- 更新日 : 2025年2月19日
時価ヘッジとは?繰延ヘッジとの違いや仕訳方法、税効果会計についてわかりやすく解説
資金調達や投資方法が多様化するなか、様々な金融商品の取引を行う企業も多くなりました。金融商品にはリスクが付きものですが、このリスクを可能な限り回避させるために、先物取引やオプション取引、スワップ取引などのデリバティブ取引を利用するケースも増えています。
デリバティブ取引を行った場合、会計処理としてよく出る言葉が「時価ヘッジ」や「繰越ヘッジ」などです。しかし、これらの言葉には若干わかりづらい部分もあるため、苦手意識を持つ経理担当者も多いのではないでしょうか。
そこで本記事ではヘッジ会計の要件や繰延ヘッジとの違い、税効果会計の適用などについてわかりやすく解説します。
目次
時価ヘッジとは?
まずはヘッジ会計の概要やヘッジ会計の要件、時価ヘッジの概要などの基本的な部分から見ていきましょう。
そもそもヘッジ会計とは?
時価ヘッジについて理解するためには、まず「ヘッジ会計」について理解しておく必要があります。なお「ヘッジ」とは「回避」を意味しており、特定の取引にかかるリスクを回避するための取引を指します。
ヘッジ会計とはヘッジ取引の中で条件を満たすものについて、ヘッジ対象とヘッジ手段にかかる損益を同じタイミングで計上し、ヘッジ効果を会計に反映させることです。
株式や債券、外国為替、預貯金など資産運用としての金融商品には次のようなリスクがあります。
- 為替変動
- 金利変動
- 価格変動
つまり、ヘッジ会計はこれらのリスクヘッジの効果を、会計に正しく反映させるための処理方法です。
例えば、現物株を保有していたとしましょう。このとき将来的に株価の下落を予測する場合、現物株は売却せず先物等を売りたてることで、現物株に生じる評価損を先物等の利益で相殺する取引などが一般的です。
このように現物の価格変動リスクを、先物取引などを利用して回避する取引を「ヘッジ取引」といいます。
ヘッジ取引をすることで「ヘッジ対象となる現物株から発生する損益」と「ヘッジ手段となる先物等から発生する損益」が出てきますが、これを同一期間の損益として計上できます。これを「ヘッジ会計」と呼びます。
ただし、すべてのヘッジ取引にヘッジ会計が適用されるわけはなく、要件を満たしたもののみが該当します。
【ヘッジ会計のイメージ図】
ヘッジ会計の要件
ヘッジ取引を行っているだけでは、ヘッジ会計を適用できません。ヘッジ会計を適用するためには、事前テストと事後テストの両方の要件を満たすことが必要です。
事前テストではまず、ヘッジする「対象」と「手段」を明確にしなければなりません。そのうえで、ヘッジ対象のリスクをヘッジ手段でどのように回避できるのかという「有効性」を予測して正式に文書化し、誰にでも分かるようにしておく必要があります。
つまり、事前テストでは、ヘッジ取引を行う目的を明確にして、ヘッジの有効性を証明する計画や手順を可視化することが求められるのです。
一方、事後テストではヘッジ取引後に予測した有効性が継続しているかについてもチェックします。評価基準は、ヘッジが開始されてからの「時価」や「キャッシュフロー」の変動幅を確認し「80%〜125%」の間に収まるかどうかがポイントです。
これらの作業は決算日に必ず実施しなければなりません。また、最低でも半期に1度は評価が必要でしょう。その結果として「80%〜125%」という変動幅をクリアできない場合は、リスク回避の有効性がないものとみなされるため、時価ヘッジ会計自体を中止しなければなりません。
時価ヘッジとは?
時価ヘッジとは、まだ決済をしていないデリバティブ取引を時価評価するための方法で、ヘッジ会計の特例に該当するものです。デリバティブ取引とは、株式や債券、通貨などの原資産の価格によって理論価格が決まる金融派生商品の取引を指します。
時価ヘッジの処理を適切に活用するためには、有効性判定を行って有効と判断される必要があります。時価ヘッジにおける有効性の判定は、デリバティブ取引の損益金額を評価された差額で割った比率により計算されます。
計算の結果が、おおよそ100%に近いかどうかが判断基準です。日本国内の法人が、売買目的以外の有価証券による損失を減らすためにデリバティブ取引を行う際には、その収益や損失を事業年度の損益金に加える必要があります。
時価ヘッジの対象となる資産や負債に、市場の価格変動などによる利益や損失の影響を反映できる場合、その影響とデリバティブ取引の損益をあわせて計上できます。これが時価ヘッジ会計です。
ただし、法律上、時価ヘッジ処理ができるのは売買目的ではない有価証券に限られているため注意しましょう。
繰延ヘッジと時価ヘッジの違い
本来、ヘッジ会計においては「繰延ヘッジ」が原則的な方法とされています。
時価ヘッジはヘッジ対象となる資産や負債に係る相場を損益に反映させることで、ヘッジ手段に係る損益を同一会計期間に認識する方法であるとお伝えしました。
【時価ヘッジのイメージ図】
一方で繰延ヘッジは、ヘッジ手段であるデリバティブ取引に関する時価評価損益を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べる方法を指します。
例えば、相場変動の大きい金融商品を保有していたとしましょう。その際、相場変動を損益計算書に反映させないことを目的に、全く逆の動きをする先物商品を購入するのです。
そうすることで片方の商品が値下がりした場合でも、もう一方の商品が値上がりすれば、その結果として損益が相殺されます。この相殺効果を商品が無くなるまで繰り延べることで、損益における精度がぶれがないように調整します。
【繰延ヘッジのイメージ図】
時価ヘッジの仕訳・会計処理例
ここからは時価ヘッジの仕訳や会計処理例について紹介します。「社債購入」と「決算処理」のパターンで見ていきましょう。
仕訳・会計処理例1
社債(満期保有目的ではない)を1口あたり98円で1万口購入した。同時にリスクヘッジのため先物取引を行う。この取引はヘッジ会計の要件を満たしているため、時価ヘッジの方法によりヘッジ会計が適用される。
その他有価証券 | 980,000円 | 現預金 | 980,000円 |
なお、実際には先物取引に関して委託保証金の支払いの仕訳もありますが、ここでは省略します。
仕訳・会計処理例2
決算につき処理を行う。社債の時価は1口あたり95円である。先物取引の時価評価による評価損益は+3万円であった。
その他有価証券評価損益 | 30,000円 | その他有価証券 | 30,000円 |
債券先物 | 30,000円 | 先物損益 | 30,000円 |
同一の期間内にヘッジ対象の損益(その他有価証券評価損益-3万円)と、ヘッジ手段の損益(先物損益+3万円)を認識したことになります。その結果としてプラスマイナスゼロになり、社債を時価評価をしたことによる損益は出ないため、税額には影響を及ぼしません。
時価ヘッジの場合、税効果会計は適用される?
時価ヘッジの場合、税効果会計は適用されません。一方、繰延ヘッジには税効果会計が適用されます。
繰延ヘッジの場合、会計上では時価評価、税務上は原価評価となりズレが生じることから税効果会計が適用されます。時価ヘッジの場合、会計上は時価評価、税務上も時価評価と両者にズレが生じないことから税効果会計は適用されません。
ちなみに税効果会計とは、主に上場企業で用いられる会計手法です。「会計上の収益や費用」と「税務上の益金や損金」の認識が異なる場合、法人税やその他所得を課税対象とする税金を正しく期間配分することで、損益計算書の税引前当期純利益と税金費用に対応させることを目的としています。
時価ヘッジと会計処理についてご理解いただけたでしょうか?
ここまで時価ヘッジの要件や繰延ヘッジとの違い、税効果会計への適用などについて解説しました。ヘッジ会計の仕訳方法には「時価ヘッジ」と「繰延ヘッジ」とがあり、その大きな違いは「デリバティブの損益をどう扱うか」です。
本来、ヘッジ会計のおける原則法は「繰延ヘッジ」であり、「時価ヘッジ」は例外になります。また、ヘッジ会計に関しては、ヘッジ会計の処理ができるための一定要件を満たすことが必要です。したがって、正しく要件を理解しておくことが重要になります。
よくある質問
時価ヘッジとは?
まだ決済をしていないデリバティブ取引を時価評価するための方法で、ヘッジ会計の特例に該当するものです。
繰延ヘッジとは?
繰延ヘッジは、ヘッジ手段であるデリバティブ取引に関する時価評価損益を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べる方法です。
時価ヘッジの場合、税効果会計は適用される?
いいえ。時価ヘッジでは、会計上は時価評価、税務上も時価評価と両者にズレが生じないことから税効果会計は適用されません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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