- 更新日 : 2024年8月8日
新株予約権とは?会計処理やメリット・デメリットの解説
あらかじめ決められた条件や金額によって、株式会社の発行する株式を取得できる権利を「新株予約権」といいます。新株予約権を株式会社が発行した場合、または取得した場合、どのように会計処理を行うのが適切なのでしょうか。新株予約権の仕訳と使用する勘定科目、新株予約権を発行する側と取得する側それぞれのメリットとデメリットを解説していきます。
目次
新株予約権とは
新株予約権とは、あらかじめ決められた金額や条件で株式会社の株式を取得できる権利をいいます。新株予約権者が権利を行使すると、あらかじめ決められた権利行使価額で株式を取得できます。新株予約権を付与した株式会社は、権利行使時の株価に関わらず、行使価額で新たに株式を発行または自己株式を交付しなくてはなりません。
2001年以前は、転換型社債のように新株予約権付与は社債との組み合わせが必要でしたが、法改正により新株予約権単体でも発行できるようになりました。
新株予約権の種類
新株予約権は、使い方によっていくつかの種類に分類できます。ここでは、新株予約権の中でも代表的な「ストックオプション」「社外向け発行」「無償割当」「有利発行」の4種類について概要を紹介します。
ストックオプション
新株予約権のうち、会社の取締役や会計参与、監査役、執行役、雇用契約を結んでいる従業員など、社内向けに発行するものを「ストックオプション」といいます。
ストックオプションの権利行使条件は、多くの場合現在の身分の保持(会社への在籍)が求められます。また、ベスティングといい、在籍期間に応じて段階的に権利行使が可能な数を引き上げる条件があるケースも見られます。
ただし、これらの条件の設定は必須ではありません。権利行使の条件を付与するかどうか、どのような条件を付与するかは、会社が任意に決定できます。
なお、従来のストックオプションは、社内の取締役や従業員などに限られていましたが、税制改正により、2019年7月16日以降新規中小企業においては申請を行うことで、外部協力者も適用範囲に含まれるようになりました。外部協力者とは、3年以上の実務経験のある国家資格保有者や上場企業役員など、一定の要件を満たす社外高度人材のうち新規事業に貢献する社外協力者を指します。
社外向け発行
社内向けに発行される新株予約権がストックオプションと呼ばれるのに対し、社外向けの発行はそのまま「社外向け発行」といいます。
社外向け発行は募集株式と同じように、株主割当と第三者割当の2種類があります。株主割当は、既存の株主の持ち株に比例する新株予約権の発行をいい、第三者割当は既存の株主に特定せずに株主以外にも広く発行される新株予約権をいいます。
近年はグローバル化によって、敵対的買収に備える必要性も高まってきました。社外向け発行は、新株予約権の発行対象を限定し、敵対的買収を防止する目的もあります。
無償割当
株主割当には、有償での割り当てと無償での割り当てがあります。無償割当とは、既存株主に対して、保有株式に応じて新株予約権を無償で割り当てることをいいます。無償割当の方法は、非上場の無償割当とライツ・オファリング(上場型新株予約権の無償割当)の2つです。
非上場型では、新株予約権は上場されず、市場での取引はできません。一方のライツ・オファリングは、上場会社が新株予約権を上場し、一定期間、市場で取引ができます。ライツ・オファリングであれば、新株予約権者は権利を行使せずに新株予約権自体を売却することが可能です。
無償割当は、株式会社が新株発行などによる大幅増資を行う際に活用されます。大幅な増資が行われると、1株あたりの価値が下がることも多く、既存の株主が損することになるためです。既存株主の経済的利益を守るために、市場価格よりも安価で新株予約権の無償割当を行うことで、株主が権利行使した場合も売却した場合も、ある程度の不利益が生じないようにする調整の役割があります。
有利発行
有利発行とは、公正な価格に対して、特定の対象者に特に有利な価格で新株予約権を発行する手続きをいいます。第三者割当での有利発行は、新たに株主を募る際に活用できる方法です。
しかし、第三者に対して特に有利な価格で株式の発行を行うことで、既存の株主が株価下落や議決権割合の減少などの不利益を被ることがあります。そのため、有利発行の際は、原則として、株主総会での特別決議が必要であり、取締役は同時に株主総会で有利発行を行う理由の説明義務が課されます。
新株予約権の会計処理(発行した場合)
社外向け発行と社内向けのストックオプションとでは、新株を発行する目的は同じでも会計処理が変わってきます。ここでは代表例として、新株予約権を発行した側の社外向け発行の新株予約権と、無償ストックオプションにおける仕訳と勘定科目を解説していきます。
■社外向け発行の新株予約権
【発行時】
(例)1個1万円(新株予約権1個につき交付株式数100株、発行価額1株1万円、行使価額1株1万円)の新株予約権を100個発行し、当座預金に全額の払い込みを受けた。
新株予約権の払い込みを受けたら「新株予約権(純資産)」の勘定科目を用いて仕訳を行います。払込時に直ちに資本金に組み入れないのは、権利が行使される可能性もあれば、行使されずに失効する可能性もあるためです。
【権利行使時】
(例)1個1万円(新株予約権1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権について、80個分の権利が行使され、当座預金に払い込みを受けた。権利行使分は新株の発行が行われ、すべてを資本金とした。
新株予約権は、権利行使により株式の払い込みを受けたときに、払込額と合算して行使された分を資本金に組み入れます(2分の1を超えない額については資本準備金に組み入れることもできます)。なお、仕訳例は新株発行ですが、自己株式があれば資本金に組み入れる代わりに、自己株式の付与もできます。
【権利失効時】
(例)1個1万円(新株予約権1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権について、20個分は権利が行使されずに期限を迎えた。
権利失効により行使されなかった新株予約権は、「新株予約権戻入益」として、特別利益に振り替えます。
■無償ストックオプション
【付与時】
(例)新株予約権1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円のストックオプション15個を、当社の執行役含む役員に無償で付与した。
無償ストックオプションは、対価なしに無償で付与するため、新株予約権のオプション分の払い込みがありません。そのため、発行時の仕訳は不要です。
【株式報酬費用計上時】
(例)期末にあたり、当期首に執行役含む役員に付与した15個のストックオプション(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)について、株式報酬費用を月割り計上する。なお、ストックオプションの公正な評価単価は1個1万円、対象勤務期間は3年である。
ストックオプションについては、ストックオプションを対価に、追加的に役員や従業員などからサービスが提供されるものと考え費用計上を行います。このとき使用する勘定科目が「株式報酬費用」です。また、付与時には「新株予約権」の計上はありませんが、株式報酬費用の計上にともない、段階的に新株予約権に計上を行います。
株式報酬費用と新株予約権の計上において必要になるのが、ストックオプションの公正な評価単価と対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)です。上記の例では、対象勤務期間は3年で当期首に付与が行われているため、以下の計算で当期に計上する株式報酬費用を求めます。
なお、条件未達成などによりストックオプションの失効が見込まれる場合、ストックオプションの公正な評価額に変化がある場合などには、算定される株式報酬費用の見直しが必要になることがあります。
【権利行使時】
(例)公正な評価単価1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)のストックオプションについて、12個分の権利が行使され、当座預金に払い込みを受け、すべてを資本金に組み入れた。なお、対象勤務期間中の公正な評価単価の変動や条件未達成による失効はなかったものとする。
権利確定日までに公正な評価単価の変動などが反映された状態で、新株予約権の額が確定します。権利が行使されたときの仕訳は、通常の新株予約権行使時の仕訳と同様です。
【権利失効時】
(例)公正な評価単価1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)のストックオプションについて、3個分の権利が行使されずに行使期間満了日を迎えた。
権利失効時の仕訳も、通常の新株予約権と同様です。失効分を特別利益の「新株予約権戻入益」に計上します。
新株予約権の会計処理(取得した場合)
新株予約権を取得した側は「新株予約権」の勘定科目を使用せず、有価証券(売買目的の場合)や投資有価証券(売買目的以外の場合)の勘定科目を用いて会計処理を行います。以下は、新株予約権、権利行使時、権利失効時の仕訳の例です。失効時には、新株予約権の効力がなくなってしまうため、特別損失に計上します。
【取得時】
(例)1個1万円(1個につき交付株式数100株、発行価額1株1万円、行使価額1株1万円)の新株予約権3個を取得し、当座預金より支払いを行った。新株予約権は売買目的の取得ではない。
【権利行使時】
(例)1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権3個について権利を行使し、取得した株式の対価を当座預金より支払った。新株予約権は売買目的で取得したものではない。
【権利失効時】
(例)1個1万円(1個につき交付株式数100株、行使価額1株1万円)の新株予約権3個について権利を行使しないまま行使期間を経過したため、失効損を計上した。新株予約権は売買目的で取得したものではない。
新株予約権の税務上の取扱い
新株予約権を税務上で取扱うにあたり、特に注意が必要な手続きが無償ストックオプションです。無償ストックオプションは、税務上「税制適格ストックオプション」と「税制非適格ストックオプション」に分類されます。
税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法の要件を満たした無償発行のストックオプションを指します。税制適格ストックオプションは、税務上は有償発行のストックオプションと同じ取扱いになり、ストックオプションの権利行使時には課税は行われません。新株予約権者が、ストックオプションにより取得した株式を譲渡するときまで課税が繰り延べられます。この場合、ストックオプションの権利行使時に給与所得として課税が行われないため、発行側の法人は損金算入ができません。
一方の税制非適格ストックオプションでは、権利行使時および権利行使後の株式の譲渡時に課税が行われます。権利行使時には、ストックオプションの行使価額と株式の時価との差額が給与所得などとして扱われるため、発行した法人はその分を損金算入できます。
新株予約権のメリット・デメリット
新株予約権の発行や取得について、発行側と取得側のメリットとデメリットをそれぞれ紹介します。
メリット
発行側のメリット
株式市場において広く資金調達ができるようになった一方で、大型買収のリスクも高まってきました。新株予約権は、敵対的買収者による大型買収に対抗する手段として活用されるケースも増えてきています。買収者が会社の規定するルールを違反したときに新株予約権の無償割当を実施する「事前警告型買収防衛策」、平時から信託銀行などに対して差別的行使条件のある新株予約権を発行しておき敵対的買収者に対抗する「信託型ライツ・プラン」などが代表的な例です。
大型買収への抑止以外では、新株発行による株式の希薄化(株式数の増加により1株あたりの価値が下がること)を防止するメリットもあります。公募増資と比べ、新株予約権は希薄化をコントロールしやすく、希薄化の影響を緩和できるためです。しかし、あくまで公募増資と比較したときの影響ですので、権利行使期間が満了を迎えるまでは、新株予約権の発行でも多少の希薄化のリスクは存在します。
取得側のメリット
新株予約権のメリットは、行使期間内であれば、新株予約権者の判断で権利を行使するかどうか判断できる点にあります。例えば、行使期間中に株価が上昇していれば、株価が十分に上がったと判断したタイミングで権利行使できます。
新株予約権で付与された行使価額と比べて株価が上昇していれば、時価よりも低い価格で株式を取得できますので、行使する株数によっては大きな利益も期待できるでしょう。
デメリット
発行側のデメリット
新株予約権が行使されるかどうかは、新株予約権者の判断に委ねられます。例えば、新株予約権者の想定より株価が上がらないときは、新株予約権は期間内に行使されず、失効してしまうこともあるでしょう。発行会社は、新株予約権が行使されないことで、計画どおりに資金調達ができない可能性があります。
また、ストックオプションや新株予約権の割当を考える場合、付与や配分の対象をどうするか難しい点もデメリットとして挙げられるでしょう。割当や条件によっては、不公平感が生じてしまうためです。不公平感を緩和するには、割当の基準を明確にする必要があります。
取得側のデメリット
新株予約権は無償のものだけでなく、有償で割り当てられる場合もあります。
権利取得者はオプション料として新株予約権の対価を支払わなければなりません。しかし新株予約権により定められた行使価額よりも株価が上昇するならば、オプション料を負担した影響も受けないでしょう。
問題は、新株予約権を有償で取得したにもかかわらず、期待より株価が上がらなかった場合です。株価はさまざまな要因で変動しますので、行使価額を上回ることもあれば、大きく下回るリスクもあります。
行使期間中、行使価額よりも株価が下がっているケースでは、権利行使によって損をするリスクと同時に、権利行使をしないことによる新株予約権の失効でオプション料分の損失を被るリスクを抱えます。
新株予約権は社内向けと社外向けで会計処理が変わる
新株予約権は、社外向けに発行するか、社内の取締役や従業員などを対象に発行(ストックオプション)するかで、会計処理の方法が大きく変わってきます。特に、無償ストックオプションについては、税制適格か税制非適格かで税務上の取扱いも変わってきますので、ポイントをよく押さえておきましょう。
よくある質問
新株予約権とは?
あらかじめ決められた金額や条件で株式会社の株式を取得できる権利のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
新株予約権の会計処理のポイントは?
新株予約権の発行会社は、発行時には資本金に組み入れず、権利が行使されたときに株式払込分と一緒に資本金の額に組み入れます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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