- 更新日 : 2024年8月8日
外貨建有価証券の会計処理をわかりやすく解説
個人、法人に限らず、ネット上で証券口座を開き有価証券を売買しやすい時代になりました。証券会社の中には、米国株式や中国株式など、海外の銘柄を広く扱っているところもあります。会計処理上、日本円ではなく、外国通貨で金額が表示され支払いが行われるような有価証券は、外貨建有価証券として円で取引される有価証券とは分けて計算を行わなくてはなりません。この記事では、外貨建有価証券における会計処理のポイントと評価損の計上について解説していきます。
目次
外貨建有価証券とは
外貨建有価証券とは、外国通貨により取引価額が表示されるもので、外国通貨により支払いが行われる有価証券のことを指します。外貨建有価証券の代表例は、米国株式や中国株式などの外国会社発行の株式、外国会社の社債、外国国債です。日本の会社発行のものでも、外貨によって支払いが行われるものは外貨建有価証券に含まれます。
一方、海外の株式や社債などで、外貨建有価証券に該当しないケースもあります。円貨決済で支払われる有価証券です。このような有価証券は、取引価額が外貨で表示されていても外貨建有価証券には含まず、通常の有価証券として会計処理を行います。
外貨建有価証券の会計処理
外貨建有価証券は、「外貨取得原価×取得時の為替相場」により取得原価を計算します。例えば、取得時の為替相場が110円の時、100ドルの外国株式を1株取得した場合の取得原価は11,000円です。いずれの区分の有価証券を取得した場合でも、このような計算によって取得原価を計算できます。
外貨建有価証券において重要な論点になるのは、期末時の評価です。期末時には、保有する有価証券を円貨に直して評価する必要があります。有価証券の会計上の区分である、売買目的有価証券、満期保有目的の外貨建債券、子会社株式および関連会社株式、その他有価証券の4つに分けて外貨建有価証券の期末時の会計処理を解説していきます。
売買目的有価証券
売買目的有価証券は、有価証券の価格上昇による譲渡利益を得ることを目的に保有する、売買目的の有価証券を指します。売買目的有価証券の期末時の評価は時価により行うので、「決算日の有価証券の時価×決算日の為替相場」を有価証券の価額として評価します。
(例)決算が到来したので、外貨建売買目的有価証券の外貨換算と期末時の評価を行う。当外貨建売買目的有価証券は、当期に5万ドル(取得時の為替相場110円)で取得したもので、当期末の時価は4.5万ドル(決算日の為替相場115円)であった。
(取得時の原価)5万ドル×110円=5,500,000円
(期末時の時価)4.5万ドル×115円=5,175,000円
(評価損益)5,175,000-5,500,000円=-325,000円(評価損)
売買目的有価証券の取得価額と期末評価時の差額は当期の損益に計上し、期末時の円貨換算後の評価額を有価証券の簿価に反映させます。例では、325,000円が貸方に来ているので、取得原価5,500,000円から325,000円を差し引いた5,175,000円が貸借対照表上の有価証券の額に反映されます。
満期保有目的の外貨建債券
満期保有目的の外貨建債券とは、満期までの保有を目的としたもので、かつ償還日に償還が予定されている(=信用リスクに特段の問題がない)外貨建債券のことです。満期保有目的の外貨建債券は、金利調整差額が認められるものは償却原価法、そのほかのものは取得原価をベースに期末時の円貨換算を行います。
償却原価法(利息法)
(例)期首に、額面1万ドルの外貨建債券を9,000ドルで取得した。取得時の為替相場は110円であった。なお、利払い日は毎期末で、クーポン利子率1%、実行利子率2.8%であった。決算時の債券の時価は9200ドル、為替相場は115円、期中平均為替相場は112円である。なお、当債券は満期保有を目的としたもので、償還期限は6年後である。
(取得時の原価)9,000ドル×110円=990,000円
(利息法による償却額)
9,000ドル×2.8%=252ドル 252ドル×112円=28,224円(有価証券利息)
10,000ドル×1%=100ドル 100ドル×112円=11,200円(利息入金額)
252ドル-100ドル=152ドル 152ドル×112円=17,024円(償却額)
(期末の為替差損益)
9,152ドル×115円-(990,000円+17,024円)=45,456円
償却原価法は、償却額を期中平均為替相場で円貨換算するほか、償却額を含めた期末時の時価を為替差損益として認識する必要があります。
取得原価法以外
(例)期首に、満期保有目的で、額面1万ドルの外貨建債券を1万ドルで取得した。取得時の為替相場は110円、決算日の為替相場は115円であった。期末時の円貨換算を行う。
(取得時の原価)10,000ドル×110円=1,100,000円
(期末時の原価)10,000ドル×115円=1,150,000円
為替相場の変動は為替差損益とし、当期の損益として認識します。
子会社株式および関連会社株式
保有する外国株式などが子会社株式、関連会社株式に該当する時は、期末時に外貨換算や評価は行いません。子会社株式や関連会社株式の保有は事業投資であって、時価の変動を成果として捉えるのに問題があるためです。そのため、時価に関わらず、取得原価を貸借対照表の価額とします。
(例)当期に5万ドル(取得時の為替相場110円)で関連会社株式を取得した。なお、当期末の時価は4.5万ドル(決算日の為替相場115円)であった。
(取得時の原価)5万ドル×110円=5,500,000円
子会社株式や関連会社株式は時価評価を行わないため、取得原価の5,500,000円を期末の対照表価額に反映します。
子会社や関連会社の判定については、以下の記事を参照ください。
その他有価証券
その他有価証券は、ほかの3区分のいずれにも該当しない有価証券を指します。外貨建有価証券として該当するのは、長期保有目的の外国株式、満期保有を目的としない外国社債などです。その他有価証券について、時価のあるものは、原則、時価により評価を行います。
(例)決算が到来したので、外貨建その他有価証券の外貨換算と期末時の評価を行う。当有価証券は、当期に5万ドル(取得時の為替相場110円)で取得したもので、当期末の時価は4.5万ドル(決算日の為替相場115円)であった。評価損益については、全部純資産直入法により処理する。
※会計処理の説明上、税効果会計は適用していません。
(取得時の原価)5万ドル×110円=5,500,000円
(期末時の時価)4.5万ドル×115円=5,175,000円
(評価損益)5,175,000-5,500,000円=-325,000円(評価損)
その他有価証券には、さまざまな性格の有価証券が含まれるため、時価による評価が有益とされています。しかし、部分純資産直入法の時の評価損を除き、期末の時価評価により発生した損益は、売買目的有価証券のように当期の損益にはしません。「その他有価証券評価差額金」として純資産に含めます。その理由として、その他有価証券については、基本的には時価評価するべきではあるものの、売買目的有価証券とは異なり、売買への制約があるものも含まれるためです。
売買目的外貨建有価証券以外の評価損の扱い
売買目的外貨建有価証券については、毎期末に時価で評価して損益を認識するため、簿価と時価が大きくかい離することはあまりありません。しかし、取得原価で評価する売買目的以外の外貨建有価証券は、時価が簿価よりも大きく下落することで、時価と簿価に大きなかい離が生じることがあります。また、その他有価証券は、期末時に時価で評価を行うものの、売買目的有価証券のように損益には計上しない(一部純資産直入法は損失のみ当期の損益として認識)方法もあるため、時価の大きな下落があった時に損失として計上されない問題が生じます。
この場合、外貨建取得原価と外貨建時価を比較した時に価額が50%以上下落しており回復の見込みがない場合(会社の設定した基準によっては30%以上50%未満の下落で回復の見込みがない時を含むこともあります。)は、減損処理による評価損の認識が必要です。また、円相場の著しい変動で、円換算後の評価額が著しく下落する時においても、円換算差額を当期の損失として計上します。
(例)1株10ドルの外国株式を長期保有目的(その他有価証券)で1,000株(取得時の為替相場110円)取得したが、時価相場が大きく下落し、期末時点で1株3ドルまで下がった。期末時点において、時価回復の見込みはないものとする。なお、決算時の為替相場は115円である。
10ドル×50%=5ドル > 3ドル → 50%以上の下落(減損する)
(取得時の原価)10ドル×1,000株×110円=1,100,000円
(期末時の評価額)3ドル×1,000株×115円=345,000円
(評価損)345,000-1,100,000=-755,000円
外貨建有価証券の減損を認識する時は、期末の評価額から取得原価を減算して当期の評価損として計上し、貸借対照表の簿価は評価損分を切り下げます。
外貨建有価証券の種類ごとに会計処理方法をおさえよう
外貨建有価証券の会計処理は、通常の有価証券の区分や評価方法がベースになっているものの、為替の変動がある分、複雑になっています。この記事で紹介した仕訳例を参考にしながら、どのような区分でどのような会計処理が行われるのか、外貨建有価証券の時価が大きく下落した時の減損処理はどうするのか、ポイントをおさえておきましょう。
よくある質問
外貨建有価証券とは?
取引価額が外国通貨による有価証券で、かつ外国通貨で支払いが行われるものを外貨建有価証券と言います。詳しくはこちらをご覧ください。
外貨建有価証券の評価損の扱いは?
売買目的外貨建有価証券以外で、時価が著しく下落して回復が見込まれない時、円換算評価が著しく下落した時は、外貨建有価証券の簿価を切り下げる減損処理を行い、評価損を当期の損失として認識します。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
未収入金を相殺したい!要件や仕訳方法、注意点を解説
未収入金とは、企業の営業活動以外の取引で発生する金銭債権のことを指します。買掛金と相殺することも可能ですが、要件や仕訳方法を知りたい方も多いでしょう。本記事では、未収入金とはどのような勘定科目なのかを解説します。売掛金と未収収益との違い、相…
詳しくみる固定費と変動費とは?代表的な種類や削減方法を解説
事業活動で発生するコストを区分する方法として、固定費と変動費に分ける方法があります。固定費と変動費の把握には、どのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、固定費と変動費の一覧の他、固定費と変動費を区分する理由、分け方や関連する指標、…
詳しくみる売上割戻引当金とは?仕訳から解説
製造業や卸売業において、一定額または一定数量の売上を達成した販売店などに対して、顧客との契約に基づき売上代金の一部控除を行うことを「売上割戻」と言います。また、売上割戻に対する引当金を「売上割戻引当金」と言い、売上割戻の見込額が引当金の要件…
詳しくみる後入先出法とは?廃止理由やメリット、計算例などわかりやすく解説!
後入先出法とは在庫金額の計算方法の一つで、「新しく仕入れた商品から出庫して売れたことにし、古く仕入れた商品は在庫として残る」という考え方に基づいて在庫を計上する方法のことです。 後入先出法は平成22年4月1日以降開始する事業年度から廃止され…
詳しくみる段階取得に係る差益とは?わかりやすく解説
連結財務諸表を作成するための会計処理には、子会社への投資と、資本の相殺消去をする処理が必要になります。このとき、子会社株式を一括して取得(一括取得)する場合と、複数回にわたって段階的に取得(段階取得)する場合があり、それぞれ処理が異なります…
詳しくみる時価ヘッジとは?繰延ヘッジとの違いや仕訳方法、税効果会計についてわかりやすく解説
資金調達や投資方法が多様化するなか、様々な金融商品の取引を行う企業も多くなりました。金融商品にはリスクが付きものですが、このリスクを可能な限り回避させるために、先物取引やオプション取引、スワップ取引などのデリバティブ取引を利用するケースも増…
詳しくみる