• 更新日 : 2024年8月8日

税務調査とは?流れや必要書類、対応方法の解説

事業を営む個人や法人、あるいは資産家や相続があった個人などに対して、税務署や国税庁による税務調査が行われることがあります。「怖い」「重いペナルティを科せられてしまう」というイメージもあるかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか。この記事では税務調査の流れや必要書類、対応方法についてご紹介します。

税務調査とは

税務調査とは徴税機関(国税庁や国税局、国税事務所、税務署、税関)が納税者の申告内容を確認し、誤りを是正させる一連の手続きのことを指します。誤りとは申告漏れや無申告、脱税行為などを指します。これらが横行して税金を逃れる人が出てくると、大多数のまじめに税金を支払っている人たちに不平等感が生じます。特に脱税は犯罪なので、国として看過できるものではありません。

そこで、調査官が申告書や帳簿などを見て適正に納税されているかを確認し、申告漏れや無申告、脱税行為などが疑われた場合は対象者のもとに赴いて聞き取りや書類の確認を行います。誤りがあった場合は修正申告のうえ適正な納税をさせ、場合によってはペナルティを科します。

税務調査の種類

税務調査には大きく分けて「強制調査」と「任意調査」の2種類があり、その性質は大きく異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

強制調査

国税通則法第74条の2にもとづいて実施される調査で、「マルサ」という通称で知られる国税庁調査査察部が行います。警察が行う家宅捜索と同じように裁判所からの令状が発行されるため、対象者は調査を拒否することができません。

調査官が脱税を疑われる対象者のもとに赴き、資料の押収や聞き取りを行い、脱税行為が特定されれば検察庁に告発します。その後検察官によって起訴され、刑事罰が科せられる可能性もあります。

しばしば大企業や有名企業、著名人が強制調査をされたというニュースが報道されているため、税務調査というとこの強制調査のイメージが強いかもしれません。しかし、おおむね脱税額が1億円を超え、かつ証拠を隠滅するために工作が行われたような悪質なケースに限られますので、一般の方にはほとんど縁がないでしょう。

任意調査

こちらは国税通則法第34条の6第3項および第131条の規定にもとづき、国税局調査部や税務署の調査官、国税局資料調査課の実査官によって行われます。強制調査のように調査官が裁判所の令状を持ってくるということはなく、一部例外的に抜き打ちで行われることがあるものの、基本的には事前に電話や文書で調査を行う旨の通知があります。

調査官には「質問検査権」が認められており、調査時には対象者に対してさまざまな聞き取り調査が行われます。その結果、申告漏れや無申告、脱税行為が認められれば、修正申告や是正が求められます。

一般的な企業や個人に対して行われる税務調査のほとんどは、この任意調査という形式です。基本的には納税者の同意にもとづいて行われるのですが、正当な理由なく拒絶した場合には刑事罰を科せられる可能性もあるため注意が必要です。

税務調査の流れ

税務調査を受ける機会はあまりないので不安に思われている方も少なくないかと思います。どのようなことが行われるのかを知っておけば落ち着いて対処ができ、事前準備もしっかりできるようになります。ここからは税務調査の大まかな流れについて見ていきましょう。

事前通知

国税通則法第74条の9においては調査を行う場合、原則として対象者に事前通知を行うよう定められています。そのため、まずは税務署から電話や文書によって税務調査を実施する旨の連絡があります。一方で同74条の10においては事前通知なしの特例が規定されていますので、抜き打ちで調査が実施されるケースもありますが、8~9割は事前の通知を行ったうえで調査が行われているようです。

おおむね調査の2~3週間前に通知されることが多いようです。なお、顧問税理士がいて税務代理権限証書(税理士が税務署に提出する書類)に納税者の同意の記載がある場合は税理士に連絡が行きます。

日程調整

事前通知後に税務署の担当者と調査の日程を調整します。仕事や家事などの都合に合わせて日程を指定することが可能です。税務調査は丸1日もしくは数日かけて行われるため、まとまった時間が取れる日を選びましょう。税理士に立ち会ってもらう場合は、税理士とも相談しながら日程調整を行います。

準備

税務調査に必要な書類や資料を準備し、内容をしっかりと確認しておきましょう。当日は調査官からさまざまな質問がなされますので、回答を考えておく、シミュレーションをしておくことも大切です。顧問税理士がいる場合はアドバイスをもらいながら準備を進めていきましょう。

調査当日

調査当日になったら調査官が自宅や会社、店舗などに訪れます。必要書類の提示を求められたり、聞き取り調査が行われたりします。調査官の指示に従いましょう。調査は1日で終わることもあれば、2~3日程度かかる場合もあります。

当日は税理士が立ち会うことも可能です。顧問税理士がいる場合は、可能な限り立ち会ってもらいましょう。顧問契約を締結していない場合でも、調査当日までにスポットで立ち会いに対応してくれる税理士を探して相談されることをおすすめします。

調査結果の連絡

調査が完了したら結果が通知されます。調査の結果、誤りがないと認められた場合は「申告是認」となり、申告是認通知書が送付されます。税務署からの指摘に対して自ら誤りを認めた場合「修正申告」となります。再度申告をやり直し、不足している税金を納めます。税務署が誤りを指摘したものの、納税者がこれを認めず修正申告に応じなかった場合は「更生」となり、税務署側が申告した内容を修正したうえで、不足している税金を納めるよう求めます。

税務調査の必要書類

税務調査の必要書類も押さえておきましょう。

帳簿関連

伝票関連や総勘定元帳、固定資産台帳、現預金出納帳などが必要です。金融機関の預金通帳も準備してください。

領収書や請求書など

経費の支払い時に受け取った領収書も準備してください。これらは現預金出納帳と照らし合わせて確認するものと考えておきましょう。また、売上の根拠になる納品書請求書、領収書も用意してください。物品を販売する事業者の場合、商品在庫と併せて確認される場合があります。

その他、稟議書などをチェックされる可能性もあります。こちらも準備しておくと安心でしょう。

契約書など

現預金出納帳に記載された出金の根拠を確認するため、賃貸やリースの契約書を確認されることもありますので用意しましょう。法人で生命保険などに加入している場合、生命保険証書も用意してください。

労務関連

給与支払い関連もチェックされます。源泉徴収の記録だけでなく、雇用関連の書類やタイムカード、社員名簿なども準備しましょう。

税務調査が入りやすいケース

何十年と事業を営み続けていてもほとんど税務調査を受けたことがないという企業・個人事業主もいれば、頻繁に税務調査に入られてしまうという企業・個人事業主も存在します。ここからは税務調査が入りやすいケースをご紹介します。

ただし、これらはあくまでも傾向です。以下に該当していないからといって税務調査が入らないとは限らないので注意しましょう。

法人の場合

まずは過去に修正申告や更生などの処分を受けたことがある会社です。特に悪質な申告漏れや脱税があった場合は税務署からマークされることもあるため、税務調査に入られるリスクが高くなります。

赤字の会社、黒字から赤字に転換した会社も税務調査に入られやすくなります。当然ながら黒字であれば法人税を支払わなければなりません。税金逃れのために故意に赤字にしている会社もあります。特に黒字から急に赤字に転換した会社などは、そういった行為をしていると疑われがちです。

異常値がある場合も税務調査が入りやすくなります。たとえば、売上や経費が急に増えた、あるいは減ったというケースです。特に長年安定的に事業を続けていれば、売上や経費が大きく変動することはあまり考えられません。同業他社と比較して数値が乖離している(たとえば接待交際費が他社よりも極端に多いなど)といったケースもマークされがちです。

不正が多い業種も税務調査が入りやすいとされています。飲食業や風俗業、遊興業、土木、建築などが挙げられます。特に飲食業や風俗業、遊興業は現金商売であり、売上を隠しやすいのも税務調査が入りやすい理由となります。

個人事業主の場合

個人事業主の場合に関しても法人と同様、過去に税務署からの指摘を受けた、異常値がある、不正が発生しやすい業種で事業を営んでいるといったケースでは税務調査が入りやすくなります。

それに加えて申告売上が1,000万円にわずかに届かない個人事業主もターゲットになりやすいです。個人事業主は2年前(前々年)の年間売上が1,000万円を超える場合、消費税を支払わなければなりません。中には消費税の支払いを逃れるために、売上を隠して1,000万円以下に抑えている個人事業主もいます。そのため、特に900万円台の人は税務調査に入られやすくなるという傾向があります。

また、個人事業主の場合は経費とプライベートの支出が混同しがちです。プライベートで使う車の購入費や維持費、家族旅行や外食の費用なども経費として計上されているケースもあります。経費が異常にかかっていて利益が極端に少なくなっている個人事業主も税務調査に入られやすくなります。

税務調査が始まった…気を付けるべきポイントは?

国税庁によると、2017年に行った法人税の調査件数は約9万8千件。法人税だけでも毎年多くの納税者が対象になっており、税務職員は1件あたりの調査に大きく時間を割くことができません。そのため、平均すると税務調査は1~3日で行われることが多いです。

この、短期間の税務調査の中では、書類等の調査、調査官による会社代表者や経理担当者への口頭による確認や質問、場合によっては重要書類や印鑑等の保管場所の確認が行われます。指摘事項があれば当日、あるいは後日連絡があるのが税務調査の流れです。

調査能力は調査官の手腕に左右されますが、規模の大きい会社や非協力的な会社、悪質な不正が疑われる会社を担当することが多い国税局の調査官の方が、調査能力は高いと推測されます。ただし、前述したように、結果的には調査官個人の手腕にもよるため、税務調査の対象になったら、気を抜かず調査に臨むことが大切です。
ここでは、税務調査における注意点とポイントを解説していきます。

一般的な質問から調査は始まっている

税務調査の中で、取引の内容とは直接関係しないような質問を受けることもあります。例えば、役員報酬を受け取っている代表者の親族が普段どのように過ごしているか、代表者個人が最近取得した不動産がないか、といったことです。

雑談ともとれるような内容もありますが、調査官は疑わしいことがないか、代表者など、対応しているのはどういった性格の人物か確認しているのであって、単に会話をしに来ているわけではありません。どんな質問でも揚げ足を取られないように、疑わしいと受け取られるような回答は避け、余計な情報は口にしないべきです。

信頼できる税理士を付けておく

税務調査は税理士の立ち会いなしで受けても問題ありません。税理士との事前の打ち合わせで準備をしておけるのであれば、社内あるいは個人で対応できるということです。不安な場合は、調査官からの指摘に対して対処できる、事業などの状況をよく知っている顧問税理士に立ち合いを依頼するのも良いでしょう。税理士の専門知識をバックに、助言や税務職員からの質問に対しての回答をお願いできます。

留置きされて困る書類は事前にコピーしておく

調査官は、あらかじめ簡易的な調査を行い、実地調査で確認する内容に目途を付けた上で調査に訪れています。必要最低限の書類の準備は上述したとおりですが、実際に調査官に渡す資料は指示されたものだけで問題ありません。

必要な書類は調査官がコピーして持ち帰ることもありますが、状況次第では原本が税務署預かりになることもあるため、会社にないと困る書類は事前にコピーしておきましょう。

あいまいな回答は避け、後日回答する

質問されれば、だいぶ前のことであいまいなことであっても答えようとしてしまいがちですが、明確でない事実をその場で答える必要はありません。例えば、ある食事の領収書について誰が同席していたのか、雑収入の内容は何か、請求書の日付と帳簿上の日付が違う理由は何か(訂正があってまだ訂正分の請求書の発行を受けていないなど)などです。

事前の確認等で明確に答えられる部分は問題ないですが、あいまいな回答はかえって指摘される可能性があるため、後日調査して回答する対応でも問題ありません。

税務調査で申告の誤りが指摘されたら?

ここでは、税務調査で申告の誤りを指摘されたときの対応について解説します。

修正申告

税務調査後に、納付した税金が過大であるという指摘はまずないと考えて問題ありません。例外もありますが、不正を疑って行われる調査も多いためです。そのため、実際の税額よりも少なく申告していたということで、指摘された事項を元に、正しい申告書に修正し、申告する「修正申告」の手続きが必要となります。

この場合、実際とは異なる税金を申告し、また納期限を過ぎているという理由から、実際の税額とすでに申告している税額の差額分に加え、追徴課税分を納付しなければなりません。追徴課税の種類は以下のとおりです。

課税割合
無申告加算税15%
(50万円超部分は20%)
過少申告加算税過少申告加算税 10%
(期限内申告税額と 50 万円のいずれか多い額
を超える部分は15%)
不納付加算税
(法定納期限後の納付)
10%
重加算税
(仮装・隠ぺいがあったとき)
重加算税
(仮装・隠ぺいがあったとき) 過少申告・不納付加算税に代えて35%
無申告加算税に代えて40%
延滞税本則14.6%
納期限後2ヶ月以内は本則7.3%
(低金利状況に合わせた特例あり。2019年は8.9%)

(税務調査後の加算税という前提で、通知前の軽減は想定していません。)

更正の請求

税務調査後の調査結果に問題がなければ、上の修正申告による対応で問題ありませんが、納得がいかない場合は、更正の請求へ進みます。これは、調査を行った税務署等へ不服を申し立て、再調査の請求をする手続きです。請求があれば、税務署側は処分が正しかったかどうか審理する必要があります。

基本は修正申告のみ

税務調査で問題があれば刑罰が下るのではないかという心配もあるかもしれませんが、通常の税務調査で刑罰にあたることはほとんどありません。申告後に滞納があれば財産の差し押さえが実行される可能性はありますが、刑罰を下せるほどの実行力は税務調査にはないためです。

しかし、申告に誤りがあれば、追徴課税を受け、実際よりも多く納税しないといけないことに変わりないため、普段から正しい申告、適正な申告を心がけましょう。

税務調査が入りやすい時期

税務調査が入りやすい時期は申告のピークが過ぎた7月以降といわれています。特に法人は3月決算のところが多いため、7月~12月頃に調査が入る傾向があるようです。

ただし、1月~6月に税務調査が絶対に行われないというわけではありません。いつ来ても対処できるよう、書類をきちんと整えて保管しておきましょう。

税務調査の対象となる確率

年によって若干の変動はありますが、税務調査の対象となる確率は、法人で2%台、個人事業主で0.5~1.0%台程度です。申告漏れがある事業者だけでなく、正しく申告している事業者でも税務調査の対象になる場合があります。

まとめ

税務調査は、基本的に1~3日の短期間の間に、2~3週間前の事前通知を持って行われることが多いです。税務調査の連絡があれば、必要な書類をそろえ、想定される質問に対して答えられるよう、準備をしておきましょう。

<関連記事>
税務調査対象に選ばれにくい申告のポイント

【参考】
国税庁 税務調査手続に関するFAQ
国税庁 相続税の申告と納税
国税庁 帳簿書類等の保存期間及び保存方法
国税庁 法人税等の調査実績の概要
国税庁 申告が間違っていた場合
国税庁 法人税の重加算税の取扱いについて
財務省 納税環境整備に関する基本的な資料


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