- 更新日 : 2020年9月17日
繰り越しヘッジ損益とは?デリバティブの定義から解説!

繰延ヘッジ損益勘定は、先物取引やオプション取引といったデリバティブについて、期末時点での時価評価による差額を翌期以降に繰り延べるときに使用する勘定科目です。
財務諸表では、貸借対照表の純資産の部の評価・換算差額等として表示されます。
目次
デリバティブとは
デリバティブは金融派生商品ともいい、先物取引やオプション取引などをさします。これらの取引は、特定の金利や有価証券・商品の価格、外国為替相場などの変動によって価値が変動します。
企業がデリバティブによる取引を行う場合には、次の目的があります。
・少ない額の投資から多額のリターンを得る。
・市場価値に比べて割安・割高である金融商品の売買を通じて利益を得る。
デリバティブは期末で時価評価する
デリバティブは期末で時価評価を行い、原則として評価差額を当期の損益に計上します。
ただし、ヘッジ会計を適用する場合は評価差額を翌期以降に繰り延べることができます。具体的には、特定の金利や有価証券・商品の価格、外国為替相場などの変動による損益を相殺する取引において評価差額を繰り延べることができます。
ヘッジ会計およびデリバティブの評価差額の繰り延べについては、次の章でご紹介します。
繰延ヘッジ損益はデリバティブの評価差額の繰り延べに使用
デリバティブのうちヘッジ会計の要件を満たしているものは、ヘッジ会計を適用することで、デリバティブの評価差額を翌期以降に繰り延べることができます。
ヘッジ会計とは、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益の計上のタイミングを合わせるための会計処理のことです。
ここでヘッジ対象とは、特定の金利や有価証券・商品の価格、外国為替相場などをさします。ヘッジ対象の価格変動による影響を抑えるため、ヘッジ対象とは逆方向の価格変動をする金融商品を取引することがあります。
この金融商品をヘッジ手段と呼び、デリバティブはヘッジ手段として広く活用されています。
ヘッジ手段であるデリバティブは毎期時価評価を行いますが、ヘッジ対象である有価証券・商品などについては毎期時価評価が行われるとは限りません。
そこで、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益の計上のタイミングを合わせることを目的に、ヘッジ手段であるデリバティブの評価差額を翌期以降に繰り延べる会計処理(ヘッジ会計)が行われます。
繰延ヘッジ損益は、ヘッジ会計の要件を満たすデリバティブの時価評価の評価差額を翌期以降に繰り延べるための勘定科目です。
商品先物取引の例
繰延ヘッジ損益について具体的にイメージしやすいように、商品先物取引を例にあげて説明します。
(例)A社は01年度に商品を購入しました。同時に、商品の価格変動による影響を抑えるため、商品とは逆方向の値動きをする先物取引の契約を締結しました。02年度に商品を販売し、同時に先物取引を決済しました。
01年度の取引開始時、01年度末および02年度の商品販売時における、商品と先物取引の価格は次のとおりとします。
ヘッジ会計を適用しない場合
■01年度末
商品は時価評価を行いません。一方、先物取引は時価評価して評価損30を当期の損失として計上します。
■02年度商品販売時
商品については取引開始から商品販売までの累計の利益60を計上します。一方、先物取引は02年度において発生した損失10を計上します。
01 年度取引開始時 | 01 年度末 | 取引開始時からの増減 | 02 年度商品販売時 | 01 年度末からの増減 | |
---|---|---|---|---|---|
ヘッジ対象:商品 | 300 | 350 | 50 | 360 | 10 |
ヘッジ手段:先物取引 | 300 | 270 | △ 30 | 260 | △ 10 |
ヘッジ対象である商品とヘッジ手段である先物取引の損益計上のタイミングは合っていません。
ヘッジ会計を適用する場合
■01年度末
商品は時価評価を行いません。先物取引は時価評価しますが、評価損30は繰延ヘッジ損益として繰り延べ、損益計上はしません。
■02年度商品販売時
商品と先物取引の双方について、取引開始から商品販売までの累計の損益(商品は利益60、先物取引は損失40)を計上します。01年度に計上した繰延ヘッジ損益は戻し入れます。
ヘッジ会計を適用することで、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益計上のタイミングが一致します。
上記の計上方法のほか、ヘッジ対象である商品について毎期時価評価を行う方法がありますが、繰延ヘッジ損益勘定とは関係がないため、ここでの説明は省略します。
ヘッジ会計を適用するための要件
ヘッジ会計を適用するためには、事前テストと事後テストを行い、それらの両方をクリアしなければなりません。
事前テストでは、主にヘッジ会計を適用するための業務体制が整っているかをチェックします。事後テストでは、ヘッジ取引の値動きとヘッジ対象の値動きが相殺されて、リスクを低下させているかどうかを継続的にチェックします。
事後テストの結果、ヘッジ会計が有効に機能していないと判断された場合は、ヘッジ会計を中止します。ヘッジ手段の評価差額は毎期の損益として計上し、繰延ヘッジ損益として繰り延べることはできません。
ただし、ヘッジ会計を中止するまでに計上していた繰延ヘッジ損益の残額は、売却などによってヘッジ対象の損益が認識されるまでそのまま繰り延べます。
まとめ
繰延ヘッジ損益は、デリバティブの期末時点での評価差額を翌期以降に繰り延べるときの勘定科目です。
デリバティブは特殊な金融商品であり、取引を行うときには専門家のアドバイスを受けることが欠かせません。また、期末の評価差額を繰り延べて繰延ヘッジ損益を計上する場合も高度な判断が必要となるため、公認会計士や税理士など会計の専門家の助言を得るようにしましょう。
関連記事
・法人税の課税対象と時価会計の関係
・譲渡所得の改正の内容は?
・繰延税金負債

マネーフォワード クラウド会計の導入事例
金融口座の取引明細データが自動で取り込まれ、各取引の勘定科目も自動で仕訳される。以前はインストール型ソフトを利用していたので、それがクラウドに変わるとこれほど自動化されるものなのかと本当に驚きました。
株式会社久松農園 久松 達央 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。