- 更新日 : 2023年6月2日
簡易課税制度とは?消費税額の計算方法やメリットデメリットの解説
簡易課税制度は、要件を満たせば「みなし仕入率」を使って消費税額を計算できる制度を指します。事務作業が楽になるメリットがある一方、還付が受けられない点や原則課税よりも納税額が増えることがある点はデメリットです。
本記事では、簡易課税制度をやめたいときの方法や、インボイス制度との関係、原則課税とどちらがお得かも解説します。
目次
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担を配慮した消費税申告の計算方法です。基本的に、消費税は財貨・サービスの国内における販売や提供などすべてに課税されます。
本来、事業者(課税事業者)は、売上にかかる消費税額から仕入にかかる消費税額を控除し、差額分を納付しなければなりません。この仕組みを原則課税(一般課税・本則課税)と呼びます。
一方、要件を満たす事業者が簡易課税制度を選択すれば、売上にかかる消費税額に基づき、容易に仕入にかかる消費税額の算出が可能です。
簡易課税制度を用いた消費税納税額の計算
消費税納税額は、以下の式で計算します。
簡易課税制度を選択した場合、仕入控除税額は以下の式で算出可能です。
つまり、簡易課税を選択した場合、売上に係る消費税額から、売上にかかる消費税額にみなし仕入率をかけて算出した金額(仕入控除税額)を控除して納付税額を計算します。
簡易課税制度を利用する際に使用する「みなし仕入率」は、以下のとおりです。
事業区分 | みなし仕入率 |
---|---|
第1種事業
| 90% |
第2種事業
| 80% |
第3種事業
| 70% |
第4種事業 (第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業
| 50% |
第6種事業
| 40% |
業種によって、みなし仕入率の数値が大きく異なります。たとえば、売上高にかかる消費税額が同じ50万円でも、卸売業で簡易課税制度を適用すると45万円が仕入控除税額となるのに対し、不動産業の場合は20万円です。
参考:国税庁 No.6505 簡易課税制度
参考:国税庁 No.6401 仕入控除税額の計算方法
簡易課税制度の適用要件
簡易課税制度を適用するためには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに所轄の税務署へ提出します。提出は、郵送や持参、e-Taxなどで対応可能です。
ただし、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える場合、届出書を提出していても簡易課税制度を適用できません。基準期間とは、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度のことを指します。基準期間が1年に満たない法人は、年換算した金額での算定が必要です。
参考:国税庁 [手続名]消費税簡易課税制度選択届出手続
参考:国税庁 No.6501 納税義務の免除
簡易課税制度のメリット
簡易課税制度のメリットは、主に以下のとおりです。
- 消費税に関する事務作業が簡単になる
- 消費税の納税額を想定しやすい
各メリットを解説します。
消費税に関する事務作業が簡単になる
簡易課税制度を選択すれば、基本的に受け取った消費税にみなし仕入率をかければ仕入控除税額を算出できるため、事務作業が簡単になる点がメリットです。
一方、簡易課税を適用しない(原則課税)場合、納税額を算出するまでに手間がかかります。土地や商品券の譲渡など、消費税の非課税取引が含まれている場合に取り除く作業が必要なためです。
消費税の納税額を想定しやすい
簡易課税制度を適用することで、消費税の納税額を想定しやすい点もメリットです。納付が必要な消費税額をスムーズに把握できるため、資金繰り対策にもなるでしょう。
一方、原則課税の場合、納税額を把握するためには、都度仕入控除税額を計算しておかなければなりません。
そのほか、業種によって消費税の納税額を抑えられることがある点もメリットです。
簡易課税制度のデメリット
簡易課税制度を選択することで、以下のデメリットが生じることもあります。
- 複数の事業を営む場合は計算が複雑になる
- 原則課税より納税額が増えることもある
それぞれ確認していきましょう。
複数の事業を営む場合は計算が複雑になる
複数の事業を営む場合、計算が複雑になる点が簡易課税制度のデメリットです。
1種類の事業のみを営む場合、基本的に受け取った消費税額に、該当するみなし仕入率をかけるだけで仕入控除税額を算出できます。しかし、第1種事業から第6種事業のうち、複数の種類の事業を営む場合は、原則としてそれぞれ異なるみなし仕入率をかけて計算しなければなりません。
原則課税より納税額が増えることもある
簡易課税制度を選択したことで、原則課税より納税額は増えることがある点もデメリットです。納税額が増えるかどうかは、業種や売上、経費の金額によって異なります。
税負担が重くなり、資金繰りに困ることがないように、今後の売上や経費の見通しを立てた上で、自分は簡易課税制度でお得なのか、あらかじめ把握しておくことが大切です。
簡易課税と原則課税、どちらがお得?
ここから、簡易課税がお得になるケースと、原則課税のままの方がお得なケースを紹介します。
簡易課税が得になるケース
仕入額が売上高に占める割合よりも、みなし仕入率の方が高い場合、基本的に簡易課税を選択した方が得です。第1種事業の卸売業のケースで考えてみましょう。
簡易課税制度を適用する場合、卸売業はみなし仕入率が90%です。そのため、課税売上に対する消費税額が150万円の場合、納付する消費税額は15万円(150万円 ー 150万円 × 90%)と計算できます。
売上が1,500万円で実際の仕入が1,050万円(仕入率70%、課税仕入れに対する消費税額105万円)の場合、原則課税を適用すると納付する消費税額は45万円(150万円 ー 105万円)で、簡易課税の方が得です。
原則課税が得になるケース
仕入高が売上高に占める割合よりも、みなし仕入率の方が低い場合、基本的に原則課税のままの方が得です。第4種事業の飲食店のケースで考えてみましょう。
売上が1,500万円(課税売上に対する消費税額150万円)で、実際の仕入が1,050万円(仕入率70%、課税仕入れに対する消費税額105万円)の場合、原則課税を適用すると納付する消費税額は45万円と計算できます。
一方、簡易課税制度を適用する場合、飲食店はみなし仕入率が60%です。課税売上に対する消費税額が150万円の場合、納付する消費税額は60万円となるため、原則課税の方が得でしょう。
なお、課税仕入れには、商品などの棚卸資産購入だけでなく、消耗品の購入や広告宣伝費なども含まれます。
簡易課税制度とインボイス制度の関係
2023年10月1日からインボイス制度がはじまることに伴い、簡易課税制度を適用した方が良いケースもあります。
インボイス制度とは、買い手が仕入税額控除の適用を受けるために、相手から交付されたインボイスを保存しなければならない制度です。売り手の登録事業者も、取引相手からインボイスを求められたら交付しなければなりません。
免税事業者では、インボイスを発行できない点がポイントです。インボイスが発行されないと、取引相手は仕入税額控除を受けられません。
今まで免税事業者で原則課税や簡易課税を気にしなかった人でも、今後課税事業者になる際は選択が必要です。なお、インボイス制度導入後も、簡易課税制度の概要に変更はありません。
参考:国税庁 インボイス制度
簡易課税制度をやめたいとき
簡易課税制度をやめたいとき、手続きをすれば原則課税にすることが可能です。
簡易課税の適用をやめようとする課税期間初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しましょう。手続きは、所轄する税務署への持参や郵送、e-Taxで対応できます。
ただし、制度適用日の属する課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、届出書を提出できない点に注意が必要です。
参考:国税庁 [手続名]消費税簡易課税制度選択不適用届出手続
簡易課税は消費税申告の計算方法
簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担に配慮した消費税申告の計算方法です。簡易課税制度を適用すれば、消費税納付に関する事務作業が簡単になります。
ただし、原則課税のままの方が税負担が軽いケースもあるため、注意が必要です。売上高・仕入高やその他の経費、業種などを考慮して、簡易課税制度を適用するか決断しましょう。
よくある質問
簡易課税制度とは?
事業者の選択で売上げにかかる消費税額を基礎として、仕入れにかかる消費税額を算出できる制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
簡易課税制度での納税額の計算方法は?
業種に応じた「みなし仕入率」を使って納税額を計算します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。