- 作成日 : 2024年11月19日
電子記録債権とは?仕訳からでんさいネットの利用方法までわかりやすく解説
電子記録債権とは、従来の手形や売掛金に代わる電子化されたデジタルの金銭債権です。債権の発生や譲渡がオンラインで行えるため、企業間決済が効率化するとともに、円滑な資金調達や回収リスクの低減を通じた資金繰り改善にも役立ちます。
本記事では、電子記録債権の意味や仕訳処理のポイント、でんさいネットの利用方法を詳しく解説します。
目次
電子記録債権(でんさい)とは?
まずは「電子記録債権とは何か?」という点について、詳しく解説します。他の決済手段や資金調達方法と比較しながら、電子記録債権の特徴を理解していきましょう。
電子記録債権の意味
電子記録債権とは、電子記録を通じて発生・譲渡される金銭債権です。従来の手形や売掛金等(指名債権)の金銭債権が抱えていた課題を解決し、中小企業における資金調達の円滑化を目的として誕生しました。
電子記録債権の発生・譲渡は、電子債権記録機関による記録原簿への電子記録が要件とされます。すべての記録をデジタルで行い管理されるため、迅速かつ安全な取引が可能となるのです。
電子記録債権のおもなメリットは、以下の通りです。
- 分割譲渡が可能なため、流動性が高い
- 債権の存在や帰属が電子で管理され明確化される
- ペーパーレスで事務作業の効率化やコスト削減が可能となる
- 紛失や盗難、偽造のリスクが軽減される
電子記録債権の読み方
電子記録債権は、「でんさい」と呼ばれることがあります。
ただし厳密にいえば、電子記録債権とでんさいは、それぞれ意味が異なるため注意が必要です。
- 電子記録債権:電子的に発生・譲渡される金銭債権の総称で、商取引における決済手段そのものを指します。電子記録債権は、2008年12月に施行された電子記録債権法により創設されました。
- でんさい:でんさいとは、株式会社全銀電子債権ネットワークが商標登録した、電子記録債権を指します。全国銀行協会(全銀協)が設立した全銀電子債権ネットワークは、電子債権記録機関の1つで、電子記録債権(でんさい)を記録・管理する決済インフラ「でんさいネット」を提供しています。
電子記録債権と手形の違い
手形とは、約束された金額を指定の期日に支払うことを証明する有価証券です。手形は物理的な証券であり、従来おもに取引先との資金決済や信用取引の手段として用いられてきました。
電子記録債権と手形のおもな違いを以下に紹介します。
<電子記録債権と手形の違い>
電子記録債権 | 手形 | |
---|---|---|
管理方法 | 電子的に専用システムでリアルタイムに記録・管理 | 紙媒体で発行し、物理的に管理 |
発行方法 | オンライン上で手続き可能 | 紙の発行や押印が必要 |
譲渡の手続き | オンライン上で譲渡が可能なため迅速かつ簡単 | 紙の裏書譲渡が必要なため煩雑 |
流動性 | 高い (デジタルで管理されるため) | 低い (物理的な譲渡が必要) |
信用力の管理 | 金融機関を通じて信用管理が行われる | 発行元の信用力が重要 |
回収リスク | 自動的に決済が執行されるため回収リスクは低い | 不渡り発生のリスクがある |
信頼性 | 二重譲渡や偽造のリスクが低い | 二重譲渡や偽造のリスクがある |
資金調達 | 担保化により、金融機関からの資金調達がしやすく、分割も可能なため現金化もスムーズに行える | 手形を金融機関で割り引いてもらうことで、現金化が可能 |
事務負担と管理コスト | ペーパーレスのため発行や管理の手間が低減され、印紙税も課税されない | 物理的な発行・管理・保管が必要なため、印紙代や書類の管理コストが発生 |
電子記録債権と売掛金の違い
売掛金とは、商品やサービスの売上時に、顧客から受け取るべき金額を示す伝統的な債権です。売掛金は、管理のコストが低い反面、譲渡性や担保価値が限定的です。
以下に電子記録債権と売掛金のそれぞれの違いを解説します。
<電子記録債権と売掛金の違い>
電子記録債権 | 売掛金 | |
---|---|---|
債権の発生 | 債権者と債務者の合意に基づき電子記録で発生 | 商品やサービスの提供に基づき発生 |
管理方法 | 電子的に記録し、専用システムで管理 | 自社の会計システムで管理 |
譲渡の手続き | 電子システム上での譲渡が容易 | 通常は譲渡不可、債権譲渡契約が必要 |
流動性 | 高い (デジタルで管理される) | 低い (基本的に自社内で管理される) |
信用力の管理 | 金融機関を通じて信用管理が行われる | 自社で債務者の信用力を評価・管理する |
回収リスク | 自動的に決済が執行されるため回収リスクは低い | 債権回収リスクに加え、二重譲渡や人的抗弁によるリスクがある |
資金調達 | 資金調達の手段として利用可能 | 売掛債権ファクタリング等で資金化が可能 |
電子記録債権とファクタリングの違い
ファクタリングは、「債権買取り」を意味する資金調達方法の1つです。企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却することで、早期に現金化するサービスを指します。そのおもな目的は、資金繰りの改善や未回収リスクの軽減といったものです。
以下に、電子記録債権とファクタリングのそれぞれの違いを解説します。
<電子記録債権とファクタリングの違い>
電子記録債権 | ファクタリング | |
---|---|---|
定義 | 取引によって発生した債権を電子的に管理する仕組み | 売掛金を早期に資金化するための金融サービス |
利用目的 | 債権管理の効率化や取引の透明性向上、資金調達の手段として利用 | 資金繰りの改善や回収リスクの分散をおもな目的として活用 |
資金調達の方法 | 債権を譲渡して資金を調達可能 | 売掛金をファクタリング会社に譲渡し資金調達 |
譲渡の手続き | 専用システムで電子的に譲渡手続きを実施 | 売掛金の譲渡契約を締結し、ファクタリング会社へ通知 |
リスク管理 | 金融機関や専用システムで信用リスクを管理 | ファクタリング会社が債権回収のリスクを負担 |
コスト | 利用手数料が発生 | 手数料は高め (債権金額の一定割合) |
電子記録債権のスキームは?
ここでは、「でんさいネット」を用いた電子記録債権の仕組みについて、解説していきましょう。
- 電子記録債権が発生する際、取引先各社の指定金融機関を通じて、でんさいネット上の記録原簿に「発生記録」が登録されます。
- 債権の譲渡は、金融機関経由で記録原簿に「譲渡記録」を登録することで実行されます。
- 支払期日になると、自動的に支払企業の口座から資金が引き落とされ、債権者の口座に送金されます。
- 決済完了後、でんさいネットは「支払等記録」としてこれを反映します。納入企業は支払当日に資金を利用できるため、手形取引とは異なるメリットがあります。
詳しい取引イメージは、下図を参照してください。
電子記録債権の仕訳・勘定科目は?
電子記録債権は、会計上、資産の部の勘定科目として扱われます。詳しい処理方法を以下で解説していきましょう。
電子記録債権発生時
電子記録債権の発行時には、貸借対照表上の資産科目である、「電子記録債権」勘定を使用します。
仕訳上の処理方法は、売上時には借方へ「売掛金」勘定を計上し、電子記録債権の発行時に「電子記録債権」勘定へ振り替えます。
<商品売上時>
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
売掛金 | 250,000円 | 売上 | 250,000円 | A商品売上 |
<電子記録債権発生時>
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
電子記録債権 | 250,000円 | 売掛金 | 250,000円 | 電子記録債権発生にともなう振替 |
電子記録債権譲渡時
電子記録債権の譲渡とは、手形でいう裏書譲渡や割引に相当します。手形と異なるのは、電子記録債権の場合、全額譲渡だけでなく分割譲渡も可能な点です。
なお、電子記録債権の譲渡記録請求により譲渡し、割引後の決済が完了した場合は債権金額に割引が生じた場合には、「電子記録債権売却損」勘定を使用します。
<仕入れ代金等決済時>
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
買掛金 | 250,000円 | 電子記録債権 | 250,000円 | 買掛金支払い(電子記録債権より振替) |
<割引譲渡時>
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 240,000円 | 電子記録債権 | 250,000円 | 電子記録債権割引決済による入金 |
電子記録債権売却損 | 10,000円 |
電子記録債権決済時
電子記録債権は、支払期限到来時に自動的に決済が執行されます。入金と同時に、資産計上している「電子記録債権」勘定を取り崩します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 250,000円 | 電子記録債権 | 250,000円 | 電子記録債権決済による入金 |
電子記録債権のメリットは?
電子記録債権は、電子化により従来の手形や金銭債権が抱えていた課題を解決するさまざまな効果を発揮します。
以下に債権者と債務者のそれぞれの立場で、電子記録債権のメリットをみていきましょう。
債権者にとってのメリット
債権者にとって、電子記録債権は資金回収の確実性が高まったり、資金調達が容易になったりする点が大きなメリットです。
<債権者にとってのメリット>
- 資金回収の確実性の向上
デジタル管理される電子記録債権は、二重譲渡や偽造、紛失リスクが低く、資金回収の確実性が高まります。また、支払期日には自動的に口座に入金されるため、取り立て手続きも不要です。
- 資金調達の容易化
電子記録債権は、譲渡が容易で流動性が高いことから、担保としての価値が認められ、金融機関からの資金調達がスムーズです。必要に応じて債権を分割して譲渡できる点も資金繰り面で大きなメリットです。
- コスト削減と効率化
ペーパーレス化により保管コストや事務処理の労力を削減できます。さらに、印紙税が課税されない点もコスト削減のポイントです。
債務者にとってのメリット
電子記録債権による債務者側のメリットは、おもに信用力強化や業務効率化、コスト削減効果につながる点です。
<債務者にとってのメリット>
- 支払管理の効率化
債務の電子管理により、支払期日や債権譲渡の確認がデジタルで一元管理でき、支払管理の手間が軽減されます。
- 信用力の向上
電子記録債権を用いることで、取引先や金融機関からの信頼が高まり、与信管理がスムーズになることが期待できます。
- 事務コスト削減
ペーパーレス化により、印紙代が不要になったり印刷代や郵送費が不要になったりするため、コスト削減につながります。
電子記録債権のデメリット は?
ここまで電子記録債権のメリットをみてきましたが、一方でデメリットが存在することも押さえておきましょう。ここでは、債権者と債務者のそれぞれの立場でデメリットを述べていきます。
債権者にとってのデメリット
債権者における電子記録債権のデメリットは以下のようなものが挙げられます。
- 利用コストがかかる
電子記録債権の利用には、取引ごとに窓口金融機関が設ける利用料の支払いが必要です。
- 指定の電子債権記録機関の利用が必要
電子記録債権の管理には、相手先と同様の電子債権記録機関を利用する必要があるため、機関の選択に制約が生じる場合があります。
- 利用には所定の審査が必要
電子債権記録機関の申し込みには、窓口金融機関による審査が必要です。
債務者にとってのデメリット
電子記録債権における、債務者にとってのデメリットは以下の通りです。
- 支払期日が厳格に管理される
電子記録債権はデジタルで管理されているため、個別の支払期日延長の交渉が難しくなり、支払期日が厳格化されます。キャッシュ・フローに余裕がないと資金繰りが厳しくなるリスクがあります。
- 利用時の手数料負担が生じる
取引が発生する都度、窓口金融機関が設定する手数料が発生します。
- 会計処理の変更が必要となる
上述したように、電子記録債権の取引に応じた勘定科目や仕訳処理が必要となるため、会計処理のルール変更をともないます。
でんさいネットを利用した電子債権取引の方法・流れは?
でんさいネットとは、株式会社全銀電子債権ネットワークが運営する電子記録債権の取引サービスです。
でんさいネットには、数多くの金融機関が加盟しているため初めての利用にも安心です。以下では、でんさいネットを利用した場合の電子記録債権取引の流れを解説します。
でんさいネットの利用を申し込む
でんさいネットを利用するには、参加金融機関を通じて申し込みを行います。
参加金融機関については、でんさいネット公式ページから確認しましょう。
窓口金融機関へ申し込み後、所定の審査を通過すると、利用契約が締結されます。その後、窓口金融機関から「利用者番号」が通知され、でんさいネットの利用が開始される流れです。
でんさいが発生する
窓口金融機関を通じて、でんさいネットの記録原簿上に発生記録を請求します。発生記録を請求する方法は、以下の2つです。
- 債務者請求方式
支払人である債務者が電子記録債権(でんさい)の発生記録請求を行います。
- 債権者請求方式
受取人である債権者が電子記録債権(でんさい)の発生記録請求を行います。
でんさいを譲渡する
電子記録債権(でんさい)を他の支払い等を目的として譲渡するには、窓口金融機関を通じてでんさいネットの記録原簿への譲渡記録請求を行います。この際、全額譲渡以外にも債権の分割譲渡も可能です。
でんさいの支払いをする
支払期日が到来すると、自動的に債務者の口座から資金が引き落とされ、債権者の口座へ支払いが実行されます。そのため、債務者による振り込み手続きや債権者の取り立て手続きは不要です。
この一連の取引を、でんさいネットが「支払等記録」として記録します。
電子記録債権は資金調達と取引の安全に効果的な新たな金銭債権
電子記録債権とは、従来の紙の手形や売掛債権に代わるデジタル型の金銭債権です。紙の手形や売掛金は、企業間取引の決済手段として長らく活用されてきましたが、事務手続きの手間やさまざまなリスクが課題となっていました。この課題を解決するために設けられたのが電子記録債権の制度です。
政府や金融界においても、2026年度末を目標に紙の手形廃止を進めており、手続きの効率化やリスク軽減を目指しています。まだ電子化に対応していない事業者は、資金調達がしやすく、取引の安全性に効果的な電子記録債権へ移行するよいタイミングといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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