• 更新日 : 2024年8月8日

法人税申告書の別表11とは?見方や書き方、注意点まで解説

法人税申告書の別表11は、引当金にかかわる書類です。この記事では、法人税申告書を社内で作成したいと考えている企業向けに、別表11の種類や書き方、作成にあたっての注意点を解説します。

法人税申告書の別表11とは

法人税申告書の別表11は、貸倒引当金や返品調整引当金に関する11(1)、11(1の2)、11(2)の3種類の明細書で構成されています。

11(1)は、「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」です。貸倒引当金を計上する金銭債権の中でも、リスクの高い個別評価金銭債権があるときに作成します。

11(1の2)は、「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」です。貸倒引当金のうち、個別評価金銭債権を除いた金銭債権について、税法上の貸倒引当金を計算するために作成します。

11(3)は、「返品調整引当金の損金算入に関する明細書」です。返品調整引当金は、当期に売り上げた商品のうち、翌期以降に買い戻しを行う契約がある場合の利益部分に対する引当金をいいます。出版業や製薬業などに関連する明細書です。

いずれの様式も「国税庁のサイト」よりダウンロード、またはe-Taxソフトなどから入手できます。

法人税申告書の全体的な作成方法は、以下の記事を参照ください。

法人税申告書の別表11に記載する主な項目と書き方

別表11(2)は返品調整引当金の規定を受ける場合に作成が必要な書類です。代表的な書類として、別表11(1)「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」と別表11(1の2)「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」の書き方を紹介します。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書

金銭債権(売掛金や貸付金など)の中でも、回収リスクの高い個別評価金銭債権の貸倒引当金に関する明細書です。各項目、以下の内容を記載します。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書

出典:個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書|国税庁

1~2.債務者(住所又は所在地・氏名又は名称)

貸倒れの可能性が高い、個別評価金銭債権に該当する売掛金や貸付金などの金銭債権の債務者の情報を記載します。2の()への記載は、債務者が外国の政府や中央銀行、地方公共団体の場合に必要です。

3.個別評価の事由

法人税法施工例第96条の「貸倒引当金勘定への繰入限度額」のうち、どの事由に該当するか記載します。個別評価金銭債権に該当する事由としては、更生手続き開始の申し立て、相当期間の債務超過で好転の見通しがないことなどが挙げられます。

4.同上の発生時期

個別評価の発生時期を記載します。

5.当期繰入額

損金経理(会計上の処理)により、当期に貸倒引当金に繰り入れた個別評価金銭債権の額を記載します。

当期繰入額

出典:個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書|国税庁

6.個別評価金銭債権の額

6~17は、法人税法上繰り入れできる個別評価金銭債権の額を計算するための項目です。法人税法52条第1項の貸倒引当金に規定される、計算の基礎になる個別評価金銭債権の額を記載します。

7.(6)のうち5年以内に弁済される金額

個別評価貸倒引当金の繰入限度額から控除する必要がある事業年度終了の翌日から5年以内に弁済が予定される金額を記載します。

8~10.(6)のうち取立て等の見込額

取立て等の見込額は繰入限度額から控除すべき金額です。担保権の実行による取立て、他の者(保証機関など)の保証による取立て、その他の取立て、に分けて金額を記載します。

11. 8~10の取立て等の見込額の合計額を記載します。

12.(6)のうち実質的に債権とみられない部分の金額

債務者に対する買掛金の金額など、債務者から実質的に受け入れがあったとみなされる金額を記載します。

13. 6の基礎となる金額から、7と11と12の金額を控除した金額を記載します。

14~17.繰入限度額

3の「個別評価の事由」の記載をもとに繰入限度額を計算する項目です。法人税施行令96条第1項の第1号か第2号に該当するときは「13」の金額をそのまま記載します。第3号か4号に記載するときは「13」の金額に50%を乗じた金額を記載します。

18.繰入限度額超過額

14~17の「繰入限度額」に対して、5の「当期繰入額」が超過した額を記載します。

繰入限度額超過額

出典:個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書|国税庁

19.貸倒れによる損失の額等の合計額に加える金額

19~24は、別表11(1の2)に記載する金額の基礎になる計算を示した項目です。5の「当期繰入額」、14~17の「繰入限度額」のうち少ない金額を記載します。

20.前期の個別評価金銭債権の額

前期の別表11の6「個別評価金銭債権の額」を転記します。

21.(20)の個別評価金銭債権が売掛債権等である場合の当該個別評価金銭債権に係る損金算入額

「20」の個別評価金銭債権が売掛債権等であるときは、前期の別表11の19「貸倒れによる損失の額等の合計額に加える金額」を転記します。

22.(21)に係る売掛債権等が当期において貸倒れとなった場合のその貸倒れとなった金額

該当する場合に記載します。

23.(21)に係る売掛債権等が当期においても個別評価の対象となった場合のその対象となった金額

該当する場合に記載します。

24.(22)又は(23)に金額の記載がある場合の(21)の金額

該当する場合に記載します。翌期の別表11(1の2)の金額の基礎になる金額です。

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書

別表11(1の2)は、一括評価金銭債権の貸倒引当金に関する明細書です。

一括評価金銭債権とは、貸倒引当金に繰り入れる金額のうち、個別評価金銭債権に該当しない金銭債権のことです。売掛金や貸付金のほか、未収請負金や未収地代家賃、貸付金の未収利子などが含まれます。

別表11(1の2)は、17~25の「一括評価金銭債権の明細」と26~29の「基準年度の実績により実質的に債権とみられないものの額を計算する場合の明細」を作成後、上部の1~16の項目を記載します。

一括評価金銭債権の明細

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書

出典:一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書|国税庁

別表11(1の2)の17~25の項目は、勘定科目ごとに一括評価金銭債権の額を集計するための項目です。一括評価金銭債権の対象である勘定科目(売掛金や貸付金など)ごとに17~25の各項目を記載していきます。

17.期末残高

決算書上の金額を記載します。税抜経理方式を採用している場合でも、記載する金額は消費税を含めた税込み金額を記載する点に注意しましょう。

18.売掛債権等とみなされる額及び貸倒否認額

会計上は売掛債権として扱われていないものの、税務上は売掛債権等とみなされる額、貸倒損失のうち税務上は貸倒れとして認められない金額を記載します。

19.(17)のうち税務上貸倒れがあったものとみなされる額及び売掛債権等に該当しないものの額

17の「期末残高」に対して該当する金額がある場合に記載します。

20.個別評価の対象となった売掛債権等の額及び非適格合併等により合併法人等に移転する売掛債権等の額

別表11(1)の「6」の個別評価金銭債権の額を転記します。

21.法第52条第1項第3号に該当する法人の令第96条第9項各号の金銭債権以外 の金銭債権の額

法人税法第52条第1項第3号に該当するリース資産の対価として金銭債権を有する内国法人などに関連する項目です。

22.完全支配関係がある他の法人に対する売掛債権等の額

発行済株式等の全部を保有する法人の売掛債権等に関する項目です。

23.期末一括評価金銭債権の額

「17」と「18」の合計額から「19」「20」「21」「22」の額を控除した金額を記載します。

24.実質的に債権とみられないものの額

中小企業者等の貸倒引当金の特例に規定される簡便法を選択しないときに記載する項目です。債務者に対する買掛金などが該当します。

25.差引期末一括評価金銭債権の額

「23」の金額から「24」の金額を差し引いた金額を記載します。

基準年度の実績により実質的に債権とみられないものの額を計算する場合の明細

基準年度の実績により実質的に債権とみられないものの額を計算する場合の明細

出典:一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書|国税庁

別表11(1の2)の26~29は、実質的に債権とみられないものの額について、中小企業者等の貸倒引当金の特例である簡便法を選択した場合に記載する項目です。簡便法は、平成27年4月1日の時点で開業していた法人が適用できる特例です。

26.平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始した各事業年度末の一括評価金銭債権の額の合計額

該当する金額を記載します。

27.同上の各事業年度末の実質的に債権とみられないものの額の合計額

基準年度(平成27年4月1日から平成29年3月31日)に対して該当する金額を記載します。

28.債権からの控除割合

「27」を「26」で除して小数点以下3位未満を切り捨てた額を記載します。

29.実質的に債権とみられないものの額

「23」の額に「28」の控除割合を乗じた金額を記載します。

明細書の上部

明細書の上部

出典:一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書|国税庁

下部の「一括評価金銭債権の明細」と「基準年度の実績により実質的に債権とみられないものの額を計算する場合の明細」(必要に応じて)作成後に記載する項目です。なお、作成にあたって、過去3年の別表11が必要です。

1.当期繰入額

損金経理(会計上の処理)により貸倒引当金に繰り入れた額のうち、一括評価金銭債権に該当する金額を記載します。

2.期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額

23の「期末一括評価金銭債権の額」の合計額を記載します。

3.貸倒実績率

16の「貸倒実績率」から転記します。

4.実質的に債権とみられないものの額を控除した期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額

25の「差引期末一括評価金銭債権の額」の合計額を記載します。

5.法定の繰入率

中小法人などは、実績繰入率に代えて法定繰入率に基づいた計算が認められます。法定繰入率は事業区分で異なり、卸売業・小売業は10/1000、製造業は8/1000、金融業・保険業は3/1000、割賦販売小売等は7/1000、そのほかの事業は6/1000です。

6.繰入限度額

貸倒実績率を用いる場合は「2」×「3」の金額、中小法人等で法定繰入率を用いる場合は「4」×「5」の金額を記載します。

7.公益法人等・協同組合等の繰入限度額

令和5年4月1日以降に開始する事業年度では記載の必要がありません。

8.繰入限度超過額

1の「当期繰入額」から6または7の「繰入限度額」を控除した額を記載します。

9.前3年内事業年度の(2)の合計額

過去3年の別表11(1の2)の23「期末一括評価金銭債権の額」の合計額を記載します。

10.「9」の額を前3年内事業年度の事業年数で除して計算します。事業年度あたりの平均額を算出します。

11.売掛債権等の貸倒れによる損失の額の合計額

前3年内事業年度における該当する金額の合計額を記載します。

12.前3年内事業年度の別表11(1)の「19」の額を合計した金額を記載します。

13.前3年内事業年度の別表11(1)の「24」の額を合計した金額を記載します。

14.貸倒れによる損失の額等の合計額

「11」と「12」の合計額から「13」の額を差し引いた金額を記載します。

15.「14」×(12/前3年内事業年度における事業年度の月数の合計)の金額を記載します。

16.貸倒実績率

「15」を「10」で除して、小数点以下4位未満を切り上げた値を記載します。

法人税申告書の別表11を書く際の注意点

個別評価金銭債権の貸倒引当金の損金算入は、資本金等の額が1億円以下の中小法人など、法人税法第52条に定める特定の法人にのみ認められています。大法人などは個別評価金銭債権の貸倒引当金が税務上認められないことに注意が必要です。

また、一括評価金銭債権の繰入限度額の計算方法には、実積率によるもの、法定繰入率によるものの2つの計算方法があります。中小法人はいずれか有利な方法を選択できます。ただし、該当しない法人は実積率による計算しか認められないことに注意しましょう。

別表11は貸倒引当金などにかかわる申告書

法人税申告書の別表11は、貸倒引当金や返品調整引当金にかかわる明細を記載する書類です。特に別表11(1の2)の一括評価金銭債権にかかわる明細書は、多くの法人で作成が必要な書類です。社内で作成する場合は、今回紹介した書き方などを参照の上、作成を進めていきましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事

会計の注目テーマ