です。そのため、条件を満たせば資金流出を抑えながら賃上げを実施でき、実質的な負担を軽減できます。企業の資金繰りにとって即効性のある効果が見込めます。
人材確保や従業員満足度の向上につながる
給与水準の引上げは、優秀な人材の採用や定着に直結します。賃上げを行う企業として対外的な評価が高まることで、採用活動にも好影響が生まれます。また、既存従業員のモチベーション向上や離職率の低下も期待でき、組織全体の生産性向上につながります。税制の後押しがあることで、賃上げに踏み切りやすい環境が整います。
賃上げ税制による従業員のメリットは?
賃上げ税制(賃上げ促進税制)は企業向けの税額控除制度ですが、その効果は従業員にも及びます。企業が賃金を引き上げやすくなることで、実質的な手取りの増加や雇用環境の安定につながる点が特徴です。
賃金の引上げにより手取り収入の増加が期待できる
賃上げ税制の直接的な効果は、給与水準の上昇です。企業が前年度より給与総額を増やすことで税額控除を受けられるため、賃上げを実施しやすくなります。その結果、従業員は基本給や賞与の増額という形で収入増加の恩恵を受けます。物価上昇局面においても生活水準を維持しやすくなり、家計の安定につながります。
雇用の安定や職場環境の改善につながります
賃金引上げを実施する企業は、人材確保や定着を重視する傾向があります。給与改善とあわせて人事制度の見直しや働き方改革が進む場合もあり、長期的に安心して働ける環境が整いやすくなります。従業員の満足度が高まることで離職率が低下し、組織の安定性も向上します。
賃上げ促進税制の法人税控除を申告する方法は?
賃上げ促進税制を利用するにあたって、事前の認定や申請は必要ありません。例えば法人の場合には、法人税額から控除を受けるには法人税の確定申告書提出の際に、以下のような書類を添付する必要があります。
- 別表(法人税申告書)
- 適用額明細書
- 給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書
- (教育訓練費の上乗せを申告するときは実施時期や受講者、支払証明などを記載した書類)
必要な書類を添付した上で、確定申告書に法人税の税額控除分を反映させ、管轄の税務署に提出します。
また、本税制は前年度との給与等支給額の増加分があることが前提ですので、前事業年度が存在しない新規設立の事業者は適用を受けられません。
賃上げ促進税制を導入するにあたっての注意点は?
賃上げ促進税制は税額控除という大きなメリットがありますが、適用要件や手続きは細かく定められています。導入前に押さえておきたい主な注意点を整理します。
適用要件や企業区分を正確に確認する
賃上げ促進税制は、企業規模によって適用区分や要件が異なります。大企業向け、中堅企業向け、中小企業向けで賃上げ率の基準や控除率が違い、さらに事業年度の開始日によって適用可否も変わります。自社がどの区分に該当するのか、給与総額や継続雇用者の定義がどう整理されるのかを事前に確認しておくことが欠かせません。判定を誤ると、控除が否認される可能性があります。
給与増加額の計算方法と証拠資料を整備する
控除額は、前年度と比較した給与等支給額の増加分を基礎に算定されます。助成金の取扱いや、雇用保険上の一般被保険者の範囲など、細かな定義に基づいて計算する必要があります。賃金台帳や労働条件通知書、社会保険関連資料などを整備し、税務申告時に説明できる状態にしておくことが求められます。
税額控除の上限や将来の資金計画も考慮する
賃上げ促進税制の控除額には、法人税額や所得税額に対する上限が設けられています。そのため、賃上げを実施しても全額が控除できるとは限りません。加えて、税制は改正により内容が変わる可能性があります。短期的な節税効果だけでなく、継続的な人件費負担や将来の税制変更も踏まえた資金計画の中で導入を検討することが望まれます。
賃上げ促進税制を最大限活用して成長を加速させよう
令和8年度税制改正によって、賃上げ促進税制はより多くの企業にとって「使いやすく、効果の高い」制度へと進化しました。物価上昇という厳しい外部環境の中で、従業員の生活を守り、自社の競争力を高める手段として、この制度を戦略的に活用することが求められます。
まずは自社の直近の給与支払実績を整理し、最新の要件に照らしてどの区分の優遇が受けられるかをシミュレーションしましょう。法改正の詳細は複雑であるため、顧問税理士などの専門家のアドバイスを受けながら、最適な賃上げ計画と税務申告の準備を進めることが、企業の成長を確かなものにするでしょう。
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