• 作成日 : 2024年11月19日

【電子帳簿保存法】売上5,000万円以下の事業者が対応すべきポイント

2024年1月1日以降、電子帳簿保存法における「電子取引のデータ保存」が完全義務化されました。これにより、メールで受信した領収書やWebサイトからダウンロードした請求書など、電子データで授受した取引関係書類は、電子データのままでの保存が必須となります。

一方で、「売上高5,000万円以下なら保存要件への対応が対象外となる」という情報を耳にし、どのような対応が必要なのか悩んでいる経理担当者も少なくないでしょう。

本記事では、売上高5,000万円以下の事業者が電子帳簿保存法に対応するためのポイントを解説します。さらに、法令違反のリスクやシステム導入のメリットについても説明するので、ぜひ最後まで読んでみてください。

関連記事:電子帳簿保存法とは?2024年からの改正内容・対象書類を簡単に解説

電子帳簿保存法で売上高5,000万円以下の事業者が対応すべき3つのポイント

電子取引データの保存要件への対応は必須ですが、紙の書類をスキャナ保存するかどうかは任意です。売上高5,000万円以下の事業者が対応すべきポイントは、電子取引データ保存に関する次の3点です。

  1. システム導入や事務処理規程の作成・運用で、改ざん防止措置を講じる
  2. ディスプレイやプリンタを備え付け、データを速やかに見られる環境にする
  3. 電子取引データを提示・提出できるよう準備しておく

1. システム導入や事務処理規程の作成・運用で、改ざん防止措置を講じる

メールやWebサイト経由で授受した取引関係書類は、電子取引データにあたり、改ざん防止措置を講じたうえで、データのまま保存する義務があります。具体的な改ざん防止措置の方法は以下の通りです。

  • 受け取ったデータにタイムスタンプを付す
  • 無断での訂正・削除を防ぐ機能が備わったシステムを導入する
  • 事務処理規程を作成・運用する

タイムスタンプの付与や訂正・削除を防ぐには、電子帳簿保存システムの導入がおすすめです。「JIIMA認証」を取得したシステムを利用すれば、法令に則った業務を遂行できます。

予算面でシステム導入が難しい場合は、事務処理規程を作成・運用すれば、改ざん防止措置の要件充足が可能です。事務処理規程とは、正当な理由なくデータを訂正・削除しないことを定めたもので、自社で扱うデータの種類や管理責任者について記載します。

2. ディスプレイやプリンタを備え付け、データを速やかに見られる環境にする

ディスプレイやプリンタを備え付けて、税務職員に指定されたデータを速やかに出力できる環境を整えることも必要です。

ディスプレイの大きさやプリンタの設置台数、性能に関する要件は特に定められていません。また、備え付けのプリンタがなくても、コンビニなどの有料プリンタからデータを出力できれば問題ありません。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問17、問18)

3. 電子取引データを提示・提出できるよう準備しておく

電子帳簿保存法では、事業者は本来、取引の「日付・金額・取引先」で検索できるよう、電子取引データを保存する必要があります。ただし、前々年の売上高が5,000万円以下の事業者については、例外的に検索機能の確保が不要とされています。

とはいえ、実務の効率化を図るうえで、できるだけファイル名に取引先名や日付、金額などを含めて保存する方法がおすすめです。

具体的には、ファイル名に取引先名や日付、金額などを入れると、データを管理しやすくなるでしょう。たとえば、2024年11月1日付でA株式会社から100万円の請求書を受け取った場合、ファイル名を「241101_A株式会社_1000000_請求書.pdf」とするイメージです。

保存場所の指定はありません。しかし、パソコンが故障するリスクを考えると、Google Driveなどのクラウド上に保存しておくのが安心です。

参考:電子帳簿保存法の内容が改正されました|国税庁令和6年1月からの電子取引データの保存方法|国税庁

電子帳簿保存法「電子取引のデータ保存」に必要な2つの要件

電子帳簿保存法において、売上高5,000万円以下の事業者が対応すべき内容について説明しました。ここからは、これらの対応が求められる背景となる、電子取引データの保存に関する2つの要件について解説します。

  • 要件① 真実性の確保
  • 要件② 可視性の確保

要件① 真実性の確保

真実性の確保とは、データが改ざんされていないことを証明するための要件です。具体的には、下記いずれかの措置をとる必要があります。

  • タイムスタンプが付された取引情報の授受
  • 取引情報を授受したら、速やかにタイムスタンプを付す
  • 訂正・削除の記録が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムを利用して、取引情報の授受および保存を行う
  • 訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、運用する

なお、タイムスタンプは、データがある時点で存在しており、それ以降改ざんされていないことを証明する技術です。真実性の確保には、このような機能が付いた電子帳簿対応システムの導入、または事務処理規程を策定し運用することが必要です。

事務処理規程については、国税庁のサイトにサンプルが掲載されており、自社で規程を策定する際に活用できます。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問15)

要件② 可視性の確保

可視性の確保とは、保存した電子取引データを適切に検索・表示できるようにするための要件です。基本的には、下記のすべての条件を満たす必要があります。

  • ディスプレイ、プリンターなどの見読可能装置を備え付ける
  • システム関係書類を備え付ける(自社開発のプログラムを使用する場合のみ)
  • 検索機能を確保する(次の①~③すべての対応が必要)
  1. 取引の「日付・金額・取引先」で検索できる
  2. 日付または金額の範囲を指定して検索できる※
  3. 「日付・金額・取引先」のうち2つ以上の項目を組み合わせて検索できる※

 ※税務職員によるデータの提示・提出に応じられる場合は対応不要

ただし、下記いずれかに該当する場合、ダウンロードの求めに応じられるようにしておけば、検索機能に関するすべての要件への対応が不要となります。

  • 前々年の売上高が5,000万円以下である
  • 電子的に受け取った書類を印刷して、取引年月日や取引先ごとに整理した状態で提示・提出できる

また、下記要件をすべて満たす場合は、猶予措置の対象となり、保存要件を満たさなくても問題ありません。

  • 所轄税務署長が電子取引データの保存ができない相当の理由があると認める(事前申請不要)
  • 税務調査などの際、電子取引データのダウンロードの求めと、データを印刷した書面の提示・提出の求めに応じられる

参考:電子取引データの保存方法をご確認ください|国税庁電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問15)電子帳簿保存法の内容が改正されました|国税庁

電子帳簿保存法「電子取引のデータ保存」の要件を満たしていない場合のリスク

「電子取引のデータ保存」の保存要件を満たしていない場合、青色申告の承認が取り消されるリスクがあります。

国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」には、特段の事由がなければ直ちに承認取り消しとはならないと記載されています。しかし、可能性はゼロではありません。

青色申告の承認が取り消されると、個人事業主の場合は最大65万円の特別控除が受けられなくなります。また、その年に発生した赤字額と翌年以降の黒字を相殺できなくなるため、注意しましょう。

参考:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】|国税庁(問66)

関連記事:電子帳簿保存法に導入対応しないとどうなる?罰則・リスクや違反事例を解説

売上高5,000万円以下でも電子帳簿保存法対応システムの導入がおすすめな理由

売上高5,000万円以下の事業者は、電子取引データの保存要件を満たさなくても、データを提出・提示できるようにしておけば問題ありません。

しかし、以下3つの理由から、電子帳簿保存法に対応したシステムの導入をおすすめします。

  • 業務効率化につながる
  • 誤ってデータを削除するリスクを減らせる
  • 改ざん防止措置を強化できる

業務効率化につながる

検索機能への対応が必須ではない事業者でも、電子帳簿保存法に対応したシステムを利用することで、簡単にデータの管理が可能になります。システムの検索機能を活用すると、必要なデータをすぐに見つけ出せるため、業務効率化が図れます。

専用メールアドレスで受領したデータを自動保存できるシステムもあり、データ管理にかかる手間を減らせます。

誤ってデータを削除するリスクを減らせる

人的ミスによって誤ってデータを削除してしまうリスクを軽減できるのも、システムを導入するメリットです。自動的にデータがバックアップされるシステムであれば、保存ミスや誤操作によるデータの消失が防げます。

さらに、正しいデータを保存しやすくなるため、法令に違反するリスクを軽減できるでしょう。

改ざん防止措置を強化できる

タイムスタンプ機能が備わったシステムを導入することで、データの改ざん防止措置を強化できます。これにより、正確なデータを保存しやすくなり、法的・経済的損失を被るリスクを軽減できます。

また、データが改ざんされにくい環境を整えることで、事業者としてより高い信頼を得られる点もメリットといえるでしょう。

関連記事:電子帳簿保存法対応のおすすめ会計ソフトは?選び方のポイント

電子帳簿保存法で5,000万円以下の事業者に関するよくある質問

最後に、電子帳簿保存法で5,000万円以下の事業者に関するよくある質問を紹介します。

検索機能が不要になる条件の「売上高5,000万円以下」は、税抜金額?

検索機能の保持が不要になる条件の「売上高5,000万円以下」は、税抜金額で判断します。

電子帳簿保存法で売上高5,000万円以下の事業者はタイムスタンプが必要?

タイムスタンプは必須ではなく、「真実性の確保」に関する要件のうち、いずれか1つを満たせば問題ありません。ただし、改ざん防止措置を強化したいなら、タイムスタンプ機能付きのシステム導入がおすすめです。

関連記事:電子帳簿保存法のタイムスタンプとは?無料の方法・不要要件について

電子帳簿保存法のポイントを押さえて、法改正に対応しよう

電子帳簿保存法改正にあたり、売上高5,000万円以下の事業者が対応すべきポイントは以下の通りです。

  1. システム導入や事務処理規程の作成・運用で、改ざん防止措置を講じる
  2. ディスプレイやプリンタを備え付け、データを速やかに見られる環境にする
  3. 電子取引データを提示・提出できるよう準備しておく

法令に対応するには、電子帳簿対応システムの導入がおすすめです。データの検索・管理が容易になり、業務を効率化できます。また、誤ってデータを削除してしまうリスクや、データの改ざんリスクを軽減できます。

電子帳簿保存法のポイントを押さえて、法改正に対応しましょう。


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