- 更新日 : 2024年8月8日
資本取引・損益取引区分の原則とは?具体例から解説
資本取引・損益取引区分の原則は、「資本取引と損益取引をはっきりと区別しなければならない」とする企業会計の原則です。大企業から中小企業に至るまでさまざまな企業において、会計上守るべき原則として継承されてきました。この記事では、資本取引・損益取引区分の原則の意味と必要性を、具体例から解説します。
資本取引・損益取引区分の原則とは
資本取引・損益取引区分の原則とは、「資本取引と損益取引をはっきりと区別しなければならない」とする企業会計の原則です。資本を直接増減する資本取引と、経営上の損失と利益に関わる損益取引とを混同し、維持すべき資本がむやみに取り崩されないようにするため、および利害関係者や投資家に適切な情報を与えるため、原則として定められています。
資本取引・損益取引区分の原則が定められたのは、1949年(昭和24年)に旧・大蔵省の経済安定本部・企業会計制度対策調査会(現在の金融庁・企業会計審議会)によって公表された『企業会計原則』においてです。
『企業会計原則』は、それまで企業会計の実務で慣習として発達したさまざまな会計規則の中から、一般に公正で妥当と認められるものを「決算書の作成において守るべき原則」として要約したものとされています。
全体の構成は、「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」および「企業会計原則注解」の4部構成で、資本取引・損益取引区分の原則は一般原則第3条としての記載です。
あくまでも「原則」であり、法令ではないため、法的拘束力は持ちません。しかし、大企業から中小企業までさまざまな企業が会計上守るべき、および会計監査において従うべき原則として、今日まで継承されてきています。企業会計における基本の中の基本として、会計に携わる人はぜひとも知っておきたい知識だといえるでしょう。
ただし、2001年以降は、金融庁・企業会計審議会の役割を引き継いだ民間の独立した会計基準設定主体「企業会計基準委員会」(ASBJ=Accounting Standards Board of Japan)により設定される、新たな会計基準も重視されるようになりました。
また、2008年に米国ワシントンで開催されたG20サミット以降、国際会計基準との共通化も図られるようになっており、企業会計原則は以前ほど重視されるものではなくなっています。
なお、『企業会計原則』については以下の記事でも詳しく解説しています。
資本取引とは
資本取引とは、資本を直接変動させる取引のことです。具体的には、株式の発行・増資・減資、社債の発行・償還などが例として挙げられます。
企業は商品の生産・販売やサービスの提供などの営業活動により収益を上げますが、この営業活動は後述の損益取引であり、資本取引による資本の増減は営業活動とは無関係です。そのため、資本取引は損益計算書の計算には含まれません。また、資本取引によって資本が増加した際に、その増加分を株主に分配することは、原則として禁じられています。
損益取引とは
損益取引とは、資本を元手として行われる、費用や収益が発生する取引のことです。具体的には、購買や販売、財務などの取引が例として挙げられます。給料や借入金の利息の支払いなどは損失の取引、売上代金や受取手数料などは収益の取引に該当します。
資本取引・損益取引区分の原則はなぜ必要なのか
資本取引・損益取引区分の原則はなぜ必要なのでしょうか。
上述のように、資本取引は資本を直接増減させる取引、損益取引は資本を元手に行う営業活動による、損失や利益が発生する取引です。まったく性質が異なるこれら資本取引と損益取引を混同すると、財政状態や経営成績がまったくわからなくなり、正しい貸借対照表や損益計算書が作れなくなってしまいます。
たとえば、株式の発行により資本金が1億円増えたとしましょう。増えた資本金を元手に営業活動を行い、その結果1,000万円の利益が上がったとします。
上の例では、会社には株式の発行による1億円と、営業活動による1,000万円の、計1億1,000万円が入ってきていることになります。資本取引と損益取引を区別しないということは、この1億1,000万円を丸ごと利益として計上することを意味します。そのような会計方法が、投資家や利害関係者にとってまったく意味がないことは言うまでもないでしょう。
以上のように、資本取引・損益取引区分の原則は、投資家や利害関係者のために必要なのです。資本の増減と損益をはっきりと区別することによって初めて、その会社の稼ぐ力が明らかとなり、投資の適否の判断が可能となります。
資本取引・損益取引区分の原則は企業会計における基本の中の基本
「資本取引と損益取引をはっきりと区別しなければならない」とする資本取引・損益取引区分の原則は、現在でも企業会計における基本の中の基本です。
資本取引と損益取引がはっきり区別されなければ、投資家や利害関係者は企業価値や投資の適否を判断しようがありません。会計規則の基本を理解し、日々の業務に活かしていきましょう。
よくある質問
資本取引・損益取引区分の原則とは?
資本取引・損益取引区分の原則とは、「資本取引と損益取引をはっきりと区別しなければならない」とする企業会計の原則です。詳しくはこちらをご覧ください。
資本取引・損益取引区分の原則はなぜ必要?
資本取引・損益取引区分の原則は、維持すべき資本がむやみに取り崩されないようにするため、および利害関係者や投資家に適切な情報を与えるため必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
固定資産税も軽減措置で減税!納期は?課税資産や納税義務者は?
税金には、所得に課税される税金(所得税、法人税など)や消費に課税される税金(消費税、酒税など)のほか、資産の所有に課税される税金もあります。この代表的な税金が固定資産税です。 本稿ではこの固定資産税について解説します。納期や減税となる軽減措…
詳しくみる法人税減税の影響とは?日本の国際競争力と減税の関係
近年、法人税減税実施とその効果について、さまざまな論議がされています。法人税減税の主な目的は、海外企業の日本誘致を促進し、日本企業の国際競争力を高めることです。 この効果によって日本経済全体の活性化を図ることが期待されています。 ではなぜ、…
詳しくみる法人税は電子申告が義務化!申告のやり方やe-Taxでの納付方法も解説
令和2年度より、大法人で法人税の電子申告が義務化されています。電子申告が可能になることで申告や納付が進めやすくなっていますが、きちんと理解していないと作業が増えた感覚になるでしょう。この記事では、大法人で義務化された法人税の電子申告について…
詳しくみる法人税法とは?概要や目的、税効果会計をわかりやすく解説
法人税は、法人の所得に対し課税される国税であり、法人税法に規定されています。 法人税の節税にあたっては、損金に関してだけでなくバランスの取れた法人税法の理解が必要です。 ここでは、法人税の種類、目的、計算式の成り立ち等ベーシックな部分の解説…
詳しくみる「社長、本当に有効な節税方法知ってますか?」 税理士・服部先生が読み解くスタートアップの節税テクニック
リソース、ノウハウが不足しがちなベンチャー企業やスタートアップにとって、お金に関する悩みが尽きることはないかと思います。その中でも、節税対策について頭を悩ませている経営者も少なくないでしょう。 そこで今回は、スタートアップ支援を得意とするS…
詳しくみる初詣のお賽銭は課税対象?神社で学ぶ宗教法人と税金
あけましておめでとうございます。Bizpediaでは、今年もみなさまに有益な情報を発信できますように努める所存でございます。 何とぞ昨年同様のご愛顧を賜わりますよう、お願い申し上げます。 さて、お正月と言えば、お年玉やおせち料理などお正月に…
詳しくみる