- 更新日 : 2024年11月21日
賃上げ促進税制とは?概要や対象、活用のメリットを解説
賃上げ促進税制は、従業員の給与引き上げを促進するための制度です。令和4年度税制改正で創設された賃上げ促進税制ですが、令和6年度税制改正によってさらに3年延長し、かつ拡充しました。
本記事では、賃上げ促進税制の概要、従来の賃上げ促進税制との違い、企業側と従業員側でのメリットなどについて解説していきます。
目次
賃上げ促進税制とは?
賃上げ促進税制は、対象となる法人や個人事業主において給与等支給額が一定以上増加したときは、その増分に応じて税額から特別控除ができるという税制上の優遇措置です。
令和6年度税制改正において、賃上げ促進税制は物価上昇を超える持続的な賃上げを目指す観点から3年間の延長・拡充がなされ、従来よりも適用の効果が大きくなりました。
賃上げ促進税制による企業のメリットは?
賃上げ促進税制導入による、企業側のメリットを紹介します。
税額控除による高い節税効果
賃上げ促進税制は「税額控除」となります。したがって、企業の負担する法人税額や個人事業主の負担する所得税額から直接控除することができます。
控除上限額は法人税額または所得税額の20%までとなっていますが、中小企業向け区分においては次年度以降に繰越しすることができますので、赤字になったとしても翌年度以降に利用可能となり、長期的に節税効果の高い制度となります。
人材育成に活用できる
一般に従業員の賃上げは、企業等にとって経済的負担が大きいものです。しかしながら、賃上げ促進税制を活用すれば税額の負担軽減を図ることができます。さらに教育訓練費を拡充した企業にとっては控除額の上乗せが期待できるため、企業側にとって幅広く人材育成に活用できる制度となり得ます。
賃上げ税制による従業員のメリットは?
賃上げ税制を企業が取り入れることによって、従業員側にもメリットがあります。
給料・ボーナスの増加
従業員側のメリットは、給料やボーナスの増加を期待できることです。賃上げ促進税制は、大企業・中堅企業であれば継続雇用者、中小企業であれば雇用者全体の給与等支給額の増加を要件にしていますので、要件を満たすには、企業は従業員の給与やボーナスを上げるか、雇用する人数を増やすかで検討することになります。
賃上げ促進税制の法人税控除を申告する方法は?
賃上げ促進税制を利用するにあたって、事前の認定や申請は必要ありません。例えば法人の場合には、法人税額から控除を受けるには法人税の確定申告書提出の際に、以下のような書類を添付する必要があります。
- 別表(法人税申告書)
- 適用額明細書
- 給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書
- (教育訓練費の上乗せを申告するときは実施時期や受講者、支払証明などを記載した書類)
必要な書類を添付した上で、確定申告書に法人税の税額控除分を反映させ、管轄の税務署に提出します。
また、本税制は前年度との給与等支給額の増加分があることが前提ですので、前事業年度が存在しない新規設立の事業者は適用を受けられません。
賃上げ促進税制を導入するにあたっての注意点
賃上げ促進税制の導入において注意したいのは、この制度が従業員の給料やボーナスの増加などをともなう制度のため、経営状況次第では、要件を満たそうとすることで資金繰りが厳しくなる可能性も出てきます。
税額控除率だけに目を向けるのではなく、給料やボーナスを上げても問題ないくらいの資金繰りか、設備投資との兼ね合いでかえって労働生産性を低下させてしまわないか、など中長期的な目線で検討し、導入することが重要です。
令和6年度税制改正で各区分において税額控除率アップ
令和6年度税制改正における賃上げ促進税制について、現行制度の賃上げ税制との主な違いは次のとおりです。
- 「中堅企業向け」区分の追加:従来、全企業向けと中小企業向けの2区分であったものが、中堅企業向け区分が新設され3区分になりました。
- 控除率の拡充:税額控除率上乗せ要件の拡充がなされました(下記表参照)。
賃上げ促進税制では、青色申告書を提出する企業等が、雇用者全体の給与等支給額(国内雇用者の給与、賃金、賞与などの給与所得に該当するもの)の増加率によって、〇〇%の税額控除を受けることができます。この○○%の部分について、令和6年税制改正では、以下の図のように見直しが行われました。
大企業向け区分
大企業においては、基本要件が新規雇用者の給与等支給額から継続雇用者の給与等支給額に変更があったほか、上乗せ分として前年比5%の増額分が追加されました。これにより、最大35%の控除を受けることができます。
女性活躍等支援については、「プラチナくるみん」または「プラチナえるぼし」の認定を受けている企業が控除率を5%上乗せすることができる制度です。女性活躍等支援については、後ほど解説します。
中堅企業向け区分
令和6年度税制改正にて新設された中堅企業向けについては以下のとおりです。
令和6年度税制改正で中堅企業向け区分が追加されたのは、従業員2,000人以下の企業または個人事業主です。これら企業を、事業や投資を拡大し、地域における賃上げに貢献する重要な存在として位置づけたためです。
上乗せについては、教育訓練費は大企業と同レベル、女性活躍等支援については大企業向けよりやや要件が緩和されるように設定されています。
中小企業向け区分
中小企業においては、上乗せ要件について緩和が行われました。教育訓練費については、従来は前年度比10%以上の増加でなければなりませんでしたが、改正により前年度比5%以上の増加でよくなりました。さらに、女性活躍等支援についての上乗せも加えられました。
賃上げ促進税制における大企業・中堅企業・中小企業とは?
賃上げ促進税制におけるそれぞれの区分については次のとおりです。
全企業 | 青色申告書を提出する企業または個人事業主 | 全企業または個人事業主が対象 | |
一定の企業はマルチステークホルダー届出要* | |||
中堅企業 | 従業員数2,000人以下の企業または個人事業主が対象 | ||
一定の企業はマルチステークホルダー届出要* | |||
中小企業 | 法人 | 資本金1億円以下の法人、協同組合等が対象 | |
個人 | 従業員数1,000人以下の個人事業主が対象 |
*一定の規模を超える企業等については、マルチステークホルダー方針の公表およびその旨の届出が必要となります。
参考:賃上げ促進税制について|経済産業省、賃上げ促進税制|中小企業庁
女性活躍等支援や控除不足額の繰越について
女性活躍等支援について
賃上げ促進税制の一環として、新たに女性活躍支援の観点から加算措置が設けられました。子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けた証として、「くるみん認定」があります。くるみん認定の上位には「プラチナくるみん認定」があります。
また、女性の活躍推進に関する取り組み状況について優良であるなどの要件を満たした企業等には、「えるぼし認定」がされます。えるぼし認定は4つの段階があり、右にいくほど実施状況が優良なものとなります。
えるぼし(1段階目)→えるぼし(2段階目)→えるぼし(3段階目)→プラチナえるぼし
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク|厚生労働省、えるぼし認定・プラチナえるぼし認定|厚生労働省
控除不足額の繰越について
令和6年度改正においては、当制度における中小企業については控除しきれなかった控除額について、5年間の繰越しが可能になりました。すなわち、税額控除限度額が法人税等の額の20%を超える場合には、その超える額を明細書に記載して確定申告書を提出することで控除額を翌年以降に繰り越すことができます。
従業員の賃上げはできたものの、結局赤字となった場合でも、控除額の繰越しができるようになったため、賃上げによる減税効果を翌期以降に活かすことができます。5年間という長期間の繰越しが可能であり、あまり前例のない制度と言えます。
税額控除のための賃上げは慎重に検討しましょう!
令和6年度税制改正では、令和4年度改正による賃上げ促進税制が強化された形です。特に中堅企業向けの区分が追加され、細やかな対応がなされました。従業員給与の賃上げがなされると、法人では事業税(外形標準課税)の付加価値割に影響するのですが、こちらも令和6年度税制改正において一定の措置が取られています。
賃上げにはもちろんその原資が必要なのですが、人件費の見直し時にはこの税制で現実的な収支がどのようになるかをよく検討し、全体コストが減るのであれば積極的に適用するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
交通費申請書の書き方をテンプレートをもとに解説
出張や営業活動などに出向く際には、しばしば交通費の立て替えが生じます。立て替えた交通費を精算するために、交通費申請書の作成が必要となります。この記事では、交通費申請書の作成方法や記載事項などについて解説します。 交通費を精算する流れや申請書…
詳しくみる経理は在宅勤務が難しい?理由や実現するメリット、やり方を解説
経理業務は、セキュリティ面のリスクなどから在宅勤務が難しいと言われています。しかし、クラウドシステムを利用した書類のペーパーレス化やICT環境の整備を行うことで、在宅勤務は実現可能です。在宅勤務の推進は、人材の確保やコスト削減などのメリット…
詳しくみるテレワーク実現のための助成金とは?クラウドツール導入にも使える!
テレワークの導入にはある程度、導入費用がかかります。テレワークの導入にあたり費用面が障害となる企業様も少なくありません。また、テレワークは働き方を大きく変えることから、導入に不安を抱えている企業様も多いようです。今回はテレワークの導入への不…
詳しくみる督促状とは?書き方や例文、督促が届いた場合の対応方法
期日までに取引先から入金がない場合は入金催促メールを送り、いつ入金してもらえるかを確認します。しかし、メールを送っても連絡がない、もしくは新たな入金期日を伝えられたがそれでも入金がない状態が続いた場合は督促状を送り、入金を促す必要があります…
詳しくみる消費税の軽減税率 調味料なのに「みりんは適用対象外」なワケ
2019年10月1日、いよいよ消費税が10%に引き上げられます。 消費税は所得の多さに関係なく、すべての人に等しくかかる税金です。そのため低所得者の負担増の懸念から、増税と同時に、飲食料品と新聞については税率8%に据え置く「軽減税率制度」が…
詳しくみる簡易課税制度とは?要件や消費税の計算方法、メリット・デメリットを解説
簡易課税制度は、要件を満たせば「みなし仕入率」を使って消費税額を計算できる制度を指します。事務作業が楽になるメリットがある一方、還付が受けられない点や原則課税よりも納税額が増えることがある点はデメリットです。 本記事では、簡易課税制度をやめ…
詳しくみる