• 更新日 : 2022年6月8日

前払金の仕訳例と前払費用との使い分けを解説

前払金(前渡金)とは?仕訳例と前払費用との違いを解説

「前払金(まえばらいきん)」や「前渡金(まえわたしきん)」とは、購入した商品やサービスなどの代金について、その一部のみを支払った際の仕訳に使う勘定科目です。
事業を営む上では欠かせない勘定科目の一つですが、ほかにも「前払費用」や「売掛金」「仮払金」など似たような名前の科目も多いため、使い分けに苦労する担当者も少なくありません。
今回は前払金を使う場面や具体的な仕訳例、前払費用との違いなどについて解説します。

前払金とは

前払金に当てはまる取引は、事業の営業や生産活動を行う上では多くの場面で遭遇します。まずは前払金の定義や、前払金と混同しやすい勘定科目との違いを解説します。

取引の関係上、商品や原材料などを購入したときに、代金分または代金の一部を手付金や内金として先に支払うことがあります。この取引で発生した金銭のやり取りに使う勘定科目が「前払金」もしくは「前渡金」です。

前払金は流動資産として処理します。対して前払金を受け取った側(商品や原材料を提供する側)が仕訳を行う場合は「前受金です。

ここで「前払金は費用として計上するのでは?」という疑問が生じますが、前払金は言い換えると「あとで資産を受け取る権利」になります。そのため、売掛金や貸付金と同じく資産として扱います。

前払金

日本の資産(負債)の扱いは「正常営業循環基準」が優先されます。正常営業循環基準とは、「仕入れ、製造、在庫、販売、回収」という営業サイクルの中にある取引は、1年以上の未回収が見込まれる場合でも流動資産(流動負債)として扱うという決まりです。これにより前払金は流動資産扱いになります。

ただし例外として、取引先の破産といった事情等で明らかに1年以上回収できない異常な状態が認められる場合は、流動資産としての処理にはなりません。

また、前払金の支払いに関して継続性が認められた場合は、取引先への資金援助として「貸付金」で資産計上になります。貸付にかかる利息分の計算が生じるので注意が必要です。

前渡金を建設仮勘定として処理するケース

建物や生産施設などの「有形固定資産(土地を除く)」の取得のために前もって支払った金額は「建設仮勘定」として処理します。
建設仮勘定とは、建設や製作途中などの「まだ完成していない固定資産」に対する費用を仮仕訳するための勘定科目です。

まず前払金はあくまで流動資産であるため、固定資産に関する処理に使うのは適切ではありません。「会計事実を明瞭に表示して判断を誤らせない」ことを目的とした「明瞭性の原則」の考えから、この建設仮勘定という勘定科目を設けています。

前渡金の仕訳例

前払金(前渡金)の仕訳は「実際に代金を支払ったときには借方へ」「対価である商品を受け取ったときに貸方へ」という処理になります。
以下では「3万円の商品の購入」を想定した仕訳例を見ていきましょう。

<前払金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
前払金¥30,000現金 ¥30,000

まず商品の代金を現金で支払ったときは「借方に前払金」「貸方に現金」という仕訳です。「前払金という資産が増え、現金という資産が減った」という動きになります。

この時点では、あくまで前払金という流動資産の増加が起こるだけです。商品はまだ受け取っていないので、商品の代金分の費用計上は行いません。

<実際に商品を受け取った場合の仕訳>

借方貸方
仕入 ¥30,000前払金 ¥30,000

商品を受け取ったら「商品の仕入れが発生し、前払金という資産が減った」という処理を行います。費用計上はこのタイミングです。

もし事前に支払ったのが1万円で、残りの2万円は商品の受取時に支払う取引だった場合は次のように仕訳を行います。

<購入費の一部だけ前払金として支払った場合の仕訳>

借方貸方
仕入 ¥30,000前払金¥10,000
現金 ¥20,000

また「商品は受け取ったけれど、残りの支払いはまだ先になる」という取引だった場合は、一旦買掛金を使って仕訳を行います。

<購入費の一部だけ前払金として支払い先に商品を受け取る場合の仕訳>

借方貸方
仕入 ¥30,000前払金¥10,000
買掛金¥20,000

複雑な仕訳ではありませんが、正確な会計記録を残すためには必要不可欠な作業です。

ちなみに前払金を使わず、買掛金勘定を利用する処理方法もあります。支払い時点で借方に買掛金を計上する、いわゆる「マイナスの買掛金」という仕訳を行う例です。

<前払金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
買掛金¥30,000現金 ¥10,000

<商品を受け取った場合の仕訳>

借方貸方
仕入 ¥30,000買掛金¥30,000

こちらは参考程度に留めておいてください。

前払金(前渡金)の取引例

前払金(前渡金)が発生する取引には、前述までで解説した商品購入の取引に加えて、ほかにもさまざまな形が存在します。
主に次のような例です。

 

  • 業務用のトラックを購入し代金を先払いした
  • 事業用の不動産を購入し手付金として支払った
  • 食品工場で使用する原材料の仕入れ代金を内金として一部支払った
  • 自社設備の修理工事の外注費を先払いした
  • ホテルや宿泊施設の予約料金を支払った

 

業種や形態を問わないさまざまな商品やサービスの取引に加え、ホテルや宿泊施設の予約料金も前払金として処理します。
ホテルを予約した時点では、まだ宿泊というサービスを受けていないためです。

以下では、上記で紹介した取引の仕訳例を見ていきましょう。

業務用のトラックを購入し代金を先払いした

業務用トラックは、取得費を「車両運搬具」で一括計上する、または保険料や支払手数料などを考慮してさらに細かく仕訳する方法があります。
ここでは1,500万円の新品のトラックをローンで購入し、取得費は車両運搬具として一括でまとめたときの仕訳を見ていきます。

まず業務用トラックを購入するため頭金100万円を支払う際の仕訳例です。

<業務用トラックの頭金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
前払金 ¥1,000,000普通預金¥1,000,000

次に、実際にトラックが納品された場合の仕訳は次のとおりです。

<トラックが納品された場合の仕訳>

借方貸方
車両運搬具¥15,000,000前払金  ¥1,000,000
未払金¥14,000,000

なお、未払い分の代金は、ローン支払い時に仕訳を行います。

借方貸方
未払金 ¥8,000,000普通預金¥9,000,000
支払利息¥1,000,000

事業用の不動産を購入する際の手付金として支払った

事業用の不動産を購入した際も、同じように前払金の処理を行います。

<建物購入のための手付金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
前払金 ¥2,000,000普通預金¥2,000,000

購入が完了した日は、建物として資産計上を行いましょう。

<購入が完了した場合の仕訳>

借方貸方
建物  ¥25,000,000普通預金¥23,000,000
前払金¥2,000,000

ただし不動産を一から新築する場合は、前払金ではなく建設仮勘定で処理します。工事完了後に、あらためて建物として固定資産として計上してください。

<新築に関する手付金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
建物仮勘定¥2,000,000普通預金 ¥2,000,000

<購入が完了した日の仕訳>

借方貸方
建物   ¥25,000,000普通預金 ¥23,000,000
建設仮勘定¥2,000,000

食品工場で使用する原材料の仕入れ代金を内金として一部支払った

食品工場で使用する原材料の代金を内金として一部支払った際の仕訳も、商品等と同じような扱いで処理を行います。

<原材料10トン分の代金の内金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
前払金 ¥1,500,000普通預金 ¥1,500,000

<購入が完了した場合の仕訳>

借方貸方
原材費 ¥5,000,000普通預金 ¥3,500,000
前払金¥1,500,000

自社設備の修理工事の外注費を先払いした

既存設備の修理工事の外注費に対する手付金を支払った場合は前払金ですが、新しい設備の製作を依頼する際は建設仮勘定になります。
その点に注意して仕訳を行いましょう。

<修理工事の手付金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
前払金 ¥1,500,000普通預金 ¥1,500,000

<すべての修繕工事完了後に残りの料金を支払った場合の仕訳>

借方貸方
原材費 ¥5,000,000普通預金 ¥3,500,000
前払金¥1,500,000

ホテルや宿泊施設の予約料金を支払った

ホテルや宿泊施設の予約料金として支払った前払金は、実際に宿泊した際に費用計上します。
交通機関で使用した交通費や、そのほかの接待交際費と混同しないように注意が必要です。

<ホテルを予約して料金を先払いした場合の仕訳>

借方貸方
前払金 ¥10,000普通預金 ¥10,000

<ホテルへ泊まりサービスを受けた場合の仕訳>

借方貸方
旅費交通費¥10,000前払金   ¥10,000

前払金(前渡金)と前払費用の違い

企業会計原則注解の注5によると、前払費用とは「一定の契約にしたがい、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価」と定義があります。

前払金との違いは「継続して役務の提供を受けるか否か」です。前払金は商品や一時的なサービスに対する勘定科目ですが、前払費用は継続的に発生するサービスに対する勘定科目になります。

前払費用に当てはまるものは次のとおりです。

 

  • 火災保険や自動車保険の料金
  • 家賃
  • 土地代

など

より詳細な仕訳にしたい場合は「前払家賃」や「前払地代」、「前払保険料」として処理するケースもあります。

わかりづらい考え方ですが、実際に仕訳例を見るとイメージしやすくなります。火災保険料を例に見ていきましょう。

例えば、3月31日が決算日の飲食店が、8月1日から適用の火災保険料を1年分支払うとします。

<8月1日から適用の火災保険料を支払った場合の仕訳>

借方貸方
保険料 ¥150,000普通預金 ¥150,000

これだと1年分の保険料を支払っているのにもかかわらず、同じ事業年度内では8月1日~3月31日の約8ヶ月分しかサービスを受けていないことになります。
役務を実際に受けていないので、残りの4ヶ月分の支払いが費用計上できません。

そこで4ヶ月分の支払いは、決算日に一旦「前払費用」として資産計上します。「来期に保険という役務を受ける権利」という扱いです。

<決算日を迎えた場合の仕訳>

借方貸方
前払費用¥50,000保険料 ¥50,000

決算終了後は、来期の期首にて前払費用を保険料に振替処理します。

<新しい事業年度が始まった場合の仕訳>

借方貸方
保険料 ¥50,000前払費用 ¥50,000

このように、前払費用は「先払いしたけど実際にサービスを受けるのは来期になる」というときに使用する勘定科目です。

ただし「短期前払費用」に該当する前払費用の場合は、支払った全額分をその事業年度の損金に算入できます(短期前払費用の特例)。先の例だと15万円分の火災保険料の全額を、その事業年度内で損金計上できるということです。

条件は次のとおりです。

 

  • 支払った1年以内に役務の提供を受ける支払いであること
  • 一度年払いで対応した場合は、来期以降も年払いで対応すること(途中月払いへの変更は不可)
  • 収益計上と対応させる必要がないものであること

 

節税対策として利用するのもありですが、本当に適用できるかどうかは、一度税理士と相談することをおすすめします。

ちなみに、サービスを長期にわたって受け、費用として扱うのが決算から1年以上先になる場合は「長期前払費用」になります。例えば先の保険料を2年分(300,000円)支払ったと仮定したとき、1年目の決算日には次年度の4月1日~3月31日までは前払費用、残りは長期前払費用として処理しましょう。

<2年分契約した1年目の決算日の仕訳>

借方貸方
前払費用¥150,000保険料   ¥200,000
長期前払費用¥50,000

仮払金との違いは?

「仮払金」は前払金と同じく「先に金銭を支払う」という性質をもつ勘定科目ですが、詳細は異なります。

仮払金は「用途が不明もしくは金額がまだ確定していないときに、概算で一時的に支払らった金銭」を表す勘定科目です。
もし「一旦仮払金として処理したのち、前払金としての処理が確定した」という状況であれば「前払金として確定した時点で仮払金を消し込む」という処理を行いましょう。

前払金(前渡金)を理解し正しい会計と仕訳を実施しよう!

前払金(前渡金)は商品やサービスの一部を先に支払うという、少し複雑な会計処理に対応するための勘定科目です。
明瞭性の原則にもとづいて正確な会計処理を行うためにも、前払金は正しく使いこなす必要があります。
建設仮勘定や前払費用との関係や、短期前払費用の特例の利用などを頭に入れつつ、正確な会計を心がけてください。

【参考】
国税庁|短期前払費用として損金算入ができる場合
国税庁|短期前払費用として損金算入ができる場合
国税庁|耐用年数(車両・運搬具/工具)

よくある質問

前払金(前渡金)とは何ですか?

取引の関係上、代金分または代金の一部を手付金や内金として先に支払ったものを「前払金」または「前渡金」といいます。詳しくはこちらをご覧ください。

前払金(前渡金)の仕訳はどのようになりますか?

仕訳は「実際に代金を支払ったときには借方へ」「対価である商品を受け取ったときに貸方へ」という処理になります。詳しくはこちらをご覧ください。

前払金(前渡金)と前払費用の違いは何ですか?

違うポイントは「継続して役務の提供を受けるか否か」です。前払金は商品や一時的なサービスに対する勘定科目ですが、前払費用は継続的に発生するサービスに対する勘定科目になります。詳しくはこちらをご覧ください。


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