• 更新日 : 2021年9月10日

環境会計とは?どんな企業が導入しているの?

環境会計とは?どんな企業が導入しているの?

環境に配慮した経営が国際的な注目を集めるなか、環境会計の導入を推進する動きがあります。
環境会計を導入することで、将来の経営コストの削減や企業のブランドイメージ力の向上が見込めるかもしれません。
当記事では環境会計や環境会計ガイドラインの概要、環境会計を導入した企業の事例を解説します。

環境会計とは

環境会計とは企業が実施した環境保全にかかった費用や削減効果などを、具体的に数値化して会計を行うことです。

環境会計の定義について

環境会計とは企業が取り組んでいる「環境保全活動に関する費用と効果」を数値化(定量化)することで、その環境保全の取り組みを評価する会計手法のことです。

環境会計とは、企業等が、持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ、環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位又は物量単位)に測定し伝達する仕組みです。
(引用:環境省|環境会計

たとえば、企業が実施した「CO2(二酸化炭素)の削減」についての環境会計だと、「どれくらいのコストがかかったのか」「どれくらい削減できたか」を金額やkgで表します。

環境省が定めている「環境会計ガイドライン」では、「環境保全コスト」「環境保全効果」「環境保全対策に伴う経済効果」の3つを、盛り込むべき情報として定義しています。

記載方法の具体例は次のとおりです。
<環境保全コスト>

分類取組内容2019年2020年
公害防止コスト二酸化炭素削減13,000,000円16,000,000円
地球環境保全コスト省エネ機器設備導入152,000,000円21,000,000円

<環境保全効果>
分類単位2019年2020年
電気使用量千kWh130,000120,000
都市ガス使用量千㎥1,2001,100

<環境保全対策に伴う経済効果>
内容2019年2020年前年度比増減
省エネによるエネルギー費削減額30,000,000円24,000,000円△6,000,000円

上記のほか、環境会計の基本となる重要な事項や、集計結果に対する説明なども記載事項です。

このようにさまざまな環境への取り組みやコスト、経済効果を数値で表すため、環境保全活動に関する対費用効果を正確に評価できます。株主や一般消費者などのステークホルダーにとっても、「企業がどれくらい環境への配慮を行っているのか」がひと目で判断可能になります。

環境会計で計算する数値は、経営に直接かかわる利益や費用ではありません自然や周辺地域への投資や支出についての会計を行うのが特徴です。

ちなみに、環境会計と似た会計に「自然資本会計」があります。こちらは自然環境を「企業の経営を支える資本」として捉え、企業活動への影響や依存度を把握して評価するツールです。

どちらも環境や自然を保護するという共通点がありますが、自然資本会計は企業が使用した自然環境をすべて金額に換算して評価をするという点が異なります。

環境会計の外部機能

環境会計の機能と役割
【引用】環境省|環境会計

企業が環境保全に取り組んだ結果を外部へ開示することで、企業外にいる利害関係者の意思決定に影響を与えるという機能を、環境会計の外部機能と呼びます。

外部機能に関係する企業外の利害関係者とは次のとおりです。

  • 消費者
  • 取引先
  • 投資家
  • 地域住民
  • 行政
  • NGO など

外部機能では、上記のステークホルダーへ環境会計に関係するさまざまな情報を開示します。具体的な開示内容を見ていきましょう。

  • 環境会計情報
  • 環境保全に対する姿勢
  • 具体的に取り組んでいる環境保全活動

こうした情報を外部へ発信することで、外部の利害関係者への説明責任を果たせます。また「この企業は営業活動のほかに環境のことも考えている」という外部の判断から、環境に配慮した事業活動への適切な評価にもつながります。

外部への環境会計の結果報告は、企業が環境報告書を作成後、企業の公式ホームページもしくは印刷された冊子で公開するのが一般的です(公開していない企業もあり)。

環境会計の内部機能

環境保全のコスト管理やコスト効果の分析を通じた適切な経営判断によって、効率的かつ効果的な環境保全への取り組みを促す機能を、環境会計の内部機能と呼びます。環境会計の内部機能によって数値化されたコストや対費用効果は、次の分析に使うことが可能です。

  • より効率的かつ効果的な環境保全対策への改善
  • 環境保全が与える影響の具体的な理解
  • 経営者や関係部門の経営管理ツールとしての活用

外部機能が企業外への影響に関係するのであれば、内部機能は企業内へ影響を与えます。

環境会計を導入するメリット・将来性

環境会計を導入することで次のメリットがあります。

  • 消費電力や消費ロスなどの削減は長期的なコストカットにつながる
  • 正確な環境コスト把握による商品の適正価格や経営上のリスクマネジメント分析に活用できる
  • 社会全体の環境保全活動の促進に寄与する
  • 企業ブランドの向上が見込める

環境会計は、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」であるSDGs(エスディージーズ)や、「環境・社会・ガバナンス」を表すESG(イーエスジー)ならびESG投資にもかかわる手法です。

すでにトヨタ自動車やキリングループなど大手も導入している事実があります。「環境会計に取り組んでいる」という姿勢は、消費者ならび投資家へのアピールになるでしょう。

環境会計ガイドラインとは

環境会計の手法は、環境省が作成・公開する「環境会計ガイドライン」に基づいています。

環境会計ガイドラインの概要

環境会計ガイドラインとは、環境会計を実施する上で必要となる事項を盛り込んだ指標です。環境会計ガイドラインの目的は、「環境会計の導入・実践を支援すること」「ガイドラインを活用して環境会計の手法がより効果的になること」と定義されています。

外部公表については、本ガイドラインに沿って作成された環境会計情報ができるだ
け比較可能なものとなるように、多様な利害関係者のニーズにも配慮して、情報開示
に当たっての留意点を可能な限り示しています。また、より精緻な内容についても必
要に応じてより詳細に把握する考え方を示し、企業等の内部活用にも役立つよう配慮
しています。
企業等が本ガイドラインを活用して、環境会計情報を整理することにより、外部公
表に限らず、内部管理上も環境マネジメント目的に沿ったデータ把握が進み、環境会
計手法の有効性が一層高まることを目指しています。
(引用:環境省|環境会計ガイドライン2005年版

実際に多くの企業は、この環境ガイドラインに従って環境会計を行い、消費者や投資家などのステークホルダーへ公開しています。このガイドラインに法的拘束力はありませんが、前述のSDGsやESGを重視する流れや、社会全体の環境配慮への意識向上などから、企業の環境保全活動に注目する気運が高まっています

ガイドラインに沿った環境報告書を作成する企業も、ガイドライン公開時よりも増えてきました。環境会計ガイドライン2005年版への改定時には、改定検討委員名簿にトヨタ自動車やキヤノン、大林組などの大手企業の担当者がかかわっている事実があります。

ちなみに、この環境会計ガイドラインは環境会計の導入・支援に特化したものです。環境保全活動の全体的な報告については、環境報告ガイドラインという指標が別で存在しています。

環境会計ガイドラインの最新版は2005年版

環境会計ガイドラインは2002年に公表されたのち、改定された2005年版が最新のものです。非上場企業などを含めた環境会計の導入状況や、国内外での調査・研究結果、最新の実務上の運用動向を反映させ、1度改定がなされました。

さらに2018年に環境省が公開した「環境報告ガイドライン及び環境会計ガイドライン改定に向けた論点整理」によると、次のような改定を目指していくと記載されています。

  • 中規模企業を含めた幅広い事業者が利用できるようコンパクトな内容を目指す
  • すべてのステークホルダーの情報ニーズに答えられるガイドラインにする
  • SDGsやESGに関心をもつ投資家の視点へはとくに配慮を行う
  • マテリアルバランス全体ではなく事業者が対応すべき重要な環境問題についての報告を求めるようになる など

実際に2018年に改定された環境報告ガイドラインには、2005年版の環境会計ガイドラインの「環境保全のためのコスト等を貨幣単位で定量的に認識・測定・伝達する」といった考えが盛り込まれました。今後も国内外の情勢を考慮しながら、さまざまな改定が行われると予想されます。

環境会計の導入企業例

環境会計は上場した大企業を中心に、さまざまな事業者が導入しています。

環境会計を導入した企業の傾向

環境省が2019年に公開した「令和元年度 環境にやさしい企業行動調査」では、環境会計の導入や環境に配慮した経営にかかわる、さまざまなデータを公表しています。以下より、環境会計導入および環境配慮経営に関係あるデータを見ていきましょう(数値は公表時点)。

  • 調査に回答した1,215社中、環境会計を導入しているのは19.6%
  • 環境会計における、上場企業の導入状況は44.3%であるのに対し、非上場企業の導入状況は10.5%に留まる
  • 環境配慮経営は「企業の社会的責任の一つである」と位置づけている企業が58.2%
  • 環境配慮経営は「重要なビジネス戦略である」としている企業が19.8%
  • 環境配慮経営では「ステークホルダーへの対応が重要」としている企業が55.9%

上記の結果から、環境会計および環境配慮経営が重要と捉える大企業は増えているものの、中規模以下の企業へはまだ浸透しきっていない状態といえます。

また、事業エリア内の問題として、「廃棄物の適正処理・リサイクル」「資源・エネルギーの効率的な利用」を挙げる企業が多い傾向が見られました。

環境会計を導入した企業の例1.トヨタ自動車

日本最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車は、2005年度版の環境会計ガイドライン改定にもかかわるなど、以前から環境会計に取り組んでいました

トヨタ地球環境憲章」を掲げ、「トヨタ環境チャレンジ2050」をはじめとする環境保全活動を進めています。具体的に、トヨタ環境チャレンジ2050の取り組みを見ていきましょう。

  • グローバル新車平均CO2排出量90%削減(2010年比)
  • グローバル向上CO2排出ゼロ
  • 各国の地域事情に応じた水使用量の最小化・排水管理
  • 適正処理やリサイクル技術・システムのグローバル展開 など

実際に環境会計の数値を見ると、電力や油使用量減少、都市・天然ガスやその他の使用量は横ばいの傾向です。

生産台数あたりの水の使用量の合計も、少しずつ減少しています(局地的に増加している数値はあり)。

大々的に環境保全を打ち出したり、活動に対する一定の成果が見られたりなど、トヨタ自動車の意欲的な姿勢が見られました。

【参考】トヨタ自動車株式会社

環境会計を導入した企業の例2.キリングループ

日本の飲料企業最大手のキリングループも、環境会計を導入しています。「キリングループ環境ビジョン2050」を掲げ、生物資源・水資源・容器包装・気候変動の4つを重要課題として設定しています。

  • 持続可能な原料農産物の育種・展開・調達
  • 水使用量の削減や水災害時のリスク軽減、水源の森活動、水源地保全活動
  • 持続可能な容器包装の開発・普及やリサイクルシステムの構築
  • バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量のネットゼロ など

キリングループは上記の取り組みを通じ、社会全体や次世代によい影響を与える環境保全を目的にしています。

環境会計の数値を見てみると、過去5年間で水資源の利用量を約12,000千㎥削減していたり、包装容器の資源使用量を約200千t減らしていたりなどの成果が見られました。

エネルギー使用量も減少傾向です。

【参考】キリンホールディングス

環境会計を導入した企業の例3:森永製菓

有名製菓メーカーである森永製菓は、「食を通じた社会課題の解決と持続可能な社会の実現」に向けて活動しています。

  • 環境に配慮したFSC認証紙の使用
  • カカオ農家への研修や支援
  • 工場部門のCO2を2020年度末で2005年度比15%削減
  • 工場部門の廃棄物排出量を2020年度末で2005年度比25%削減 など

数値を見ると2017年度から2019年度にかけて、国内グループの原料使用量と材料使用量の減少が見られました。

廃棄物排出量も過去2年間で約300t削減しています。

リサイクル率も99.97%と非常に高い数値です。

ただし、環境会計では環境保全効果として、CO2排出量・水使用量・廃棄物排出量の数値が前年度より上昇していました。

【参考】森永製菓株式会社

環境会計にも目を通してみよう

環境会計は「企業がどれくらい環境活動に貢献しているか」を数値化し公表することです。すぐに利益にはつながらないものの、長期的なコスト削減や企業のブランドイメージ向上が見込めます。

世界中から環境保全活動への注目度が高まる中、投資家や地域住民にとっても「この会社はよい会社なのかどうか」を判断する材料にも使われ始めました。今後は通常の財務諸表だけでなく、環境会計にも目を通してはいかがでしょうか。

よくある質問

環境会計とは?

企業が取り組んでいる「環境保全活動に関する費用と効果」を数値化(定量化)することで、その環境保全の取り組みを評価する会計手法のことです。詳しくはこちらをご覧ください。

環境会計ガイドラインとは?

環境会計を実施する上で必要となる事項を盛り込んだ指標です。詳しくはこちらをご覧ください。

環境会計の導入企業例は?

トヨタ自動車、キリングループ、森永製菓などの事例があります。詳しくはこちらをご覧ください。


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