- 更新日 : 2024年8月8日
退職金の勘定科目・仕訳は?損金算入はできる?具体例をもとに解説!
退職金とは、従業員や会社役員の退職にともない支払われる金銭のことです。退職時、または退職後に、勤続年数や役職に応じて支払われるもので、給与や賞与とは異なる性格をもつことから、給与や賞与と分けて会計処理を行います。
この記事では、会社が従業員や会社役員に退職金を支払うときの勘定科目と仕訳例、税務上の取り扱いのほか、個人事業主が退職金を用意する方法を解説していきます。
目次
退職金の勘定科目は?
退職金とは、会社役員の退任・従業員の退職にともない退任・退職までに行われた勤務の対価として支払われる金銭のことです。退職時に会社が一括で支給する退職一時金と、一定期間にわたって分割で支払われる退職年金があります。
退職年金は、会社が特定の外部機関に継続して拠出し、退職後はその機関が会社に代わって年金を支給する、確定給付型企業年金や確定拠出年金(企業型DCなど)が代表的です。
今回は、退職金の中でも、会社が従業員や役員に直接支給する退職一時金の会計処理について取り上げていきます。
従業員への退職金
会社が従業員に退職金を支給する際の仕訳は、積立の有無によって異なります。退職金に備えた積立を行わず、従業員の退職時に一括で計上する場合は「退職金」の勘定科目を使用します。また、退職給付会計により引当金を計上している場合には「退職給付引当金」の勘定科目を使用した仕訳を行います。
従業員に支給する退職金については、労働の対価であるため、勤続年数にともない退職金も増加するものと考えます。そのため、一定の計算によって給付額が確定する退職金は、毎期、従業員一人ひとりのその時点での退職金支給見込額を見積もって、現在価値に直したものを費用として少しずつ計上するのが適切です。
後述する退職給付引当金は、このような会計上の考えから設定するものですが、小規模企業では経理負担が重くなってしまうため、実務においては退職時に一括して費用とする会計処理も行われています。
役員への退職金
役員に支給する退職金は、「役員退職金(役員退職慰労金)」の勘定科目を使って仕訳をします。役員の退職金は、従業員とは異なり、会社への貢献度を反映して計算するため、退職給付会計の対象にはなりません。
役員の退職に備えて引当金を設定するときは、「役員退職慰労引当金」などの勘定科目を用いて、支給時には引当金を減額する会計処理を行います。
役員の退職金の支給手続きや計算方法は、以下の記事をご覧ください。
退職金の仕訳例
従業員、または役員に退職金を支払ったときは、それぞれ以下のように仕訳を行います。
従業員に退職金を支払う場合
退職給付会計により引当金を設定しているときは、「退職給付引当金」を借方に、以下のような仕訳をします。退職給付会計では、毎期、従業員の退職金の見積額の現在価値のうち、前期までに引当金に計上した額を控除した額が費用計上され、退職給付引当金として積み立てられているためです。そのため、退職金支払時には、退職給付引当金を取り崩す仕訳を行います。
退職給付引当金の設定がないときは、以下のような仕訳を行います。
役員に退職金を支払う場合
役員に退職金を支給したときは、以下のような仕訳を行います。
役員退職慰労引当金を計上しているときは、借方を役員退職慰労引当金に、株主総会で決議後すぐに支給しないときは、貸方を未払役員退職金などとして仕訳をします。
退職金は損金算入できる?
退職金は法人税法上損金算入できるのか、従業員の退職金と役員の退職金、それぞれの扱いについて解説します。
従業員の退職金
会社従業員に支払った退職金は、法人税法の計算上、損金の額に算入できます。ただし、従業員が特殊関係使用人(役員の親族や婚姻関係のある者、役員から生計を支援されている者、など)に該当する場合で、不相応に過大と認められる退職金があれば、過大に支給された部分は損金に算入できません。
また、会社従業員の退職金の損金算入は、法人税法上の債務確定の時期に合わせて認識されます。債務確定要件を満たさない場合は税務上の損金にできませんし、満たしていた場合は、支給前であっても未払金に計上して損金にできます。
法人税法基本通達2-2-12における「債務の確定の判定」に退職金を当てはめる場合、以下の時期における損金算入ができます。
- 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。 → 退職日
- 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。 → 退職金支給日
- 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。 → 就業規則に明記されている支給日
例として、7月決算の会社における退職者への退職金の損金算入のケースをみてみましょう。
- 7月25日の時点で退職金額が確定しているため、今期に損金算入可能
- 8月25日に退職金を支給したため、来期に損金参入可能
- 7月末の時点で退職の事実が発生しておらず、8月25日の退職が確定していないため、支給額が退職金として扱われない
- 退職が8月25日に確定した時点で支給額が退職金として扱われるため、来期の損金算入が可能となる
なお、退職給付引当金計上のために費用に計上した退職給付引当金繰入額の損金算入は認められません。法人税法上は、退職金支給時に支給額を損金算入します。
役員の退職金
役員退職金は、在任期間や報酬額、規定の功績倍率などによる計算に基づき、同業種で同じくらいの規模の役員の支給状況と比べて適正であれば、支給する額の損金算入が認められます。
注意したいのは、役員の退職金の損金算入の時期です。従業員は債務確定要件を満たしたときに損金を認識しますが、役員退職金は、原則、株主総会の決議などで支給額が具体的に確定した日の属する事業年度に損金算入します。
なお、上記の原則的な損金算入以外にも支給時に損金算入することも認められていますが、取締役会で支給額が内定し、未払金に計上した段階では損金算入できない点に注意しましょう。
退職金の見積額を計上する退職給付引当金とは?
退職給付は、確定拠出制度と確定給付制度の2つに分けられます。
確定拠出制度は、事業主が退職金として掛金を外部の機関に積み立てる制度で、事業主が掛金以外の拠出義務を負わないものです。確定拠出年金(企業DCなど)、中小企業退職金共済制度、などがこれに該当します。
確定給付制度は、確定拠出制度以外の退職給付のことで、退職給付引当金は、この確定給付制度の会計処理に関係してくるものです。確定給付制度には、確定給付企業年金や退職一時金などが含まれます。このような制度は、毎期末の時点で、将来退職金として支出する金額の現在価値を合理的に見積もれるため、発生主義により退職給付引当金を計上します。
退職給付引当金の詳しい説明や計算方法は、以下の記事をご覧ください。
個人事業主が退職金を用意する方法は?
個人事業主は、法人の役員とは異なり、給与がなく、売上と必要経費の差額が自身の所得となってしまうため、独自に退職金として積み立てたとしても、給与と同様に必要経費にできません。
その代わりに、個人事業主が退職金を準備できるようにした制度が設けられています。代表的なものが小規模企業共済制度です。毎月最大7万円までを掛金として積み立てられる制度で、その年に掛金として積み立てた全額を所得控除できます。
ほかにも特定退職金共済、企業DCの個人版である個人型確定拠出年金(iDeCo)、従業員や家族従事者の退職金を準備できる中小企業退職金共済制度などがあります。
個人事業主の退職金制度については、以下の記事もご覧ください。
退職金は場合によって勘定科目・仕訳が異なる!
退職金の支払いは、従業員と役員、どちらに支給するかで使用する勘定科目や仕訳が変わります。また、この記事では退職一時金を支給した場合について説明しましたが、会社が直接支給するのではなく、退職給付年金など外部に拠出したような場合は取り扱いが変わってきます。まずは、会社が退職金を直接支給する基本的なケースを理解しておきましょう。
よくある質問
従業員に退職金を払ったときの勘定科目は?
従業員に退職金を支給したときは「退職金」、引当金を設定しているときは「退職給付引当金」の勘定科目で仕訳をします。詳しくはこちらをご覧ください。
役員に退職金を払ったときの勘定科目は?
役員に退職金を支給したときは「役員退職金(役員退職慰労金)」、引当金を設定しているときは「役員退職慰労引当金」などの勘定科目で仕訳をします。詳しくはこちらをご覧ください。
退職金は損金算入できる?
従業員の退職金(特殊関係使用人のうち過大に支給された部分は除く)と役員に支給される退職金のうち適正な額については損金算入できます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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