- 更新日 : 2025年2月5日
簡易課税制度(みなし課税)とは?要件や消費税の計算方法、メリット・デメリットを解説
簡易課税制度は「みなし課税」とも言い、要件を満たせば「みなし仕入率」を使って消費税額を計算できる制度を指します。事務作業が楽になるメリットがある一方、還付が受けられない点や原則課税よりも納税額が増えることがあるデメリットもあります。
本記事では、簡易課税制度の概要や適用要件、消費税額の計算方法などを解説します。
目次
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担を配慮した消費税申告の計算方法です。「みなし課税」とも呼ばれています。基本的に、消費税は財貨・サービスの国内における販売や提供などすべてに課税されます。
本来、事業者(課税事業者)は、売上にかかる消費税額から仕入にかかる消費税額を控除し、差額分を納付しなければなりません。この仕組みを原則課税(一般課税・本則課税)と呼びます。
一方、要件を満たす事業者が簡易課税制度を選択すれば、売上にかかる消費税額に基づき、容易に仕入にかかる消費税額の算出が可能です。
簡易課税制度を選択するための2つの要件
簡易課税制度は事務の負担を軽減できるメリットがありますが、選択するには2つの条件を満たさなければなりません。ここでは、簡易課税制度を選択するための条件をみていきましょう。
基準期間の課税売上高が5,000万円以下
簡易課税制度を選択するには、基準期間における課税売上高が5,000万円以下という条件があります。
基準期間とは、簡易課税制度の適用を受けようとする期間の2年前を指し、個人事業者はその年の前々年、法人は原則として、その事業年度の前々事業年度のことです。また、課税売上高とは、消費税が課税される取引の売上金額を指します。
個人事業主の場合は2年前、法人であれば2事業年度前の課税売上高が5,000万円以下であれば条件を満たしているということです。
5,000万円の基準は原則として税抜金額で判断しますが、基準期間の決算が免税事業者であった場合、税込金額で判断します。
簡易課税制度選択届出書を提出している
2つ目の条件は、課税期間の初日の前日までに納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することです。この届出をしなければ、1つめの条件を満たしていても簡易課税方式での消費税額計算はできません。
届出は、簡易課税の選択不適用届出書を出すまで有効です。その後、売上が上がって一般課税の申告に戻し、再度5,000万円以下となった場合には再提出する必要はありません。
ただし、不適用届出書を出さないと、売上が下がったときに一般課税の方が有利になるケースでも簡易課税を強制適用されるため、注意が必要です。
簡易課税制度を用いた消費税納税額の計算方法
簡易課税制度を用いた消費税納税額は、以下の式で計算します。
簡易課税制度を選択した場合の仕入控除税額は、以下の式で計算可能です。
つまり、簡易課税を選択した場合、売上に係る消費税額から、売上にかかる消費税額にみなし仕入率をかけて算出した金額(仕入控除税額)を控除して納付税額を計算します。
簡易課税制度の事業区分とみなし仕入率
簡易課税制度では、事業区分によって消費税額にかける一定の割合(みなし仕入率)が異なります。事業区分とそのみなし仕入率は以下の6つです。
事業区分 | 含まれる業種 | みなし仕入率 |
---|---|---|
第1種事業 | 卸売業 | 90% |
第2種事業 | 小売、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る) | 80% |
第3種事業 | 農業・林業・漁業(飲食品等の譲渡に係る事業を除く)鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業 | 70% |
第4種事業 | 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業 | 60% |
第5種事業 | 運輸通信業、金融業、保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く) | 50% |
第6種事業 | 不動産業 | 40% |
売上高にかかる消費税額が同じ50万円でも、卸売業で簡易課税制度を適用すると45万円が仕入控除税額となるのに対し、不動産業の場合は20万円です。
参考:
No.6505 簡易課税制度|国税庁
No.6401 仕入控除税額の計算方法|国税庁
事業区分が1つのみの場合の消費税額の例
事業区分が1つのみの場合は、以下の計算式で仕入税額控除します。
例えば、課税売上額が500万円、そのうち、軽減税率が適用される課税売上額が200万円の飲食店業について計算してみましょう。飲食店業は第4種事業に分類されるため、みなし仕入率は60%です。
- 売上にかかる消費税額:(500万円-200万円)×10%+200万円×8%=46万円
- 仕入控除税額:46万円×60%=27万6,000円
- 納税する消費税額:46万円-27万6,000円=18万4,000円
複数の事業で売上が発生する場合の消費税額の例(エステサロン・小売業の場合)
事業によっては2種類以上のみなし仕入率が発生するケースもあります。特にエステサロンや小売業などに多くみられるケースです。
複数の事業を営む場合、原則的には、それぞれの区分ごとにみなし仕入率をかけて消費税額を算出します。
エステサロンの施術と、化粧品などの小売業を営む事業を例に、次の条件で計算方法を紹介します。
事業内容 | 事業区分 | みなし仕入率 | 課税売上額 | 消費税額 |
---|---|---|---|---|
エステサロンの施術 | 第5種事業 | 50% | 1,000万円 | 100万円 |
小売業 | 第2種事業 | 80% | 200万円 | 20万円 |
計算式は、次のとおりです。
- 売上にかかる消費税額:(1,000万円+200万円)×10%=120万円
- サービス業:100万円-(100万円×50%)=50万円
- 小売業:20万円-(20万円×80%)=4万円
- 納付する消費税額:50万円+4万円=54万円
複数の事業のうち1事業の課税売上高が75%以上を占める場合、特例によりその区分のみなし仕入率で全体の仕入税額控除を算出できるという簡便な計算方法が認められています。
事例では、サービス業の課税売上高が75%以上を占めているため、次のような計算も可能です。
- (100万円+20万円)-(120万円×50%)=60万円
区分を分けたほうが、納税額が少なくなるという結果です。
複数の事業で売上が発生する場合の消費税額の例(卸売と小売業の場合)
複数の事業で売上が発生する場合で、卸売業と小売業の事業を営むケースを例にみてみましょう。
条件は、次のように設定します。
事業内容 | 事業区分 | みなし仕入率 | 課税売上額 | 消費税額 |
---|---|---|---|---|
卸売業 | 第1種事業 | 90% | 5,000万円 | 500万円 |
小売業 | 第2種事業 | 80% | 1,000万円 | 100万円 |
計算式は次のとおりです。
- 売上にかかる消費税額:(5,000万円+1,000万円)×10%=600万円
- 卸売業:500万円-(500万円×90%)=50万円
- 小売業:100万円-(100万円×80%)=20万円
- 納付する消費税額:50万円+20万円=70万円
この例では、卸売業の課税売上高が75%以上を占めるため、次のような計算もできます。
- (500万円+100万円)-(600万円×90%)=60万円
みなし仕入率の高い卸売業を適用したことで、簡便な計算の方が納税額を抑えられます。
複数の事業で売上が発生する場合の消費税額の例(宿泊・飲食店・小売業の場合)
3種類以上の事業で売上が発生する場合でみてみましょう。
ここでは、宿泊・飲食店・小売業を例に、次の条件で計算します。
事業内容 | 事業区分 | みなし仕入率 | 課税売上額 | 消費税額 |
---|---|---|---|---|
宿泊 | 第5種事業 | 50% | 3,000万円 | 300万円 |
飲食店 | 第4種事業 | 60% | 1,000万円 | 100万円 |
小売業 | 第2種事業 | 80% | 500万円 | 50万円 |
計算式は次のとおりです。
- 売上にかかる消費税額:(3,000万円+1,000万円+500万円)×10%=450万円
- 宿泊(サービス業):300万円-(300万円×50%)=150万円
- 飲食店:100万円-(100万円×60%)=40万円
- 小売業:50万円-(50万円×80%)=10万円
- 納付する消費税額:150万円+40万円+10万円=200万円
3種類以上の複数の事業を営み、そのうち2種類の事業の合計課税売上高が75%以上を占める場合も、次のように簡便な方法を利用できます。
- 2種類の事業のうち、みなし仕入率が高いほうの売上高にはその率を適用する
- その他の事業全体については、2種類の事業のうち、低いほうの率を適用できる
この例では、卸売業の課税売上高が75%以上を占めるため、次のような計算が可能です。
- 宿泊(サービス業):300万円-(300万円×50%)=150万円
- 飲食店・小売業:(100万円+50万円)-(150万円×60%)=60万円
- 納付する消費税額:150万円+60万円=210万円
このケースでは、3つを区分して計算するほうが納税額を抑えられる結果になりました。
簡易課税制度を適用するための手続き
簡易課税制度を適用するためには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに所轄の税務署へ提出します。提出は、郵送や持参、e-Taxなどで対応可能です。
ただし、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合、届出書を提出していても簡易課税制度を適用できません。基準期間とは、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度のことを指します。基準期間が1年に満たない法人は、年換算した金額での算定が必要です。
参考:
[手続名]消費税簡易課税制度選択届出手続|国税庁
No.6501 納税義務の免除|国税庁
消費税簡易課税制度選択届出書の書き方
消費税簡易課税制度選択届出書は、国税庁のサイトからダウンロードできます。
ここでは、届出書の書き方を解説します。
①基本情報
①は基本情報を記載する部分です。管轄の税務署を記載し、日付は税務署に持参する日、または郵送する日を記載します。
届出者の住所と氏名、会社であれば会社名と代表者名を記載してください。法人の場合は、法人番号を記載します。
②適用開始時期等
②は適用開始時期等について記載する項目です。
「下記のとおり〜」の文言がある項目は、適格請求書登録事業者になるのと同時に簡易課税を選択する場合にチェックを入れてください。
適用開始課税期間は、簡易課税を選択したい期間の事業年度を記載します。
「基準期間」とは、適用開始課税期間の2年前の課税期間のことです。基準期間がない場合は記載不要です。
「課税売上高」は、基準期間における消費税の課税対象となる売上高を記載します。基準期間がない場合は必要ありません。
③その他の事業の概要
③は、その他の事業の概要について記載します。
事業内容等には設立届や開業届に記載した事業内容を記載してください。(事業区分)は、事業が簡易課税制度でどの分類に該当するかを記載します。
「提出要件の確認」は、記載内容に該当する部分にチェックを入れてください。
消費税簡易課税制度選択届出書の提出方法
消費税簡易課税制度選択届出書の提出方法は、以下のいずれかを選べます。
- 所轄の税務署の窓口に提出
- 郵送
- e-Tax
税務署の窓口は土日祝日や夜間は受付していませんが、時間外収受箱に投函できます。
提出期限は、原則として適用を受ける課税期間の前日までとなります。事業年度が4月1日〜3月31日の会社で、翌年の4月1日から簡易課税を選択したい場合、今期の3月31日までの提出が必要です。
簡易課税制度のメリット
簡易課税制度のメリットは、主に以下のとおりです。
- 消費税の計算の手間を削減できる
- 消費税の納税額を想定しやすい
- 消費税の節税につながることがある
各メリットを解説します。
消費税の計算の手間を削減できる
簡易課税制度を導入しない場合、仕入れにかかった消費税を適用税率ごとに分けて仕入控除税額を計算しなくてはいけません。しかし、簡易課税制度を導入すると、売上げに係る消費税額に、みなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から差し引くだけで仕入控除税額を算出できます。
簡易課税制度では、2つ以上の事業区分にまたがって事業をしている場合は、事業区分ごとにみなし仕入率をかけて仕入税額控除を算出しなくてはいけませんが、事業区分が1つの事業者であれば取引の内容ごとに事業区分を分ける必要がないため、簡易課税制度を利用することでより簡単に仕入税額控除を求められます。
消費税の納税額を想定しやすい
簡易課税制度を適用することで、消費税の納税額を想定しやすい点もメリットです。納付が必要な消費税額をスムーズに把握できるため、資金繰り対策にもなるでしょう。
一方、原則課税の場合、納税額を把握するためには、都度仕入控除税額を計算しておかなければなりません。
消費税の節税につながることがある
簡易課税制度では、実際にどの程度の消費税が発生したかに関わらず、事業区分に応じてみなし仕入率をかけて仕入控除税額を算出します。取引の内容によっては実際に発生した消費税よりも少なく算出される可能性があり、消費税の節税につながることがあるでしょう。
通常の方法と簡易課税制度による方法と両方で消費税額を求め、比較して初めて節税が可能かどうか分かります。消費税の節税を目指すのであれば、手間はかかりますが一度は計算して比較しておくことが必要です。
簡易課税制度のデメリット・注意点
簡易課税制度を選択することで、以下のデメリットが生じることもあります。
- 複数の事業を営む場合は計算が複雑になる
- 2年間は一般課税に戻せない
- 原則課税より納税額が増えることもある
それぞれ確認していきましょう。
複数の事業を営む場合は計算が複雑になる
複数の事業を営む場合、計算が複雑になる点が簡易課税制度のデメリットです。
1種類の事業のみを営む場合、基本的に受け取った消費税額に、該当するみなし仕入率をかけるだけで仕入控除税額を算出できます。しかし、第1種事業から第6種事業のうち、複数の種類の事業を営む場合は、原則としてそれぞれ異なるみなし仕入率をかけて計算しなければなりません。
2年間は一般課税に戻せない
簡易課税制度を選択すると、2年間は一般課税に戻せません。2年以内に多額の設備投資などを予定している場合は、納税する消費税額に影響を与える可能性があるため、選択には慎重な判断が必要です。
なお、2年が経過して一般課税に切り替えたいときは、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しなければなりません。提出しなくても基準期間の課税売上高が5,000万円を超えている場合は強制的に一般課税が適用されますが、売上高が下がった場合には簡易課税が適用されて一般課税による計算はできません。
原則課税より納税額が増えることもある
設備投資などの支出が多い事業期間であれば、支払う消費税額が増えるため、納税する消費税額は減ることが一般的です。
しかし、簡易課税制度を導入している場合は、支出によって支払った消費税額が仕入税額控除に反映されないため、算出される消費税額が実際よりも増えることになってしまいます。その他にも、取引の内容によっては、実際に発生した消費税額よりも簡易課税制度によって求める消費税額が多いこともあるので注意が必要です。
簡易課税と原則課税、どちらがお得?
ここから、簡易課税がお得になるケースと、原則課税のままの方がお得なケースを紹介します。
簡易課税が得になるケース
仕入額が売上高に占める割合よりも、みなし仕入率の方が高い場合、基本的に簡易課税を選択した方が得です。第1種事業の卸売業のケースで考えてみましょう。
簡易課税制度を適用する場合、卸売業はみなし仕入率が90%です。そのため、課税売上に対する消費税額が150万円の場合、納付する消費税額は15万円(150万円 ー 150万円 × 90%)と計算できます。
売上が1,500万円で実際の仕入が1,050万円(仕入率70%、課税仕入れに対する消費税額105万円)の場合、原則課税を適用すると納付する消費税額は45万円(150万円 ー 105万円)で、簡易課税の方が得です。
原則課税が得になるケース
仕入高が売上高に占める割合よりも、みなし仕入率の方が低い場合、基本的に原則課税のままの方が得です。第4種事業の飲食店のケースで考えてみましょう。
売上が1,500万円(課税売上に対する消費税額150万円)で、実際の仕入が1,050万円(仕入率70%、課税仕入れに対する消費税額105万円)の場合、原則課税を適用すると納付する消費税額は45万円と計算できます。
一方、簡易課税制度を適用する場合、飲食店はみなし仕入率が60%です。課税売上に対する消費税額が150万円の場合、納付する消費税額は60万円となるため、原則課税の方が得でしょう。
なお、課税仕入れには、商品などの棚卸資産購入だけでなく、消耗品の購入や広告宣伝費なども含まれます。
簡易課税制度とインボイス制度の関係
2023年10月1日からインボイス制度がはじまることに伴い、簡易課税制度を適用した方が良いケースもあります。
インボイス制度とは、買い手が仕入税額控除の適用を受けるために、相手から交付されたインボイスを保存しなければならない制度です。売り手の登録事業者も、取引相手からインボイスを求められたら交付しなければなりません。
免税事業者では、インボイスを発行できない点がポイントです。インボイスが発行されないと、取引相手は仕入税額控除を受けられません。
今まで免税事業者で原則課税や簡易課税を気にしなかった人でも、今後課税事業者になる際は選択が必要です。なお、インボイス制度導入後も、簡易課税制度の概要に変更はありません。
参考:インボイス制度|国税庁
簡易課税制度をやめる場合の手続き
簡易課税制度をやめたいとき、手続きをすれば原則課税にすることが可能です。
簡易課税の適用をやめようとする課税期間初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しましょう。手続きは、所轄する税務署への持参や郵送、e-Taxで対応できます。
ただし、制度適用日の属する課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、届出書を提出できない点に注意が必要です。
参考: [手続名]消費税簡易課税制度選択不適用届出手続|国税庁
簡易課税は消費税を簡単に計算する方法
簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担に配慮した消費税申告の計算方法です。簡易課税制度を適用すれば、消費税納付に関する事務作業が簡単になります。
ただし、原則課税のままの方が税負担が軽いケースもあるため、注意が必要です。売上高・仕入高やその他の経費、業種などを考慮して、簡易課税制度を適用するか決断しましょう。
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