【速報】令和5年度(2023年)税制改正大綱まとめ

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1.はじめに

令和4年12月16日に税制改正大綱が発表されました。税制改正大綱とは、各省庁や各種団体から提出された税制改正の要望をとりまとめ、今後の税制改正の基礎となる案です。

改正までの流れとしては、12月に税制改正大綱がとりまとめられ、翌年2月に内容の審議、3月成立、4月から施行となります。

なお、税制改正大綱の全体を通して、各項目の末尾に「所要の措置を講ずる」という一文が記載されている箇所が多々あることを鑑みると、今後の議論で詳細が決まってくる部分も多いと思われます。

改正内容の全容は税制改正大綱で決まったと言えますが、必ず大綱の通りに改正されるとは限りませんのでご承知おきください。

また、本記事では法人の業務に関連する重要性の高い改正のみをピックアップして解説していきますので、法人業務に携わる方は参考にしていただけたらと思います。

2.適格請求書等保存方式(インボイス方式)

(1)仕入税額控除に係る経過措置(2割特例)

令和5年10月1日から令和8年9月30日まで日の属する課税期間において、免税事業者から適格請求書発行事業者になったこと、又は課税事業者選択届出書を提出したことにより課税事業者となる場合は、消費税額の計算上控除することができる消費税額(仕入税額控除)の金額は、売上にかかる消費税額に8割を乗じた金額を使えることとなり、インボイス制度開始後に自ら課税事業者になったとしても、上記期間の属する課税期間においては実質的に消費税負担が2割ですむこととなりました。

これは、免税事業者が課税事業者となり簡易課税を選択するよりも、免税事業者でありつづけることが、ある意味インセンティブとなっていたため、それを解消するために講じられた措置となります。

なお、当該適用を受けるためには確定申告書にその旨を付記する必要がありますのでご注意ください。

(注1)
課税期間の特例適用を受けている場合、及び令和5年10月1日以前から課税事業者選択届出書を提出したことにより、引続き課税事業者となる場合は適用されません。

(注2)
簡易課税選択届出書を提出している場合においても、申告時に2割特例か簡易課税のどちらを適用するか選択が可能です。

なお、簡易課税を選択する場合は、みなし仕入率を適用することになります。みなし仕入率が90%である第1種事業の卸売業であれば簡易課税の適用を受ける方が有利となる場合もありますが、第3種事業から第6種事業に該当するのであれば、2割特例を適用する方が有利になると考えられます。

(注3)
本適用を受けた課税事業者が、当該適用を受けた翌課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その課税期間から簡易課税を適用することができるようになりました。

これは、2割特例が終了する令和8年10月以降においても継続する予定となっており、簡易課税選択届出書を提出していなかった場合の不慮の事故を避けることが目的となっています。

つまり、本則課税よりも簡易課税を選択したほうが有利であることが明らかな事業者においては、事前に簡易課税選択届出書を提出しておくことが望ましいでしょう。

(2)少額取引に係る経過措置

基準期間(2年前)における課税売上高が1億円以下、又は特定期間(前期期首から6ヶ月)における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入について、その対価が1万円未満のものであるときは、インボイスの発行がされない場合においても仕入税額控除が認められることとなりました。

また、1万円未満の売上対価の返還等を行う場合についても、インボイスの発行が免除されています。

(3)適格請求書発行事業者登録制度についての見直し

  • (ア)課税期間の初日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合は、その適用を受けようとする15日前の日までに登録申請書を提出すれば良いこととなりました。(現行1ヶ月前)
  • (イ)適格請求書発行事業者がその登録の取り消しをする場合は、その取り消しをしようとする日の15日前までに届出書を提出すれば良いこととなりました。(現行30日前の日の前日)
  • (ウ)令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする場合は、提出する日から15日を経過する日以後の日を登録希望日として記載することとなりました。

また、申請期限後(令和5年3月31日より後)に提出する登録申請書に記載する困難な事情については、運営上記載がなくても問題なしとなりました。つまり、実質的に申請期限が延びたと言えます。

3.電子帳簿等保存法(令和6年1月1日以降の取引について適用)

(1)スキャナ保存制度の見直し

国税関係書類をスキャナで読み取って保存する際の解像度、階調、大きさ、及び入力者の情報等の要件が廃止されました。また、相互関連性要件を満たすべき書類が、契約書・領収書等の重要書類に限定されています。

(2)電磁的記録の保存制度についての見直し

メール等で受け取った電磁的記録保存する請求書・領収書等については、見直しがされることとなり、次の要件を満たす事業者はそのデータを保存する際の検索要件の全てが不要となりました。

    • ・判定期間における売上高が5,000万円以下の事業者(現行1,000万円)

 

    • ・その電磁的記録の出力書面の提示、又は提出の求めに応じる準備をしている事業者

4.法人課税

(1)オープンイノベーション促進税制の見直し

本税制は企業がスタートアップ企業の株式を取得した場合、その株式の取得価額の25%を所得から控除できる税制として令和2年度の税制改正において新設されました。

今回の改正においては下記の措置が取られています。

  • (ア)スタートアップ企業から株式を直接取得していない場合であっても、議決権の過半数を取得すれば適用可能とする。
  • (イ)取得株式について、対象となる取得価額の上限を100億円から50億円に引き下げる。
  • (ウ)既に議決権の過半数を有しているスタートアップ企業に対する出資は除外する。

(2)研究開発税制の見直し(3年間延長)

企業が技術の改良、新たな知見を得るために行う考案や発明に係る試験研究に係る、一般試験研究費、特別試験研究費について税額控除可能額が増加しました。

今までは控除額の上限は一律となっていたため、控除額が上限に達した企業にインセンティブが機能しておらず、一定規模以上の研究開発に歯止めがかかる可能性がありました。

しかし、本改正で控除率の下限が引き下がり上限が引き上がったことにより、今後の研究開発の効果や質が高まることが期待されます。

(3)中小企業投資促進税制等の見直し(2年間延長)

中小企業が一定の機械等を取得した場合は、特別償却又は税額控除の適用を受けることが可能となっています。本改正によりその対象資産からコインランドリー業用設備と暗号資産マイニング業用設備が除外されました。

本制度は中小企業の生産性を向上させるという趣旨がありますが、コインランドリー設備やマイニング設備への投資は課税の繰り延べを目的として利用されることが多かったため、本税制の適用が除外されたと考えられます。

(4)株式交付税制の見直し(新設)

令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に、事業再編計画の認定を受けた法人が特定剰余金分配(関係事業者株式等による剰余金の配当)として行う現物分配(剰余金の配当等を金銭以外の資産により行うM&Aの方法を言う)により、完全子法人の株式を移転する場合は、下記の5つの要件に該当するものに限り、適格株式分配とされることとなりました。

    • (ア)その法人の株主の持株数に応じ、完全子法人の株式のみを交付すること。

 

    • (イ)現物分配後の完全子法人の株式数が発行済株式総数の20%未満であること。

 

    • (ウ)完全子法人の従業員のおおむね90%以上が引続き従事する見込みがあること。

 

    • (エ)非支配要件、主要事業継続要件、特定役員継続要件を満たすこと。

 

    • (オ)関係事業者等に対し、新株予約権が付与される見込みがあること。

(5)デジタルトランスフォーメーション投資促進税制の縮減(2年間延長)

企業のDX化を促進するため令和3年度に新設された本税制ですが、施行から一定の期間が経過したため、下記2点につき適用要件が見直されることとなっています。

    • (ア)生産性向上、または新需要の開拓に関する要件を、売上高が10%以上増加する見込があることに見直す。

 

    • (イ)取組類型に関する要件を、対象事業の海外売上高比率が一定割合以上となる見込があることに見直す。

(6)医療用機械等の特別償却制度(2年間延長)

対象機器の見直しが行われることとなりました。

(7)特定資産を買換えた場合の圧縮記帳の見直し(3年延長)

企業が棚卸資産以外の資産を譲渡し、同事業年度において特定の資産に買換えた場合は、譲渡益の80%を限度に圧縮損を計上することにより、譲渡益への課税を繰り延べることができる制度となっています。

本改正では特定資産の範囲と繰り延べ割合が下記のように見直されました。

    • (ア)既成市街地等の内から外への買換えを適用対象から除外。

 

    • (イ)航空機騒音障害区域の内から外への買換えについて、令和2年4月1日前に航空機騒音による障害の防止等に関する法律の第二種区域となった区域内にある資産は除外。

 

    • (ウ)長期所有資産(土地建物)の買換えについて、繰り延べ割合の見直し。

 

    • (エ)日本船舶から日本船舶への買換えについて一定の見直し。

 

    • (オ)先行取得の場合における、届出書の提出要件の見直し。

(8)暗号資産の評価方法についての見直し

法人が保有する暗号資産については時価評価する必要がありますが、下記に該当する暗号資産については除外されることとなりました。

    • (ア)自己発行した暗号資産で、発行時から継続して保有しているもの。

 

    • (イ)発行時から保有している、他者に移転できない技術的措置が取られているもの、又は一定要件を満たす信託の信託財産としているもの(譲渡制限が行われているもの)。

なお、暗号資産交換業者以外の者から借入れた暗号資産を譲渡した場合において、期末 時点において同種類の暗号資産を買い戻さなかったときは、期末時点において買い戻し たものとみなして損益相当額を計上することが必要となりましたので、ご留意ください。

5.その他

(1)エコカー減税の見直し

排出ガス性能及び燃費性能が高く、環境負荷の小さい自動車にかかる自動車重量税について、令和6年1月以降、令和7年4月又は5月以降において燃費基準が引き上げられることとなり、実質的に増税となりました。

(2)償却資産税申告にかかる整備

少額減価償却資産の一括損金算入制度、及び一括償却資産の損金算入制度から、貸付の用に供した資産(主要な事業として行われるものを除く)が除外されました。それに伴い、償却資産に係る固定資産税についても、所要の措置が講じられることとなりました。

6.令和6年以降の予定

(1)法人税

法人税に対し、税率4~4.5%の新たな付加税の創設。なお課税標準は、法人税額から500万円を控除した金額となる予定です。

(2)所得税

現行の復興特別所得税2.1%の内の1%を引き下げ、当分の間、税率1%の新たな付加税を創設予定です。

(3)たばこ税

1本あたり3円の引き上げを予定しており、段階的に引き上げていきます。

7.まとめ

本記事では、税制改正大綱に記載された改正項目の内、法人業務に関連する重要性の高い項目をピックアップして解説してきました。

令和5年度の税制改正大綱においては投資関連税制の拡充、インボイス制度に関する経過措置の取り扱い、電子帳簿等保存法の要件緩和など、今後すぐにでも対応しないといけない項目が多くあったのではないかと感じます。

また、本記事では取り上げておりませんが、所得税はNISA枠の拡充や富裕層への課税強化、相続税は相続時精算課税制度の拡充や生前贈与の相続財産加算期間の延長などの改正もあり、ざっくりとでも押さえておくべきポイントは多くあります。

現在詳細が決まっていない改正事項についても、令和5年の3月までには閣議決定し、4月からは施行されますので、対応が遅れないよう少しずつでも改正内容を押さえていくようにしましょう。

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