- 更新日 : 2024年8月8日
【速報】令和6年度税制改正大綱の概要まとめ
令和6年度税制改正大綱が12月14日に発表されました。本年の税制改正大綱の大きな改正点は、法人課税に係る賃上げ税制の改正、交際費から除外できる飲食費基準金額の増額、外形標準課税の改正、消費課税に係るプラットフォーム課税の導入、所得税・個人住民税の定額減税の創設など幅広い分野に影響がある内容となっており、我々の生活やビジネス環境に大きな変化をもたらします。
本記事では、法人に関連する改正点を中心に、押さえておくべきポイントと具体的な改正内容を解説、さらに、本年度の改正が法人の経営・業務を行う上での判断にどのような影響を与えるのか詳しく掘り下げていきます。
税制改正大綱の内容は、非常に複雑で理解しづらいものですが、分かりやすいよう、かみ砕いた表現で解説していきますので、本記事を通じて日々の業務に役立つ情報を収集いただければと思います。
法人課税に関する変更点
(1)賃上げ税制の改正(適用期間:令和6年4月1日~令和9年3月31日)
前事業年度と比較し、給与等の支給額が増加した場合は一定の税額控除を受けることができる、賃上げ税制について改正がありました。大企業については要件を厳格化し、賃上げ率が低い企業は控除率が縮小となります。
また、子育て支援を行っている企業については控除率を加算し、赤字となって賃上げ税制が適用できなかった中小企業については、5年間税額控除額を繰り越すことができるようになりました。
①大企業向け
(ア)継続雇用者給与等支給額の増加割合が3%以上の場合、税額控除率を15%から10%へ引き下げ
(イ)税額控除率の上乗せ措置
- (a)継続雇用者給与等支給額の増加割合が4%以上の場合、税額控除率5%加算
- (b)継続雇用者給与等支給額の増加割合が5%以上の場合、税額控除率10%加算
- (c)継続雇用者給与等支給額の増加割合が7%以上の場合、税額控除率15%加算
- (d)教育訓練費の増加割合が10%以上、かつ教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上である場合、税額控除率5%加算
- (e)プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を受けている場合は、税額控除率5%加算
②中堅企業向け(従業員2,000人以下)
(ア)継続雇用者給与等支給額の増加割合が3%以上の場合、税額控除率10%
(イ)税額控除率の上乗せ措置
- (a)継続雇用者給与等支給額の増加割合が4%以上の場合、税額控除率15%加算
- (b)教育訓練費の増加割合が10%以上、かつ教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上である場合、税額控除率5%加算
- (c)当事業年にプラチナくるみん、若しくはプラチナえるぼしの認定を受けている、又はくるみん又はえるぼし(3段目以上)の認定を受けている場合は、税額控除率に5%加算
③中小企業向け
(ア)控除限度を超えた金額は、5年間繰り越しできるものとする
(イ)教育訓練費の増加割合が5%以上、かつ教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上である場合、税額控除率10%加算
(ウ)当事業年にプラチナくるみん、若しくはプラチナえるぼしの認定を受けている、又はくるみん又はえるぼし(2段目以上)の認定を受けている場合は、税額控除率5%加算
(2)国内投資の促進
①戦略分野国内生産促進税制の創設(適用期間:改正法施行日~令和9年3月31日)
(ア)対象者
青色申告を行う事業者が、産業競争力強化法の改正を前提に同法の事業適用計画の認定を受けた認定適用事業者
(イ)対象資産
事業適応計画に記載された、産業競争力強化基盤商品を生産するための設備
(ウ)税額控除期間
認定を受けた日以後10年以内で、産業競争力基盤強化商品生産用資産により生産された商品の販売数量等を基礎とした金額、当該資産の取得価額を基礎とした金額のうちいずれか低い金額
(エ)税額控除上限額
法人税額の40%(半導体生産用資産の場合は20%)
(オ)控除限度超過額の繰越期間
4年間(半導体生産用資産の場合は3年)
②イノベーションボックス税制の創設(適用期間:令和7年4月1日~令和14年3月31日)
青色申告を行う法人が、一定の期間内に特定特許権等の譲渡、又は貸付を行った場合は、下記の(ア)(イ)の金額のうち少ない金額に30%を乗じた金額を損金算入することができる。
(ア)次の(a)の金額に(c)/(b)の割合を乗じた金額
- (a)特定特許権譲渡取引に係る所得金額
- (b)当期及び前期における、特定特許権譲渡等取引に係る研究開発に要した金額の合計額
- (c)(b)に含まれる適格研究開発費の額の合計額
(イ)当期の所得金額
(3)外形標準課税の改正(令和7年4月1日から適用)
外形標準課税の適用対象となる範囲について、現行基準(資本金1億円以上)を維持し、下記のように範囲が拡大されました。
①減資への対応
下記全てに該当する場合は外形標準課税の対象となる
- (ア)前事業年度が外形標準課税の対象であった法人
- (イ)当該事業年度の資本金が1億円以下
- (ウ)資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える
②100%子法人等への対応
下記全てに該当する場合は外形標準課税の対象となる
- (ア)資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人又は100%子法人等
- (イ)当該事業年度の資本金が1億円以下
- (ウ)当該事業年度の資本金と資本剰余金の合計額が2億円超(配当を行った場合は、配当に相当する額を加算した金額)
(4)交際費等の範囲から除外される飲食に係る基準金額の引き上げ(令和6年4月1日から適用)
令和6年4月1日以降に支出した飲食代について、一人あたり10,000円以下のものについては、交際費から除くことができるようになります。現行は一人あたり5,000円以下の飲食代が対象となっていましたが、物価上昇などの影響を考慮し、基準金額が引き上げられました。
(5)中小企業事業再編投資損失準備金の要件緩和(令和9年3月31日まで延長)
- ①令和9年3月31日までに産業競争力強化法の特別事業再編計画(仮称)の認定を受ける
- ②当該計画に沿って他の法人の株式を取得
- ③その事業年度末日まで株式を保有している
その株式の価格下落による損失に備えるために、下記区分に応じて取得株式に一定の割合を乗じた金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額をその事業年度において損金算入することができます。ただし、株式の取得価額が1億円以上100億円未満の場合に限ります。
- (ア)計画に沿って最初に取得した株式等 90%
- (イ)(ア)以外の株式等 100%
※改正前の積立限度額は投資額の70%
なお、準備金は当該株式を有しなくなった場合に取り崩すほか、積み立てた事業年度の翌事業年度から、10年経過後の事業年度から5年間で均等に取り崩して益金算入となります。
(6)倒産防止共済の損金算入時期(令和6年10月1日以降の解約分から適用)
中小企業倒産防止共済を解約した場合は、その解約金は益金となりますが、今までは解約同事業年度に1年分を前納することで損金算入することができました。
しかし本改正により、令和6年10月1日以降に解約した共済契約については、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する共済掛金は、損金算入することができなくなります。
例えば、現行制度の基において、800万円積みたてた共済契約を解約した場合、解約返戻金として益金を800万円計上し、これを原資に240万円再度同事業年度に積み立てたときは、240万円が損金算入可能となります。
しかし、改正により、解約後すぐに支出した共済掛金240万円は、解約から2年経過しないと損金算入できないことになりました。
(7)法人が保有している暗号資産の評価
法人が保有する譲渡制限が付された暗号資産については、下記のいずれかの評価方法を選択することができます。なお、通常の暗号資産については期末日の時価で評価するものとされています。
- ①原価法
- ②時価法
ただし、他の者に移転できないような技術的措置等がとられており、暗号資産交換業者にその旨が通知されている場合に限られます。
消費課税に関する変更点
(1)プラットフォーム課税の導入(令和7年4月1日から適用)
令和7年4月1日以降に国外事業者が、国税庁の指定を受けたデジタルプラットフォーム事業者(「特定プラットフォーム事業者」という)を介して、アプリケーションなどの提供(電気通信利用役務の提供)を行ったときは、当該取引は特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなされることとなります。
なお、特定プラットフォーム事業者の指定は、対象となる電気通信利用役務の提供に係る対価の額の合計額が50億円を超えた場合に、その課税期間に係る確定申告書の提出期限までにその旨を届け出る必要があります。
本改正は、国外事業者がプラットフォーム事業者を介して、日本国内でアプリケーションの販売等を行っているにもかかわらず、消費税が納税されなかった場合において、国外事業者に対して差し押さえ等を行うことが難しいという現状がありました。
そこで、国内プラットフォーム事業者に納税義務を課すことで、国外事業者から間接的に消費税を徴収できるよう手当されたといえます。
(2)事業者免税点制度の特例の見直し(令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用)
①特定期間における納税義務の免除の特例
基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であったとしても、前事業年度上半期(特定期間)の課税売上高又は給与等支払額が1,000万円超であったときは、消費税の納税義務が生じることとなっていますが、この給与等支払額の判定対象から国外事業者を除きます。
国外事業者は日本国内で給与等の支払をしない場合も多いため、国外事業者は課税売上高のみで判定を行うこととなりました。
②新設法人の納税義務の免除の特例
外国法人は基準期間がある場合でも、国内で事業を開始した時において、資本金が1,000万円以上であるかどうかで、納税義務の判定を行うこととなります。
③特定新規設立法人の納税義務の免除の特例
基準期間がない資本金1,000万円未満の新規設立法人のうち、他の者から株式を50%以上保有されており、かつ、いずれかの者の課税売上高が5億円を超える法人については、特定新規設立法人に該当し、該当事業年は課税事業者となります。
しかし、親会社が国外事業者である場合は、その判定に用いる売上高は国外売上(課税対象外売上)が大半を占めるため、課税売上高のみでは会社規模を計ることは困難でした。
そこで本改正では、売上判定基準に国外収入を含むこととし、その判定金額を50億円超とすることになりました。
(3)インボイス制度に係る改正
①免税事業者からの課税仕入れについての経過措置の改正(令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用)
インボイス登録をしていない免税事業者から課税仕入れを行った場合は、経過措置として当初3年間は80%控除が適用されます。しかし、同一事業者と一事業年度中に10億円を超える取引を行った場合には、10億円を超えた金額については経過措置の適用がされないことになりました。
②自販機特例の住所記載の改正(令和5年10月1日以後の取引について適用)
自販機等で購入したもの(3万円未満のもの)は領収書等の発行がされないため、帳簿に一定の事項を記載することで仕入税額控除が認められることとなっていますが、帳簿への記載事項として住所等の記載が不要になりました。
③2割特例又は簡易課税適用時における経理方法の見直し(令和5年10月1日以後の取引について適用)
令和5年10月1日以後に行う課税仕入れについて、税抜経理方式を適用している場合において、仮払消費税等として計上する金額は、継続適用を条件として課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10を乗じた金額とすることが認められることとなりました。
2割特例又は簡易課税制度は、経理事務負担を軽減する目的で設けられた制度です。仮払消費税の計上額を計算するためだけに、取引先がインボイス登録事業者であるかどうかを確認することは、本制度の趣旨に反していると考えられるため、簡便的な処理が認められることになりました。
(4)簡易課税制度の見直し(令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用)
課税期間の初日において、恒久的施設(日本国内で事業の管理を行う、支店、工場、作業所等)を有しない事業者については、簡易課税制度の適用を認めないこととなりました。
(5)高額特定資産の対象範囲拡大(令和6年4月1日から適用)
高額特定資産を取得した場合の事業者免税店制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置の対象に、その課税期間において金又は白金の地金等の額の合計額200万円以上である場合が加えられました。
これにより、金地金を200万円以上取得したときは、高額特定資産を取得した場合に該当し、一定期間は課税事業者(原則課税)が強制適用されるため、実質的に金地金の還付スキームが封じられたといえるでしょう。
その他の変更点
(1)所得税・住民税からの定額減税(令和6年度の所得税について適用)
令和6年の所得税について、定額による所得税の特別控除が実施されます。ここでは、給与から控除される場合について解説します。
①対象者
令和6年分の合計所得金額が1,805万円以下(給与収入2,000万円)
②特別控除額
- 所得税:本人3万円+同一生計配偶者等3万円×人数
- 住民税:本人1万円+同一生計配偶者等1万円×人数
③給与所得者に係る特別控除
- (ア)令和6年6月1日以降に最初に支払を受ける給与等から控除
- (イ)控除しきれない金額があるときは次月に持ち越し
- (ウ)12月まで持ち越した場合は年末調整で年税額から控除
- (エ)源泉徴収票の摘要欄に控除した額等を記載する
なお、6月以降に入社した人については、源泉徴収票に控除された額等が記載されているため、新たに雇用した場合は早期に源泉徴収票を回収する必要があります。
(2)子育て支援に関する政策税制(令和6年度から適用)
①住宅ローン控除(控除率0.7%)
子育て特例対象個人が、令和6年1月1日から同年12月31日までの間に居住した住宅借入金等については、下記の区分に応じて住宅ローン控除の適用を受けることができる。
- (ア)認定住宅 5,000万円
- (イ)ZEH水準省エネ住宅 4,500万円
- (ウ)省エネ基準適合住宅 4,000万円
(3)GビズIDとの連携によるe-taxの利便性向上
法人がGビズIDを入力して、e-taxにより申請等又は納付を行う場合は、電子署名や電子証明書の送信は不要となる。
改正内容を把握して適切に対応しましょう
本記事では、税制改正大綱のうち法人に関連する重要性の高い項目を中心にピックアップして解説しました。
令和6年度の税制改正大綱では、賃上げ促進税制の改正、国内投資の促進を狙った税制の創設、国外事業者から適切な徴税を行うための整備などが目立ちました。
なお、定額減税についても本大綱に盛り込まれており、令和6年6月以降の給与計算で処理していくこととなります。
定額減税は、従業員ひとりひとりについて残高確認しながら処理を行う必要があり、事務処理が煩雑になってしまいます。そのため、どのような流れで処理を行っていくのかを事前に確認・準備しておきましょう。
また、現在詳細が決まっていない改正事項については、令和6年の3月までには閣議決定され、同年4月から施行されますので、対応が遅れないよう改正内容を押さえておくことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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