• 更新日 : 2024年9月19日

電子帳簿保存法導入のメリット・デメリットや対応しないリスク、手順を解説

電子取引データ(電子メールの添付などで受け取った電子データなど)は、令和3年度の税制改正により、原則、電子データでの保存が義務付けられました。電子取引データ以外の、会計ソフトなどで作成した帳簿書類、紙で発行あるいは発行を受けた書類については原則紙での保存になりますが、電子帳簿保存法により電子データでの保存も認められています。

電子帳簿保存法を適用して電子データで保存することにより、何が変わるのでしょうか。この記事では、令和5年度の改正を踏まえて電子帳簿保存法のメリットやデメリットのほか、導入の手順について解説していきます。

電子帳簿保存法の導入メリット

電子帳簿保存法は、国税関係の現金出納帳仕訳帳などの帳簿、決算書、契約書や請求書などの書類について電子データでの保存を認める法律です。会計ソフトなどで電子的に作成した帳簿書類の電子データでの保存、紙で受領または作成した書類のスキャナ保存、電子メールなど、電子的にやり取りした電子取引のデータ保存があります。

近年の電子データの利用に対応したもので、電子取引については令和6年1月からは電子データでの保存の義務化が本格化しました。

電子帳簿保存法の詳細はこちらの記事をご確認ください。

電子帳簿保存法には帳簿書類関係の保存、スキャナ保存、電子取引の3区分があり、義務化された電子取引についてももちろん電子帳簿保存法を適用していく必要があります。一般的に、電子帳簿保存法の導入には、以下のようなメリットがあります。

業務効率化につながる

電子帳簿保存法で帳簿書類の保存は、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引に区分され、それぞれ保存の要件が定められています。以前は電子保存するためにさまざまな要件が定められていましたが、税制改正により条件が緩和されてきており、利用しやすい制度に変化してきています。

例えば、スキャナ保存は、税務署長の事前承認、厳格なタイムスタンプ要件への対応、適正事務処理要件の遵守が求められていました。しかし、令和3年度の税制改正で事前承認と適正事務処理要件が廃止され、さらに令和5年度の税制改正では次の3つについて要件緩和や見直しがありました。

  • スキャンする際の解像度・階調・大きさの情報の保存は不要
  • スキャン作業における入力者情報の確認要件も不要
  • スキャンする際に、帳簿との関連性確認するのは「重要書類」に限定

参考:パンフレット(過去の主な改正を含む)|国税庁電子帳簿保存法の内容が改正されました

タイムスタンプについても、訂正や削除の記録が残るシステムで入力期間内に電磁的記録の保存が確認できれば、必ずしもタイムスタンプを付す必要がなくなっています。

システムによっては記録するだけで保存ができるようになるほか、紙での保存に付随するファイリングなどの作業がなくなるため、電子帳簿保存法の導入は業務効率化にもつながります。

書類の保管コスト・スペースの削減

電子データは、クラウドサービスを利用していればクラウドサーバーに、オンプレミス型のシステムを利用していれば社内のサーバーや外部ハードディスクなどに保存されます。

紙のデータはデータ量に応じてファイルや保管スペースを拡張していく必要がありますが、電子データは紙データのようにデータ量に応じて物理的な格納スペースが著しく増加していくものではありません。紙のデータと比べてスペースを節約できるため、データ保管のためのスペースを新たに設けたり、外部に倉庫を借りたりする必要がなくなります。

また、電子データでの保存はペーパーレス化にもなるため、紙を印刷するためのインク代や用紙代、ファイリングのためのファイル代、保管するためのキャビネット代などの節約にもなります。スペースの削減や経費削減においても電子帳簿保存法の導入は効果的です。

セキュリティの向上

情報セキュリティの向上を図るには、適切な社内ルールの設定、社員のセキュリティ教育の実施、システムや技術面でのセキュリティ対策を考えていく必要があります。

電子帳簿保存法の導入では、電子データ流出を防ぐために、より多角的にセキュリティ対策を講じていく必要がありますので、社内全体のセキュリティ向上にも役立つでしょう。

検索性の向上

以前の電子帳簿保存法では保存要件に複雑な検索要件を満たすことが必須となっていましたが、令和3年度の税制改正により一部が廃止されたほか、大幅な緩和が行われました。

会計ソフトなどでの帳簿書類の保存は検索要件が原則的には廃止され、スキャナ保存や電子取引データについては、原則、年月日や金額、取引先の検索ができるようにするなど要件が緩和されました。

会計ソフトは検索機能がついているものも多いほか、スキャナ保存や電子取引データの保存も電子帳簿保存法に適応した保存を行えば検索性が確保されるため、電子データの保存で必要に応じた検索やデータの取得がしやすくなります。

情報管理の向上・紛失リスクの低下

電子帳簿保存法の導入で、電子データをシステム上で管理することにより情報管理がしやすくなります。電子データなら部署間のデータのやり取りも容易になるため、紙データのように保存場所まで足を運ぶ必要はありません。

また、電子データはバックアップを行うことによってデータを何重にも保存できます。クラウド上に保存すれば社外にもデータを保存できるため、災害などで事務所のデータが消失しても、クラウド上のデータを復元することが可能です。また、紙データのように誤って完全に処分するリスクを回避できるため、紛失リスクの軽減にも電子帳簿保存法の導入は役立ちます。

電子帳簿保存法導入のデメリット

電子帳簿保存法の導入には課題もあります。デメリットになり得る面をいくつか取り上げます。

システム導入のコスト

電子帳簿保存法の導入のデメリットとして挙げられるのが、システム導入にかかるコストです。電子帳簿保存法の要件は近年の税制改正で緩和されてきてはいますが、不正防止などの観点から一定の要件が定められており、要件に沿った保存を行う必要があります。電子帳簿保存法に適ったデータ保存を行うためには、電子帳簿保存法に対応したシステムの導入がベストです。

既存のシステムで対応できない場合は、新たに電子帳簿保存法に対応したシステムを導入し運用しなければなりません。新たにシステムを取り入れる場合は、導入コストや維持管理費などのコスト面の問題が生じることが予想されるでしょう。

コスト面も考えて電子帳簿保存法に適応した電子データ保存に対応していくには、導入に適したシステムをピックアップし、十分に比較検討して、コストパフォーマンスの高いシステムを取り入れていくと良いでしょう。

社員教育の必要性

電子帳簿保存法に適応したシステムの導入では、システムを扱う社員の教育、運用ルールの整備、業務手順の見直しが必要になります。

適切に運用していくには、セキュリティ面のルールの設定、セキュリティ対策を社員に実施してもらうための教育も行わなくてはならないでしょう。

導入前に、どのように運用していくか、セキュリティ面の対策をどうするか、業務手順に問題はないかといったことをよく検討しておく必要があります。

電子データの保存の負担が大きくならないようにするためにも、電子帳簿保存に対応したシステムの導入はもちろん、実際に業務をする者の立場に立ったシステムの導入が大切だと言えます。

電子帳簿保存法に対応しないとどうなる?

電子帳簿保存法においてデータ保存が義務化された電子取引について、対応しなかった場合のリスクを紹介します。

青色申告が取り消される

災害などの相応の事情がないときは、義務化された電子取引の電子データ保存を行わなかった場合、青色申告承認の取り消し対象となり得ます。

実際の取り消しの処分は違反の程度も考慮されるものの、取り消しになる可能性がある点についてよく確認しておきましょう。なお、青色申告の承認が取り消しとなった場合、災害以外の繰越欠損金を翌期に繰り越せない(法人の場合)などのデメリットが生じます。

重加算税が課せられる

重加算税とは、申告義務が適切に行われなかった場合に加算される税金のことです。令和3年度の税制改正では、重加算税についての罰則も追加されました。

ただし、電子取引を電子データで保存しなかったことを理由に直ちに重加算税が課されるわけではありません。電子取引による電子データに関して、隠ぺいや仮装の事実が見つかった場合には、それに対応する申告漏れの部分に対し、10%の重加算税が課されます。

100万円以下の罰金が課せられる

会社法に定められた罰則についても注意が必要です。電子取引による電子データ保存を適切に行わず、書類などの改ざんなどを行ったときは、100万円以下の過料に処されることもあります。

電子帳簿保存法の導入手順

電子帳簿保存法に適った電子データ保存を行うためのフローを紹介します。

1. 制度の把握

電子帳簿保存法は、会計ソフトなどで作成した帳簿書類の電子化、書類のスキャナ保存による電子化、電子取引データの保存の3区分があり、それぞれ要件が異なります。まずは、電子帳簿保存法の制度やそれぞれの要件について確認しておきましょう。

幾度かの税制改正により電子帳簿保存法の要件が大きく緩和され、これまで必要だった税務署長の承認もが必要なくなりました。今後新たに導入する企業や個人事業主は、電子帳簿保存法を適用したいタイミングで電子データの保存ができます(優良な電子帳簿にするには課税期間の初日から電子帳簿により備え付ける必要があります)。

なお、帳簿書類の電子化と書類のスキャナ保存による電子化はその事業者の任意で選択できますが、電子取引データについては、改正後の電子帳簿保存法により電子データでの保存が義務付けられました(※やむを得ない事情があると認められるときはそのまま保存することが可能です)。すべての事業者は電子取引データの電子データでの保存が必要となりましたので、この点も踏まえて、その後のシステム導入について検討する必要があります。

ただし、電子取引においては、令和5年の税制改正により次の猶予措置が整備されました。

次の2要件の両方を満たせば、電子取引における電子データ保管については、検索要件及び改ざん防止策などの対応は不要です。つまり、電子データの保存だけでよいということです。

  • 電子取引の要件に従って電子データを保存できないことについて、税務署⻑が相当の理由があると認める(事前申請等不要)
  • 税務調査等において、ダウンロードの求めに応じ電子データを印刷した書面の提示などに応じることができる

したがって、令和6年1月1日からは、当面は電子取引における電子データの保存だけを行い、後悔のないシステム導入を検討することもできます。

参考:パンフレット(過去の主な改正を含む)|国税庁令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要

2. 課題の整理

電子帳簿保存法を導入するといっても、すべてを電子化する必要はありません。会計ソフトのデータは電子帳簿保存法を適用し、紙でやり取りしている契約書や請求書については紙のまま保存するといったこともできます。

電子帳簿保存法を適用するなら、紙の保存で大きく負担がかかっている部分の改善から行うのが効果的です。課題の改善を図るためにも、どこにどのくらいの負担やコストがかかっているか、自社の課題を明確にしましょう。

3. 電子化する書類の洗い出し

自社の課題を整理したら、課題を解決するためにどのような帳簿書類の電子化が効果的か、細かく書類を洗い出していきましょう。

例えば、書類であれば、請求書や納品書領収書、契約書、見積書検収書などがあります。すべての書類を電子化するとかえって負担が増えることもありますので、やり取りの多い書類など、電子化したほうが良い書類をピックアップして電子化を検討します。

4. 業務フローの設計

紙で保存していたデータを電子化する場合、経費申請の方法やデータの保存など、業務フローにも変更が生じます。システムを導入してから電子データ保存の方法を考えるのではなく、電子帳簿保存法に対応する前に業務フローを電子化に合わせて設計し直しましょう。

例えば、経費精算を電子化する場合、これまで紙のフォーマットで対応していたものを、領収書をアップロードできるシステムを活用してシステム上で申請を完結できるようにするなどのフローの変更が考えられます。

導入前に業務フローを整理しておくことで、社内全体に導入前の周知ができますし、導入後の混乱を防ぐことができます。

5. システムの導入

最後にシステムの導入です。電子帳簿保存法に対応しているシステムで、かつ自社の課題を解決できるシステムの中から選定していきます。システムによって、導入コストやランニングコスト、セキュリティの対応などが変わってきますので、十分に比較検討してシステムを導入しましょう。

導入するシステムのコストや機能面も重要ですが、多くの社員が利用するシステムでは誰もが利用しやすいシステムを導入することをおすすめします。

自社の課題に応じて電子帳簿保存法に適った電子データ保存を行おう

電子帳簿保存法に適った電子データ保存には、スペースや保管コストの削減、検索性の確保などの面でメリットがあります。電子データ保存を行う場合は、自社の課題を洗い出したうえで電子帳簿保存法に適った保存ができるよう、導入するシステムを選択していきましょう。

なお、猶予期間が設けられてはいるものの、電子帳簿保存法の改正により、すべての事業者に電子取引データの電子保存が義務付けられるようになりました。電子取引データの保存についても適切に取り入れられるよう、運用の見直しやシステムの導入を考えていく必要があります。


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