- 更新日 : 2021年6月11日
簡易課税制度とは?控除額の計算方法や原則課税との違いを解説

消費税については、原則課税以外に簡易課税という計算方法があります。
一言でいうと、簡易課税とは仕入額を売上額の一定割合とみなして控除額を簡単に計算する方法です。この記事では、消費税の簡易課税制度について要件や計算方法、この制度がかかえる問題点などを解説します。
目次
簡易課税制度とは
消費税は、納税者と税を負担する者とが異なる間接税です。
消費税は、消費者が支払う消費税が事業者によって間接的に支払われるしくみとなっていますが、事業者は事業として直接支払った消費税があるため、納税の際に消費者から受取った消費税と自らが支払った消費税を差引して納税します。
図:消費税イメージ 調達先から600円で仕入れたものを、消費者に1,000円で売った場合の事業者の消費税計算
消費税の簡易課税制度とは、消費税の計算の事務的負担を軽減するために中小企業者に配慮して設けられた特例制度で、仕入額を売上額の一定割合とみなして、受取った消費税から控除できるしくみです。
中小企業者への負担を考慮して生まれた特例制度である簡易課税制度ですが、原則と比較計算して有利となる方法を採用している例が多いのが現状です。
簡易課税制度では、業種ごとに決められた一定の割合である「みなし仕入率」を使用しますが、実際の仕入率とかけ離れており、 実際の仕入率 < みなし仕入率 となることで、消費者が事業者に支払った消費税の一部が、納税されずに事業者の利益となってしまう「益税」が問題視されてきました。
しかしながら、2019年10月より消費税率が10%に引き上げられた際に導入された軽減税率に伴い、事業者については2023年10月から「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が実施される予定です。
インボイス制度下では、益税の問題はいくらか解消すると思われる反面、免税事業者は売主から買主に対する請求書等である「インボイス」を交付できない等の問題を抱えています。
簡易課税の要件
簡易課税制度は、原則として次の2つの要件をいずれも満たしている場合に適用されます。
- 前課税期間末までに「消費税簡易課税制度選択届出書」が提出されていること
- 基準期間における課税売上高 ≦ 5,000万円
簡易課税の適用を止めようとするときは、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しますが、選択届出書を提出すると最低2年は簡易課税を続ける必要があります。
消費税における基準期間とは、消費税の納税義務の判定の基準となる期間のことで、原則として個人事業者であれば前々年、法人であれば前々事業年度を指します。
ただし、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間においては課税事業者となります。
特定期間とは、個人の場合は前年の1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は原則、前事業年度開始の日以後6か月の期間のことをいいます。
事業によって異なる「みなし仕入率」
簡易課税の計算で用いられる「みなし仕入率」は、事業の種類によって決まっています。事業によって売上に対する仕入率に大きく変動があるためです。
2019年10月以降の消費税率(一般税率10%、軽減税率8%)は、従前のみなし仕入率に大きく影響しませんでしたが、飲食料品を生産する農業、林業、漁業のみ変更がありました。
この変更は、飲食料品を生産する農林水産業では、仕入の大半を占める種子や農薬、器具の購入などに標準税率(10%)が適用されるためです。売上税額が軽減税率の適用で消費税8%になると、仕入税額も軽減税率ベースになり、過小に算出されてしまいます。このため、みなし仕入率を見直して、農業・林業・漁業については1段階引き上げられました。(従前70%⇒改正後80%)
(※非食品を生産する農業・林業・漁業の事業者は第3種事業に分類されます。)
第1種事業 | 卸売業 | 90% |
第2種事業 | 小売業+飲食料品の譲渡に係る農業・林業・漁業 | 80% |
第3種事業 | 農業、林業、漁業、製造業、建設業、電気・ガス業、熱供給・水道業、鉱業 | 70% |
第4種事業 | 飲食店業など1~3以外の事業 | 60% |
第5種事業 | 1~3以外のサービス業、金融・保険業、運輸・通信業 | 50% |
第6種事業 | 不動産業 | 40% |
簡易課税適用時の控除額の計算
仕入控除税額とは、仕入れにかかった消費税を差し引くことです。
消費税の計算は、原則課税であれ、簡易課税であれ、
課税売上に係る消費税額 - 課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額) です。
そして、簡易課税の場合は、
仕入控除税額 = 課税標準額に対する消費税 × みなし仕入率 となります。
簡易課税の計算では、1事業種のみを営む場合、課税標準額に対する消費税額にその事業区分のみなし仕入率を乗じて消費税納付額を計算します。
複数の事業を営む場合は、対応する売上ごとにみなし仕入率を乗じて合計したものが仕入控除税額です。事業区分がない場合は、営んでいる事業のなかで一番低いみなし仕入率の業種に合わせて計算します。
では、具体的に計算式や事例をみてみましょう。
基本の場合
- 1種類の事業者だけを取り扱う場合
- 2種類以上の事業を営む事業の場合
仕入控除税額 = 課税標準額に対する消費税 × みなし仕入率(40%~90%)
原則法
仕入控除税額 = 課税標準額に対する消費税
簡便法
貸倒回収額や売上の返還がない場合等においては次の式でも可
仕入控除税額 =
特例の計算
- 2種類以上の事業を営むが、うち1種類の事業の課税売上高が75%以上を占める場合
- 3種類以上の事業を営み、うち2種類の事業の課税売上高が75%以上を占める場合
その1種類の事業のみなし仕入率を全体に適用可能
その2種類の事業のうちみなし仕入れ率の高い事業に係る課税売上高には、その高い仕入率を適用し、それ以外の課税売上高については、その2種類のうち低い方のみなし仕入率を適用
原則法の例
仕入控除税額 = 課税標準額に対する消費税
簡便法の例
貸倒回収額や売上の返還がない場合等においては次の式でも可
仕入控除税額 =
簡易課税と原則課税ではどちらがお得?
簡易課税と原則課税では、仕入控除税額の計算方法が異なるため納付する消費税額が変わってきます。簡易課税は計算が複雑でないというメリットがありますが、消費税額の差にも注目してどちらを選択するか決めると良いでしょう。
実際の消費税の計算は、実際の仕入率など会社の特色も反映されるため、どちらが良いかは断言できませんが、いくつかパターンを紹介しますので参考にしてみてください。
パターン(1)
(例)事業:第1種事業~第3種事業に該当しないサービス業
課税売上 300万円、軽減税率対象の課税売上 200万円
課税仕入 150万円、軽減税率対象の課税仕入 50万円
簡易課税
(300万円 × 10%) + (200万円 × 8%) = 46万円 …売上に係る消費税額
46万円 × 50%(第5種事業のみなし仕入率) = 23万円…仕入控除税額
46万円 – 23万円 = 23万円 …納付する消費税額
原則課税
(300万円 × 10%) + (200万円 × 8%) = 46万円 …売上に係る消費税額
(150万円 × 10%) + (50万円 × 8%) = 19万円 …仕入控除税額
46万円 – 19万円 = 27万円 …納付する消費税額
※消費税の計算はわかりやすくするため、適宜計算式を簡略化しております。
【注意】
税制改正により、2023年10月以降、適格請求書等保存方式に移行されることに伴い、免税事業者からの仕入税額控除は原則不可になります(特例により一部控除可能になりますが、免税事業者からの仕入税額控除割合は段階的に引き下げられる予定です)。これにより、2023年10月以降、免税事業者と取引のある原則課税事業者には影響がありますが、みなし仕入率を使って消費税額が確定する簡易課税事業者には影響はありません。
パターン(2)
(例)事業:第1種事業~第3種事業に該当しないサービス業
課税売上 300万円、軽減税率対象の課税売上 200万円
課税仕入 1,150万円(店舗建て替え費用1,000万円含む)、
軽減税率対象の課税仕入等 50万円
簡易課税
(300万円 × 10%) + (200万円 × 8%) = 46万円 …売上に係る消費税額
46万円 × 50%(第5種事業のみなし仕入率) = 23万円…仕入控除税額
46万円 – 23万円 = 23万円 …納付する消費税額
原則課税
(300万円 × 10%) + (200万円 × 8%) = 46万円 …売上に係る消費税額
(1,150万円 × 10%) + (50万円 × 8%) = 119万円 …仕入控除税額
46万円 – 119万円 = △73万円 …納付する消費税額
73万円消費税が還付される。
※消費税の計算はわかりやすくするため、適宜計算式を簡略化しております。
このように、設備投資などで売上に係る消費税に対し仕入控除税額が過大になる場合、本来なら還付を受けられるはずですが、実際の課税仕入を考慮せずに計算する簡易課税では還付を受けられず損をしてしまうことがあります。
簡易課税制度の届出について
「簡易課税制度選択届出書」は、原則として、提出日の属する年度の翌年度以降に効力が発生します。また、簡易課税をやめる場合には、やめようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。
新規開業した事業者等については、その開業した課税期間の末日までに届出書を提出すれば、開業した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。
しかしながら、令和元年の軽減税率導入、令和2年の新型コロナウィルス感染症の影響により、臨時的に届出書の扱いは経過措置として次のとおりとなっています。
- 令和元年10月1日から令和2年9月30日までの日の属する課税期間において、課税仕入れ等の税率ごとの区分が困難な事業者は、簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の末日までにこの届出書を提出すれば、届出書を提出した課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができる。
- 新型コロナウイルス感染症の影響による被害を受けたことにより、簡易課税制度の適用を受ける(又はやめる)必要が生じた場合、税務署長の承認により、その被害を受けた課税期間から、その適用を受ける(又はやめる)ことができる。
簡易課税制度の賢い利用のすすめ
中小企業者の事務的な負担を考慮する消費税の簡易課税制度は、1989年にわが国に消費税が創設されて以来、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税を免税するという事業者免税点制度とともに特例措置として継続してきました。
実際には、納税事務の負担だけでなく、場合によって納付する税負担も軽減する簡易課税制度を賢く利用することで節税に結びつけましょう。
【参考】
国税庁:適格請求書等保存方式導入パンフレット
国税庁:No.6505 簡易課税制度
国税庁:軽減税率制度実施に伴う簡易課税制度適用について
国税庁:新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者の方へ 消費税の課税選択の変更に係る特例について

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よくある質問
簡易課税制度とは?
仕入額を売上額の一定割合とみなして、受取った消費税から控除できる特例制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
簡易課税適用時の控除額の計算は?
簡易課税の場合は「仕入控除税額 = 課税標準額に対する消費税 × みなし仕入率」となります。具体的な計算式や事例はこちらをご覧ください。
簡易課税と原則課税ではどちらがお得?
実際の消費税計算は仕入率など会社の特色も反映されるため、どちらがお得かは場合によって異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
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