- 更新日 : 2024年9月11日
電子帳簿保存法に導入対応しないとどうなる?罰則・リスクや違反事例を解説
電子帳簿保存法に対応しないとどうなるのか、多くの企業が不安を抱えています。この法律への対応は、ビジネスの効率化だけでなく、法令遵守の観点からも重要です。
本記事では、電子帳簿保存法に対応しない場合のリスクについて解説するとともに、適切な対応方法について説明します。法律の要件を理解しスムーズな電子化対応を実現しましょう。
目次
電子帳簿保存法に対応しない場合の罰則・リスク
電子帳簿保存法に対応しない場合の罰則・リスクは、青色申告の取り消し、追徴課税、会社法違反といったリスクが挙げられます。ここでは、それぞれの違反によってどのようなペナルティが科されるのかについて解説します。
青色申告を取り消されるリスク
電子帳簿保存法に対応していない場合、青色申告の承認が取り消されるリスクもあります。例えば、電子取引のデータを紙で保存している場合です。
青色申告の承認取り消しは、データ保存の不備が直ちに決定的な理由となるわけではありませんが、違反の程度やその他の状況を考慮して判断されます。承認取り消しが行われると、青色申告特別控除が受けられず(個人事業主の場合)、欠損金の繰越もできなくなるため注意が必要です。
追徴課税を受けるリスク
電子帳簿保存法の改正により、スキャナ保存と電子取引のデータ保存に関する重加算税の加重措置が整備されました。
具体的には、これらのデータで悪質な不正が発覚した場合に、通常の重加算税(追徴課税額の35%)に加えて10%が上乗せされます。これは、故意の隠ぺいや仮装による申告漏れが見つかった際に適用されます。
会社法違反のリスク
電子帳簿保存法に対応しないと、会社法違反に問われるリスクがあります。会社法第976条では、帳簿や書類の適切な保存が義務付けられており、不備や不正があった場合の罰則が定められています。
電子取引情報を電子データで保存しないことは、適切な帳簿・書類の保管違反とみなされる可能性もあるため注意が必要です。
違反すると、100万円以下の過料が科されます。会社法違反は、企業の財務状況だけでなく、社会的評価にも悪影響をおよぼすおそれがあるため留意しておきましょう。
参考:e-Gov法令検索 会社法 第九百七十六条(過料に処すべき行為)
違反の要件
電子帳簿保存法の違反は、「真実性」と「可視性」の要件が満たされていない場合に発生します。「真実性」の要件では、電子データが改ざんされずオリジナルの状態で保存されていなければなりません。
「可視性」の要件では、保存されたデータがいつでも確認でき、必要に応じて検索可能であることが求められます。これらの要件を満たさない場合、法的な罰則が科されるリスクもあるため注意が必要です。
電子帳簿保存法の対象者
電子帳簿保存法はほぼすべての事業者を対象としており、企業の規模や個人事業主かどうかにかかわらず適用されます。この法律の改正により、特に2024年1月から義務化された「電子取引のデータ保存」は重要なポイントです。これにより、事業者は電子データで取引情報を保存する必要があります。
副業を行っている場合も例外ではありません。所得税法上、ある年の雑所得について前々年の金額が300万円を超える場合、その業務に関連する書類を電子データとして保存しなければなりません。このため、副業をしている人も電子帳簿保存法への対応が求められることもあります。いずれの場合も、法律への適切な対応が重要です。
電子帳簿保存法の対象となる文書
電子帳簿保存法の対象となる文書は、「国税関係帳簿」「国税関係書類」「電子取引情報」が該当します。それぞれ見ていきましょう。
国税関係帳簿
国税関係帳簿は、国税に関する法律で保存が義務付けられた帳簿類を指します。これらをパソコンなどで作成した場合、電子帳簿保存法の対象です。主な国税関係帳簿は以下の通りです。
など
電子帳簿保存法では、国税関係帳簿を電子データで保存する場合、一定の要件を満たす必要があります。要件を満たさない場合、罰則の対象となる可能性もあるため注意が必要です。
国税関係書類
国税関係書類は、以下の「決算関係書類」と「取引関係書類」に大別されます。
【主な決算関係書類】
など
これらは決算に関連して作成される書類であり、事業者がパソコンなどで作成したものについては電子帳簿保存法の対象です。
【主な取引関係書類】
など
これらは取引の際に生じる書類であり、相手から受領したものや紙で発行したものも電子帳簿保存法の対象となります。自社が発行した書類の控えと、相手から受領した書類の両方が対象です。
紙で受領したものはスキャナ保存として扱われ、データで受領したものは電子取引として区分されます。そのため、保存の要件が異なります。
電子取引情報
電子取引情報は、取引情報を電子的方式で授受する取引を指します。具体的には、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書などです。これらの情報はすべて電子帳簿保存法の対象となります。
- EDI取引
いわゆるEDI(電子データ交換)取引は、典型的な電子取引の例
- インターネット取引
インターネットを通じて行われる取引も電子取引に含まれる
- 電子メールでの取引
電子メールで取引情報を授受する取引も対象
- ウェブサイト経由の取引
インターネット上に設置したサイトを通じて取引情報を授受する取引
電子帳簿保存法の対象外となる文書
電子帳簿保存法の対象外となる文書は、以下のとおりです。
手書きで作成した国税関係帳簿
手書きで作成した国税関係帳簿は、電子帳簿保存法の対象外です。例えば、仕訳帳や総勘定元帳、現金出納帳など、手書きで記録された帳簿は電子保存が認められていません。
このため、これらの帳簿は紙で原本を保管する必要があります。電子帳簿保存法では、電子データ保存が許可される帳簿は、最初からコンピュータで作成されたものに限定されています。
手書きで作成した国税関係書類と紙で受領した国税関係書類
電子帳簿保存法では、手書きの国税関係書類は電子帳簿等保存(電子データ保存)の対象外です。
これらの手書き書類を電子的に管理したい場合、スキャンを行い、画像ファイルとして保存するプロセスが必要です。同様に、取引先から紙媒体で受領した国税関係書類についても、電子保存を希望する際にはスキャンを実施し、デジタル画像として保管することが求められます。
電子帳簿保存法に対応するための保存要件
電子帳簿保存法では、電磁的記録による保存を「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3種類に区分しています。国税に関する帳簿や書類、電子データの取引をまとめると、下表のとおりです。
電子帳簿保存法上の区分 | ||||
---|---|---|---|---|
【国税関係帳簿】 | 電子帳簿等保存 (電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存) | 任意 | ||
【国税関係書類】 | 決算関係書類 | |||
取引関係書類 | 自己が作成した書類の写しなど | |||
スキャナ保存 (紙で受領・作成した書類を画像データで保存) | ||||
相手から受領した書類など | ||||
【電子取引】 | 電子データ保存 (電子的に接受した取引情報をデータで保存) | 義務 |
以下で、電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引それぞれについての保存要件について解説します。
電子帳簿等保存
電子帳簿等を保存する場合、データの正確性やシステムの信頼性を担保することが必要です。
例えば、訂正・削除履歴の確認や、業務処理期間経過後の入力事実確認ができるシステムを使用しなければなりません。 また、電子帳簿と関連する他の帳簿との関連性を相互に確認できる状態であることも求められます。
さらに、システム概要書や操作説明書などのシステム関係書類等を備え付ける必要があります。 電子計算機やプログラムなども、記録事項を画面または書面に速やかに出力できるよう、操作マニュアルと共に保存場所に備え付けなければなりません。
検索機能についても、さまざまな条件で検索できるよう整備が必要です。 例えば、取引年月日・取引金額・取引先での検索・日付または金額の範囲指定検索などが挙げられます。 2つ以上の記録項目を組み合わせた条件で検索できることも重要です。
加えて、税務職員から電磁的記録のダウンロード要求があった場合に、速やかに対応できる体制を整えておくことも必要です。
スキャナ保存
スキャナ保存は、紙の書類を電子化して保存する方法です。この保存方法には、真実性と可視性の確保が求められます。
真実性の確保のためには、速やかな入力が必要です。ただし、一般書類については適時の入力でも構いません。また、200dpi以上の解像度でカラー画像として読み取ることが原則です。ただし、一般書類は白黒でも問題ありません。
タイムスタンプの付与も重要な要件です。これにより、入力期間内に記録事項を入力したことが確認可能です。さらに、バージョン管理を行い、訂正や削除の履歴を残す必要があります。
可視性の確保については、14インチ以上のカラーディスプレイや4ポイント文字の認識など、見読可能な装置の備え付けが求められます。また、スキャンした文書と帳簿の相互関連性を保持することも重要です。
これらに加えて、電子計算機処理システムの概要書等の備え付けや検索機能の確保も必要です。
電子取引
電子取引データの保存に関する主な要件は、データの信頼性確保と効率的な検索機能の実装です。
データの信頼性を担保するため、タイムスタンプの活用や変更履歴を記録するシステムの導入が推奨されます。ただし、高額なシステム導入が困難な場合、適切な内部規程を策定し遵守することで代替可能です。
また、税務当局からの要請に迅速に対応できるよう、データ閲覧・印刷環境の整備も不可欠です。
検索機能については、取引日・金額・取引先といった基本項目での検索に加え、範囲指定や複数条件を組み合わせた高度な検索にも対応する必要があります。
専用システムがない場合でも、一般的な表計算ソフトを活用し、索引作成やファイル名の規則化、フォルダ管理の工夫によりこれらの要件を満たすことが可能です。
電子帳簿保存法に対応しない場合のその他デメリット
ここでは、税務以外のデメリットについて見ていきます。
紙の保管スペースが必要になる
電子帳簿保存法に対応しない場合、紙の書類を保管するスペースが必要になります。法人では、請求書や領収書などを10年間保管しなければならず、書類が増えるとスペースが圧迫されるため、保管場所の拡張が必要になる可能性があります。これにより、保管スペースの確保や管理にかかるコストが増加し、業務効率にも悪影響を与えることが懸念材料です。
文書の紛失や劣化のおそれ
電子帳簿保存法に対応しない場合、紙の文書は紛失や劣化のリスクが高まります。紙の書類は紫外線や湿気などで時間とともに劣化し、閲覧後の戻し間違いや人的ミスで紛失することもあります。また、盗難や災害による破損も懸念され、高いセキュリティ対策が必要です。これらのリスクは、紙の文書管理における大きなデメリットといえます。
経理業務が非効率になる
電子帳簿保存法に対応しないと、経理業務が非効率になります。紙の書類は検索が難しく、必要な情報に迅速にアクセスできません。また、情報の共有も不便で、他部門や外部専門家と円滑に連携が取れなくなります。さらに、郵送による書類のやり取りには時間とコストがかかり、業務全体のスピードや効率が低下する可能性もあります。
電子帳簿保存法に対応する方法
ここでは、電子帳簿保存法の対象書類を理解し、適切に対応するための方法について見ていきます。
電子帳簿保存法の対象書類を理解する
電子帳簿保存法に対応するためには、まず対象書類を理解することが不可欠です。対象書類は、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つに分類されます。
電子帳簿等保存では、会計ソフトで作成した帳簿が対象であり、データ保存や税務調査への対応が必要です。スキャナ保存は紙の書類を電子化し、適切な保存措置を講じる必要があります。電子取引は、データの真実性や可視性を確保することが義務となります。これらを正確に把握し、自社の業務に合った対応が重要です。
保存方法と保存場所を明確にする
電子帳簿保存法に対応するためには、保存方法と保存場所を明確にすることが重要です。まず、すべての文書を一度に電子化するのは難しいため、請求書や領収書など優先度の高い文書から電子化することをお勧めします。
次に、電子データの保存場所としてクラウドシステムや自社サーバーを選定し、データが容易にアクセス可能であることが重要です。また、データの整理と定期的なバックアップを行い、保存場所を一元化して管理を効率化することが求められます。
電子化に対応するための業務フローを検討する
電子帳簿保存法に対応するためには、業務フローを見直し、電子化に対応した体制を整えることが不可欠です。まず、現状の業務フローを分析し、承認プロセスや経理への回付など、電子化に伴う変更点を明確にします。
その後、電子データの保存方法や場所を設定し、社内ルールを整備します。また、社員への周知や教育を徹底し、役割分担を見直すことで、組織全体がスムーズに対応できる体制を構築することが重要です。
電子帳簿保存法に対応したシステムを導入する
電子帳簿保存法に対応するためには、適切なシステムやクラウドサービスの導入が必要です。まず、法律要件を満たすシステムの選定を行い、帳簿や書類を正確に保存できる環境を整えます。
システム導入により、経理業務の効率化や社内申請・承認フローの省力化が進み、業務全体の効率が向上するでしょう。
また、電子取引やスキャナ保存に対応したシステムを導入することにより、データの改ざんや紛失を防ぎます。さらに、将来的な法改正に備え、規定に合ったシステムを早期に導入することで、罰則リスクも軽減できます。
電子帳簿保存法に対応したシステム導入の注意点
電子帳簿保存法に対応したシステム導入にはいくつかの注意点があります。まず、自社が電子化したい書類に対応しているか確認することが重要です。システムの機能が自社の業務効率化に合致しているかも評価する必要があります。
次に、現行の社内システムとの連携が可能か確認し、データの一貫性を保つことが求められます。操作性もチェックし、直感的に使いやすいシステムを選ぶのがお勧めです。
また、JIIMA認証(日本文書情報マネジメント協会)を受けたシステムの選択により、法的要件における安心感も得られることでしょう。さらに、国税関係書類の一括管理機能やスキャナ保存要件への対応も確認しておくべき点です。
電子帳簿保存法に適切に対応することでリスクを軽減し、効率化を実現しよう
電子帳簿保存法は、企業にとって決して無視できない法律です。対応を怠ると、罰金や追徴課税などのリスクだけでなく、業務効率の低下やコンプライアンス違反など、さまざまなデメリットが生じる可能性もあります。
企業は、電子帳簿保存法の要件を正しく理解し、適切な対応を行うことが重要です。早急に自社の保存状況を見直し、必要があればシステム導入などを検討し、法令遵守を徹底しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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