- 作成日 : 2025年2月5日
固定資産回転率とは?計算式や目安・業界平均、低い場合の対応方法も解説
固定資産回転率とは、固定資産が売上高を生み出す効率性を示す指標のことです。数値が大きいほど少ない固定資産で高い売上を生み出していることを表し、数値が小さい場合は固定資産に対して売上が少なく、活用されていない遊休資産が多い可能性があります。
本記事では、固定資産回転率の概要や計算式、業界平均などを解説します。
目次
固定資産回転率とは
固定資産回転率とは、固定資産がどれだけ効率的に売上を上げているかを示す指標です。固定資産回転率には、有形固定資産回転率と、無形固定資産回転率があります。
それぞれの概要をみていきましょう。
有形固定資産回転率とは
有形固定資産とは、企業が1年を超えて使用する物理的な形態を有した資産のことです。土地や店舗・工場などの建物、機械装置、車両運搬具などが挙げられます。有形固定資産回転率とは、この有形固定資産を使い、どれだけの売上を上げたかを測る指標です。
指標の数値が高いほど有形固定資産を効率的に活用していると判断でき、数値が小さい場合は有形固定資産を有効活用できていないことがわかります。また「売上に貢献しない資産がある」「不良資産を抱えている」といった原因も考えられます。
有形固定資産回転率が高いか低いかの判断は、同業他社と比較する、もしくは自社の過去の数値と比較する方法があります。自社のこれまでの数値と比較する方法は、問題点を見つけて改善策を立てやすいでしょう。
なお、IT企業など人が資源となる会社や、生産の外部委託など有形固定資産を持たない経営をしている会社は、有形固定資産回転率は経営判断の指標として適していません。
無形固定資産回転率とは
無形固定資産とは、物理的な形態を持たず1年を超えて利用される資産のことです。特許権や商標権、ソフトウェア、のれんなどが挙げられます。無形固定資産回転率は、企業が無形固定資産に投資した資金が、ビジネス活動を通じてどれくらいの売上高を生み出せているのかを示す指標のことです。
数値が大きいほど、より少ない無形固定資産を有効活用して売上を上げていると判断できます。無形固定資産は企業が長期的に使用する資産に投資することで築かれたもので、無形固定資産回転率は、投資した資金が売上により企業に再び戻ってくる速さを表す数値ともいえるでしょう。
固定資産回転率の計算式
ここでは、有形固定資産と無形固定資産それぞれの回転率の計算式をみていきましょう。
有形固定資産回転率の計算式
有形固定資産回転率の計算式は、次のとおりです。
例えば、売上高が500万円で保有する有形固定資産が50万円の場合、有形固定資産回転率は「500万円÷50万円=10」で、有形固定資産回転率は10回となります。
有形固定資産回転率の計算で注意したいのは、計算式で売上高を使っても、売上を上げている要因が有形固定資産によるものとは限らないという点です。他の要因で売上が上がっている場合は、固定資産は有効活用できているとはいえない可能性があります。
そのため、有形固定資産では、企業が保有する生産設備がどれほど付加価値を生み出しているかを評価する設備投資効率も利用します。
設備投資効率の計算式は、次のとおりです。
付加価値(総務省統計局の経済構造実態調査における定義)の計算は、次の計算式で求めます。
設備投資効率を計算することで、固有資産がどれだけ利益を生み出しているかがわかります。
無形固定資産回転率の計算式
無形固定資産回転率の計算式は、次のとおりです。
数値が高くなるほど、投資した資金が現金となって戻る期間が短くなり、戻った資金を再び事業に投資することができます。資金繰りが良くなり、資金効率が高まります。反対に数値が小さくなれば、売上を出すために必要な投資量が増え、投資した資金を回収するまでの期間も長くなります。資本効率が悪いという状況になるでしょう。
固定資産回転率の目安・業界平均
財務省の調査によると、2023年度の有形固定資産回転率の全産業・全規模の平均は3.30回です。
製造業は4.20回、非製造業は3.06回となっています。
前年度の記録と比較すると、製造業、非製造業とも売上高の対前年度増加率が有形固定資産の増加率を上回り、全産業で見た有形固定資産回転率は前年度より上昇している状況です。
一般的に、製造業や不動産業など有形固定資産を多く必要とする業種は、有形固定資産回転率が小さくなります。反対に、必要としない業種では有形固定資産回転率が大きくなる傾向にあり、代表的な業種に卸売業や情報通信業が挙げられます。
固定資産回転率から何がわかる?
固定資産回転率により、企業の経営分析ができます。回転率が高い場合は固定資産が有効に活用され、売上の向上につながっていることがわかります。ただし、回転率が高すぎる場合はあまり良くありません。受注に対して生産が追いついていない可能性があるでしょう。
一方、低い場合は固定資産に対して売上高が少なく、設備の稼働ができていない状態です。不良在庫を抱えていたり、過大投資になっていたりする可能性もあります。
数値が低く、収益に結びつかない固定資産がある場合、別の活用方法を検討するか、処分を検討するなどの対応が必要になるでしょう。
固定資産回転率が低い場合はどうする?
固定資産回転率が低い場合の対処法には、売上高を伸ばすか、有形固定資産額を減らすという2つの方法が挙げられます。
それぞれの方法を解説します。
売上高を伸ばす
固定資産回転率を上げる方法は、売上を伸ばすことです、売上が上がることで固定資産回転率の分子が大きくなり、数値が上がります。
売上を伸ばす方法はさまざまで、自社の課題を洗い出し、解決を図りながら課題を図りながら売上を伸ばすことが大切です。たとえば、集客に課題があるのであれば、新たなマーケティング手法を検討し、新規顧客の増加や既存顧客のリピートを増やす施策を考えます。既存設備を有効活用する方法も検討するとよいでしょう。
売上を上げるためには、老朽化した設備を入れ替えたり、デジタル化をしたりすることで生産効率を高めるという方法もあります。
そのような設備投資はかえって固定資産回転率を高めることにもなりますが、このような場合は数値だけで判断することはできないため、状況を見極めながら分析することが大切です。
有形固定資産額を減らす
固定資産回転率は、有形固定資産を減らすことで上げることができます。ただしよく吟味せずに固定資産を減らすと、売上につながっていた資産がなくなり、売上に影響してしまう可能性があります。それでは本末転倒になるため、あくまでも減らすのは売上に貢献していない固定資産であることが大切です。
主に減らす対象となるのは、稼働が停止している遊休資産です。遊休資産とは帳簿上には固定資産として存在するものの、売上には貢献しない資産のことです。
自社に必要な資産と遊休資産を見極めるようにしてください。遊休資産を売却・処分することで固定資産回転率が改善し、経営状況もよりわかりやすくなるでしょう。
固定資産回転率で経営状況を把握しよう
固定資産回転率は固定資産を効率良く活用していることを示す指標であり、数値が高いほど、より少ない資産で大きな利益を上げていることを表します。反対に数値が低い場合、遊休資産がある、過剰投資をしているなどの問題が考えられます。
固定資産回転率の分析は、同じ業種・同じ規模の他社と比較するか、自社の過去の経緯と比較してみるとよいでしょう。固定資産回転率で自社の財務状況を分析し、事業の成長に役立ててください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
固定資産売却益とは|固定資産売却の際は減価償却費をどう処理すべき?
不動産や車などの固定資産を売却した場合、減価償却費を算出して仕訳しなければなりません。所有期間によって減価償却費を計算し、現在の帳簿価格と合わせて売却の損益を計上します。 本記事では固定資産売却時の減価償却費の処理について具体的な事例を見な…
詳しくみる「リース資産を計上しない」とは?中小企業における会計上の正しい取扱い
新たなリース会計基準が、2027年4月開始の事業年度から強制適用となります。しかし、新たな基準の対象は上場企業や大会社等に限られるため、会計基準適用が強制とならない中小企業等では、従来どおりのリース会計で問題ありません。 この記事は、今後、…
詳しくみる有利子負債とは?勘定科目やリース債務との関係性を解説!
有利子負債とは、貸借対照表に計上される負債のうち、利息の支払いを伴うものを表します。 有利子負債の代表例としては、金融機関からの借入金や資金調達のために発行する社債などが挙げられます。 ここでは、有利子負債の概要や無利子負債との違い、有利子…
詳しくみるリース資産の減価償却を解説 | 減価償却費の計算から仕訳まで
機械や運搬具など、固定資産の種類によっては購入価格が高額になるものがあります。特に、規模の小さな会社で高額の固定資産を自己資金で取得すると、キャッシュ・フローが悪化することにもなるでしょう。購入時に一時的に費用を負担するのではなく、毎月の費…
詳しくみる新リース会計基準における仕訳処理は?貸手・借手別にポイントを解説!
2027年4月1日から始まる「新リース会計基準」により、リースの範囲が変更され、より多くの企業に影響が及ぶものと考えられます。 特に借手についてはオンバランス化が原則となるなど、日常的な会計処理にも変更点が多いため注意が必要です。 ここでは…
詳しくみる【新リース会計基準】無形固定資産やソフトウェア、クラウドへの影響・実務対応は?
「新リース会計基準」が公表され、2027年4月1日以後に開始する事業年度からは、一部の企業に対して強制適用されることとなりました。 新リース会計基準では、従来の会計基準からリースの定義が見直され、リースの範囲が大きく拡大することが想定されま…
詳しくみる