• 更新日 : 2024年9月27日

決算前に経費を使う理由は?節税ができる適切な範囲や注意点を解説

決算前に経費を使う理由は、主に節税対策が目的です。決算直前に経費を計上することで、利益を圧縮し、法人税などの税負担を軽減することが可能です。ただし、適切な範囲で行うことが重要であり、過度な節税は逆にリスクを伴うこともあります。

本記事では、効果的な経費利用の事例や、節税対策を行う際の注意点について詳しく解説します。

決算前に経費を使う理由は節税

決算期が近づくにつれて、多くの経営者は法人税の支払いを意識し始めます。少しでも税負担を軽減するために、さまざまな節税対策を検討する時期でもあります。

その中でも有効な方法の1つが、決算前に必要な経費を計上することです。経費を増やすことで、利益を圧縮し、結果として納税額を抑える効果が期待できます。

ただし、経費計上はあくまでも節税対策の一環であり、目的を達成するためには適切な会計処理に基づいた計画的な実施が不可欠です。専門家のアドバイスを受けながら、自社の状況に合った方法を検討することが大切です。

利益が圧縮され税金の負担が軽くなる

決算前に経費を使うことで、企業は利益を圧縮し、税金の負担を軽減できます。法人税等は課税所得に対する割合で決まるため、経費の計上により損金を増やすことで、課税対象となる利益を減らせます。

決算前に計上できる費用は、修繕工事・研究開発費・広告費・従業員の福利厚生費・業務に必要な消耗品費などです。これらの経費を適切に活用することで、納税額を抑える効果が期待できるでしょう。

ただし、節税を目的とした不要な経費計上は、キャッシュ・フローの悪化につながる可能性があることに注意が必要です。財務状況を踏まえ、節税効果と資金繰りのバランスを考慮しながら、適切な経費利用を行うことが重要です。

節税効果を高める適切な経費利用の事例

ここでは、節税効果を高めるための経費利用のタイミングや具体的な事例を紹介します。

損益予想・経費利用・決算月のタイミング

節税効果を高めるためには、損益予想・経費利用・決算月のタイミングを意識することが重要です。

まず、損益予想は事業年度の開始前と四半期ごとに実施し、年間を通じた収益と費用のバランスを把握します。

経費利用については、事業年度の早い段階で行うことが理想です。年度末に利益が想定を上回る場合は、追加の経費計上を検討できます。ただし、あくまでも事業に必要な範囲内であることが前提です。

決算月には最終的な経費調整や利益確定を行い、適切な節税対策を実施します。

効果的な経費利用の事例

以下に、主な経費項目とそれぞれの具体的な事例をまとめました。自社の事業内容や状況に合わせて、参考にしてみてください。

経費にできるもの内容
消耗品費
  • 文房具やコピー用紙などの事務用品、電球などの日用品は、事業のために使ったものであれば消耗品費として計上できる
  •  購入費が10万円未満のもの、もしくは耐用年数が1年未満のものは消耗品の扱い
接待交際費
  •  取引先との会食、お中元やお歳暮などの贈答品にかかった費用は、接待交際費として認められる
  • 事業運営に必要と認められる理由や金額、相手であることが経費にできる条件
  • 資本金の額が1億円以下の企業は、原則として年間800万円が計上額の上限
  • 公私混同しやすい費用として税務署からチェックが入りやすい科目であるため、計上には十分注意が必要
旅費交通費
  • 取引先などとの間の移動費用、出張などでかかった交通費や宿泊費は旅費交通費
  • 個人でも使っている電子マネーで電車賃やバス代などを支払う場合には、業務のために使ったことがわかるようにしておかなければならない
広告宣伝費
  • 会社や商品の広告を出したり、宣伝をしたりする際にかかった費用が広告宣伝費
  • チラシや新聞広告、看板などの製作費や印刷代が含まれる
  • 店舗などでショーウィンドーのディスプレイにかかった費用も、広告宣伝費として計上可能
福利厚生費
  • 従業員が健康で安定した生活を送るために、全従業員を対象に支給する費用が福利厚生費
  • 事業主負担となる従業員の健康保険や厚生年金、社員旅行や忘年会などの行事にかかった費用を計上できる
修繕費
  • 事業用の建物やパソコンなどの備品の修繕・修理にかかった費用は、修繕費として計上できる
  • 経費に認められるのは、元の状態に戻すための修繕費用だけ
  • 耐久性や価値を上げるために行った修繕の費用は計上できない(固定資産として計上し、減価償却しなければならない)
地代家賃
  • 事務所や店舗、倉庫などを借りている場合にかかる家賃や使用料、社用車のための駐車場料金などが地代家賃
  • 管理費や共益費も原則、経費に計上できる
  • 礼金や更新料、権利金は20万円未満であれば繰延資産として計上せず、支出時の経費として計上できる
損害保険料
  • 会社や店舗などの建物や会社の財物にかけている火災保険や地震保険、社用車の自動車保険などは損害保険料として計上できる
  • 火災保険が長期契約の場合、保険料を一括で支払っても、その年の保険料分だけを毎年計上する方法になるため注意が必要
会議費
  • 出席した人が社内の人か社外の人か、場所や時間にかかわらず、会議や打ち合わせにかかった費用は会議費
  • 会議で使った施設の使用料、会議の際に用意した弁当や飲料などの代金が含まれる

経費利用以外に有効な節税方法

経費利用以外にも、効果的な節税方法があります。これらの方法は、決算時期に応じて適切に選択することが重要です。

決算3ヶ月前には、中長期的な視点での計画的な節税対策を立てることが有効です。一方、決算直前では、即効性のある短期的な対応が求められます。

節税対策には税法の知識が不可欠であり、安易な自己判断は避けるべきです。税理士に相談し、自社の状況に合った最適な対策を検討することが重要です。

30万円未満の消耗品の買い替え

30万円未満の消耗品の買い替えは、節税効果を高める有効な手段です。青色申告を行う中小企業は「少額減価償却資産の特例」を利用できます。

この特例により、30万円未満の資産を1事業年度あたり最大300万円まで経費としてまとめて計上できます。ただし、少額減価償却資産として計上すると、「償却資産税」の対象になる点に注意が必要です。

一方、取得価額が20万円未満の場合は「一括償却資産」として3年間で均等償却することも可能で、この場合は「償却資産税」の対象外となります。

少額減価償却資産

(青色申告を行う中小企業に適用)

一括償却資産
取得額10万円以上30万円未満10万円以上20万円未満
事業年度ごとの上限額合計300万円未満なし
償却期間一括3年間かけて3分の1ずつ償却
償却資産税資産の合計が

150万円未満は免税

150万円以上は課税

非課税

後払い・前払いの費用の損金算入

後払い・前払いの費用の損金算入は、節税効果を高める有効な方法です。

前払費用は、継続的な役務に対して支払った費用のうち、まだサービスを受けていない部分です。家賃、システムリース料、火災保険料、サブスクリプションサービスなどが該当します。支払日から1年以内に役務が提供される前払費用は、支払時に損金計上が可能です。

一方、未払費用の損金算入も決算期の節税効果を高めます。例えば、社会保険料は当月分を翌月に支払うため、1ヶ月分を未払費用として計上できます。水道光熱費やリース料など、翌月払いとなる費用も当月の経費として計上可能です。

不要な固定資産の売却・除却

不要な固定資産の売却・除却は、効果的な節税方法の1つです。特に、大規模な設備など未償却部分の簿価が高い固定資産を処分する場合、除却損の金額が大きくなり、節税効果が高まります。

除却処理を行うことで、償却資産税の節税も可能です。償却資産税は、市区町村が事業で使用している固定資産に課税するものであり、構築物・機械装置・器具備品などが対象です。除却処理により、課税標準額に対する1.4%(市区町村によって異なる場合もあります)の金額を節税できます。

決算賞与の支払い

決算賞与の支払いは、適切に行うことで節税効果を高める有効な方法です。決算賞与を翌期に支払う場合でも、一定の条件を満たせば、支給した期ではなく、決算期における経費として計上することが可能です。

具体的には、支給額を従業員へ個別に通知し、かつ、全従業員にも周知する必要があります。さらに、通知後1ヶ月以内に支給を完了し、通知した年度内に損金処理を行う必要があります。

節税対策を行う際の注意点

ここでは、節税対策を行う際に注意すべき点として、「脱税とみなされる行為」と「資金繰りの悪化」の2つの観点から解説していきます。

過度な節税対策は脱税目的とみなされる

税対策は、合法的な範囲内で行うことが大前提です。行き過ぎた節税は、脱税とみなされる可能性があるため注意しましょう。

節税とは、税法の範囲内で認められた手法を用いて納税額を軽減する行為であり、脱税は意図的に納税を免れたり、少なくしたりする行為です。

節税対策を行う際は、税理士などの専門家に相談するなど、適法性を確認することが重要です。

目先の節税にとらわれすぎると資金繰りが悪化する

節税対策を行う際は、目先の税金削減にとらわれすぎないよう注意が必要です。過度な経費計上は手元資金の不足を招く可能性があり、企業の資金繰りを悪化させます。

また、過剰な節税対策は余計な資産や負債を抱えるリスクです。これは長期的には企業の財務健全性を損なう可能性があります。

節税を検討する際は、キャッシュ・フローの改善と支出に見合った効果を慎重に比較検討することが重要です。

節税対策を選ぶポイント

節税対策を選ぶ際は、短期的な視点だけでなく、長期的な経営判断が重要です。決算直前の行動は短期的な効果を求めがちですが、企業の中長期的な健全性や成長を考慮する必要があります。

単に経費を増やすだけでなく、その支出が企業の将来にどのような影響を与えるかを慎重に検討しましょう。節税効果と企業の持続的成長のバランスを取ることが大切です。

会社の将来に役立つ投資を行う

節税対策を行う際は、単に経費を増やすだけでなく、会社の将来に役立つ投資を行うことが重要です。例えば、従業員の教育・研修費用や、新たな設備投資、研究開発費などです。

これらの投資は、節税効果だけでなく、企業の競争力強化や生産性向上にも寄与します。また、人材育成や技術革新を通じて、会社の持続的な発展を支える基盤ともなります。

資金繰りへの配慮

節税対策を行う際は、資金繰りへの影響を慎重に検討しなければなりません。過度な経費計上は一時的な節税効果をもたらす一方で、手元資金の不足を招くおそれがあります。

特に、急激な受注増加や取引先の倒産など、予期せぬ事態に対応できなくなるリスクがあります。短期的な節税効果だけでなく、中長期的な企業の財務健全性を考慮しながら、適切な判断を下すことが重要です。

適法性の確保

節税対策を行う際は、適法性の確保が重要です。税法に則った正しい方法で節税を行わないと、脱税と誤解されるリスクがあります。適法な節税と違法な脱税の境界線は時に曖昧で、意図せず法令違反を犯す可能性があります。

そのため、最新の税法や制度改正を常に把握し、専門家のアドバイスを受けることが不可欠です。特に、グレーゾーンと呼ばれる判断が難しい領域では、税務署や税理士に事前相談することをお勧めします。

決算前でなくても有効な決算対策

ここでは、決算前に限らず有効な決算対策を4つ紹介します。 早めに準備しておくことで、より効果的に節税対策を行い、企業の安定成長を目指しましょう。

決算期の変更

決算期は、会社の業績や状況に合わせて変更することが可能です。例えば、売上や利益の少ない時期を決算月に設定することで、年間の利益を圧縮し、税負担を軽減できる可能性があります。

ただし、決算期を変更する場合には、事業年度が1年を超えてはならないというルールがあります。そのため、変更後の事業年度が1年未満となる場合があり、減価償却費の計算や納税のタイミングが通常と異なる点に注意が必要です。

別会社の設立

別会社の設立は、税率の低減や節税対策として有効です。法人税や法人事業税は所得金額に応じて変動するため、事業部門を分割して別会社を設立することで、所得を分散し、税率を抑えられます。

また、資本金1億円以下の法人では、交際費の損金計上限度額が年800万円まで適用されますが、別会社を設立すればそれぞれの会社で限度額の利用が可能です。

減資して特例を活用(中小企業の場合)

中小企業にとって、減資は節税対策として有効な手段となりえます。節税の観点では、資本金が1,000万円以下、3,000万円以下、1億円以下のいずれかを目安に減資を検討するとよいでしょう。

特に、資本金を1億円以下にすることで、多くの場合、中小企業として優遇税制の適用を受けられる可能性があります。

また、設立時の資本金が1,000万円未満であれば、設立後1〜2期目は消費税の納税が免除されます。

減資は、資金調達の面でネガティブなイメージを持たれる可能性もありますが、節税メリットと合わせて慎重に検討するようにしましょう。

共済加入の検討

共済加入の検討は、決算前でなくても有効な決算対策の1つです。中小企業退職金共済や中小企業倒産防止共済への加入により、掛金を損金または必要経費として算入できるため、節税効果が得られます。

加入には一定の条件もありますが、企業の財務状況や事業内容に応じて適切な共済を選択することで、長期的な経営の安定と節税効果の両立を図れます。

適切な節税で健全経営を目指そう

決算前に経費を使うことで、利益を圧縮し、節税効果を得られます。 ただし、節税にばかり気を取られ、過度な対策や不適切な処理をしてしまうと、後々トラブルに発展する可能性もあります。

大切なのは、自社の事業内容や財務状況を理解し、長期的な視点に立った上で、適切な節税対策を行うことです。 専門家の意見も参考にしながら、健全な経営と節税の両立を目指しましょう。


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