- 更新日 : 2024年8月8日
年商と年収の違いとは?中小企業が信頼できる取引先を見分けるために
メディアで企業の規模を表す際によく用いられる「年商」ですが、これが何を意味するかはご存知でしょうか。
年商が1億円を超えているからといって、必ずしもその企業がそれだけの利益をあげているとは限りません。今回は、「年商」の意味と「年収」との違い、さらには年商以外にも企業の信用を表す財務的な安全性をご紹介していきます。
年商と年収の違いとは?
まず、「年商」についての意味ですが、年間を通してのその事業の売上のことを年商と言います。つまり、「年商1億円の企業」といえば、年間の売上が1億円の企業ということになります。
しかし、企業の売上だけでは、その企業が利益をあげていて、信用できる企業かどうかは判断できません。売上は何十億とあがっていても赤字の企業も存在するのも事実です。
それに対して、年商とよく混同されるのが年収です。年収については、年間を通してのその人の所得です。個人事業主の場合は、その事業の利益に相当する所得金額であり、中小企業の経営者の場合は、役員報酬の年間合計額です。中小企業の役員報酬についても、企業の利益の金額と連動して設定されることが多いことから、年商と比較して年収の方が企業の実態を表す数字であると言えるかもしれません。
年商だけでは不十分! 信用できる企業の見分け方とは
先述した通り、年商については企業の売上を表すだけのものです。したがって、年商ばかりを誇張する企業には注意が必要です。いくら年商が高くても、それはあくまでも売上規模が大きいだけであって、信用できる企業とは言えません。
では、取引する上で、信用できる企業とはどのような企業でしょうか。どのような数字を確認する必要があるのでしょうか。こちらについて財務分析の安全性という考え方から見ていきます。
中小企業の取引について、最も避けなければならないことの一つは、キャッシュの入金が遅れることです。サービスや商品を提供したにもかかわらず、その代金が期日になっても入ってこないという状況は、自社の資金繰りに大きな影響を与えます。
財務分析の安全性分析は、その重要な「キャッシュの支払能力」を重視して企業の安全性を分析します。安全性分析に用いられる指標のうち、特に重視されるのが自己資本比率です。
自己資本比率(%) = 自己資本(純資産) / 総資本(純資産+負債) × 100
自己資本比率とは、その企業の総資本のうち、どれくらいの割合が自己資本であるのかを表す指標です。すなわち、現状の資産(現預金・設備など)の源泉は自己資本(資本金として出資した金額と、企業活動によって得た利益)であるのか、あるいは他人資本(銀行からの借入など)であるかを表しています。
例えば、銀行からの借入が多くて自己資本比率が低い企業は、その借入条件の変更などがあった場合にキャッシュが回らなくなってしまう事態に陥る可能性があります。
すなわち、自己資本比率が低い企業というのは他人資本によって大きく影響されるケースも考えられるため、安全性が低いということになります。
そういった面も含めて、この自己資本比率というのは高いほど安全な企業だと言えます。業種や企業形態などによっても異なりますが、一般的には50%以上が優良な企業であり、10%未満の場合は安定性のない企業だと言われています。
その他にも、安全性分析には「流動比率」や「固定比率」など、さまざまな指標があり、そのような指標から総合的に企業の安全性を判断することになります。(安全性分析についてより詳しく知りたい方はこちらから)
もちろん、このような指標については、その企業の財務諸表(損益計算書や貸借対照表)を確認しなければ正確には分かりません。基本的には上場企業でない限りは財務諸表を公開していることはほとんどありませんので、取引先の企業について調べたとしても数値は分かりません。
この安全性分析の概念を意識しておくことで、取引先の企業の状況について、年商などのあいまいな指標だけではなく、キャッシュの支払能力という概念から信用できる企業なのかを判断しようとします。あるいは、逆に取引先や銀行などから信用されるために、自社の財務的な安全性を高めることの重要性についても気付くことになるでしょう。
財務的な安全性を高めることで、銀行からの融資が受けられるだけではなく、これまでよりも大きな仕事や継続的な案件を得られるチャンスにつながるかもしれません。
まとめ
最後に、今回のポイントについてまとめておきましょう。
・年商というのは、その事業の年間での「売上高」であり、利益の金額とは異なる
・信用できる企業を見分ける一つの手段として、安全性分析がある
・安全性分析に用いられる指標を意識して改善することは、自社の信用を高める上で有効である
信用できる企業を見分けることは難しいことですが、「年商」などの一つの要素で企業を見るのではなく、今回紹介した安全性分析も含めて、財務的な観点から総合的に判断することが重要です。
関連記事
・中小企業の何割が黒字企業? 中小企業が生き残るために必要なこと
・中小企業向けの会計ルールを知っておこう
・数字で読み解く! 日本の中小企業の状態とは
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
【これは軽減税率?】キッチンカーで買った食事。近くのベンチで食べるなら消費税どうなる?
2019年10月1日からスタートした消費税の軽減税率制度。主に「飲食料品」は消費税軽減税率8%の対象になりますが、飲食のシチュエーションなどによっては適用対象になりません。 本シリーズ『これは軽減税率?』では、事業者のみなさんが軽減税率につ…
詳しくみるリース会計基準とは?改正に伴う影響は?
設備を調達したい会社(借手)に代わってリース会社(貸手)が新規購入して貸借する取引のことをリース取引といいます。このリース取引に関する基準などを定めた「リース会計基準」が、2008年4月1日から適用されました。本記事ではリース会計基準や改正…
詳しくみるセグメント情報とは?分かりやすく解説!
セグメント情報とは会社の売上、利益/損失、資産その他の財務情報を事業単位などの単位(セグメント)に分解した財務情報のことである。上場会社の有価証券報告書などでこれを開示する。 セグメント情報とは ひとつの会社が複数の事業を行ったり、製造会社…
詳しくみる合併の基礎知識|負債がある会社と合併したら、どうなるの?
会社活動の選択肢のひとつに、合併や会社を分割することで組織を再編するというものがあります。この中の、合併という方法は会社法によって規定されています。では具体的に合併するとはどういうことなのでしょうか。 今回は、合併に関する法律的な側面や会計…
詳しくみる売上高当期純利益率とは?計算式や目安・平均を解説
売上高に対する利益率を表す指標の一つに、売上高当期純利益率があります。売上高当期純利益率を把握することに、どのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、売上高当期純利益率でわかることや計算方法、目安としての平均値、売上高当期純利益率が…
詳しくみる国際会計基準(IFRS)とは?日本の会計基準との違いや導入メリット
現在、欧州連合(EU)では、連結財務諸表における国際会計基準(IFRS/International Financial Reporting Standards)の適用を上場企業に義務付けています。また、EU域内ではなくても、EU企業と取引を…
詳しくみる