• 更新日 : 2024年8月21日

税効果会計とは?目的や手順、適用時の注意点を解説

税効果会計は、主に上場企業で用いられる会計手法で、会計上の収益・費用と税務上の益金・損金の認識時点が異なる場合に、法人税その他所得を課税とする税金を適切に期間配分することにより、損益計算書税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させる目的で行われます。

税効果会計の目的とは?

税効果会計とは、会計上の費用・収益と税務上の費用(損金)・収益(益金)の額に相違がある場合に、法人税やその他の所得にかかる税金(法人住民税、所得を課税標準とする法人事業税および地方法人特別税)を期間配分することにより、税引前当期純利益と法人税等の税金費用を合理的に対応させることを目的とする会計手法です。

法人税などは、法人税法上の利益(課税所得)をもとに算出されますが、損益計算書上の税引前当期純利益と法人税法上の課税所得は通常一致しません。

これが一致しないままだと損益計算書上の利益と税金費用の対応関係に相違が生じ、税引後の当期純利益が会社の業績を適切に反映しないということになります。

そのため、税効果会計が必要なのです。

簡単に言うと、会計上の利益と税務上の所得の計算方法が異なるため、その差異による不整合をアジャストさせるために税効果会計が導入されています。

税効果会計のメリット

税効果会計のメリットは、税引前当期純利益と法人税等が対応することによって、見た目に違和感のない整合性のある損益計算書を作成できることです。

企業会計上の費用と収益、税務会計上の損金と益金には、ズレや相違があることから、企業会計上の利益と税務会計上の課税所得には違いがあります。

税効果会計を適用しない場合、このような違いが損益計算書にそのまま反映され、税引前当期純利益と法人税等を比較すると、実際の税率とかい離があるのが通常です。税効果会計を適用すればこのような、かい離が解消され、税引前と税引後の当期純利益がうまく対応するようになります。

税効果会計の適用対象となる会社は?

税効果会計は、主に上場企業に適用が強制されるものです。上場企業のほかには、同じく金融商品取引法の規制を受ける企業が強制され、会社法上の大会社も税効果会計の適用が必要とされます。

一方、中小企業については、税効果会計の適用は強制されていません。ただし、親会社などの会計方針に合わせる観点から、親会社が税効果会計を適用している場合、子会社や持分法対象の関連会社は中小企業であっても同じように適用するのが望ましいとされます。

税効果会計の方法

税効果会計には「資産負債法」と「繰延法」という2つの方法があります。

資産負債法

資産負債法とは、会計上の資産・負債と税務上の資産・負債に差異(一時差異)が生じた場合に、その年度に繰延税金資産もしくは繰延税金負債を計上する方法です。繰延税金資産・繰延税金負債を計算する際には、一時差異が解消されることが見込まれる年度に適用される税率を用います。

税制効果会計では、資産負債法が用いられるケースが多いです。

繰延法

会計上の収益もしくは費用の額と、税務上の益金または損金との間に一時差異が生じた場合に、その一時差異が解消される年度まで繰延税金資産もしくは繰延税金負債を計上する方法です。これらの計算には、一時差異が生じた年度の税率を用います。

税効果会計の手順

税効果会計は、以下のような手順で行います。

①一時差異を算出する

まず、会計上の収益・費用の額と税務上の益金・損金の額を比較し、一時差異を算出します。なお、永久差異については税効果会計を適用できません。一時差異と永久差異の違いについては、後ほど詳しくご説明します。

②繰延税金資産や繰延税金負債を算出

一時差異の算出が完了したら、その額に法定実効税率を乗じて繰延税金資産もしくは繰延税金負債の額を算出します。

法定実効税率とは、所得に対して課税される法人税、住民税、事業税の表面税率を用いて所定の方法で計算される、総合的な税率のことです。

法定実効税率計算式は、

(法人税率×(1+地方法人税率+法人住民税率)+法人事業税率+特別法人事業税率)÷(1+法人事業税率+特別法人事業税率)

となります。

なお、資産負債法の場合は一時差異が解消されることが見込まれる年度の税率を、繰延法の場合は一時差異が生じた年度の税率を用いて計算します。

③会計上の利益と税務上の課税所得を調整

繰延税金資産と繰延税金負債の差額と、期首と期末で比較した増減額を法人税等調整額として損益計算書に計上します。これによって、会計上の利益と税務上の課税所得を調整することができます。

一時差異と永久差異の違い

企業会計と税務会計では、認識期間や考え方のズレによって、一時差異永久差異の2種類の差異が生じることがあります。それぞれの差異の特徴と具体例を見ていきましょう。

一時差異とは

会計上の費用と収益の額と、税務上の損金と益金の差異のうち、将来年度に解消されるものを一時差異といいます。
収益と益金、費用と損金の考え方は同じであるものの、認識時期が異なることによって生じる差異のことです。

具体例として、会計上で減価償却を費用として計上しても、税務上損金として認識できない減価償却超過額などが挙げられます。

また、一時差異は将来減算型と将来加算型の2つに分けられます。

<将来減算一時差異>

将来減算一時差異は、一時差異が発生した年の税引前当期純利益に差異の部分を加算し、差異が解消される年に税引前当期純利益から減算します。

<将来加算一時差異>

将来加算一時差異は、一時差異が発生した年の税引前当期純利益に差異の部分を減算し、差異が解消される年に税引前当期純利益に加算します。

永久差異とは

永久差異は、会計上の費用と収益、税務上の損金と益金の考え方がそもそも異なることにより生じる差異です。

一時差異とは違って、そもそも会計と税務の考え方が違っており、将来年度においても会計上の費用・収益と税務上の損金・益金の差が解消されるものではないため、税効果会計の適用対象にはなりません。

交際費のうち損金算入限度額を超えた部分、寄附金の損金不算入部分などは、会計上の費用と税務上の損金の差が将来年度においても解消されず、永久差異に該当します。

適用時の注意点

注意したいのは、表面税率(法定実効税率)と税効果会計の計算で使用する実効税率は異なることです。税制改正などで企業の規模や所在地が変わらなくても、実効税率が変化することもあるので注意しましょう。

また、差異があるから必ずしも認められるわけではなく、将来減算一時差異は、回収可能性がないと資産計上できません。課税所得の十分性なども考慮する必要があります。

繰延税金資産と繰延税金負債

税効果会計の対象となるのは一時差異だけですから、その差異は将来必ず解消することになります。

前述のように、解消期に課税所得、つまり法人税の課税対象額が減額するものを「将来減算一時差異」といい、繰延税金資産として計上します。

会計上は、前払い税金費用とみなされ、将来減算一時差異が確実な場合にのみ、法定実効税率を使って算出されます(減価償却費の損金算入限度額を超えた分や貸倒引当金繰入額の繰入限度額を超えた分などが該当)。

逆に、一時差異が解消したら、その期の法人税の課税対象額が増額するものを「将来加算一時差異」といい、繰延税金負債、つまり未払税金費用として計上します。

なお、繰越欠損金は一時差異ではありませんが、のちのち課税所得を減額するという点で「将来減算一時差異」と性格が似ているため、税効果会計上も同様に取り扱われます。

法人税等調整額

税効果会計の適用に伴い、損益計算書上の調整が必要です。その方法としては、まず、期首の繰延税金資産額から繰延税金負債額を差し引きます。期末でも同様の計算をし、その増減額を法人税等調整額として計上します。

まとめ

税効果会計は会計上の費用と収益、税務上の損金と益金の認識をする時期の相違を調整することが主な役割であり、会計上、費用や収益と認識されても税務上損金や益金として認識されないものがあるため、その差異を会計上の利益に反映させることが目的です。

ただし、税制改正が頻繁に行われていることから、法定実効税率については財務省ホームページなどで適宜確認する必要があります。

よくある質問

税効果会計の目的とは?

会計上の利益と税務上の所得の計算方法が異なるため、その差異による不整合をアジャストさせるためです。詳しくはこちらをご覧ください。

税効果会計の適用対象となる会社は?

主に上場企業に適用が強制されるものです。上場企業のほかには、同じく金融商品取引法の規制を受ける企業が強制され、会社法上の大会社も税効果会計の適用が必要とされます。詳しくはこちらをご覧ください。

適用時の注意点は?

表面税率(法定実効税率)と税効果会計の計算で使用する実効税率は異なることに気を付ける必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。


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