- 更新日 : 2024年7月12日
信用調査とは?必要性や調査方法、結果の判断ポイントについて解説
信用調査(与信調査)とは、取引相手のことを知るための調査です。新規で取引を予定している相手に支払能力があるか知りたい場合などに実施することがあります。
信用調査は、反社会的勢力とのつながりの有無や、個人のクレジットカード延滞歴などを把握するためにも必要です。本記事では、信用調査の具体的な方法も解説します。
目次
信用調査とは?
信用調査とは、取引相手のことを知るために実施する調査のことです。主に取引先の支払能力の確認や与信限度額(取引相手ごとに定める債権の上限額)の判定、反社会的勢力との関わりの有無のチェックなどで実施します。
信用調査を実施することで、新たにビジネスや取引を開始する際に生じる各種リスクを軽減できるでしょう。
英語では信用調査のことを「credit check」などと表現します。「credit」は主に「信用」を意味する言葉です。
なお、信用調査の代わりに「与信調査」の用語が使われることもあります。与信調査は、とくに取引先の支払能力や信頼性のチェックに重点を置いた調査です。
信用調査が必要なケース
信用調査は個人に対して実施するか、企業に対して実施するかで必要なケースも異なります。それぞれ確認していきましょう。
個人の場合
会社が従業員を新たに採用する際や、従業員の昇進を考える際に、個人の信用調査が必要になることがあります。
人間関係や生活に問題がある人物を雇ったり、昇進させたりすることで職場が乱れ、会社やほかの従業員に被害を与えることを防ぐことが主な目的です。
また、クレジットカード会社や金融機関が、カードの申込人や借入申込人に対して信用調査を実施することもあります。カードの支払い・借入金の返済が滞ることを防ぐことが主な目的です。
企業の場合
新たに取引を始める際に、企業に対して信用調査が必要です。取引開始後に代金未回収に陥ることがないよう、相手の支払能力をあらかじめ確認しておかなければなりません。
また、長年取引している得意先相手にも、信用調査することがあります。
とくに経営が悪化しているとの情報を耳にした場合や、経営者に不審な動きや言動がある場合などは、信用調査の結果次第で取引を見直さなければなりません。
なお、本記事では主に企業に対して実施する信用調査について解説しています。
信用調査でわかること
信用調査でわかることは、主に以下のとおりです。
- 企業の基本情報
- 最新の財務情報
- 信用履歴
- 各種取引銀行取引の履歴
- 業界内の評判
それぞれの概要を簡単に説明します。
企業の基本情報
信用調査を実施して、企業の基本情報を確認できます。主な項目は、以下のとおりです。
- 設立年
- 資本金
- 従業員数
- 事業内容
たとえば、設立年が古い老舗なのか、誕生したばかりの新興企業なのかなどが信頼度を測るうえでのひとつの指標になるでしょう。また、資本金や従業員数をチェックすることで、会社の規模もある程度確認できます。
最新の財務情報
信用調査で、最新の財務情報や業績推移も確認できます。主な項目は、以下のとおりです。
たとえば、売上総利益率(売上総利益 ÷ 売上高 × 100)や売上高経常利益率(経常利益 ÷ 売上高 × 100)を確認すれば、調査対象の収益性を分析できます。また、流動比率(流動資産 ÷ 流動負債 × 100)などの指標を計算することで、調査対象の支払能力も把握できるでしょう。
売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
信用履歴
個人を対象に信用調査を実施する場合は、信用履歴(クレヒス)も確認できます。信用履歴とは、個人のクレジットカードやローンの利用履歴と、それに基づく信用情報のことです。
信用履歴は、3つの信用情報機関で共有されています。信用履歴を確認して、対象者が過去に返済の延滞を起こしていることが判明すれば、慎重に取引の是非を判断しなければなりません。
各種取引
信用調査によって、対象会社の各種取引状況がわかることもあります。主な項目は、以下のとおりです。
- 取引金融機関(メインバンク)
- 借入状況
- 主要取引先
- 所有不動産
- 不動産の担保設定状況
たとえば、対象先の借入れが多すぎる場合、これ以上メインバンクから融資を受けられない可能性があります。
また、調査対象の主要取引先の中に優良企業が含まれていれば、今後も安定した売上を維持しうると判断できるでしょう。
業界内の評判
信用調査で、対象会社や経営者の業界内の評判もわかります。
会社自体の業績がよくても、経営者の態度・行動などで悪い評判が出回っている場合は、注意が必要です。また、最近になって会社に対する顧客の評判が下降気味の場合も、取引に慎重になった方がよいでしょう。
信用調査の方法
信用調査の主な方法は、主に以下のとおりです。
- 社内調査
- 直接調査
- 外部調査
- 依頼調査
それぞれの内容について、解説します。
社内調査
社内調査(内部調査)とは、自社で調査を実施することを指します。本格的な信用調査を依頼する前に実施することが一般的です。
たとえば、すでに自社と取引がある会社が対象の場合、取引履歴や取引内容の確認が社内調査の具体例として挙げられます。また、自社のほかの部署の同僚に、対象先について知っている情報がないか確認することも方法のひとつです。
直接調査
直接調査とは、対象先に直接コンタクトをとる方法を指します。対象先のオフィスを訪問する、電話やメールなどでヒアリングするなどが具体例です。
電話やメールなどの手段を使えば、距離が離れている対象先についても手軽に調査できます。ただし、直接オフィスを訪問した方が、会社の雰囲気や従業員の働き方などを把握できるでしょう。
なお、直接調査で相手に不快な思いをさせたり、不信感を抱かせたりすると、取引中止・交渉停止を招きます。実施する際は、慎重かつ丁寧に対応しましょう。
外部調査
外部調査とは、自社や調査対象の会社以外から情報を取得する方法を指します。具体的な方法は、主に以下の3つです。
- 検索調査
- 官公庁調査
- 側面調査(裏付け調査)
検索調査では、インターネットで対象先のホームページを確認したり、データベースサービスで対象先を検索したりします。また、対象先の求人内容も、判断材料のひとつです。
官公庁調査では、対象先の所轄法務局で登記事項証明書(商業・法人登記や土地・建物登記)を確認します。たとえば、対象先の土地・建物の登記を確認すれば、抵当権が設定されているのかなどを把握できるでしょう。
側面調査では、対象先からヒアリングした情報が正しいのか確認します。対象先の取引金融機関や取引先、入居するビルのオーナーなどが主な情報入手先です。
依頼調査
依頼調査では、主に信用調査会社に対象先の調査を依頼します。信用調査会社とは、依頼に基づき、対象先に関する報告書を作成する会社のことです。
費用は、信用調査会社や、発行する報告書の枚数などによって異なります。また、それぞれ納期もそれぞれ異なるため、あらかじめ比較したうえでどの会社に依頼するか決めなければなりません。
信用調査を行わないリスク
信用調査を行わないことで、以下のリスクが発生します。
- 代金を回収できない
- 取引先が反社会的勢力とつながりがある
- 取引先が実体のない会社だった
- 取引先の情報管理がずさん
それぞれ確認していきましょう。
代金を回収できない
取引を開始する会社などに対して信用調査を怠ると、代金を回収できないリスクが生じます。
ビジネスの世界では、掛け売り(その場ではなくあとでまとめて代金を受け取ること)で取引する機会が少なくありません。支払能力が不十分な相手と知らずに掛け売りで取引を始めると、商品販売(サービス提供)後に代金を回収できず、自社の資金繰りが悪化する可能性があります。
取引先が反社会的勢力とつながりがある
信用調査を行わないことで、反社会的勢力とつながりのある相手と取引を始めるリスクがあります。反社会的勢力とは、暴力や詐欺的手法などを駆使して経済的利益を追求する集団・個人のことです。
反社会的勢力と関わりをもつと、社会的信用を失います。所轄官庁から処分を受けたり、得意先との契約が解除されたりすることもあるでしょう。
取引先が実体のない会社だった
信用調査の手間を省くと、名前だけで実体(取引実態)のない会社(ペーパーカンパニー)と取引するリスクもあります。
ペーパーカンパニー自体が、違法なわけではありません。ただし、中には犯罪や詐欺目的でペーパーカンパニーを設立しているケースもあります。
余計なトラブルや、代金未回収のリスクを回避するためにも、実体のある会社と取引することが大切です。
取引先の情報管理がずさん
信頼調査を実施しないことで、情報管理がずさんな相手と取引を始めるリスクもあります。
自社の情報管理がずさんな会社は、一般的に取引相手の情報にも無頓着です。そのため、情報管理がずさんな会社と取引を始めたことで、自社の機密情報を流出させられる可能性があります。機密情報が流出すると、大きな損害を抱えることになるでしょう。
信用調査会社を選ぶメリット・デメリット
信用調査で依頼調査(信用調査に依頼する)を実施すれば、安心して取引できる点がメリットです。
信用調査会社は会社の調査を本業としており、多岐にわたる情報を提供しています。さまざまな角度から対象先のことを知ることで、取引を始めるべきか判断しやすくなるでしょう。
また、自社で調査する手間を省ける点もメリットです。信用調査会社に依頼すれば、対象先に直接ヒアリングしたり、対象先の周りから情報集めをしたりする必要がありません。
一方で、費用がかかる点がデメリットです。とくに情報量が多ければ多いほど費用も高くなる傾向にあるため、予算を踏まえてどこまで調査するか判断しなければなりません。
さらに、納期まで1ヶ月程度かかることもある点に注意が必要です。
信用調査の結果を判断するポイント
信用調査の結果を判断する際のポイントは、主に以下のとおりです。
- 信用できる会社・経営者なのか
- 取引にあたって十分な資金力があるのか
- 健全な財務内容なのか
- 業績は好調なのか
また、信用調査会社に依頼する場合は、評点でもある程度良し悪しを判断できます。
評点とは、信用調査会社が独自の基準で調査対象を数値化したものです。信用調査会社によって異なりますが、一般的に経営者の能力や会社の将来性・成長性、財務内容などが数値を左右します。
調査会社の評点を確認することで、対象会社に対する客観的な信頼度がわかるでしょう。ただし、あくまで総合評価のため、点数が同じでも経営状況は各社で異なる点に注意が必要です。また、評点は随時変動するため、取引の是非を判断する際は最新のデータを取得しましょう。
信用調査は取引相手を知るために必要
信用調査とは、取引相手のことを知るために実施する調査を指します。実施のタイミングは、新たに取引を始める際、得意先の経営悪化を耳にした際などです。
信用調査の方法として、社内調査・直接調査・外部調査・依頼調査があります。とくに、依頼調査を実施すれば、手間をかけずに対象先についてさまざまな情報を入手可能です。
今後新たな取引を始める際は、信用調査を怠らないようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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