- 更新日 : 2025年3月28日
IFRSにおける営業利益とは?2027年に定義が統一される理由や影響も解説
IFRS第18号の公表によって、IFRSでは新たに営業利益の表示が求められるようになりました。ただし、IFRSの営業利益は、同一の企業の会計情報であっても、日本基準の営業利益とは金額が異なる可能性があります。IFRSの営業利益の取り扱いや計算、日本基準との相違点などを解説します。
目次
IFRSにおける営業利益とは
IFRSにおいて、営業利益については明確な定義がありませんでした。しかし、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が公表されたことで、IFRSにおける営業利益の扱いに変化が生じることになりました。
営業利益の定義が統一されていない理由
IFRSでは、営業利益の定義が企業によって異なる問題がありました。日本基準と違い、IFRSでは営業利益の開示が義務付けられていないからです。
そのため、営業利益の記載がない損益計算書(包括利益計算書)もIFRSに沿ったものとして認められていました。IFRSで営業利益が定義されてこなかったのは、業界などによって営業利益の扱いが異なっていたためです。
2027年に営業利益の定義が統一される背景
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の公表により、IFRSの損益計算書(包括利益計算書)でも、営業利益の定義が統一されて、開示が要求されるようになります。IFRS第18号が適用されるのは、2027年1月1日以降に開始する事業年度からです。
これまで任意の表示となっていた営業利益の開示が求められるようになった背景として、企業独自の指標が拡大し過ぎたために、企業間比較などがやりにくくなったことなどがあります。
IFRSと日本基準の営業利益の違い
日本基準の営業利益と、IFRS第18号によって表示が義務化されることになった営業利益には違いがあります。
日本基準では、利益を売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益の5段階に分けて表示することが求められています。営業利益とは、売上総利益から販売費一般管理費を差し引いた利益額のことです。つまり、本業の稼ぎを表します。
一方、IFRS第18号において要求される営業利益は、以下の表のように表示することになります。
区分 | 損益計算書の表示項目 |
---|---|
営業 | 収益 |
費用 | |
営業損益 | |
投資 | 投資からの収益など |
財務及び法人所得税前純損益 | |
財務 | 利息費用など |
税引前当期純利益 | |
法人所得税 | 法人所得税費用 |
継続事業の当期純利益 | |
非継続事業 | 非継続事業の純損益 |
当期純利益 |
IFRSの営業損益とは、営業区分による利益を表します。注意しなければならないのは、IFRSで営業区分には、他に分類できない収益や費用が加わることです。IFRSの損益計算書には特別損益の項目がないため、日本基準では特別損益に区分される収益や費用も営業の区分に含まれることがあります。結果として、日本基準とIFRSの営業損益は一致しない可能性があります。
IFRSにおける営業利益の計算方法
以下の表は、IFRS第18号に従って作成される損益計算書(包括利益計算書)のうち、営業区分のみを抜き出したものです。
営業 | 売上収益 |
売上原価 | |
売上総利益 | |
その他の営業利益 | |
販売費 | |
一般管理費 | |
のれんの減損損失 | |
その他の営業費用 | |
営業損益(営業利益) |
上記の表から、以下の計算式により営業損益を求められることがわかります。
IFRSにおける営業利益と金融収益の関係
金融収益とは、金融商品などから生じる収益のことです。金融商品などから生じる費用のことを金融費用といいます。IFRSでは、営業に関わる収益や費用、営業利益とは別に、金融収益や金融費用を表示して作成することが認められています。金融収益は日本基準の営業外収益の一部、金融費用は日本基準の営業外費用の一部を表す項目です。
しかし、IFRS第18号の適用により、金融収益や金融費用は、さらに投資区分と財務区分に分ける必要があります。投資区分とは、企業が保有する資産から生じる収益や費用に関する項目です。金融収益や金融費用のうち、受取配当金や受取利息などが分類されます。財務区分とは、財務活動で生じる収益や費用のことです。金融収益や金融費用のうち、支払利息などが分類されます。
IFRSの変更で日本基準の経常利益はどうなる?
IFRSでは、日本基準で求められる「経常利益」の開示要求はありません。IFRS第18号により新たな区分が設けられた後も、日本基準の経常利益に該当する指標の表示は規定されませんでした。そもそも、IFRSでは特別損益を禁止しているため、特別損益を含めない経常利益を算出する意味がありません。IFRS第18号において営業利益の表示が義務付けられるようになったことで、日本基準の「経常利益」という独自の指標がグローバル視点ではさらに意味をなさなくなることが予想されます。
IFRSの営業利益と日本基準の営業利益は異なる
IFRS第18号が公表されたことによって、IFRSの損益計算書(包括利益計算書)でも、営業利益の表示が要求されるようになりました。ただし、IFRSと日本基準の損益計算書の構造には違いがあることから、同じ営業利益でも、異なる会計基準で処理すると金額が異なる可能性があります。企業間比較を行う際は、IFRSと日本基準の営業利益の差異に注意する必要があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
一人社長に税理士は必要?メリット・デメリットや費用、依頼できる業務を解説
一人社長の会社でも、状況次第で税理士への依頼が必要なケースがあります。顧問税理士をつけるメリットとして、会計業務の手間を省ける点や、節税対策について相談できる点などが挙げられます。 一方で、コストがかかる点は依頼時に留意しましょう。本記事で…
詳しくみる役員退職慰労金とは?計算方法と功労加算・税金面の注意点や支給手続きを解説
取締役や監査役などの役員が退職した場合に、会社は役員退職慰労金を対価として支給することができます。 この役員退職慰労金については、支給する側にもされる側にも様々なメリット・デメリットがあります。また、>役員退職慰労金を損金算入することで、節…
詳しくみる子会社株式とは?わかりやすく解説
「子会社株式」とは企業が保有する資産の1つで、他の企業の議決権を行使するためのものです。子会社に該当すれば、運営方針や人事などで決定権を得られます。しかし、子会社に該当する基準は意外と知られていません。 本記事では子会社株式とは何かを解説す…
詳しくみる入金催促メールはやんわりと伝えるべき?例文や書き方、返信例を紹介
取引先からの入金が期日までに行われず、慌てた経験がある事業者の方もいるのではないでしょうか。 中には「大切な取引先に入金を催促するのは気が引ける」という方もいるかもしれません。そこで今回は、取引先から期日までに入金がない場合に送る入金催促メ…
詳しくみる経理代行とは?サービス内容やメリット、選定方法をわかりやすく解説!
会社の記帳や年末調整などの業務を、外部の経理代行サービスと契約し委託するケースがあります。経理業務を社内だけでこなすことが難しい企業にとって、経理代行サービスは必要な部分だけをスポットで利用できるという点で利便性のあるサービスです。今回は、…
詳しくみる通知預金とは?メリットや定期預金との違いについてわかりやすく解説!
通知預金とは、まとまった資金を短期間預けるための預金です。普通預金よりも金利が高めの場合もありますが、同程度の利率ことも多く、利息にあまり差はありません。解約する際のルールや廃止の傾向にあることについて解説します。 通知預金とは? 通知預金…
詳しくみる