- 更新日 : 2024年8月8日
投資その他の資産とは?会計処理や分析と評価時のポイントを解説
「投資その他の資産」とは、固定資産のうち有形・無形固定資産に含まれないものを意味します。具体例としては、子会社株式や投資有価証券、長期前払費用などの勘定科目が挙げられます。
本記事では、「投資その他の資産」の意味や会計処理について解説します。また、投資その他の資産の分析にあたっての注意点もお伝えします。
目次
投資その他の資産とは
はじめに、「投資その他の資産」の意味や有形・無形固定資産との違いを解説します。
投資その他の資産とは
投資その他の資産とは、有形固定資産と無形固定資産に含まれない固定資産の総称です。
大前提として、貸借対照表の左側には「資産」、右側には「負債および純資産」が記載されます。
資産は、大きく「流動資産」、「固定資産」、「繰延資産」の3種類に分けられます。そして、固定資産(長期間にわたって企業活動に使用される資産)の一部に、「投資その他の資産」があります。
なお、投資その他の資産は、英語で”Investments and other assets”と表記されます。
有形固定資産や無形固定資産との違い
投資その他の資産を理解するには、有形・無形固定資産との違いを理解することが不可欠です。
有形固定資産とは、固定資産のうち、形(実体)があるものの総称です。
例えば、機械装置や建物、土地、車両運搬具などが該当します。ちなみに有形固定資産のうち、使用によって資産価値が徐々に減少する資産は「減価償却資産」と呼ばれます。
一方で無形固定資産とは、形(実体)がない固定資産の総称です。
営業権(のれん)や法律上の権利(借地権など)、ソフトウェアなどが無形固定資産に該当します。
有形固定資産と同様に、資産価値が減少するものに関しては減価償却が必要となります。
投資その他の資産の構成項目と例
投資その他の資産は、「他企業への資本参加を目的とした投資」、「長期資産運用を目的とした投資」、「その他の長期資産」の3種類に大別されます。
この章では、各構成項目の概要と具体的な勘定科目の例を紹介します。
他企業への資本参加を目的とした投資
「他企業への資本参加」とは、株式取得に伴う資本の拠出を通じて、他社との関係性を強化する行為です。この行為を通じて計上された勘定科目は、主に以下の構成項目に含まれます。
- 子会社株式
- 関係会社株式
- 関連会社株式
- 子会社出資金
- 子会社長期貸付金
主に、M&Aや資本提携などの際に計上される勘定科目が該当します。
長期資産運用を目的とした投資
長期的に会社の余剰資金を運用するための投資を意味します。この投資を通じて計上された勘定科目は、主に以下の構成項目に含まれます。
- 投資有価証券
- 投資不動産
- 投資仮想通貨
- 長期貸付金
有価証券や不動産などに対し、法人として投資した場合に計上されるものだと認識しておきましょう。
その他の長期資産
その他の長期資産には、他に適切な区分がない勘定科目が該当します。具体的な構成項目は以下のとおりです。
- 長期前払費用
- 保険積立金
- 差入保証金
- 破産債権
- 更生債権
- 貸倒引当金
その他の括りとされているものの、日々の業務で頻繁に目にする科目(長期前払費用など)から、あまり見かけない科目(破産債権など)などさまざまです。
投資その他の資産の会計処理
投資その他の資産の会計処理は、他の資産や負債と同様、会計のルールに則って行う必要があります。
この章では、投資その他の資産に関する仕訳や、財務諸表への影響を解説します。
勘定科目の仕訳
全ての勘定科目の仕訳を紹介すると膨大な量となるので、今回は「長期貸付金」と「子会社株式」を例に、原則的な仕訳を紹介します。
例1:長期貸付金
例えば、3年後を返済期限として、現金200万円を他社に貸し付ける場合、借方に長期貸付金(資産の増加)、貸方に現金(資産の減少)を記帳します。
借方 | 貸方 |
長期貸付金 2,000,000 | 現金 2,000,000 |
そして、期限が到来した際に200万円が返済された場合、以下のとおり反対の仕訳を実施します。
借方 | 貸方 |
現金 2,000,000 | 長期貸付金 2,000,000 |
例2:子会社株式
例えば、普通預金500万円の拠出により子会社株式を取得した場合には、借方に子会社株式(資産の増加)、貸方に普通預金(資産の減少)を記帳します。
借方 | 貸方 |
子会社株式 5,000,000 | 普通預金 5,000,000 |
後日、取得した子会社株式の全てを売却し、50万円の利益が出た場合の仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 |
普通預金5,500,000 | 子会社株式 5,000,000 子会社株式売却益 500,000 |
手放した子会社株式(資産の減少)だけでなく、売却益(収益の発生)も貸方に記録し、その合計額を借方に計上する点が特徴です。
投資その他の資産の増減が財務諸表に与える影響
財務諸表に与える影響について、有形・無形固定資産や負債などとの違いはありません。仕訳の変動は財務諸表に反映されます。
例えば、前述の長期貸付金を例にすると、各勘定科目の増減は生じているものの、資産全体に変動はありません。
一方で子会社株式を例にすると、売却時に発生した利益の分だけ、貸借対照表の「資産」および損益計算書の「収益」が増加します(取得時との単純比較)。
影響はケースバイケースですので、状況に応じて仕訳や財務諸表の作成を適切に行うことが重要です。
投資その他の資産の分析と評価
M&Aや他社への投資に際しては、「投資その他の資産」の中身を分析・評価することも一般的です。
そこで、この章では分析および評価の際に注意すべき点を2つ紹介します。
帳簿価額と実質的な価値に差額が生じているケースが多い
前述のとおり、投資その他の資産は、長期(1年超〜)保有が前提のものが多いです。そのため、帳簿価額と実質的な価値(≒時価)に大きな差額が生じやすい傾向があります。
例えば、投資有価証券の場合、時価評価がされていなかったり、時価評価されているものの、実態とかけ離れていたりする可能性があります。
また、バブルの時期に取得したリゾート施設の会員権は、帳簿価額と売買が成立する価格に大幅な差ができているケースも少なくありません。
評価の際には「回収可能性」を精査することが重要
以上のとおり、帳簿価額と実質的な価値に違いが生じているケースが多いため、評価時には「回収可能性」を精査することが重要です。
売却時に帳簿価額(≒取得価額)を全額回収できる前提で投資やM&Aを行うと、後からごく一部しか回収できないことが発覚する恐れがあります。
こうした事態を回避するためにも、財務情報の確認だけでなく、1つひとつの資産を個別に評価することが重要です。ただし、全ての資産を個別評価することにはコストや労力がかかるため、影響度合いの高い資産を見極めることがおすすめです。
まとめ
投資その他の資産の意味や構成項目を知っておくと、対象企業における財務の実態をより正確に把握できるようになります。つまり、「どのくらい重要な資産を持っているのか」、「回収可能性が低い資産をどの程度持っているか(リスクが大きいか)」が分析でき、投資やM&Aのリスク軽減にもつながるのです。
また、基本的な知識を把握しておくだけでも、日々の会計処理をスムーズに行えるようになるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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