- 作成日 : 2024年7月26日
売掛金残高とは?差額の原因や処理方法を解説(管理表のテンプレート付き)
会社が商品やサービスを取引先に提供する際には、掛け取引とすることが一般的です。しかし、売掛金残高に差額が生じたり、回収した代金との間に不一致が起こったりすることがあります。
この記事では、売掛金残高の意味について明確にしたうえで、売掛金残高に差額が生じる要因や対処方法、管理方法をテンプレート等を用いながらご紹介します。
目次
売掛金残高とは?
売掛金残高とは、代金が回収されないまま残っている売掛金のことです。取引先に掛売りをする際、売上を貸方に売掛金を借方に計上します。
その後、取引先から代金を回収するたびに、この売掛金を減らしていくのですが、取引先から一度で全ての売掛金を回収できるとは限りません。こうして残った未回収の売上債権が売掛金残高です。
売掛金残高が適正に管理され、残高の内訳がわかっているのであれば、問題はありません。一方で、残高の内訳が不確かな場合は注意が必要です。
残高の計上額に誤りがある場合は、貸借対照表が誤っているということになり、企業の信用にかかわります。
また、代金の回収そのものが滞留しているような場合には、売掛金が貸倒れる可能性を考え、早急に対策を打たなければなりません。このように売掛金残高は、企業の健全な経営のバロメーターともいえるのです。
売掛金残高に差額が生じる要因
売掛金残高に差額が生じる要因は複数あります。ここでは代表的なものを7つ例示します。
消費税の端数処理ルールの違い
まず挙げたいのが、消費税の端数処理の方法が、自社と取引先で違うために発生する差額です。
消費税の端数処理は、インボイス制度導入後、1つの適格請求書(インボイス)につき、税率の異なるごとにそれぞれ1回の端数処理を行うことになりました(法人税基本通達1-8-15)。
その際の処理は、切上げ、切捨て、四捨五入等、任意の方法を事業者が決められるとされています。よって自社と取引先でこの処理に違いがある可能性があり、その場合、数円程度の差額が生じるのです。
売上の計上漏れや二重計上
次に考えたいのは、売上の計上漏れや二重計上です。
例えば、売上の計上漏れは、営業担当者から売上に関連する情報が経理担当者に届いていない場合に発生します。本来計上されるべき売上が漏れている場合は、益金の過少申告として税務調査で指摘される可能性があるため注意が必要です。
また、売上の二重計上は、経理担当者側のミス等によって発生します。売上の会計処理を複数人が担当している場合や、担当者が変わるタイミングで発生しやすいミスと言えます。
売掛金と売上外の入り繰り
さらに、売掛金とそれ以外の勘定の入り繰りも考えられます。
類似する勘定として、本業以外の収入に対して計上される債権である「未収入金」や、すでに提供したサービス等に対する債権である「未収収益」等が挙げられます。
新しい取引先と取引を始める際に、経理担当者は仕訳を検討するのが一般的です。その際に誤ることが多いため注意が必要です。
消込でのミス
入金消込とは、銀行振込等による入金の実績と売掛金を照合することで、回収した売掛金を特定していく作業です。
その際に、売掛金を減らす相手先を間違えて別の取引先の売掛金を減らしてしまったり、消込金額を誤ってしまったりするミスが発生することがあります。
請求でのミス
請求でのミスで最も多いのは、請求時に金額を誤ってしまうケースです。また、1つの売掛金に対して、複数回の請求を行ってしまうミスも散見されます。
これらのミスについて、通常は取引先が買掛金と照合する際に気づいて指摘してくれることが多いでしょう。
しかし、取引先も気づかない場合は、本来回収するべき売掛金の金額とは異なった金額で代金を受領することになるため、売掛金残高の差額が発生します。
締め日の違い
自社と取引先間で、掛け取引の締め日が異なることによって、売掛金残高の差額が発生することもあります。
自社の売掛の締め日が月末で次月支払という条件だった場合、例えば4月末日に実現した売上は、4月分で相手先に請求し、5月に入金を期待することになります。
しかし、もし取引先の買掛の締め日が25日で次月支払だった場合には、4月末日の売上は5月分の仕入となり、取引先が代金を支払う月は6月になるのです。
売上・仕入の計上基準の違い
会社が売上を計上するタイミングと取引先が仕入を計上するタイミングのズレによって、売掛金残高の差額が発生することもあります。
日本の会計の規則(企業会計原則)では、売上は実際に取引先に商品やサービスを提供し、その対価を得るための権利が得られたタイミングで行われます(実現主義)。具体的には、以下の3つです。
- 発送基準:商品を発送したタイミング
- 引渡基準:商品を取引先に渡したタイミング
- 検収基準:取引先が商品を検収したタイミング
一方で、取引先側でも、同様に「発送基準」「受取基準」「検収基準」と仕入を認識するタイミングが存在します。
売上を計上する基準と仕入を計上する基準は、会社ごとに自由に決めることができます。もし両者が一致しない場合は、月末等の一時点において、会社が請求する売掛金と、取引先が把握する買掛金が異なる事態が発生するのです。
売掛金が合わない場合の対処方法
次に売掛金残高の差額が合わない場合に、どのような対処方法が考えられるのか、代表的な例をご紹介します。
消費税の端数の処理方法
消費税の端数処理については、取引先から回収した代金と、売掛金との差額を「仮受消費税」で処理します。
例えば、取引先から回収した代金が10,001円、売掛金が10,000円の場合は、仮受消費税を貸方に1円計上します。
また、取引先から回収した代金が9,999円、売掛金が10,000円の場合は、仮受消費税を借方に1円計上します。
売掛金と売上外の債権が入り繰りしていた場合
債権の入り繰りについては、まずはその債権が本来どの勘定で計上されるべきか、取引の詳細やその証憑を確認して、特定します。
本業の売上であれば「売掛金」、受取収益等に代表される営業外収益の場合は「未収入金」、継続的なサービスを受け取っており、先に支払った代金の見越し計上の場合は「未収収益」とします。
売掛残高の管理方法
売掛金残高の差額が合わない場合、原因を特定せずに放置しておくと、主に2つの問題を引き起こします。
1つ目は、代金回収の問題です。取引先からの入金が滞り、会社の資金繰りが悪化します。取引先の貸倒れのリスクについても把握できません。
2つ目は、財務諸表が適正に作成できなくなる問題です。売掛金残高の差額が合わない原因が経理処理のミスだった場合は、適切な勘定に振り替えなければなりません。
また、貸倒れのリスクが顕在化した場合は、引当金を計上する必要があります。
このようなリスクを避けるため、売掛金残高は適切に管理する必要があります。ここでは、その管理のポイントとして、2点ご紹介します。
会社ごと・取引ごとに管理する
代金は会社ごとに振り込まれるので、会社ごとに管理していると、どの入金がどの会社の売掛金に対する払い込みなのかを特定できます。
さらに取引ごとに管理しておくことで、各取引において回収するべき代金が、どれだけ回収でき、未回収がどれだけあるかを把握できるのです。
月単位で確認する
売掛金を月単位で確認すると、タイムリーに売掛金残高の差額の原因を特定し、取引先に催促したり、経理処理のミスを修正したりできます。
また、月次決算を行っている会社では、月単位で適正な財務諸表を保ち、資金繰りの計画を立てることができます。
複数月まとめて売掛金残高の差額を分析すると、複数の差異の要因が重なるため、原因の特定にかなりの労力を要するでしょう。
売掛金の管理表テンプレート
具体的には、どのように売掛金を管理すればよいのでしょうか?ここでは、2種類のテンプレートを例にとってご説明します。いずれのテンプレートも無料でダウンロードできるため、ぜひご活用ください。
売掛金元帳
売掛金元帳は、取引先ごとに1つずつ作成する元帳です。取引が発生するごとに、日付・商品名・数量・単価・売上を記載します。そして、入金があった際に、テンプレート内の入金欄に回収した代金を記載し、取引ごとの売掛金残高を把握するのです。
以下テンプレートのメリットは、1つの取引先につき、取引の内容と売掛金残高を一目で把握できる点です。複数の取引に対しまとめて1回で入金が行われるようなケースにおいて、入金実績を取引ごとに把握・配分できるので便利です。
売掛金・買掛金・未払金管理表
売掛金・買掛金・未払金管理表は、会社ごとに、月単位で、管理をしていくものです。記載の方法としては、まず月初に、前月から売掛金残高がある会社名を記載します。あわせて繰越残高も記入します。
そのうえで、当月の売上高を締め日にまとめて「当月売上高」の欄に記入します。また、入金があるごとに「当月回収高」の欄を記入していき、月末に取引先ごとの「当月残高」を記入します。
以下テンプレートのメリットは、1枚で取引先全ての売掛金残高を網羅的に把握できる点です。また、消費税の税込・税抜額の把握や複数の入金方法に対応した管理もできるので、売掛金残高に差額が発生した際の分析にも役立ちます。
売掛残高の差額を発生させないポイント
そもそも売掛金残高の差額を発生させないことはできないのでしょうか?ここでは、差額が発生する要因別に対処方法をご紹介します。
売上の計上漏れや二重計上
売上の計上漏れへの対策としては、まず売上に関する情報を営業担当者等から確実に入手することです。さらに、在庫の確認、出荷票の確認を行うことで、売上の事実を把握することができます。
また、二重計上については、先ほどテンプレート等で紹介した売掛金元帳が役立ちます。同じ取引を複数回記入すると、重複に気づきやすくなっています。
売掛金と売上外の入り繰り
売掛金と売上外の債権の入り繰りに対しては、2つの対策があります。
1つは、新しい取引を始める際に仕訳をよく検討することです。特に、今まで本業に係る取引が継続して存在し「売掛金」で処理していた取引先について、本業以外の収入が加わる場合には要注意です。過去の仕訳に倣い「売掛金」を計上してしまうことがあるからです。
もう1つは、四半期、年度末等で取引先に売掛金残高確認書を送付し、取引先との売掛金/買掛金の認識の差を把握することです。これによって、本来であれば「未収入金」等で処理すべきだった債権が「売掛金」になっていないか等を把握できます。
消込でのミス
消込でのミスを防ぐには、入金の際に、その入金が、どの取引先のどの取引に対する入金かを十分にチェックすることが肝要です。特に複数の取引に対して、まとめて入金する取引先、あるいは金額が大きいため1つの取引に対して複数回に分けて入金する取引先には注意が必要です。
どの取引の売掛金に、どの入金が充当され消し込まれたかの管理は、先ほど紹介したテンプレートのうち「売掛金・買掛金・未払金管理表」が有効です。また、普段から取引先の担当者と密にコミュニケーションを取り、不明瞭な入金があった場合は気軽に確認できる関係を築いておくのも大切でしょう。
請求でのミス
請求のミスには、2つのパターンがあります。1つは、請求そのものを失念してしまうケースで、もう1つは、1つの取引に対して複数回の請求をしてしまうケースです。
それら両方への対策として、請求書に発行番号を付して連番で管理しておき、複数の担当者による二重チェックを行う方法が挙げられます。多くの会社では、月に1回の締め日で取引を集計し、まとめて請求します。そのタイミングで二重チェックをかけるとよいでしょう。
締め日の違い
取引先と自社の締め日が異なる場合、売掛金の差額発生は防ぐことができません。しかし取引先の締め日を把握し、発生する差額を計算することはできるので、自社で推算を行うことをおすすめします。
その結果、想定通りの差額が発生しているようであれば、その差額は締め日の違いということで、売掛金残高に問題はないと判断できるでしょう。
売掛金残高の適正な管理が会社の信頼につながる
売掛金残高の管理は、自社の財務諸表を適切な状態に保ち、取引先から遅延なく代金を回収するために不可欠なものです。
差額を分析し、必要に応じてタイムリーに修正していくことで、自社の経営が適正化されます。さらに、取引先からの信頼や、財務諸表を見るステークホルダーからの信頼も得られるようになるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
消費税還付の仕組みと還付される条件まとめ
事業者は、商品やサービスを提供し消費者から消費税を受け取りますが、一方で事業者も仕入れをしたり備品を購入したりするので他の事業者に消費税を支払います。 消費税は、基本的に受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた額について、事業者が納税…
詳しくみる賃上げ促進税制とは?概要や対象、活用のメリットを解説
賃上げ促進税制は、従業員の給与引き上げを促進するための制度です。令和4年度税制改正で創設された賃上げ促進税制ですが、令和6年度税制改正によってさらに3年延長し、かつ拡充しました。 本記事では、賃上げ促進税制の概要、従来の賃上げ促進税制との違…
詳しくみる経理のペーパーレス事例7選!実現に向けた課題や進め方、失敗事例も解説
経理におけるペーパーレス化には多くのメリットがあります。しかしながら、実施には多くの課題もあります。 目的意識があいまいなまま物事を進めてもうまく行かないように、ペーパーレス化においても計画性が重要で、法的・技術的課題もあります。 本記事で…
詳しくみる懇親会の稟議書の書き方は?テンプレートや例文でポイントが分かる!
懇親会の稟議書は、新入社員の歓迎会や忘年会などの開催に際し、上長の承認を得るために作成します。目的や開催のメリットを明確にし、わかりやすい文章で書くことが大切です。 本記事では、懇親会の稟議書を作成するケースや書き方、例文を紹介します。また…
詳しくみる経理業務を効率化したい中小企業必見!具体的な方法や経理に必要なスキルを紹介
中小企業の経理業務は、人手不足の場合が少なくありません。 クラウド会計や経理代行は解決手段のひとつですが、自社の業務にマッチしているかどうかを検証せずいきなり導入すると問題が起こるリスクがあります。 本記事では、中小企業の経理の流れと業務の…
詳しくみる交通系ICカードを経費処理する方法は?チャージだけでは経費にできない?
交通系ICカードは交通費支払いを効率化しますが、適切な経費処理が不可欠です。 単にカードにチャージしただけでは経費として認められないため、正確な利用履歴の記録と適切な仕訳が必要です。この記事では、交通系ICカードを使った経費処理の方法や注意…
詳しくみる