• 更新日 : 2024年8月8日

労働分配率とは?計算方法や適正な目安をわかりやすく解説

付加価値に占める人件費の割合を表す「労働分配率」は、人件費が適正な水準かどうかを判断するために使われる経営指標です。

人件費は従業員への投資であり企業が成長するためには増やすべきですが、コストという側面もあるため、増やし過ぎて経営を圧迫すると企業成長の阻害要因になりかねません。

労働分配率の計算方法や業種別の目安を理解して、自社の人件費を適正な水準に保つようにしてください。

労働分配率とは何か

日々の事業活動を通じて企業が生み出す付加価値は、人件費や企業の内部留保、賃貸料や税金の支払いなど、さまざまな要素に振り分けられます。このうち人件費に付加価値をどれだけ分配したのかを表す指標が「労働分配率」です。

労働分配率は適正な水準に保つことが大切で、高すぎても低すぎてもよくありません。例えば、給与が高くて労働分配率が高ければ従業員の士気は上がりますが、人件費が増えると企業経営の足かせになる場合があり、設備投資に十分な資金を割けなくなる可能性があります。

どのような水準に保てばよいのか、経営者が迷うことが少なくないのが人件費です。労働分配率を理解すれば、人件費の適正な水準が分かるので、まずは労働分配率の計算方法について解説します。

労働分配率の計算方法

労働分配率とは次の計算式で求めた値です。

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100

給与や福利厚生費などの人件費が増えれば労働分配率は上がり、企業活動を通して生み出される付加価値が増えれば労働分配率は下がります

労働分配率の計算式における付加価値とは

労働分配率の計算式に出てくる「付加価値」とは、会社が新たに生み出した価値のことで、計算方法には控除法と加算法の2つの方法があります。

簡便な計算式を用いる控除法は中小企業向けで、中小企業庁方式とも呼ばれる計算方法です。一方、個々の要素を計算して加算する加算法は日銀方式と呼ばれ、大企業向けの計算方法になります。

  • 控除法:付加価値 = 売上高 – 外部購入価額
  • 加算法:付加価値 = 人件費 + 賃貸料 + 税金 + 他人資本利子 + 当期純利益

人件費に含まれるもの

労働分配率の計算式に出てくる「人件費」に含まれるものとしては、例えば以下のものが挙げられます。

など

役員報酬や従業員に支払う給与・賞与、アルバイトを雇った場合の雑給などはすべて含めて計算し、法定福利費など間接的な人件費も労働分配率の計算では含めて考えます

労働分配率と労働生産性の関係

人件費について考える際、労働分配率とともに考慮に入れるべきなのが「労働生産性」です。労働投入量に対してどれほどの付加価値を生み出せているのかを表す指標が労働生産性で、以下の計算式で求められます。

労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数

労働生産性とは従業員1人あたりの付加価値であり「会社の稼ぐ力」を表す指標です。労働分配率と労働生産性の関係は、次の式で表されます。

労働分配率 × 労働生産性 ÷ 100 = (人件費 ÷ 付加価値 × 100) × (付加価値 ÷ 従業員数) ÷ 100
= 人件費 ÷ 従業員数 = 1人あたり人件費

労働分配率や労働生産性を向上できれば、1人あたり人件費がアップして給与額が上がり、優秀な人材を確保しやすくなって生産性が上がる好循環が生まれます。そのため、人件費について考える場合には、労働分配率と労働生産性のいずれにも着目することが大切です。

また、別の見方をすれば、給与額が同じで1人あたり人件費が同じ企業があった場合でも、労働分配率と労働生産性の値まで同じとは限りません。労働分配率と労働生産性のバランスがよい会社もありますが、一方が極端に低い会社の場合は問題点がないか検討が必要です。

仮に労働分配率が低ければ、給料が低くて従業員の仕事に対する意欲が十分に引き出されていない可能性があり、労働生産性が低ければ業務に無駄がないか確認する必要があります。

適正な労働分配率とは

労働分配率は「〇%ならば良い」といった絶対的な基準があるわけではなく、全企業に共通した基準値があるわけではありません。一般的には企業規模別や業種別の平均値をデータとして使うことが多く、自社の労働分配率が平均値より高いのか低いのかで判断します。

労働分配率の適正な数値

労働分配率の適正な数値を知りたい場合に役立つのが、中小企業庁が公表している「企業規模別、労働分配率の推移」です。以下のグラフを見れば分かるように、労働分配率の平均値は企業規模によって大きく異なります。

大企業であれば約50%、中小企業であれば70~80%が労働分配率の平均値です。自社の労働分配率が平均値から大きく乖離している場合には、問題点がないかどうかを確認した上で必要であれば改善策を講じることになります。

(出典:中小企業庁)

労働分配率が高い場合にわかること

労働分配率の高さから、人件費がどれほどの割合を占め、経営にどれほどの影響を及ぼす可能性があるかがわかります。

人件費の割合が高い

労働分配率が高いということは、企業における人件費に占める割合も高いということです。人件費が多くかかっているということは、従業員に高い給与やボーナスを支給するなど従業員の待遇をよくしている可能性が考えられます。あるいは、役員給与の割合が高い企業であることも考えられるでしょう。

または、給与が平均的な場合、サービス業などの人的資源に依存しやすい事業形態であったり、機械化が進んでいないために人的資源に頼らざるを得ない体制であったりする可能性もあります。

経営が悪化する可能性がある

労働分配率が高すぎると、人件費がかさむことで、経営が苦しくなる可能性が考えられます。人手不足にならないためには従業員の待遇を考えることも重要ですが、経営とのバランスをみながら調整する必要もあります。

労働分配率が低い場合にわかること

労働分配率が低いということは、人件費の割合が低いということです。人件費の割合が低い理由として、労働効率性のよさや従業員への還元の少なさが考えられます。

労働効率がよい

人件費に対する付加価値が高い場合、限られた人員で効率よく利益を上げられている可能性が考えられます。つまり、機械などの導入による設備投資が成功し、労働効率が向上していると評価できます。

従業員の還元に問題がある可能性がある

人件費が付加価値に比して低い場合は、従業員への還元がうまくいっていない可能性も考えなければなりません。同業種などと比較したときに労働に対する報酬が低い場合、従業員のモチベーションやエンゲージメントを低下させてしまう恐れがあります。

労働分配率の目安

労働分配率の高い低いはどのように判断できるのでしょうか。経済産業省企業活動基本調査「2022年企業活動基本調査確報-2021年度実績-」をもとに、労働分配率の目安として、企業規模や業界別の平均値を紹介します。

企業規模別の労働分配率

以下は、2022年度の経済産業省企業活動基本調査をもとに、資本規模別の労働分配金を示した表です。資本金の額が少ない企業、つまり小規模な企業ほど労働分配率が高く、企業の規模が大きくなるほど労働分配率は低い傾向にあることがわかります。

資本金の額労働分配率
3千万円~5千万円未満68.0%
5千万円~1億円未満66.5%
1億円~3億円未満62.8%
3億円~5億円未満56.2%
5億円~10億円未満53.6%
10億円~50億円未満55.5%
50億円~100億円未満55.4%
100億円以上45.6%

※(給与総額⁺福利厚生費)÷付加価値で計算した値を表示しています。
※資本金3,000万円以下の企業は調査対象外のためデータがありません。

出典:2022年企業活動基本調査確報-2021年度実績-|経済産業省

業界別の労働分配率

以下は、2022年度の経済産業省企業活動基本調査をもとに作成した、主な産業別の労働分配率を示した表です。業界により、労働分配率が大きく異なることがわかります。

労働分配率が低いのは、鉱業や採掘業などの機械がよく使われる業界、物品賃貸業のように物的資本が利益を生み出す業界などです。一方、飲食業や娯楽業のようにサービスがメインになる業界、情報通信業や学術研究、専門・技術サービス業のように人的スキルが求められる業界は労働分配率が高い傾向にあることがわかります。

産業分類労働分配率
鉱業、採石業、砂利採取業21.3%
製造業54.5%
電気・ガス業33.7%
情報通信業61.6%
卸売業54.1%
小売業55.8%
クレジットカード業、割賦金融業35.4%
物品賃貸業28.1%
学術研究、専門・技術サービス業67.8%
飲食サービス業78.8%
生活関連サービス業、娯楽業64.5%
個人教授所69.0%
サービス業(その他のサービス業を除く)77.2%
サービス業(その他のサービス業)40.7%
その他の産業48.5%

※(給与総額⁺福利厚生費)÷付加価値で計算した値を表示しています。

出典:2022年企業活動基本調査確報-2021年度実績-|経済産業省

労働分配率を適切に保つ方法

同業他社などと比較して、労働分配率が高すぎる状態、少なすぎる状態はよい状態といえません。高すぎると経営を圧迫する可能性があり、少なすぎると従業員の不満が増え離職率が高まるなどの可能性もあるためです。

労働分配率は、少なすぎず高すぎない、適正を保つ必要があります。適切に維持するにはどうすべきか、3つの方法を取り上げます。

生産性を高める

1人あたりの付加価値を高める、つまり生産性を高めることで、労働分配率を適切に調整する方法が考えられます。生産性向上の施策としては、例えば以下の方法が検討できるでしょう。

  • 業務内容を共有して業務フローを統一する
  • 業務を可視化して不要な業務を削減する
  • ITツールを導入して従業員の業務負荷を軽減する

給与規定や人事評価を整備する

給与規定や人事評価の整備は労働分配率の適正化に役立ちます。特に、労働分配率のコントロールに効果的なのが、業績連動型の賞与ルールの明確化です。企業の業績に応じて賞与を支給することになるため、人件費による経営の圧迫を防止できます。また、ルールが明確化されることで、従業員のモチベーションの向上も期待できるでしょう。

人件費の見直しを行う

労働分配率を適切に維持するには、定期的に人件費の見直しを行う必要があります。

例えば、労働分配率が低い場合は、同業他社と比べて給与水準が低い可能性が考えられます。給与水準が低いと従業員の離職にもつながる恐れがあるため、基本給の一律引き上げなども検討すべきでしょう。

労働分配率が高く経営を圧迫するような場合は、人件費の削減も考えるべきです。単に人員を削減するのではなく、重要度の低い業務(ノンコア業務)は外部に委託できないかなど外注も検討します。

労働分配率を計算して有効活用しよう

労働分配率は付加価値に占める人件費の割合を表し、人件費が適正な水準かどうかを判断する際に使える指標です。労働分配率の数値は企業規模や業種によって違いが見られますが、平均値のデータが国から公表されています。

労働分配率の計算方法は比較的簡単なので、まずは自社の労働分配率を計算して平均値と比較してみてください。平均値から大きく乖離している場合にはその原因を考察し、改善の余地がないかどうか検討を行いましょう。


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