• 更新日 : 2021年9月6日

約束手形の仕組みとは?小切手との違いやメリット、仕訳方法

約束手形の仕組みとは?小切手との違いやメリット、仕訳方法

会社を経営していると「約束手形」「不渡手形」「裏書手形」「為替手形」「受取手形」「支払手形」など、『手形』というキーワードが付く取引を目にすることが多いのではないでしょうか。今回は『約束手形』の基本的な仕組みや小切手との違い、約束手形に関わる仕訳処理を中心に、手形取引の重要性について解説していきます。

約束手形とは?

まずは約束手形の意味とその取引の仕組みから解説していきます。

『約束手形』とは、商取引における代金決済方法の一つです。将来の一定期日に代金を支払うことを約束した有価証券であり、代金を支払う側(振出人)が代金を受け取る側(受取人)に約束手形を発行することで代金決済が完了します。

受取人は指定された期日になったら金融機関に手形を取り立てに出し、現金に換金することができます。

また『約束手形』は裏側に名前と押印をすることで、受取人の取引先である第三者(指図人)に対する代金決済に使うことも出来ます。これを『裏書』と呼びます。

しかし、受取人や指図人が一定期日に金融機関に取り立てに出しても、振出人の口座に残高がなければ現金化してくれません。これを『不渡り』といいます。

『約束手形』と類似するものに『為替手形』がありますが、『約束手形』が振出人と受取人の2者で完結するのに対し、『為替手形』は振出人と名宛人、指図人の3者が必ず存在することが大きな違いです。

約束手形の仕組み

約束手形は誰でも発行できるわけではありません。まずは取引のある金融機関で『当座預金』を開設するところから始めます。

『当座預金』とは小切手や約束手形の入金や引き落とし業務を金融機関に代行してもらうための専用預金口座です。当座預金を開設するにあたって金融機関と『当座勘定契約』を結ぶ必要がありますが、信用がなければ契約ができません。

つまり約束手形を発行するためには、金融機関に対する信用が必須です。

『当座勘定契約』に基づき金融機関から発行を受けた『約束手形』に必要事項を記載・押印をすることで、代金決済の手段として使用することができます。

約束手形の考え方

小切手が代金決済の事務的負担を省くことを目的に発行します。これに対し、約束手形は決済日を先に延ばすことで資金調達の猶予期間を設けることを目的としています。そのため、約束手形は決済日(取り立てに出せる日)を指定して発行します。

小切手は受け取ってしまえば、いつどのタイミングで金融機関に取り立てに出しても直ぐに現金化できます。
しかし、約束手形は決済日が指定されており、決済日が到来するまで現金化できません。

例:仕入代金の代金決済が翌月、約束手形の決済日が4ヶ月後の場合

 仕入れ → 1ヶ月 → 代金決済 (小切手振出) → 即取り立て
 仕入れ → 1ヶ月 → 代金決済(約束手形振出) → 4ヶ月 → 取り立て

約束手形であれば、実際に口座から引き落としがかかるまで4ヶ月の猶予を得ることができます。振出人は4ヶ月の間に引き落としに必要な資金を調達すればよいわけです。

ちなみに小切手にも取り立て日を指定する『先日付小切手』というものがありますが、指定した取り立て日は言ってしまえば『単なる口約束』に過ぎません。「小切手の受取人が取り立て日より前に金融機関に出してしまえば簡単に現金化することができる」という点で約束手形とは大きく異なります。

手形サイト

手形の振出日から支払期日までの期間を「手形サイト」といいます。通常は1ヶ月から120日以内(もしくは4ヶ月以内)のものが多く、30日、60日、90日、120日と1ヶ月単位を目安にすることが一般的です。なお、下請法では下請事業者に対し割引困難な手形を振り出すことを禁止しており、サイトの基準は120日以内(繊維業は90日以内)となっています。将来的にはさらに60日以内まで短縮するよう努力規定が示されています。

裏書譲渡

『約束手形』は、先にも述べたとおり受取人が裏面に自身の名前と押印をすれば、第三者である受取人の取引先との代金決済に使用できます。これを『裏書譲渡』と呼びます。

裏書譲渡を受けた第三者は、自身の名前と押印を裏書することでさらに次の第三者に裏書譲渡することが可能です。つまり結果として約束手形は決済日が到来するまでの間、多くの企業間を転々とする…ということもあり得ます。

もし裏書譲渡した約束手形が『不渡り』になった場合、約束手形を買い戻す必要がありますが、最後に裏書した者から順に買い戻していき、最終的には手形が決済できなかった振出人が買い戻すことになります。

手形の売却(割引)

『約束手形』の受取人や指図人が、資金繰り等の都合により決済日前に手形を現金化したいといった場合、金融機関に約束手形を売却することができます。これを『手形の売却(割引)』と呼びます。

『約束手形』の振出人が持つ信用力や売却日から決済日までの期間等に応じて、手形の額面金額から『割引料』が差引かれ、残金が現金化されます。

約束手形のメリット・デメリット

約束手形のメリット

振出人からみた『約束手形』最大のメリットとして挙げられるのが『資金調達期間の猶予』です。

例えば建設業者のように工事の完成引き渡し後に工事代金が入金されるような業種では、着工から入金までのサイトが6ヶ月、1年といったように長くなるケースがあります。

それに対して支払のサイトは工期とは関係なく、取引条件どおり翌月払、翌々月払等ですので結果として入金サイトより支払サイトのほうが短くなるのが一般的です。

建設業者は入金となるまでの間、支払いが先行してしまい、不足する資金は手持ちから融通することになります。

ここで約束手形を振り出し、実際に引き落としがかかる日を先送りしてしまえば、手形サイトの期間分だけ手持ち資金の持ち出しを軽減することができるわけです。

約束手形のデメリット

振出人からみた『約束手形』のデメリットとして一番に挙げられるのが『不渡り』です。
手形の決済日に、振出人の当座預金口座に額面以上の残高がなければ約束手形は落ちません。
これが『不渡り』です。万が一、不渡りを出しても1度目は大丈夫ですが半年以内に2度目の不渡りを出した時点で信用が無くなり『銀行取引が停止』となります。

必ずしも『2度目の不渡り→銀行取引停止→倒産』とはなりませんが、口座取引ができなくなるので以降の代金決済は全て現金取引となりますし、不渡りを出したという情報が世間に出回れば得意先や仕入先も取引を停止する可能性があります。

最終的には商売が立ち行かなくなって倒産するというシナリオも充分考えられるでしょう。

また、約束手形の受取人にも不渡りはデメリットがあります。約束手形には必ず決済日が記載されていますが『決済日を含めた3営業日以内』に換金しなければ手形の効力を失います。
うっかり約束手形の取り立てを失念してしまい、手形の現金化が出できないまま運転資金がショートしてしまう…といったリスクを常に抱えることとなります。

約束手形の仕訳

約束手形に関する仕訳処理を振出人、受取人それぞれの立場から例示してみます。

例:仕入代金500,000円を約束手形で決済した

約束手形を振出したとき(支払手形)

   
振出人からみれば約束手形は支払の手形ですので勘定科目は支払手形となります。

借方
貸方
買掛金
500,000円
支払手形
500,000円

約束手形を受け取ったとき(受取手形)

受取人からみれば約束手形は受取の手形ですので勘定科目は受取手形となります。

借方
貸方
受取手形
500,000円
売掛金
500,000円

約束手形が不渡になったとき(不渡手形)

約束手形の満期日になり、銀行に取り立て依頼を出したところ手形が不渡りとなった場合以下のようになります。

受取人

借方
貸方
不渡手形
501,000円
受取手形
500,000円
現金
1,000円
普通預金
501,000円
不渡手形
501,000円

振出人

借方
貸方
支払手形
500,000円
現金
501,000円
雑費
1,000円

  

約束手形を裏書譲渡するとき

簿記の処理方法として次の2つの方法があります。

直接法

借方
貸方
現金
500,000円
受取手形
500,000円

間接法

借方
貸方
現金
500,000円
裏書手形
500,000円

約束手形の仕組みを正しく理解して経営に活かそう

約束手形は仕組みや、その裏に潜むリスクをしっかりと熟知していれば会社経営、特に資金繰りに大きなメリットを生み出します。まずは基礎的な部分から正しく理解し、経営に役立てていきましょう。

よくある質問

約束手形とは?

商取引における代金決済方法の一つで、将来の一定期日に代金を支払うことを約束した有価証券です。詳しくはこちらをご覧ください。

約束手形のメリットは?

実際に引き落としがかかる日を先送りしてしまえば、手形サイトの期間分だけ手持ち資金の持ち出しを軽減することができ、資金調達期間の猶予を得られる点です。詳しくはこちらをご覧ください。

約束手形のデメリットは?

手形の決済日に振出人の当座預金口座に額面以上の残高がなければ約束手形は落ちず、この不渡りを繰り返すと信用が無くなり銀行取引が停止となってしまう点です。詳しくはこちらをご覧ください。


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