• 更新日 : 2024年9月27日

決算公告をしないとどうなる?義務の対象やリスク、おすすめの公告方法を解説

決算公告は会社法によって株式会社に課せられた義務です。決算公告をしないと会社法第976条2号によって過料が科せられる可能性があるほか、会社の信頼度低下などのリスクが高まります。

本記事では、決算公告をしないことで生じるリスクや、決算公告が義務となる対象、おすすめの公告方法などを解説します。

決算公告をしないとどうなる?

決算公告は一部の例外を除き、すべての株式会社に義務付けられています。決算公告をしないと、会社法にのっとり行政罰が下されることになります。

会社法第976条で「100万円以下の過料」が定められている

決算公告を適切な時期に行わなかった場合は、会社法第976条2号により100万円以下の過料に処されることになります。この処分は会社に科せられるものではなく、取締役や監査役などの個人が対象です。

決算公告は会社法で義務付けられ、公告を怠る、または不正な公告を行った場合は行政罰が下される定めがあります。しかし実際に決算公告を正しく行っている企業は少ない、というデータがあるのも事実です。

東京商工リサーチによる『2022年「官報」決算公告調査』では、公告方法を官報としている株式会社のうち、実際に決算公告を実施しているのは1.8%という調査結果が明らかになっています。

この結果からは、決算公告は会社法によって実施が義務付けられてはいるものの、実際に行っている企業がごく少数である、ということがうかがえるでしょう。

ただしこういった実態があることを理由に「決算公告はしなくてもいい」というわけではありません。決算公告をしないことは法律違反になるほか、企業の信用力低下につながるリスクもあります。

刑罰には該当しない

決算公告を怠った、または不正な決算公告を行った場合に科せられる過料は、刑事罰である「科料」や「罰金」とは異なります。

「過料」は行政上の秩序の維持のために、国または地方公共団体が制裁として金銭的負担を科す行政罰の一種です。これに対し「科料」または「罰金」は、刑法に定めがある刑のうち主刑のひとつであり、犯罪の処罰として金銭を科すことを指します。

決算公告を怠った際に科せられる「過料」は、行政罰であるため前科にはなりません。対して「科料」「罰金」は刑罰であるため前科になる、という違いがあります。

参考:G-GOV法令検索 会社法

参考:株式会社東京商工リサーチ 官報で決算公告、株式会社のわずか1.8%

会社の信用低下につながる可能性

決算公告をしないデメリットは、過料が科されることだけではありません。決算公告は法律で義務付けられており、決算公告をしないことは法律違反です。違反の事実が、取引先や金融機関からの信頼度低下につながる可能性は否定できません。

また、決算公告を行わず経営状況が不透明化し、不信感を抱かせる可能性もあります。こうしたリスクを避けるためにも、決算公告は怠るべきではないでしょう。

決算公告が義務付けられている企業

決算公告とは、前年度の決算内容について株主総会で承認を得たうえで、決算情報をステークホルダーに限らず広く公にすることを指します。公告方法や公告時期については、会社法に定めがあります。

全株式会社に決算公告の義務がある

決算公告は、企業の規模に関係なく原則すべての株式会社に実施義務があります。

ただし一部の例外があり、以下の条件に当てはまる株式会社において決算公告は不要です。

  • 金融商品取引法24条1項の規定に該当する有価証券報告書の提出義務がある株式会社
  • 継続して電磁的方法(インターネット)で計算書類を開示している株式会社

有価証券報告書の提出義務がある上場会社は、決算公告より詳しい財務情報が有価証券報告書によって開示されています。そのため決算公告義務はありません。

また、会社法上の特例有限会社にも決算公告義務はありません。特例有限会社とは、2006年の会社法施行以前に有限会社として存在していた会社です。かつての有限会社には決算公告義務がなかったことを考慮し、特例有限会社に移行後も決算公告義務の対象外になっています。

また合名会社、合資会社、合同会社といった持分会社についても、株式会社とは異なり決算報告義務の対象外です。

記載すべき事項

決算公告に記載すべき事項は、大会社とそうでない場合で異なります。会社法第2条6項において大会社は、最終事業年度の資本金が5億円以上、または負債200億円以上と定義付けられています。

大会社では、貸借対照表および損益計算書の公告が必要です。大会社に該当しないそのほかの会社では貸借対照表のみの公告でよく、損益計算書の公告は義務ではありません。

期限

決算公告をする時期については、会社法第440条1項において毎年の定時株主総会が終結した後に遅滞なく公告する、とありますが具体的な期限の定めはありません。

定時株主総会は、会社法296条1項により毎事業年度の終了後、一定の時期に召集されなければならないとされています。会社法によって具体的な開催時期が明記されているわけではありませんが、事業年度の3ヶ月以内の開催を定款に定めていることが多いです。

手段

決算公告の方法は、官報、日刊新聞、または電子公告の3種類が認められています。決算公告義務がある株式会社はいずれかの方法を選択したうえで、定款に公告方法を記載しなければなりません。定款に公告媒体を記載しない場合は、官報の記載になります。

官報で決算公告をする場合は、貸借対照表(大企業の場合は貸借対照表と損益計算書)の要旨の掲載のみでよいとされています。

日刊新聞紙に掲載するよりも費用相場が安い点や、日刊新聞紙と比較すると定期購読する読者が少なく、見られる可能性が低い点がメリットとして挙げられるでしょう。一方で申込から掲載までに日数を要するため、早めの準備が必要なことはデメリットといえます。

日刊新聞紙は読者が多いため、良好な財務状態、企業の安定感や業績アップなどを広くアピールできるメリットがあります。なお、時事情報を掲載する日刊新聞紙であれば全国紙、地方紙を問わず掲載できますが、スポーツ新聞などは認められていません。

官報同様、貸借対照表や損益計算書の要旨のみの掲載でよいとされていますが、官報よりも掲載料が高額になるケースがほとんどです。

費用を抑えやすいのが電子公告です。自社ホームページで公告する場合は専用ページを用意し決算書類データを掲載すればよいため、決算公告のための掲載料はかかりません。

外部機関のウェブサイトで決算公告をすることも可能です。この場合は掲載料が発生しますが、官報や日刊新聞紙に掲載する時よりも費用が抑えられます。

なお、電子公告の場合は5年分の貸借対照表の全文(大会社の場合は損益計算書も必要)を掲載し続ける必要がある点には注意が必要です。

参考:G-GOV法令検索 会社法

義務付けられていない企業が決算公告を行うメリット

決算公告の義務がない特例有限会社や持分会社などの中には、自主的に決算公告を行っている会社もあります。

法律による公告義務がない企業が決算公告を行うメリットは、会社名の認知度や信頼性の向上が挙げられます。

会社名の認知

大会社ほどの知名度がない会社の場合、決算公告をすることによってしない場合よりも認知度が高まることが期待できます。

特に決算公告の3つの方法のうち、より多くの人の目に触れる日刊新聞紙での公告であれば、大きな効果が期待できるかもしれません。日刊新聞紙での広告はかなり高額な費用がかかるものの、宣伝効果を考えると費用対効果が高い可能性もあります。

ステークホルダーからの信頼獲得

合同会社や合資会社、特例有限会社など、決算公告の義務の対象ではない会社があえて決算公告をする、という行為によって経営の透明化が図れ、健全性のアピールができます。

手間と費用をかけてまで自ら財務状況を公にすることが、ステークホルダーからの信頼獲得につながる可能性があることもメリットのひとつといえるでしょう。

おすすめの決算公告の方法

決算公告の方法は官報、日刊新聞紙、電子公告の3種類があり、それぞれ特徴は異なります。

各方法のメリット・デメリットを理解し、自社にとってベストな方法を選択することが大切です。

決算公告を電子公告、法定公告を官報で行う

日刊新聞紙での決算公告は、ほかの2つの方法よりもかなり費用相場が高いため選択する企業は限られています。

現実的な選択肢としては官報、電子公告であり、費用面などのメリット・デメリットを考慮すると電子公告での決算公告がおすすめです。

決算公告以外の法定公告について電子公告を採用する場合には、公告の信頼性を保つために電子公告調査機関に調査委託をする必要があります。その調査費用が官報での掲載費用よりも高額になることがほとんどであるため、債権者に向けての異議申述公告などの法定公告は官報を利用するとよいでしょう。

決算公告を正しく行って不要なリスクは回避しよう

株式会社には決算公告の義務があります。法律で定められていることであり、決算公告をしない場合は過料を科せられる可能性があることに加え、会社の信頼度低下、経営状況の不透明化につながるリスクも否定できません。

3つの公告方法から自社に適した公告方法を選択し、会社法の規定に基づいて正しく決算公告を行いましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事

会計の注目テーマ